070 生徒会会議
食堂にはみんなが勢揃いしていた。どうやら、バカ王子乱入の噂はあっという間に広がったようだ。伝書魔鳥でも使っているのだろうか。
「おまえには同情するよ。で、勝てそうなのか」
ボンがあきれたという顔で聞いてきた。
「負けることは絶対にないが、すんなりと勝たしてはくれないようだ」
例の対戦申込書を机に広げた。読み進めていくとソフィアのこめかみがぴっくっと動いた。頼むから燃やさないでくれよ。
「おまえ、この内容でよく負けないと宣言できるな」
ボンが心底あきれたという顔で聞いてきた。
「カナデさんですから、当然です」
サクラさんが胸を張る。この信頼感は揺るがない。
「それにしても、ミリコス殿下には恥を知れと言いたいです」
ソフィアが怒っている。
「いや、この内容を考えたのはグライヒグだよ。ば……ミリコス殿下ではない」
「どうしてなの?」
「殿下は自分の芸術センスに絶対の自信を持っているからさ。ジェイドの教室に来たのも、リアスに負けを認めるよう進言しに来ただけだよ」
「この内容だぞ! 言っていることとやっている事が違っている。卑怯者だ!」
「イディア、殿下はあの時まだ対戦内容をなんにも考えていなかったんだよ。なのに、同じ時間帯でドモンが提出している。つまり、殿下もグライヒグにはめられたのさ」
「どういうことよ?」
「シンティ、あの戦略レベルでは完璧な策を練るグライヒグだよ。殿下の性格なんてお見通しなんだ。相談すれば却下されるに決まっている。ならば、適当におだてて自ら申し込みに行かせる。リアスの性格ならその場で受理する。そして、申込書も正式に生徒会室に届けられている。もはや、この内容で勝負をするしかなくなる」
「おい、そのグライヒグってやつは、とんでもない戦略家だな。そこまでやるのか」
ダンが椅子に反り返った。
「ええ、ダンジョン勝負では、E級、D級、C級の魔物を全て刈り尽くしたわ」
サクラさんが怒っている。ここまでの怒りは久しぶりだ。あのダンジョンのC級は当分復活できない。この怒りは当然だ。
「みなさん、帰ったら作戦会議です」
ジェイドの言葉に全員がうなずいた。
「わるい、おれは今日は別行動をする。課外活動の時間に生徒会で話し合いがある」
「なら、わたしもですね」
「そうなの、どうする、迎えに来る?」
「サクラさんありがとう。でも、レーデルさんの部屋を使わせてもらうから、大丈夫です。ソフィアもそれでいいかい」
ああ、という隠れ家の仲間達。なんだ、という表情のボンとクリシス。その内、この2人も招待することになるだろうな。
「はい、問題ありません」
「問題ありだ、わたしは認めないぞ」
「イディア、ごめんね。これは生徒会の仕事なのよ」
「く、ソフィア様がそう言うなら引き下がってやる。カナデ、きちんと守るのだぞ、いいな」
「ああ、任せておけ」
イディアも聞き分けが良くなった。成長したな。
急いでお昼をお腹に詰め込み、ジェイドと学園の北隅にある環境学棟に向かった。この研究棟は一番遠い場所にある。その代わり、周りには池や林や畑などがあり敷地面積も一番広い。
今は稲作の実験で忙しい。なので。授業は高等部棟の教室ではなく環境学の研究棟で行っている。
研究棟は、10棟に分かれている。魔術学や加護学のような○○学棟となっている。シオン教授の研究室も魔法陣学棟にある。朝はそこに入り浸っているのだ。
ねこちゃんペンダントを身につけ、結界で封印されているドアを開ける。中には、数百個のバケツが置いてある。日本の小学生の自由研究みたいな感じで稲がバケツ栽培されている。
「カナデ来たか。待っていたぞ」
魔法学で泣いていた学生の1人だ。すっかり元気になっている。
「分げつが活発になってきた。おれのは20本ぐらいなんだがどう思う。まだ増やした方がいいのか」
「分からないです。いろいろな本数で試してみて、一番収穫量が多い穂の種をまた来年蒔いて生長させてみるしかないです」
「だよな。おれもそう思うんだが、つい聞いてみたくなってな、アドバイスありがとう」
仲間だろう。比較するために誰がどうするか決めているようだ。この分なら、人の手による美味しいお米も近いうちに食べられるようになるかもな。
米が出回れば、学食に丼物やカレーライスが登場するだろう。後は、醤油さえ手に入れば、ラーメンやうどんやそばも作れるぞ。なんかまたお腹が減ってきたな。
「ここではおれの出番はなさそうだな。ジェイド、高等部棟に帰るか」
「そうですね」
バケツの前から動かない学生達の邪魔にならないよう、そっと研究棟を出た。
学院内をゆっくりと歩いて行く。道のりなら1キロメートルぐらいだろう。11歳の足なら15分ぐらいで到着するか。身体強化を掛けて走れば5分ぐらいか。おれなら30秒ぐらいかな。魔法がある世界はいろいろと便利だ。
教授達は小さな魔道車に乗る許可が出ている。高等部棟にはそれに乗ってくる教授が多い。
自転車みたいなのがあると便利だよな。魔動車が作れるならバイクだって作れそうだが、なんかちぐはぐな科学技術なんだよな。はやり、何でも魔法でできてしまうからだろう。
かなりゆっくりと歩いていたので、ちょうど専攻3の授業が始まる時間になっていた。専攻1と2が2時間授業で3は1時間の授業になる、その後、課外活動の時間が2時間ある。下校は午後6時だ。ほとんどの学生が寮から通っているので、正門から帰宅する生徒は上級貴族の一部になる。
