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074 神酒の儀式 ★




 ★ ★ ★ ★ ★ (ディーラ視点)




 この豚汁という食べ物は、実にうまい。体も温まる。酒にも合う。味噌という食べ物にこんな可能性があったとは驚きだ。これは、父に言って、この領の新たな産業にする必要がある。猫殿に相談だな。


「シンティ、猫殿はどこにいる」


「村長と話をしていました」


「わかった。楽しんでいるか」


「はい、姉様。地元の民と話をするのは初めてです」


「そうだろう、あの件もだいぶ落ち着いた。安全が保障されればちょくちょく帰ってこられる。もう少しだ」


「はい、待ち遠しいです」


 まったく、ルキミヤ公爵家にはほとほと愛想(あいそう)()きた。カルピオとも、もはや会うこともあるまい。


 これだけの騒ぎを起こしておいて、もし私の前に姿を現して見ろ、高炉(こうろ)(まき)にしてやる。


 おお、いたな。何やら話が盛り上がっているようだ。少し待つか。




「村長よ、焼酎(しょうちゅう)は造っているか」


「難しい製法だからの。ごく少量なら作っている」


 焼酎か、どこの村でも少量は作れるのだが、大量生産には難しい技術だ。よほど効率よく蒸留しないと燃料費だけで莫大(ばくだい)な出費になってしまう。ストラミア帝国の()(まい)はごめんだな。


「いま、米という穀物をエレウスで栽培している。それを使って焼酎を造り、さらに『みりん』という調味料にしたい」


「米ですか。聞いたことがない食べ物ですな」


 米か、うまかったな。あと数ヶ月で食べ放題だと言っていた。楽しみだ。


「まだ極秘(ごくひ)だ! 小麦貴族に対抗するエレウス王の切り札になる穀物(こくもつ)だ」


 ん、そんなに大事(おおごと)だったのか。


「安心しろ。この村には迷惑が掛からないようにする」


 猫殿の言葉は絶対に信用できる。安心しろ村長よ。


「つくも(猫)さん、具がなくなった鍋が大量です。追加をお願いします」


 ソフィアはいい娘だ。あの娘を育てた貴族家なら、いい関係を築けるのかも知れないな。


「うん、ちょっと待て……、ほれ、終わったぞ」


 ふふふ、驚け村人よ。これが神獣様の奇跡の力だ。


「村長、さっきの話の続きだ。この村で味噌と醤油、そして『みりん』という調味料を作る契約を結んでくれたら、単式蒸留器たんしきじょうりゅうきをエルに作らせるぞ」


「蒸留器……もしかしてそれは、焼酎を造れるのか」


「ああ、焼酎を造り放題だ」


 なんと言った、蒸留器だと! そんなものが作れるのか。


「米という穀物は、日本酒という格別にうまい酒を造ることもできるぞ」


 うまい酒……。もう直ぐ落ちるな。この男は。


「米で作った焼酎は、甘みとうまみ、まろやかさがあるぞ。ロック、水割り、お湯割り、ソーダ割りどれでもうまいぞ」


  村長よ、契約するなら父の許可が必要だぞ。分かっているのか。


「アルコール度数(どすう)は25度前後で、どの酒よりも高いぞ?」


「契約する。いや、是非(ぜひ)契約させてください。猫の神獣様ー」


 アホめ、粛正(しゅくせい)されたいのか。酒に関して父は絶対に妥協(だきょう)しないぞ。仕方ない。


「話は聞いていたぞ! 猫殿、その契約には父の許可が必要になる。味噌と醤油は見逃しても、酒造りに関しては絶対に見逃しはない。ドワーフ族とはそういう種族だ」


「もちろん、許可はさせる。ディーラよ、これからおまえの父の元に飛ぶぞ」


 は、猫殿は今なんと言ったのだ。飛ぶとはどういうことだ。


「神力 風の道」


 なぜ空に道があるのだ?


「ほれ行くぞ」


 いや、だからどこへ行くのだ。おい、やめろ、何をする。


 体が浮かんでいる。なんだこの空間は?


