068 至福の時
魔法学から追い出された15人の平民生徒が新しく仲間になった。かなり難しい試験を受け見事に合格した学生だ。成績は優秀なので、魔法陣学の授業内容を直ぐに理解することができた。
イディアが焦っていた。このままでは抜かされると奮起していたので期待しよう。
魔力は確かに低そうだ。なので、魔法の威力も弱い。属性魔法使いとしては、低レベルになる。ギルドの測定器でもそういう結果になる。なので、冒険者としてはD級止まりだろう。
だが、ここは魔術学院だ。魔術師養成校なのだ。足りない魔力は魔石で補える。威力は魔法陣で上げられる。卒業してから冒険者になるわけではない。何の問題もない。
逆に、中途半端な魔力で威張っている貴族学生の未来の方が心配になる。今後、おまえ達を欲しがる組織はないぞ。冒険者になってもC級止まりだ。食べていけないぞ。大丈夫か。
「作戦会議を行います」
エルが進行だ。書記はシンティ、黄金コンビだ。
「魔法勝負の申し込みが来ました。カナデ君が学院長から話を聞いてきたので説明してもらいます」
「魔法学で、おれたちの敵、ストラミア帝国の魔動機関貴族『ダーチェリスト』にあった。例の属性魔法使いの能力を数値化する魔道具を持っていた」
「うちも測られたの。すごい数値って言われたわ。能力を数値化しているのは確かよ。ちょっと怖いわ」
「その装置で、能力が低い学生15人を選び出して追い出した。後で説明するが、グライヒグによる魔法勝負に勝つための戦略だと思われる」
「どう繋がる、さっぱりわからんぞ」
「おれもわからん」
師弟の相性は抜群らしい。
「後で説明すると言っただろう。黙っていろ」
ディーラさん、ナイスです。
「試合は、団体戦だ」
「また団体戦なの。懲りないわね」
「全員壁の装飾品 ククク」
マーレさんとクエバさんも武術戦見ていたからな。期待しているな。
「今回は戦術がかなり違う。さすがはグライヒグだという感じだ。おれは戦えない。後方支援のみだ。おれの力を封印する作戦だろう」
「イローニャ戦でも武術戦でもカナデさん1人にやられていますからね。そう考えるのは当然ですね」
「それで、さっきの学生だ。能力が一番低い平民の生徒を15人団体戦のメンバーに指定してきた。そして、おれは補助しかできないと言うルールだ。どうだ、なかなか考えられているだろう」
グライヒグはさすがだよ。やることがひと味違う。本気でそう思ってうんうんうなずいていると、
「それで勝てるのですか?」
ソフィアが心配そうに聞いてきた。
仲間達も深刻な顔をしている。
「絶対に負けることはない。だが、相手の心を折るとなると、ちょっと手詰まりだ。しかもだ、学長が期待しているのは、『バカ王子、魔動機関貴族、そしてカロスト王国の女王をまとめてポイじゃ!』だからな」
ソフィアに笑顔が戻った。仲間達にもだ。よかった。
「カナデさん、カロスト王国の王女も絡んでいるんですね」
「ジェイド、どうもそうらしい。ソフィア、何か情報はあるか」
「私の所には届いていません。ボン様に聞いてみるしかないですね」
「あとクエバにも、やっかいごとがあるかもしれない」
みんながクエバを見た。
「大丈夫。今の私は最強!」
「確かにそうっすね。チームで一番強いのはクエバさんっす」
「うるせえ、おれだって強くなっているわ」
イグニスに殴られるリーウス。
「痛いっすよ。本気で殴らないで欲しいっす」
「魔法陣展開の才能と融合魔法、魔力量もS級。確かに最強だの。たぶん、カナデを抜かせばクエバが一番強いな」
レーデルさんが冷静に分析している。
「力勝負なら、おれの方が強いぞ!」
イグニスが張り合う。
「8層でなら、クエバが一番強いぞ」
魔物みたいだな。でも、大樹の森では、人も魔物を根本は同じだろう。
「そうなのか……」
「8層には行かない。イグニスは私を守る」
「おう、おう、あたりまえだ」
「頼りにしている」
「任せとけ!」
泣くイグニス。舌を出すクエバ。やはり最強はクエバに決定だな。
「カナデさん、貴族のお仕置きはいつやるんですか」
う、姫の直球が来た。
「ちょっと、立て込んでたので、生徒会長と早急に検討させてもらいます」
「魔動機関貴族と一緒でもいいわよ。ぱぱっとやっちゃいましょう」
サクラさんなら、本当にやってしまいそうだな。
「えーと、話を戻しますね。カナデさん、魔法戦で気になることが他にありますか」
エル、助かった。
「大会要項をみながら参謀と問題点を整理するから、それからかな。ああ、言い忘れていた。団体戦は、ストラミア帝国魔法学園のエリートと戦うことになりそうだ」
「……」
「わたしも一緒に聞いていたから間違いないわよ。魔法学園のエリートってみんなA級よもしかしたらS級もいるかも知れない。手強いわよ」
シンティはこういうことを良く知っている。ありがたい。
「1度イローニャと会う必要がありそうだな」
「どこにいるのかしら。確か学院の学生のはずよね。あれから見てないわ」
サクラさんが首を傾げている。
「ナツメさんに聞いてみるか。きっと、あの情報部のお姉さんと一緒に動いている気がする」
「そうね。私から連絡してみる」
