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078 チャルダンとグライヒグ ★




 ★ ★ ★ ★ ★ (グライヒグ視点)




 ドモンが不安定です。あれだけ精細(せいさい)だった商売への気配りもおろそかになっています。この商会も長くはないですね。閣下(かっか)には深入りしないよう進言しておきましょう。


市場(いちば)での様子を報告しなさい」


「いつもと変わらなかったです」


「まったく役立(やくた)たずですね。あなたの考えは聞いていません。見たことをそのまま報告しろと言っているんです」


「すみません。えーと、近づいたのが5人です。3人は置いてある本をパラパラ見て、買わずに行ってしまいました」


「本を買った人間がいたのですね。誰ですか」


「エルフの親子です。子どもが転んで泣きそうになったのでみんなハラハラしてみていたんです。チャルダンが何か声をかけていました。子どもがしばらく本を見ていて、母親が買っていました」


 気になりますね。わざわざその店の前で転んだかも知れませんね。


「転んだ時、母親はどうしましたか」


「そう言えば変でした。周りに荒くれ者がいるので普通なら『痛くない泣くな』って言いますよね。でも『痛かったら泣いてもいい』って言ってました」


 ああ、なるほど。エルフらしい考え方です。


「問題ないですね。エルフとはそういう考え方をする種族です。逆に、『泣くな』のほうが不自然です。作為的(さくいてき)な物を感じますね」


「そうなのですか」


「チャルダンの動きで何か気になったことはありませんか」


「特にはないです」


「確認ですが、誰もいないのにびっくりしたりキョロキョロしたりはしていませんでしたね」


「はい、言われていたのでそこはよく見ていました」


  さて、ここまで泳がせていても接触(せっしょく)はしてきませんか。


 カナデという男が、相手に気付かれない何かの魔道具を使っているのは間違いないです。でないと、あのダンジョン勝負の違和感(いわかん)が説明できません。


 どんな魔道具なのかを確かめたかったのですが、ここまでですね。これ以上チャルダンを自由にさせるのはやめましょう。


「チャルダンの自由市場行きは禁止にします」


「わかりました」


「魔術学院へ行くのも禁止です。部屋から出してはいけません。それと、部屋の前には監視をする人間を立たせておきなさい」


「はー、なぜでしょうか?」


「ドモンが不安定です。いらぬトラブルは避けたいです。チャルダンは使えます。ゆっくり洗脳(せんのう)して魔動機関貴族の犬になってもらいます」


「了解しました」


 ドモンの娘はまだ見つからないです。学食でカナデと話をしていたという情報は聞いています。となると、一緒にいると考えていいでしょう。


 ならば、チャルダンのことを聞いて必ず接触してくると思ったのですがね。おかしいですね。


 まあ、あの娘のことは見逃しましょう。たいした情報は持っていません。それに、今はここにいたほうが危険ですからね。


 チャルダンは、あの話を聞いてしまったと考えた方が良いでしょう。カナデ達に会わせてはいけません。不都合(ふつごう)真実(しんじつ)は知らなくてよいのです。


 さて、ダンジョン勝負の時の借りは返してもらいますよ。どんなに強い力を持っていても、1人は1人です。数の力には勝てません。それが、この世の(ことわり)です。




 ★ ★ ★ ★ ★ (チャルダン視点)




 はー、なかなかカナデ君にはこちらの考えが伝わりませんね-。きっと、機会が悪いんですね。あのおばか王子達がいろいろやらかしすぎるので、こちらに気が回らないのでしょう。


 メディは現れません。でも、味噌と醤油を発見したという報告を受けています。ならば、必ず彼らと接触できているはずです。きっと、私の立場は伝わります。


 向こうから接触してこられる環境を整える必要がありますが、私への監視はかなり厳重(げんじゅう)です。これは、あの話を聞いてしまったということがばれていますね。


 困りました。私の命が危険です。どうしましょうかねー。




 * * * * *




 暇つぶしで描いた絵本が使えそうです。味噌を探しに来るかと思い、お店を開いていたのが幸いしました。これを利用しましょう。




 グライヒグの思惑(おもわく)と私のやりたいことが一緒です。きっと許可は出ます。




 監視付きですが、許可は出ました。やはり、グライヒグも私と同じ考えですね。カナデ君は姿を消すことができる。加護なのか魔道具なのかは分かりませんが、これは真実です。




 あの魔動機関貴族は、彼の守護獣は(きつね)だと言っていました。ならば、狐が出てくる話にしましょう。そして、カナデ君が関係した魔物で私が知っているのは兎と猪ですね。




