071 策士を仲間にしよう
貴族生徒による平民生徒への度重なる嫌がらせは、貴族枠の教授が原因だった。こうなってくるともう即刻退場してもらうしかない。『まとめてポイじゃ!』の仲間入りが決定した。
「ソフィア、帰るか」
「はい」
生徒会メンバーはみな寮生だ。もう少しここでやることがあるらしい。挨拶をして、生徒会棟を出た。
「そういえば、ソフィア達も寮生だったんだよね」
「はい、課外活動もありましたのでその方が都合が良かったんです」
だよな、貴族の屋敷は居心地悪そうだものな。
「課外活動にはもう出なくていいの?」
「イグニスさんとの模擬戦の方が何十倍も訓練になります。問題ないです」
「ならよかった」
図書館に着いた。もう、司書は帰宅している。学生証を掲げてドアを開ける。次元渦巻のある資料室に向かう。
渦巻は常時発動しているようにつくも(猫)が調整してある。ねこちゃんペンダントをしていれば渦が見える。
図書館に入ると同時に認識阻害の神装結界を発動させている。私達に気がつく学生はいない。
「おれから入ってみるね」
一応確認だ。うん、問題ない。
「大丈夫。入っていいよ」
渦から手だけ出して手招きをした。
部屋の中は空っぽだ。イグニスが全て持っていった。今は、地下の倉庫が彼女の部屋になっている。理想的な環境らしい。ここには、図書館に用事があるときだけ来ている。
「ベニザクラ号の次元渦巻と一緒だから、使い方は分かるよね」
「はい、どの渦でも同じで、行き先をイメージすればいいんですよね」
「うん、行き先は『隠れ家の小部屋』だよ。おれから入ってみるから後からついてきて」
「わかりました」
渦の中に入ると白い空間に出る。そして、たくさんの渦が見える。この渦の数だけ行き先があるということになる。かなり増えている。
ソフィアも入ってきた。
「隠れ家の小部屋に行きたい」
渦の中に入るとそこは隠れ家の小部屋だった。
ソフィアも後からついてきた。
「便利ですよね。つくも(猫)さんて、本当に神様なんですね」
神様の認識はたぶんおれとは違うだろう。この世界に神社はない。神様を崇めるという風習もないのだ。
「あ、ソフィアにカナデさん。帰ってきたんですね。丁度夕飯です。食堂に来てください」
サクラさんがご機嫌だ。よかった。
「料理長今日のメニューは何でしょうか」
「うむ、明日は味噌の村に行くからな。豆を使った料理だ」
「チリコンカンは、マメ科のつる性一年草とひき肉をトマトやスパイスで煮込んだスパイシーな料理だ。カレー用のスパイスがたくさんあるので、工夫してみた」
クエバとリーウスがまた唇の周りを腫らしている。調合実験に付き合っていたんだろう。お疲れ様。
「カスレだ。やはりマメ科のつる性一年草と鳥肉やソーセージなどの肉類をオーブンで煮込んでみた。エルの作ったオーブンは性能がいい。いい具合に仕上がった」
マメ科のつる性一年草って、きっと日本ならインゲン豆のことだよな。
「最後は袋豆だ。この豆は魔力草だ。カナデと味噌と醤油造りで使えないかいろいろ試していた食材になる。これは、茹でる前に塩でもんで、茹で湯にも最適量の塩を投入してある。なかなかうまいぞ。ただ、魔力草なので魔素が濃い。食べ過ぎには注意するように」
ビアガーデンが懐かしい。ビールはこの世界にもある。イグニス達にもいつか枝豆にビールの祝福を与えてあげよう。
「豆だけだとお腹がすく。パンもたくさん用意した。特に、チリコンカンはパンともよく合う。サラダも食べ放題だ。さあ、たくさん召し上がれ」
「カレーとは違う風味だね。トマト味が強いから、トマトの煮込み料理みたいな感じかな」
「でも、この辛みというかピリ辛な味がパンと良く合うっす」
「リーウス、スプーンが届かないのよ。もっと上なの」
レーデルさんもすっかりここの食べ方に慣れたようだな。オキナはどこにいるんだ。ああ、リーウスの頭の上か。
「トマトの自然な旨みと酸味がまとまっているな。それに、挽肉と豆がたっぷり入っているから食べ応えもある」
「タマネギや野菜も一緒に煮込んであるから野菜から出る自然な甘みも加わっているわね」
ディーラさんとメディもすっかり仲良しだ。一緒に作業をしているからかな。
「辛さの中にもトマトや肉、豆の旨みが感じられる」
おお、クエバの感想が長い! 気に入ったか。
「この袋豆、いくらでも食べられそうだぞ」
「イグニス、魔力酔いするかも知れないからほどほどにしなさい」
イグニスがマーレに怒られている。でも、枝豆とはやみつきになるうまさなのだよ。
「カスレは初めて食べたわ。白豆が肉といっしょにじっくりと煮込まれているから、口の中で絶妙に絡み合うことができるのね。そして、れぞれの食材から出る旨味が溶け込んだクリーミーな感触を生み出しているわ。一口食べた時にそれぞれの素材が主張しつつも、調和の取れた深い味わいがあるわね」
ソフィア料理評論家の感想でした。
ジェイドとサクラさんは淡々と食べている。でも表情は幸せそうだ。
今日の皿洗い当番はサクラさんとジェイドとレーデルさんだ。他のメンバーは、満腹のお腹を抱えて紅茶タイムになっている。このあとは、作戦会議が始まる。
「では、作戦会議を始めます。議題は『グライヒグ対策』です。カナデ君、説明をお願いします」
「正直、おれもどこまでが戦略なのか分からない。意見を聞かせてくれ」