「サクラさん助かります。お願いします」
「任せて!」
「では、そちらはサクラさんとカナデさんに任せます。他に議題がありますか」
「エルとシンティ、それとディーラさん。二段ベットって作れるかな」
「作れるわよ。でも、何に使うの?」
「夏休みに入ったら、例の15人を特訓することになる。男子が8人女子が7人だ。部屋が足りなくなるので相部屋で過ごせるようにしたい」
「ああ、それなら、二人部屋を5人、一人部屋を3人にすれば間に合いますね。わかりました。夏休みに間に合えばいいんですよね」
「ああ、頼む。それとだ、チャルダンもたぶん仲間としてここに住むことになる。部屋は足りそうか」
メディもうなずいている。そうなると予想しているな。
「うーん、割り振ってみますね」
「おう、だめなときはおれとリーウスも二段ベットの相部屋にしてもいいぞ」
「いいえ、ぼくとカナデさんの相部屋が先ですね」
うん、何とでもして。任せるよ。
「よし、話はまとまったな。では、26日のことを決めるぞ!」
猫が黒板の前でチョークをもっていた。いや、爪でつかんでいたか……。
「場所は、アルエパ公国。ここからだと3600キロメートルぐらいだ。サクラの風の道でも12日は移動に必要な距離だ」
猫が地図に直線距離を赤で書き込む。
「遠いですね。休みは4日しかないですよ。どうするんですか」
ジェイドが地図の前でルートを探しながら猫を見た。
「カナデ、ツバキの風の道重ねがけはできるな」
「ああ、多分大丈夫だ」
「カナデの神力風の道の重ねがけで、マッハ1は行けるだろう」
マッハ1は音速と同じだから、時速1224キロメートルぐらいだな。戦闘機よりは遅いか。
「マッハ1なら3時間ぐらいで着きますね」
「まじかー」
みんながあきれている。でも、神獣様と探求者様のやることだ。何でもありなのだろう。そんな顔だ。
「おお、音なしとほぼ同じ速さか。すごいな。興味深いぞ。早く行こうではないか」
レーデルさんて、本当はこんな性格なんだな。つくも(猫)が増えた感じだよ。
「音なしって、あの音より早いという昆虫型魔物のことか」
イグニス、それであっているよ。
「ククク、同じ速さなら逃げ切れる」
「こりゃ、7層でも空飛べそうだな」
イグニスとクエバが顔を見合わせてニヤッとしている。
でも、確かにそうだな。いつか試してみるか。10層攻略で使えるかもな。
「よし、問題ない。みんな、しっかり準備をしておけよ」
「料理長の命令です。これは決定です。みなさん従うように! では、本日の会議を終了します」
みんなが、それぞれの部屋に帰って行った。つくも(猫)はマーレに捕まっていた。今日の添い寝は彼女のようだ。
残ったのは、私とジェイドとレーデルさんとオキナさんだけだ。
「第三権限の神獣様はでたらめな力なのよ」
「オキナ、それを言うなら探求者もだ。カナデは規格外だな」
レーデルさんが私をジトーと見ている。
「他の神獣もみんな第二権限なんですか」
「ああ、上位者は世界樹の意志だけだ」
「エスプリさんですね」
「……」
「驚いたのよ。彼女、あなたに名前を教えたのね」
「仲間はみんな知っていますよ」
「そうなのね。あなた達に会って、彼女も変わったのね」
10層に一緒にいたということか。探求者はみんなそうなのかな? 聞いてみるか。
「エスプリさんと一緒にいたことがあるんですか」
「νηωοΗΝβνθΜαιγβροΑγΙΓΞθθ……やっぱりだめだな。ここでは変換されない」
ん、変換だと!
「レーデルさん、今、変換ていいましたか」
「言った、君もそうなのだろう。多言語翻訳機能を使っているのだろ」
「え、レーデルさんもですか」
「ああ、初めて会ったとき、私は古代エルフ語で話しかけたんだ。普通に会話をしていたから、そうなんだと思っていたよ。違ったのか?」
マジですか!
「違いません。私のは多言語翻訳君です。えーと、なら、この言葉分かりますか」
日本語で話すと意識をしてみた。
「コレハ日本語デス。意味ガ通ジマスカ?」
「日本語って何だ? 聞いたことがない言語だな」
おお、通じたよ。
「たぶん、それは説明できません。私にも制約が掛かるんです。でも、それなら、この字も読めますよね」
アイテムボックスから、記録ノートを出して渡した。
「おお、すごいな。なるほど、最新刊はみんなこのメモを元に書いたんだね。君は、基礎研究者だな」
うん、そうです。嬉しいです。仲間ができました。
「はい、嬉しいです。仲間です。話し相手になってください」
「カナデさん、ぼくの存在を忘れているでしょう」
隣でジェイドが膨れている。美少年は怒っていても絵になる。
「レーデルさん、そのノートはいつでも見ていいですよ。他にも何冊かあります。そっちも見て、いろいろアドバイスをください」
「ああ、是非、見せてくれ。そして、議論をしようじゃないか」
ああ、至福の時間がやってくる。ジェイド、おまえもきっと、こちら側に来られる才能がある。待っているぞ!
期待を込めた目でジェイドを見た。
なんですか? と不思議そうな顔をしていた。
次話投稿は明日の7時10分になります




