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085 冒険者ジェイド




 どうする、子どもには荷が重いぞ。


 ジェイドを見た。笑っていた。


「カナデさん、ボクも冒険者ということですね。魔物が認めてくれました」


 嬉しそうにそう言った。


 命の危険はない。しかし、守れるのは体のみだ。恐怖すれば心が(こわ)れる。最悪、もう魔物とは向き合えなくなる。


「カナデさん、ボクの心は壊れませんよ。()だまりで暖められた心はもう(こお)りません」


 ジェイドの雰囲気が変わった。冒険者の顔になる。


 ならば任せよう。


 レーデルさんも動かない。同じ考えだ。




 ジェイドがペンダントの収納から武器を取り出した。ディーラさんと相談しながら自分に合った物を作ってもらったのだ。


「この武器の、お披露目(ひろめ)になりました。感謝するよ」


 ジェイドが狼型に近づきながらそうつぶやいた。


「ボクはまだ子どもだからね。大きくて重いのはうまく使いこなせないんだ。だから、これにしたよ」


 (さや)からすっと()いた剣は両刃の細い剣だった。


「レイピアだよ」


 日本では『細剣(さいけん)』と呼ばれている決闘(けっとう)用の武器だ。力がなくても()きで致命傷(ちめいしょう)を与えることができる。


 欠点としては折れやすいことだろう。でも、つくも(猫)の神力がこの剣にも宿っている。簡単には()れない。そして、折れても瞬時に再生する。神力剣(しんりょくけん)なのだ。


 狼型が低く構えた。剣に込められている神力に反応したようだ。これは、手加減無(てかげんな)しの本気で来るぞ。ジェイド、気をつけろ。


 無言でにらみ合う。


 (おび)えない、(うな)らない、油断(ゆだん)しない。この狼型は強い。


 ジェイドもすでに全身に身体強化を掛けている。脚力には魔法陣展開で強化を上掛けしている。速さは互角だろう。


 狼型が静かに動いた。


 いきなりのフェイントだ。前足と視線は右に行くと構えておいて、後ろ足は左を向いている。普通の冒険者ならば引っかかっていただろう。


 ジェイドは冷静だ。全身を注意深く観察していた。


 視線とは反対側に飛ぶ狼型と動きを合わせて同じ方向にステップした。狼型がすかさず後に飛び下がった。レイピアの射程(しゃてい)内だったからだ。


 ジェイドも深追いはしない。体勢が悪かったからだ。


 ()り出しに戻った。


 狼型が激しく動き出した。強靱(きょうじん)な後ろ足を使って左右前後(さゆうぜんご)に跳びはねる。(みき)も使った三角攻撃も仕掛けてきた。


 大木(たいぼく)が揺れている。大地も揺れていた。


 ジェイドは動かない。(するど)(つめ)(きば)を最小限の動きでかわしていく。


 ジェイドがニヤリと笑った。


「君の動きは全て記憶したよ」


 線が重なったようだ。ジェイドの勝ちだ。


「魔法陣展開 跳躍上掛(ちょうやくうわが)け」


 脚力と跳躍の二重上掛けだ。上級魔術になる。


 飛び跳ねている狼型と動きを合わせた。シンクロしている。どんなに速く飛び跳ねても、ジェイドはぴったりと付いてくる。


 狼型に(あせ)りが見えた。


 動きが雑になる。不用意(ふようい)に爪で攻撃を仕掛けてきた。


 終わりだ。


「ごめんよ」


 爪で()()くために飛びかかった場所には、なぜかレイピアが待ち構えていた。致命傷だった。静かに霧散(むさん)した。


 15センチほどの大きさの魔石と、金色に輝く欠片が地面に横たわっていた。


「ジェイド、強くなったな。立派な冒険者だぞ」


 花が咲くような笑顔でジェイドが笑った。


 見守っている存在者達が大喜びをしていた。


 ソフィアがキョロキョロしていた。


 レーデルさんが、その様子を興味深そうに観察していた。


(終わったぞ。合流できるか)


 つくも(猫)から念話が来た。


(こっちも終わった。イグニス達はどうなった)


(そちらも終わっている。島の中央に来い)


「みんな勝ったみたいだよ。合流しよう」


「神力風の道」


 銀色に輝く風の道が島の中央に向かって延びていった。


「飛び込むよ」


 レーデルさんが真っ先に飛び込む。空中で浮かんではしゃいでいる。


 苦笑いのソフィア達も飛び込む。最後に私が飛び込むと、景色が後ろに吹っ飛んでいった。約15秒、私達は島の中央にいた。


 もうみんながそろっていた。


 サクラさんがどや顔だ。どうした。


「カナデさん、見てくださいこの魔石。熊型のです」


 直径20センチはある強大な魔石だった。


「紅が瞬殺でお仕置きしました」


 うかつな熊型だ。相手の力も(はか)れないのか。


「欠片は持っていましたか」


「はい、ここにあります」


 手には、金色に輝く精霊結晶の欠片が乗っていた。


 どうやら、おれ以外は全員が欠片を確保できたようだ。多分だが、第三権限のおれには必要ないということだろう。


「これで全員が10層の結界を通過できる資格を得ることができましたね」


 サクラさんが少し真剣な表情でうなずいた。仲間達の10層攻略の条件が整ったからだ。




「ソフィア、お願いできるかな」


「わかりました」


 ソフィアが自分の欠片を持ってそっと精霊結晶に手を触れた。


 シュパーン!