  出来上がりました。グライヒグも見ていましたが、どうやら違和感はもたれなかったようです。でも油断はできません。




 突然声をかけられてもびっくりしないように注意していましょう。きっと、そこを見ているはずです。




 現れませんね。メディはまだ会えていないのでしょうか。それとも、何かのやっかいごとに巻き込まれたのでしょうか。心配です。




 ドモンさんの様子がおかしいです。あの貴族と話をしてからひどくなりました。メディがここに来てはいけません。危険です。どうやって伝えましょうか。策がありません。




 たぶん、自由がもらえるのは今日が最後ですね。この方法がだめだとなると、ちょっと、接触は難しくなりそうです。さて、別の策を考えるとしますか。


 おや、エルフの子どもですね。あの走り方は危ないです。多分転びます。


 ああ、やっぱり転びました。泣きますかね。ちょっと、場所が悪いですね。たぶん、怒鳴られます。


 ん、泣きませんか。おや、母親が来ました。エルフ系ですね。


「転んじゃったのね。痛かったのね」


「うん、痛かった。でも、泣くのは我慢したの」


「そうなの、でもね、痛かったら泣いてもいいのよ」


「うん、分かっている。もう大丈夫」


「いいねえ、その通りだよ。痛かったら泣く。これが正しいのさ」


 いい場面を見た。実にエルフらしい合理的(ごうりてき)な考え方だ。


「あら、ここは何を売っているお店なの」


 おや、興味を持ってくれたのかい。


「ぼくが描いた絵本を売っている」


「その絵本を見せてもらってもいいかしら」


「どうぞ、ゆっくり見ていってくれ」


 ハハハ、良い親子だ。


「おもしろそう。欲しいな」


 ありがとう。何ならプレゼントするよ。


「いいわよ。でも、一冊だけにしなさい」


「うん」


「どれもおもしろそうなの。決められないわ」


「お(すす)めの一冊があるかしら。それを買うことにします。お金はこれで足りますか」


 変わった硬貨だね。う、樹魔硬貨だと! 持ち出しは不可能だと聞いている。それができる存在……と言うことだ。


「気に入ってくれたみたいでありがとう。一番端の本がお薦めだよ」


「これね」


 ああ、それだよ。カナデ君に伝えたいことが(しる)されている。しっかり届けてくれよ。エルフのお嬢さん。




 やってくれたな。ぼくでさえ違和感がなかったぞ。グライヒグも何も気がつかないはずだ。エルフとしての行動が完璧だ。


 これではっきりしたことがいくつかある。


 メディは無事だ。そして、今は彼らと一緒にいる。


 私の意図することは全て伝わっている。絵本を読めば、私が危険だということにも気がついてくれる。


 やはり、私達の選択は正しかった。彼に絶対服従(ぜったいふくじゅう)を誓う。それが退屈(たいくつ)しない人生を送るために必要なことだよ。




* * * * *




 監視が厳しくなりました。もはや接触は無理ですね。グライヒグは私とカナデ君が会うことを望んでいません。たぶん、このままストラミア帝国に連れて行かれます。


 メディが一緒でなくてよかったです。さすがのカナデ君でも、この監視を突破することは無理でしょう。なぜなら、グライヒグは知っているからです。カナデ君が姿を消せることを。


 ストラミア帝国にも、おもしろい事はあるんでしょうか。それがあるなら、そこで暮らすのも悪くないかも知れませんね。


「おれはドモンだぞ! なぜ会えない」


 ああ、ドモンさんが来たのですか。何の用ですかね。


「グライヒグ様から、誰とも会わせてはいけないという命令が出ています。お帰りください」


「ここはおれの家だ。勝手なことを言うな」


 ですよねー。それには賛成です。


「では、あなたからグライヒグ様に申し出てください。許可が出れば会わせます」


「そのグライヒグが許可を出さないから直接来たんだろうが、おまえバカか!」


「なんと言われようと、私の上司はグライヒグ様です」


「く、まったく、どいつもこいつもなぜおれの言うことを聞かない。ふざけるな! 見ていろ、王太子戦が終わったら、カナデはおれの下僕(げぼく)だ。死ぬまでこき使ってやる。チャルダン、おまえもだ、この役立たずめ          


 ふー、行ったか。でも、ドモンさん。カナデ君は負けないよ。だから、あなたは終わりなんだよ。


 ……静かすぎる。どうなっている。


「俺様が時間を止めたからな」


 猫だと。言葉を(あやつ)っているのか、ならば答えはひとつだ。


「神獣様ですね」


「うむ、冷静だな。気に入ったぞ。5分だ。それ以上は違和感が出る。グライヒグには気付かれたくない」


「要件はなんですか」


「これだ。おまえを守る加護が付与(ふよ)されている。いつも身につけていろ」


 猫のペンダント……。


「どうやって使うのですか」


「まず、本人登録しろ。やり方は分かるな」


「はい、(とげ)はありますか」


「なんだ、痛いのはだめか。ほれ」


「……ありがとうございます」


「おまえの魔力を流せば使いかたが分かるようになっている。どうせ時間はたくさんあるだろう。使いこなせるようにしておけ」


「わかりました。メディはどうしていますか」


「おまえを心配している。だから俺様が来た」


「ははは、メディにはもう頭が上がらないな」 


「いつまで耐えられそうだ」


「王太子戦が始まるまでです」


「終わった時では遅いと言うことだな」


「処分されるか取引材料になってしまいます」


「わかった。おまえが望めば今直ぐ連れて行けるぞ」


「ここで情報を得たいです」


「そうか、任せた」


「連絡方法はありますか」


「念話が使える。俺様に伝えたいとイメージすれば(つな)がる」


「わかりました。危険な時はそうします」


「そろそろ5分だ。俺様が消えてから5秒で時が動き出す」


行ったか。



      メディはどこにいる。答えろチャルダン!」


 ああ、その事が本題か。一応親ではあるんだな。


「私にも分からないです。でも、メディは用心深いので、安全な場所にいると思いますよ」


「ふん、そうか」




 今度こそ行ったか。さて、まずは本人登録か。


 退屈(たいくつ)ではない人生が始まりそうだ。ワクワクするね。


次話投稿は明日の7時10分になります

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