黒板に経過を書きながら説明しよう。その方が分かりやすいだろう。
「ミリコスがやらかした教室での騒ぎは知っているよな」
「レーデルさん達には、ぼくから詳しく話してあります」
ジェイドが留守番組に説明しておいてくれた。気が利く参謀はありがたい。
「あれはグライヒグの戦略で間違いないと思う。どうだろう」
「間違いなく戦略だ。なかなか巧妙な仕掛けをする策士だな。そのグライヒグという男は」
「レーデルさん、なら、貴族枠の教授が今している追い出し作戦も戦略だろうか」
「それも戦略だ。こういうことだよ。カナデが守る対象者を増やしているのさ。そして、動きを鈍らせるのが目的だろうね」
「なるほど、それはカナデの性格を読み切っているということだな」
「ディーラさんの言う通りです。カナデさんの優しい性格を利用しています。卑怯ですが効果的でもあります」
こういう時のジェイドは冷静だな。
「わたしの提案した結団式は、相手の思うつぼだったんでしょうか」
「ソフィアの言っているのは、今日の生徒会会議で決まった方向だよ。追い出されている平民生徒をみんな対魔法学園戦の選手にしてしまうのさ」
「なるほど、エレウス王ね」
「シンティ、正解だ。選手団に手を出すことはエレウス王の意向に逆らうことになる。貴族連中にとっては避けたいことのはずだ」
「うん、いい方法だね。ソフィア、よく思いついたね」
レーデルさんに褒められて、嬉しそうに微笑んだ。
「わたしの出番はあるの?」
「サクラさんには、その団結式でビシッと牽制をしてください。逆らえばお仕置きですと宣言してください」
「任せて、やっと、わたしの出番なのね。魔物達へのお仕置きは得意よ!」
サクラさんがやる気満々だ。そうか、出番が少なかったか。ごめんね。
「それでだ、さっきのおれの守る対象を増やす戦略を逆手にとってグライヒグにギャフンと言わせたいんだが、何かいい方法はないだろうか」
みんなが考え込んだ。
「こういう時に、チャルダンは役に立つのですが、いつごろ接触できそうですか」
そうだな、まだ時間はある。そっちを優先するか。
「メディの意見に賛成だ。まず、チャルダン公太子の取込を優先しよう」
みんながうなずいた。
「よし、話はまとまったな。では、明日は早い。今日は解散だ」
「料理長の進言を採用します。これで会議を閉じます」
それぞれが自分がやりたいことができる場所に散っていく。その中の1人の少女を呼び止める。
「メディ、下旬の休息日だが、何か予定が入っているか」
「ディーラさんのお手伝い以外はないわよ」
「なら、ちょっと、自由市場に行ってみないか」
「……わかった。わたしは何をすればいいの」
「まずは、神装結界と認識阻害が発動できるようになろうか」
つくも(猫)を見た。
「任せとけ。今日中に発動できるようにしてやる」
メディは、つくも(猫)に連れられて庭に出ていった。
リビングに残っているのはおれとその参謀の3人だけだ。
「チャルダンを仲間にしたい。どうすればいい」
「メディがカナデさんと接触したことをまだ知らないはずです。ならチャルダンは必ず自由市場に行くはずです」
「ジェイドに賛成だ。問題なのは、敵がどのぐらいチャルダンを警戒しているかだな」
「レーデルさん、ドモンはチャルダンを侮っているので警戒していないでしょう。でも、グライヒグは先入観で物事を決めません。監視していると考えておいた方がいいですね」
「カナデさん、樹魔硬貨持っていますか」
ん、アイテムボックスに入っているかな。
「たぶんあるぞ。でも、どうするんだ」
「樹魔硬貨って絶対持ち出せないんですよね」
おお、なるほど。その手があるか。
「ジェイド、いいところに目をつけたな」
「はい、チャルダンがメディが言うような策士なら、樹魔硬貨を持ち出せる相手がどんな力を持ているか正確に把握しますよね」
「ああ、離れた場所からの監視なら、普通に本を買っているようにしか見えないよな」
「いい方法だ。だが、買うときに自分で選んではだめだな」
ん、なんで? 2人の頭の上に? マークが浮かぶ。
「全ての本にメッセージが込められるはずがない。当然売るものは検閲されているはずだ。ならば、特別な一冊を本人から手渡してもらう必要がある」
「わかりました。樹魔硬貨を見せて、『お薦めはどの本かな』と聞くわけですね」
レーデルさんはジェイドの言葉に微笑んでうなずいた。
「さて、では誰に買ってもらうかだけど、ここにいるメンバーはみんな顔を知られているよな」
「認識阻害は逆に違和感もたれそうですよね」
うーん。
「親子が理想ですね」
サクラさんがいつの間にか後にいた。
「確かに、絵本みたいな本だったからその方が自然に見えるな」
「なら、子ども役はここにいるじゃないですか」
そう言って、サクラさんがレーデルさんさんを見た。
「子役は決定だな。親役は誰にする」
本人の了承を得ないまま、話は進む。
「マーレさんなら、いつも市場に行っているからそんなに違和感ないわよ」
3人で顔を見合わせうなずいた。
「決定だな。レーデルさんお願いします」
キョトンとして成り行きを見守っていためがねっ娘の美少女が怪しく笑った。
「任せなさい。おもしろそうじゃないか」
こうして、チャルダン獲得大作戦がはじまった。
次話投稿は明日の7時10分になります