「うひゃぁぁぁぁぁぁー……」




「ディーラ、少しは落ち着いたか」


「ああ、すまない。取り乱した。ここは空の上、そして信じられない速度で移動している。それで合っているか」


「正解だ。おまえの実家を思い浮かべろ」


「了解した」


「うむ、直ぐ近くだな」


「かんべんしてくれ、あの村から実家まで100キロメートルは離れているぞ。いったいどのぐらいのスピードで移動している」


「時速300㎞だ。20分で到着できる。目的地まであと5分ぐらいだ」


 神力とはまさにでたらめだ。猫殿には絶対逆らうなと父に進言しなくてはいけないな。


「いきなり庭でいいか」


「ああ、私がいる。問題ない。ただし、襲ってきても弟子達に危害は加えないでくれ」


「時を止めるから大丈夫だ」


 はは、時間まで支配できるのか。もはや降参(こうさん)だ。


「ねこちゃんペンダントをに魔力を注いで神装結界を発動しておけ。おまえも止まった時の中で動ける」


「もはや何も言うまい。了解した」




 中庭だな。懐かしい。もう数十年帰っていなかったからな。ああ、父だ。晩酌(ばんしゃく)か。相変わらずだ。


 なんだ、色が消えたぞ。真っ白な世界だ。


 父が固まっている。色はない。石みたいだ。


「猫殿、父は大丈夫なのか?」


「ああ、今おまえの父親だけに時間経過を許す」


 猫殿が軽く父に触ると、父に色が戻った。キョロキョロしている。


「父様、お久しぶりです。ディーラです」


「な、ディーラか、何でいる。ここはどこだ」


「おまえの屋敷だ。そして、ここだけ時が止まっている」


「な、猫だと……。言葉を(あやつ)強獣(きょうじゅう)。神獣様か!」


「正解だ。マルモル公爵家当主『オレイコス』よ」


 父が(ひざまず)こうとしたとき、猫殿が言った。


「その行為は必要ない。今日は頼み事があって来たのだ」


「どんな要望でしょうか。そして、ディーラは関係あるのですか」


「直接はない。道案内をしてもらっただけだ。だが、カナデは世話になっている。役立っているぞ」


「父様、カナデとは探求者様です。そして、姫の騎士(ナイト)でもあります」


「そうか、おまえは今姫達と一緒なのか。なら、シンティは元気か」


「一緒に来ています。帰りに寄らせましょう。母も喜びます」


「ああ、そうしてくれ」


「話は終わったか。ならば、要望を伝えよう」


 猫殿が前足を舐めた。


「3つある。1つ目だ、ここから100キロメートル離れた場所に小さな村がある。その村では味噌と醤油という発酵(はっこう)食品を作っている。俺様達は、その村とその食品を売買する契約を結びたい」


「別に構わないぞ。その村の収益になるならありがたいことだ。許可しよう」


「うむ、感謝する」


「2つ目だ。同じように『みりん』という調味料の製造販売も契約したい。その調味料は、アルコール分14%前後の酒類に分類される」


 父のこめかみがピクッと動いた。酒類という言葉に反応したからだろう。こうなることは予測していた。


「それはだめだな。酒類は厳しく取り締まっている。自家製酒を作るにも許可が必要だ」


「そうか、では3つ目だ。みりんを作るには蒸留酒が必要になる。なのでその村に単式蒸留器たんしきじょうりゅうきを導入する許可が欲しい」


 もはや顔が真っ赤だ。あれは相当怒っている顔だ。


「神獣様の頼みでも、これだけは聞けない。酒類の製造は厳しく取り締まっていると言ったはずだ。どうして、蒸留器が出てくる……ん、蒸留器だと、それは、焼酎が造れるのか?」


「蒸留酒とは、焼酎も含まれるが知らなかったのか」


「……」


「その蒸留器でどのぐらい製造できる」


「家庭用なら数リットルだな。業務用なら数千リットルから数万リットル程度の大型も用意できるぞ」

「くっ、その製造費はどうなる」


「全てこちらが持つ。ただし、そのときは、できた酒は全て俺様のものになるな。安心しろ、安く売ってやる」


 このつくも(猫)という神獣様は、人の弱みにつけ込むのがうまい。


「考えさせろ」


「好きにしろ」


 父はあれでも公爵だ。頭も切れる。度胸もある。決断もできる。さあ、どうする。


「神酒の儀式で勝負をしろ。それでおまえが勝ったら全て認める。ただし、できた酒の何%かは税金として徴収させてもらう」


「おまえが勝ったらどうなる」


「ふん、全て却下だ。そして、蒸留器の作り方を教えてもらう。どうだ、受けるか」


「よかろう」


「なら、この変な空間を解除しろ。勝負ができない」


「ふん、面倒なことだ。ほれ、解除したぞ」


 周りに色がもどった。確かに父の屋敷だ。


「おい、神酒の儀式をする。準備をしろ」


 父の怒鳴り声で、全てが動き出した。でも、おもしろい。その儀式で父が負けたところを見たことがない。初めての敗北でどんな顔をするのかが楽しみだ。




「勝負の内容は飲み比べだ。交互に同じ大きさの器で酒を飲み干していく。先に潰れたほうが負けだ」


 器は大中小の3種類ある。どの器でもいい、酒をこぼれるまで器に満たし、それを飲み干す。相手も、同じ大きさの器で飲み干す。単純な勝負だ。


「では、おれからいくぞ。大だ!」


 見届け人が器に酒を()いでいく。こぼれたところでやめる。


 ぐぐぐーと、一気に飲み干した。相変わらすの飲みっぷりだ。


「次はおまえだ。その小さな体のどこに入るのかを見届けてやるぞ」


 猫の目の前に、なみなみと注がれた器が置かれた。どうやって飲むのだろう。舐めるのか。時間が掛かりそうだな。


「ふむ、いい酒だ。芋の醸造酒(じょうぞうしゅ)だな。これならうまい芋焼酎にもなりそうだ」


 猫殿は、酒のこともよく知っているのだな。物知りだ。


「ふー、終わったぞ」


 ん、いつ飲んだ。気がつかなかったぞ。父も同じらしい。不思議そうな顔をしている。しかし、器は空だ。飲んだのだろう。


 勝負は全て大の器で行われた。こんなことは前代未聞(ぜんだいみもん)だ。普通は、後半になるにつれ、中、小と小さくなっていく。


「おい猫、何かずるをしているのれはないか。その小さな体のどこにその量の酒が入るのだ。ろかしいだろう」


 父のろれつが怪しくなってきた。こんな父を見るのは初めてだ。


「うむ、もっともな指摘だな。しかし、俺様の胃袋は異次元と繋がっている。アステル湖の水だって全て飲み干せるぞ」


 父には猫殿の言っていることは理解できないだろう。この勝負は、やる前から結果が決まっていたのだ。


「うるはい! なら、残りの酒を全部飲め、ぞじたら、おれの負けにじてやるべー」


「ふん、仕方ないな。それで終わるなら、手間が省ける」


 猫殿がそう言うと、樽に入っていた酒が全て消えていた。

勝負ありだ。


「さて、そろそろ夜明けか。ディーラ、シンティ達をここに呼ぶ。朝食の準備をしておいてくれ。きっと、ペコペコのお腹でやってくるぞ」


 猫殿はそう言うと、ペロッと口の周りを舐めた。





次話投稿は明日の7時10分になります

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