082 普通の島
王太子戦のついでに交流戦を行う。これが建前だ。本音は、王太子戦を利用してストラミア帝国に有利な戦いをする。相手の思惑はこうだろう。
ミリコス殿下が怒り狂っているという情報は、ジェイドの協力者達から入手している。プライドをズタズタにされたあげく、まるで魔術学院の敵対者のような位置づけで戦う事になったのだ。当然だろう。
しかし、大富豪の資金援助を期待した自身の行いの結果だ。ドモンの甘い言葉に惑わされ、グライヒグの自尊心をくすぐる提案に安易に乗っかった自身の甘い認識を猛反省すべきである。
貴族学生達が特権を行使できなくなるまで後10日だ。それまでにやっておくことがある。5島調査の続きだ。
「作戦会議をします」
エルが宣言をした。
いつものメンバーの他にウサギが1匹とオレンジ色の髪を持つエルフが1人、仲間になった。
芸術の探求者である『ネメル』さんは、たまっていた仕事を周りがびっくりするスピードで片付けて、昨日の夜からここにいる。
歓迎会では『牛すきうどん』が振る舞われた。『すき焼き』と『うどん』だ。見事に胃袋を捕まれた。
「ネメル、ウサギもたまげるおいしさだよ」
「ネメル、モモンガもたまげるおいしさなの」
「わたし、今日からここに住むわ」
即決であった。
「議題は、サバト島の調査についてです。隊長から説明があります」
「明日から3日の予定で調査に向かう。サバトは多分土属性の魔物がいる島だ。水属性程ではないが探すのはやっかいなやつらになる」
「カナデ、どんな風にやっかいなんだ」
「イディア、おまえ、土の中に潜れるか」
「無理だな」
「そういうことだ」
「どういうことだ」
このやろう、本気か、それともおちょくっているのか!
「イディア、土の中にいる魔物をどうやって探すのかな」
「シンティ、大抵の奴らは、ドンドン叩いていれば出てくるぞ」
おお、まともな意見だ。見直したぞ。
「イディアの言う通り、今回は振動させておびき寄せる作戦で行く。そして、こちらには秘密兵器がある」
リーウスが『振動波発生装置』の制御盤を持ち上げた。
「まんまるの捕獲用にツバキさんが作った兵器だ。かなり強力だぞ。これなら効果があるはずだ」
エルとディーラさんが興味深そうに装置を見ている。この2人なら使いこなせるだろう。どこかで実験をしておくか。
「今までだと派手な魔法を使うと欠片が現れている。今回も同じなのかどうかは行ってみないと分からないが、たぶん、傾向は一緒だろう」
もはや、調査と言うよりも欠片探しが主目的だ。いろいろ日程が立て込んでいる。効率よく終わらせたい。
「カナデさん、限界に来ていると思いますか」
「ジェイド、他の島と一緒だよ。溢れ出す寸前になっているはずだ」
「土属性持ちは誰になりますか」
ジェイドの質問に3人が手を挙げた。
「レーデルさんも土属性ですか」
ジェイドが思わず声を上げた。
エルフの髪の事は知らないか。色でだいたい分かるんだ。茶色ならば土属性だと予測がつく。
「シンティとエルはドワーフ族だからな、まあ、予想通りだな」
レーデルさんがそう言うと、そうだよなと言う感じの仲間達。
「今回はこの3人が見つける可能性が大きいです。グループもそれを見越して組みましょう」
意義はない。
「イディア、今回もソフィアとは別行動になるぞ」
「了解した。もはやこのメンバーでいる時に限ってだが、そこには拘らん。安心しろ」
イディアも成長した。
「シンティさん、イグニスさん、マーレさん、ディーラさんが一組目です」
「サクラさん、レーデルさん、クエバさん、リーウスさん、イディアさんが二組目です」
「カナデさん、エルさん、ソフィアさん、メディさん、ぼくが三組目になります」
「ネメルさんはどうしますか」
「今回はパスね。もう少し慣れてきたら参加させてもらうわ」
「わかりました。ラリリンはどうする」
「ネメルといっしょにいるよ。心配だからね」
「劇場にいなくていいのか」