ボンとクリシスは、いつもお迎えが来る。だが、お迎えというよりは監視をされているようなちょっと嫌な雰囲気がある。カロスト王国もいろいろきな臭いので注意が必要だ。
「なあ、ジェイド、ボン達にも、ねこちゃんペンダントを渡しておいた方がいいかな」
「そうですね。レーデルさんと相談してみましょう」
学院長が言うように、魔法戦で『まとめてポイ』ができると楽なんだがなー。グライヒグみたいな策士が必要だな。やはり、早いところチャルダンを仲間に引き込むとしよう。
教室に入ると、生徒の数がかなり増えていた。あの15人の生徒の他にも別の教室で追い出されているのだろうか。
「シンティ、何かずいぶん増えていないか」
「他の学年でも追い出されているみたいなのよ」
「なんで?」
「貴族枠の教授が調子に乗っているみたいね。バックにあの男がいるからじゃない」
「ばかじゃないの。『虎の威を借る狐』ってことわざ知っているかな」
「カナデの国の言葉ね。意味は分かるわ。その通りよ」
シンティが感心したように首を縦に振っている。
「その魔物もお仕置きが必要ね」
サクラさんの目がキラリーンって光っている。
「やっぱり、まとめてポイだね」
「そうですね」
「まったくよ」
「お仕置きね」
加護学の教授は嬉しそうだ。よかった。
追い出された生徒は皆超優秀だった。人材ゲットだ。うん、どんどん追い出してもらってもいいかもしれない。全部まとめてねこちゃん印会社で採用させてもらおう。
ジェイドはサクラさん達とベニザクラ号に向かった。おれは、ソフィアと生徒会棟に向かっている。
生徒会室にはもう役員がそろっていた。
「賢者様、お待ちしていました。席はこちらに用意してあります。おかけください」
すかさず紅茶が出てきた。なにげに接待スキルが高い。ねこちゃん印会社にスカウトしよう。
「では、会議を始める。議題は、『お仕置き』だよ」
「……」
あまりにもストレートすぎる議題だが、姫がご所望だ。やるしかない。
「お仕置き対象者が増えています。現在70人ほどです」
「ポニーさん、増えている原因はなんですか」
「貴族枠の教授が原因です。彼らが率先して平民生徒をないがしろにしているので、その真似をしています」
「会長、学院長は何か言っていましたか」
たぶん、相談はしているはずだ。
「『まとめてポイじゃ。それまで放っておけ』と言っていたよ」
くそ、こっちに丸投げしたな。あのタヌキ爺め!
「そういうわけにもいかないわよ。すでにかなりの平民生徒が迫害されて困っているのよ」
リネスが告発書の束を机でトントンしてからペラペラめくって確認している。
「授業中に平気で追い出そうとしているから学習が進まないのさ」
「ミエール、それは、貴族枠の教授の授業だけだよね」
「そうなるね」
「みんなに確認したいんだけど、貴族枠の教授は有益な授業をしているの」
「正直に言うけど、貴族生徒が騒いでいて授業になっていないわ。やる気のある生徒はみんな図書館で自習しているの」
「ポニーさん、それって、いつもそうなの」
「いいえ、昨年まではそれなりに授業にはなっていたわ。かなり高圧的な教え方だったけどね」
教授だからな、知識だけはあるよな。
「そうなると、魔動機関貴族が何かを吹き込んだということになるな」
(グライヒグの戦術かも知れないな。レーデルさんと相談だ)
「王太子戦が全て終われば、いろいろ落ち着くとは思うよ。でも、かなり時間がある。それまでをどう乗り越えるかが課題だね」
生徒会長が話しを整理してくれた。やはりこの人は有能だ。
「サクラシア様がお仕置きをすれば効果がありますよね」
「テネリの言う通りよ。取りあえずだけど、効果はあるはずよ」
「ポニー、そうはいっても、人数が多すぎるんだよ」
エミールの指摘したことが課題だな。
「1度にまとめてになりますね。それしかないです」
黙って聞いていたソフィアが口を開いた。
「そうだな。それで、どうやるかだけど、ソフィア何か考えがありそうだね」
「はい、結団式をしましょう」
「何の団体を作るの?」
リネスが不思議そうに首を傾げる。
「ストラミア帝国魔法学園との交流戦代表選手団のです」
なるほど、いい考えだ。
「おもしろい事を考えたね」
生徒会長も乗り気らしい。
「どういうことよ」
リアスが我慢できないようで聞いてきた。
「標的にされているのが平民学生なら、その学生みんなが『魔術学院交流戦代表選手』ということにして、保護するんだよ。そうすれば、手を出した者はエレウス王に逆らったということになる」
私がそう説明すると
「つまり、粛正の対象になるのさ。貴族ならこれは致命的だよ。もう手出しはできなくなるね」
生徒会長が満足そうに腕組みをした。
「ああ、そういうことかー」と、みんなが納得した。
ただ、これもグライヒグの戦術の一部のような気がしてきた。疑い出すと切りがないな。やめよう。
「サクラシア様のお仕置きはなくなるの?」
う、それを忘れていた。ポニーありがとう。
「団結式で演説してもらいましょう。『手を出したらお仕置きよ』って」
みんなが苦笑いをしながら、それしかないかと考えることをやめた。
「では、おれからリアスに説明しておくよ」
会長がそう締めくくって、本日の会議は終了となった。
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