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088 レーデルの静かな怒り

いつもより短いお話になります。




 生徒会室には、役員が全員そろっていた。時間は、午後6時になろうとしている。


「あと5分で締め切りの時間です」


 ソフィアが壁に掛かっている時計を見てから入り口に視線を移した。


 テーブルの上には(から)の書類ケースが置いてある。箱には、『交流戦選手団受付』の文字が書かれた紙が貼り付けてある。


「頼むから来ないでくれよー」


 生徒会長が必死に祈っている。さて、神様という概念(がいねん)がないこの世界では誰にお願いをしているのだろうか。やはり、世界樹の奇跡に祈るのだろうか。


 沈黙が流れた。


 ガラッと、ドアが開いた。


 誰が来た! 悲鳴が出そうな緊張感が(ただよ)う。 


「カナデさん、そろそろ帰りませんか。みんな待っていますよ」


 顔を出したのは大陸の姫だった。その後ろにはシンティとジェイドもいた。


 あああー。


 安堵(あんど)の表情をする役員達。


 時計は丁度6時を指していた。


「受け付け終了です」


 ソフィアが椅子から立ち上がりながらそう言うと、入り口に向かって歩いて行った。


「これもいりませんね」


 べりっと、『魔術学園交流戦選手団参加希望申し込み受付場所』と書かれた紙を()がした。


 貴族学生達からの申し込みは一件も来なかった。


 これで大義名分(たいぎめいぶん)(ととの)った。


「私心配なんです。貴族学生達に締めきりという意識はあるんですか」


 会計のリネスが会長に話しかけた。


「おれもそこはちょっと心配している」


 特権意識の固まりである貴族学生達は、決まりを守るつもりなど初めからない。十分考えられる。


「権力を使ってごり押しをしてくることは想定内(そうていない)なんです」


 ジェイドがにっこりと笑ってそう言うと、


「わたしが遠慮なく拒否権(きょひけん)発動をするために必要なことなんです」


 サクラさんが嬉しそうに(こぶし)を握りしめた。


 ああ、なるほどと納得顔の役員達。


「ソフィアも帰れそうか」


「はい、大丈夫です」


「会長、このあといろいろ言ってくる貴族がいたら、全て私に回してください。このことに生徒会が関わる必要はありません」


「すまないけど、遠慮なくそうさせてもらうよ」


 この人は優秀だ。やはりうちの会社に欲しい人材だ。




 ベニザクラ号には、エルとレーデルさんがいた。


「申し込みは一件も来なかっただろう」


 レーデルさんがどや顔だ。そう予測していたからだ。 


「はい、お見事です」


「貴族連中に決まりを守ろうという意識はない。ごり押しすればどうにでもなると思っているからな」


「でも、これからは違います。勘違いした権力ではどうにもならない事があることを思い知る時が来ました」


「ああ、魔動機関貴族にも、終わりの始まりを言い渡そうじゃないか」


 レーデルさんが怪しく微笑んだ。弟のレームスさんの事があり、魔動機関貴族はただの敵ではなく殲滅(せんめつ)対象になった。




「作戦会議を始めます」


 司会はエル、書記はシンティだ。


「議題は、『平民学生基礎能力向上大作戦』です」


「対戦は8月中旬頃になる。日時は7月の名簿交換の時にはっきりするはずだ。今は6月なので2ヶ月で仕上げることになる」


「どこまであげられそうなんだ」


 イグニスが聞いてきた。


「元々の基礎能力は低い。魔力は最低の分類だ。だが、魔法陣展開の素質、理解力、応用力はずば抜けている。超優秀だ」


「魔術学院はそういう学校」


「クエバの言う通りだ。この学院はそれが目的で作ったからな」


 ん、レーデルさんが変なこと言っているぞ。みんなも同じ事を思ったようだ。キョトンとしている。


「レーデルは魔術学院の創設者(そうせつしゃ)よ」


 ネメルさんがさらっと真実を告げた。


「レーデルさんが作ったんですか!」


 みんなが飛び上がった。


 魔術学院は今年が創立500年になる。


「魔力はないが優秀な者達が学べる場がなかったからな。だから、500年前に私が作ったんだ」


 でも、納得だ。平民への配慮が整っているのは、もともとが彼らを対象にした学びの場だったからだ。


「私がこもっていた200年の間に、貴族枠などと言う変な役職ができていたので廃止(はいし)しなければと考えていたのさ。それと、勘違いした貴族達の受け入れもやめようと思っていた。なので今回の『まとめてポイ』は丁度いいのさ」


「学院長もその事を知っているのですか」


 ソフィアさんが確認している。


「もちろんだよ。50年ほど前の彼の提案でもあるからね」


 ははは、エルフの時間感覚はやっぱりゆっくりしている。


「優秀な学生達だ。やりようによっては属性魔法使い達とも十分に戦えるはずだ。それに、学院代表選手団だからな。邪魔するやつらはまとめてポイじゃ」


 私のおどけた言い方にみんなが笑った。これでいい、レーデルさんも元気になった。この隠れ家は優しい仲間達が(つど)う場所だ。


 会議は、役割分担を決めて終了となった。


 魔法戦の特訓は私とクエバで受け持つ。


 体力作りは、イグニスとイディアが担当になる。


 基礎知識の底上げは、レーデルさんとディーラさんが担当だ。


 他のメンバーは、ネメルさんと一緒に大劇場で演奏練習になる。


 平民学生達は、当面は学園の施設を貸し切って練習をする。当然、出入り口には結界を張る。簡易(かんい)ねこちゃんペンダントも所持してもらった。


 学院長とエレウス王の配慮で、学院の警備も強化された。


 貴族学生達もうかつには手を出せなくなった。


 対抗戦が終わるまでの間だ、不自由(ふじゆう)な生活になるが我慢してもらう。


 学院の体制は整った。次は、エレウス王国の番になる。





次話投稿は明日の7時10分になります

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