「あそこでやることはほとんどないのよ。ここにいた方が楽しそうだわ」
「なら、わたしもここに残ることにします。まだ、神装結界が不安定なんです。迷惑をかけてしまうかも知れません」
メディだ。なるほど、確かにそれはありうる。
「わかりました。それでは2人は留守番をお願いします。ラリリン、任せたよ」
「任された」
ウサギが胸を張っていた。
「では、明日は8時に出発します。各自で準備を進めて置いてください」
全員がうなずいた。
* * * * *
「風の道」
ベニザクラ号が静かに浮かび上がった。地上では、ネメルさんとメディが手を振っている。
「目的地はサバト島です。距離は約250キロメートル、風の道高速移動なら2時間30分で到着予定です」
サクラさんがペンテとテネリを見た。羽をパタパタさせて喜んでいる。
「出発します」
景色が後ろに吹っ飛んだ。
水上移動もすっかり慣れてきた。ベニザクラ号もリムジン型だ。仲間が増えたので通常型では手狭になった。
「サバト島上空です。高度を上げます」
島の全体像が見えてきた。
「普通の島っす」
確かに、そうとしか表現できない。
「変ですね。土属性魔物の島のはずです。特徴がない方が不気味です」
「ジェイドに賛成だな。普通ということに意味があるような気がする」
「どういうことだ!」
うん、いい突っ込みだ。
「普通に見せておいて、実はいろいろな罠が仕掛けてあると考えていいだろう」
「わかったぞ!」
レーデルさんは偉大だ。
「カナデさん。どうしますか」
「サクラさん、罠は全て真色眼で見分けられるかも知れません。取りあえず上陸しましょう」
「わかりました。降下します」
場所はあの岩の上だな。土がある所は嫌な予感がする。
「サクラさん、あの岩の上です」
「着地します」
海岸線に突き出した岩の上だ。見晴らしもいい。ここを宿泊場所にするか。でも、念のためだ。
「真色眼 対象ベニザクラ号」
ピコン、ピコン、ピコン、ピコン、ピコン、ピコン……
土の部分全てにいた。あいつだ。
「ここ、……『うじゃうじゃ』だらけだぞ!」
ぴくっ、クエバが反応した。
「リーウス!」
「了解っす!」
リーウスが『振動波発生装置』の制御盤を取り出した。
うん、丁度いいか。
「エル、ディーラさん、お願いします」
昨日の夜、使い方の練習をしておいてよかった。
「サクラさん、念のためです。上昇する準備をお願いします」
「わかった、風の道」
ふわっと。ベニザクラ号が浮かび上がる。
「振動版を打ち込むわよ」
ディーラさんが、ボウガンのような装置でねらいを定める。引き金を引いた。
シュパー シュルシュルシュル ズドン!
縄といっしょに矢が地面に刺さる。
直ぐに反応があった。もこっと地面が盛り上がった。鋭い顎がガシガシ動いている。
「危なかった。あそこに着地していたら土の中に引きずり込まれていたぞ」
イグニスが顔をしかめている。
「うじゃうじゃは撲滅! ククク」
怪しく笑うクエバ。
「やれ!」
「了解っす。スイッチオン」
目盛りは縦横30×30メートルで深さが10メートルに設定されている。圧力は30だ。
ズオォォォォォォーン!
静かに強力な振動が地面に伝わった。
モコモコと土が盛り上がった。次から次に黒い物体が飛び出してきた。体長10センチ位の蟻だ。
「イグニス。燃やせ!」
「了解。魔法剣炎を纏え」
岩の上でイグニスの体内魔力が高まる。
「焼き払え!」
地表に炎が走る。そして広がっていく。
黒い物体は、霧散していった。
「魔石は残っていないわね」
シンティが確認をした。
「いっしょに燃えちまったかな」
イグニスがすまなそうにしている。
「体長10センチならあっても5ミリだ。気にするな」
「これでここ一帯の安全は確保されましたね」
「ジェイドの言う通りだな。ここはしばらく安全だ」
「レーデルさんと同じ意見だ。ここを宿泊場所にする」
ベニザクラ号は静かに岩の上に停車した。
次話投稿は明日の7時10分になります