 光の線が空に打ち上がった。




 (とき)が……止まらなかった。




有言実行(ゆうげんじっこう)ね。依頼達成よ!」


 ベニザクラ号から、女神様が降臨(こうりん)した。


 固まる仲間達。


「姿を現してよかったのか」


 猫が心配している。


「ここにいる人たちが10層に来てくれるのでしょう。なら、ここで挨拶(あいさつ)をしておいても問題ないわ」


 なるほど、そうなのかもな。


「みなさんこんにちは、私は世界樹の意志、いえ、精霊かな? うーん、まあいいわ、名前は『エスプリシフ』よ。エスプリと呼んで構わないわよ」


「あの、自己紹介した方がいいのでしょうか」


 ソフィアが代表で聞いてくれた。


「今日はいいわ。10層に来た時にゆっくりを聞くことにします」


 そう言ってからソフィアをみてにっこりと笑った。


「ありがとう。あなたのおかげでこの子達を見つけてもらうことができたわ。お礼は、10層に来たときよ。期待していいわよ」


 ソフィアも恥ずかしそうに笑った。


 サクラさんを探しているのだろう、キョロキョロ見回している時に、レーデルさんを見つけた。


「びっくりよ、レーデルじゃない。1000年ぶりかしら」


「エスプリごきげんよう。いつ、実体化したの」


「そこの第三権限とあった時よ」


 猫を見た。「ふん」と言って、耳を()いていた。


「なんとなく、サクラに似ているわね。顔も性格も……」


 う、鋭い。モデルはサクラさんです。


「まあいいわ。弟の居場所と記憶を散り戻すことに目星(めぼし)がつきそうなの」


 女神様が猫を見て大きくうなずいた。


「上位者ね。なら、簡単よ」


「10層には、弟もたぶん連れて行けるわ」


「わかった。準備をしておくわ」


「オキナはどうしたの?」


「ラリリンと森の散歩よ」


「…… 楽しんでいるようでよかったわ」




「エスプリさん。火山島にあるらしい結界に心当たりはありますか」


「ないわね。でも、発動できる存在は限られるわよ」


「ですよね」


「ベニザクラ号がいる場所なら私も行けるから困ったら呼んでね」


「どうやって呼べばいいですか」


「ねこちゃんとなら念話できるわよ」


「なるほど、つくも(猫)にお願いすればいいんですね」


「ええ、そうして」


「私はそろそろ行くわよ。精霊結晶は連れて行くわね。本当にありがとう。これで、心の負担が少しなくなったわ」


「お役に立ててよかったです」


「来年ね」


「はい、また来年……です」


 エスプリさんさんが声を上げて笑った。


「ふふふふ、そうね、また来年よ」


 サクラさんを見つけた。


「サクラちゃん、待っているわよ」


 そう言うと、金色に輝く精霊結晶を抱えて渦の中に消えた。


「また来年て、何ですか?」


 サクラさんが不思議顔だ。


「隠れ家に帰ってからゆっくり話します」


 ふーんと言う表情で、それ以上何も言わなかった。


「予定よりも早く終わったわ。お昼を食べたら帰るわよ」


 サクラさんの宣言は決定である。誰も異議(いぎ)は唱えられない。




* * * * *




  明るいうちにベニザクラ号は隠れ家に到着した。


 いきなり現れた樹魔車両にびっくりする芸術の探求者達。


「うさぎもびっくりだよ」


 ホッとする言葉に迎えられてみんなが下車すると、メディが走り寄ってきた。


「チャルダンの絵本にはまだ謎が隠されていたんです」


 どういうことだ?




 リビングに全員が集まった。


 芸術の探求者であるネメルさんが説明を始めた。


「この絵本にかいてある絵は、からくり仕掛(しか)けになっていたわ」


 からくりか、つまり『トリックアート』と言うことだな。


「この製本の()い目にヒントがあったの。これは、座標を示しているわ。この座標の方向から絵本の絵を見てご覧なさい」


 ネメルさんがサクラさんをその位置に連れて行き見る方向を指さした。


 絵本の絵は緑色の山脈だ。その下で狐が眠っている。そして、山の上には白い雲が浮かんでした。


「雪山になったわ」


 サクラさんがびっくりしている。


 全員で順番に確認する。最後に私も確認した。


「雪の山脈(さんみゃく)だな。この大陸には一つの場所にしか存在していない」


 レーデルさんの言いたいことがみんなに伝わった。


「狐は雪山山脈の下で眠っている。つまり、大樹(たいじゅ)山脈のふもとだ。そして、そこにある国は『ナダルクシア神国』だ」


「弟は、そこにいるってことだな」


 レーデルさんさんの説明にディーラさんが反応した。


 全員がゴクリとつばを飲み込んだ。





次話投稿は明日の7時10分になります

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