087 エーデルとオレコスの酒盛り ★
いつもより短いお話です
オレコスは困惑していた。なぜなら、信じられない速さでエレウス王国の王都に今到着したからだ。
それはいきなりだった。
いつものように縁側で朝酒を楽しんでいた。中庭で何かがゆらっと動いた気配があった。なんだ、目をこらすと、目の前に紅色だが白銀に輝く見覚えのある樹魔車両が現れた。
ベニザクラ号である。ならば、中にいる人物には心当たりがある。
待っていると、予想通りの人物が降りてきた。
「親父殿」
懐かしい呼ばれ方だ。シンティが子どもの頃姉の呼び方を真似してよく胸に飛び込んできた。
「シンティか、何か用事か」
「全てが動き出します。マルモル家も態度を決める時が来ました」
真剣な表情だった。
「話を聞こう」
シンティの提案はドワーフ族にとっては使命を果たせと言っているようなものだった。
使命とは、酒造りのことである。
『日本酒』猫殿が言っていた、『米』という穀物から作られる未知の酒だ。それを造るチャンスが転がってきた。
そして、我が領の欠点である農業改革の遅れも一気に解決できる魅力的な話だった。
相手はあの賢王『エーデルシュタイン』だ。一度、じっくりと話をしてみたかった男だ。
「わかった。準備に1日移動に10日は必要だ」
「服だけ整えてもらえれば大丈夫です。今から行けば午後には会談ができます」
「シンティよ、どうした、速度計算もできなくなったか」
「父様、丁度いいです。神獣様の神力をその目で確かめてください」
マッハ1とは何だ。時速1225㎞とはなんだ。風の道の上掛けとは何だ。ただ、確かなことは、3000キロメートルの距離を3時間で移動できるということだ。なんなんだそれは。
「エーデルシュタインだ」
見るからに賢そうな男がそこにいた。こいつは切れる。へたな駆け引きは逆効果だ。オレコスの勘が警笛を鳴らしていた。
「ドワーフ族のオレイコスだ。オレコスと呼んでいい」
「ならばおれのことはエーデルと呼べ」
「エーデル、話は娘から聞いた。おれはその提案を前向きに考えたい」
「土地はどのぐらいある」
「猫殿の見積もりだ。300キロメートルの海岸沿いが全て水田という畑に開墾することが可能らしい」
「く、予想を遙かに超えてきたな」
「猫殿はまだ何か言っていたか」
「ああ、その畑は二毛作という作付けができるらしい。つまりだ、米を作った後に小麦を作ることも可能になる」
「……参ったな。猫殿に完敗だ」
エーデルが天を仰いだ。
「やっていられるか。オレコス、酒は飲めるよな」
「けんかを売っているのか」
「飲み比べといこうじゃないか」
エーデルがニヤリと笑うと、オレコスもニヤリと笑い返した。
「賢王よ、気に入ったぞ」
酒盛りが始まった。
酒が体に入る度に2人は打ち解けていった。
「信じられるか。アステル湖の水を全部飲み干せるといったんだぞ、あの猫やろうが」
「まったくだ、おれには小麦粉貴族といつまで戦える、勝てるのかと言いやがったんだぞ」
いや、猫はそこまで言っていない。
「だが、力は本物だ」
「ああ、本物だ」
「カナデという男は信用できる」
「シンティが気に入っている男だ。当然だ」
「姫は来年10層に行く。確約だ」
「娘達も行くことになるだろう」
「くっそー、そこは卑怯だぞ」
「うるさい、おれだって最近知らされたんだ」
「うぃー、同盟を結ぶぞ」
「ヒック、異論はない」
こうして、エレウス王国とマルモル公爵領の同盟が密かに締結された。
次の朝、王城の料理人達は、味噌という加工食品の可能性に気がつき、驚愕していた。
「おい、オレコス。この味噌汁という飲み物は、二日酔いの胃にしみこむな。うまい。これも是非買い取らせてくれ」
「猫殿の分が先だが、王城にも優先的に届けさせよう」
「うむ、楽しみだ」
エレウス王国で味噌と醤油が作られるのも時間の問題だろう。
次話投稿は明日の7時10分になります




