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075 朝食には味噌汁




 私達はシンティの実家であるマルモル公爵家の屋敷(やしき)にいる。(たたみ)があり(ふすま)がある和式の部屋だ。


 数年ぶりに帰省したシンティの為に用意された朝食は、やはり和式のメニューだった。ただ、あれはない。そう、味噌汁だ。これさえあれば完璧なのだ。まあ、贅沢(ぜいたく)を言えば納豆(なっとう)海苔(のり)か。


 そして、米だ。この国には米が似合う。


「ふむ、この献立(こんだて)ならやはり味噌汁が欲しいな。奥方(おくがた)、ちょっと台所を借りるぞ」


 猫がそう言うと、相手の返事も聞かずに奥に消えていった。


「カナデさん、味噌汁って昨日の豚汁みたいななのですか」


「似たような感じですが。肉は入っていないです」


 サクラさんが期待にワクワクしている。仲間達も同じらしい。


「よし、ちょうどわかめがあった。(かつお)だしもあった。これで完璧だな」


 猫が満足そうに戻ってきた。


 後から味噌汁が入った鍋が運ばれてくる。料理長だろうか、興奮した表情で入ってきた。


「親方様、味噌という発酵食品をぜひ、我が領の産業にすることを強く進言しますぞ」


 そう言って、味噌汁がもられた椀を差し出した。


 シンティの父親が一口飲む。


「うまい。二日酔いの後の胃によく馴染(なじ)むぞ。これが味噌か。確かに考えなくてはいけないな」


 当主の横には、やっと目覚めた村長が緊張した表情で座っていた。


「ははー、かしこまりました。村人の総力を挙げて期待にお答えします」


「俺様達の契約を優先しろよ。いいな」


 猫が瞳孔(どうこう)を狭めた。


「もちろんでございます。神獣様」


「猫殿、その話だが、もう一度しっかりと話を詰めたい。可能か」


「うむ、問題ない」


 当主がほっと胸をなで下ろした。


「ディーラ、すまんが付き合ってくれ。アドバイスがほしい」


「父上、その謙虚(けんきょ)さが昨日欲しかったぞ」


 苦笑いをする公爵家当主様。まあ、これで丸く収まるだろう。


 ここは海にも近い。後で行ってみるか。




 シンティは家族との団らんを楽しんでいる。なので他の仲間達と一緒にマルモル領の町に行ってみることにした。


 海の町だった。市場には海産物が売られている。つくも(猫)が小躍りしそうだ。後できっと買い占めるな。


 海までは50キロメートル位だろう。次元箱と魔動車がある世界なので、物流には困らない。いい町だ。


 懐かしい臭いがする。イカ焼きだ。思わず購入して食べてみた。うまい。涙が出てくる。仲間達も気に入ったようだ。


 もっとゆっくりしたいが、イグニス達を待たせている。村に帰らないといけない。村長も届けないとな。村人が心配しているだろう。


 なごり惜しいが、またの機会だ。あの村にもちょくちょく来る事になるかも知れない。なら、問題ない。




 屋敷に帰ると。猫がご機嫌だった。当主は苦笑いだ。よほどいい契約ができたのだろう。


「カナデ喜べ、全てこちらの要望通りだ」


 猫が尻尾を激しく振っている。


「ねこちゃんさすがです」


 サクラさんに頭を撫でられて、さらに揺れが激しくなる。


「つくも(猫)、市場に海産物がたくさん売っていたよ。後で行ってみる」


「うむ、マーレ達と一緒に買い出しに行くか」


「シンティ、どうする。おれたちはいったん村に帰る。ここに残るなら迎えに来るぞ」


「うちは残る。迎えに来て」


「わかった。ディーラさんはどうしますか」


「私も残ることにしよう」


 母に甘えるシンティを優しく見守っている。


「なら、いったん帰るとしますか。サクラさん、行きましょう」


「ええ、では、風の道」


 ベニザクラ号が静かに浮かび上がった。


 風の渦が村の方向に数キロにわたって伸びていった。


「出発します」


 きっと、下で見送っていた人たちには消えたように見えただろう。何しろ。初速が秒速55mなのだ。




 村に帰ると、イグニス達が片づけを全て終わらせて待っていた。ねこちゃんペンダントには、異次元収納の機能も備わっている。クエバが使いこなせるので片づけは一瞬だっただろう。


 いろいろな事がいっぺんに起こり、だいぶ混乱している村長を自宅に届ける。村議会の様な組織の人たちに、事の成り行きを説明した。後からマルモル家の役人が来て、詳しい説明をしてくれると言うと、ホッとしていた。


 見送る村人達の前で、ベニザクラ号は静かに浮かび上がる。そして、一瞬で55m先まで移動する。目指すは、マルモル公爵家だ。30分ほどで到着する。


 そのまま、中庭に着地した。


「マーレ、市場に行くぞ、全て買い占める!」


 つくも(猫)、ほどほどにな。


 猫がご機嫌で市場に向かった。仲間達も後をぞろぞろと付いていく。


 つくも(猫)が次々に念話で指示を出す。マーレがそれを店員に伝えると、そのたびにびっくりされる。


 至る所で完売の札が置かれはじめた。いったい何が起こっている。市場に緊張が走る。時間停止機能があるつくも(猫)の収納なら消費期限はない。


 満足した猫と一緒に屋敷に戻ると、シンティ達も帰宅の準備が整っていた。


「では、戻りますか」


 サクラさんの宣言に、全員がうなずいた。


「シンティ、また来なさい。待っています」


 見送る母に抱きつき別れを惜しむ。シンティよまた来られる。


「出発します」


 ベニザクラ号は、隠れ家を目指して超高速移動に入った。




「つくも(猫)、鰹だしが手に入ったね。いよいよ本格的な和食の味が再現される事になる。楽しみだよ」


「味噌と醤油はこの村に丸投げできた。そのほうがこちらとしても都合がいい」


「みりんはどうなるの」


「まずは焼酎造りからだな」


「焼酎って、芋でも作れたよね。芋焼酎よく飲んだよ」


「芋でも米でも米麹が必要だな。日本にいる麹菌のような優秀なのがここにもいるといいのだが、無理だろうな」


「味噌樽に麹菌はいないの」


「味噌を仕込んだ時点で死滅する。ただ、酵素などが残留している可能性はある。いわゆる『蔵付き菌』だな」


 やはり、発酵食品の管理は難しそうだ。


「とにかくだ、米が収穫できたら種麹を作ってみる。後は、トリコンに丸投げする予定だ」


「なるほど、薬学の探究者だものね。適任かも」


 おれはまだあったことがないんだよ。研究所から出てこないらしい。めがねっ娘と一緒か。


 いろいろな人を巻き込んで、日本食への夢が広がっていく。異世界生活も悪くない。


 さて、下旬の休息日は、策士獲得大作戦が待っている。そして、いよいよ6月に入る。バカ王子達との対戦も待っている。また忙しくなりそうだな。


 御者台の横で丸くなっているつくも(猫)を見ながらそんなことを考えていた。





次話投稿は明日の7時10分になります

本日12時10分に登場人物紹介を投稿します。

長い説明文になります


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