067 帝国の魔法学園
メディは、ぐっすり寝ることができたようだ。スッキリした顔で起きてきた。
自由市場でのチャルダンの行動を伝えると、それは、売られていた絵本にきっと何かメッセージが書いてあるはずだという予想になった。
ならば、その本を購入してみるかという事になり、次の休息日に自由市場へ行くことが決まった。
メディは隠れ家でお留守番になる。次元渦巻はまだ使いこなせない。神装結界を発動できないからだ。つくも(猫)でないと調整は難しいので、また機会を見てになる。
ディーラさんが助手を欲しがっていたので、丁度いい。鎧作りの手伝いをする事になった。イグニス達もいるので心配はないだろう。ああ、レーデルさんとオキナもいた。留守番組もにぎやかになってきた。
今日の授業は、加護学からだ。
加護学の教授は案内人だったエルフが担当している。加護を持っているのは、エルフ族かエルフ系の種族だけなので、これは仕方ないだろう。
加護については、新しい学説は発表されていない。レーデルさんさんに言わせると、停滞しているだ。本当は、加護の研究も進めたかったようだが、弟の記憶を取り戻す方を優先させていた。
上位者の出現によって、その研究は必要なくなった。ならばと、本格的に加護学についての考察を始めるらしい。私も気になることはたくさんある。議論をするのが楽しみだ。
何やら隣の教室が騒がしい。確か、魔法学の授業のはずだ。シンティが受けている授業だ。嫌な予感がする。例の告発文がらみではないだろうか。
「カナデさん、嫌な予感がします」
「ジェイド、おれもだよ。様子をみてくるか」
サクラさんの隣には猫が寝転んでいる。護衛の心配はない。手を上げて教授を見る。こちらを見たので視線を隣の教室に向けると、了解の合図が来た。
「行ってくる」
教室を出た瞬間に認識阻害を発動する。貴族枠の教授の授業だ、余計なトラブルはごめんだ。
教室の中に入ると、平民だろう、少しオドオドした学生達が教室の前に立たされていた。シンティはと探すと、なんと言うことだ。貴族達に囲まれている。
状況を見るに、止めようとしたシンティを貴族達が囲んで行かせない。そんなところだろう。
さて、どうするか。
あれを試してみるか。骨伝導の魔石通信だ。100メートルぐらいしか届かないが、この場面なら問題ない。これは、ツバキさんと魔波通信機を作るときにいろいろ試したときの試作品だ。
そっと、シンティの首に装着する。ネックバンドスピーカーになっている。本来なら、音漏れ注意なのだが神力の前では全て無効だ。
「シンティ、カナデだ。そのまま待機だ」
「……おほん!」
了解だな。
「骨伝導通信機だ。魔波通信機と同じ原理になっている。口を少し開けて、喉を震わすように小さくしゃべれば騒音の中でも通信できる」
(こんな感じで聞こえる?)
(聞こえる。で、どうなっている)
(属性魔法使いの貴族生徒達が平民生徒達に嫌がらせをしているところかな)
(理由というか、切っ掛けはあるのか)
(全くないわ。接点すらなかったはずよ。貴族枠の教授もグルね。あきらかに一番弱い魔力持ち達を狙っているわ)
(サクラさんが関係しているかわかるか)
(うーん、分からないな。ちょっと煽ってみるわね)
「あなたたち、姫様が一番軽蔑する事をしているって分かっているの」
一瞬、ドキッとした感じで教授を見た。教授がうなずく。
「なら、こいつらを姫様が引き取ればいいだろう。慈悲深い姫様だ。面倒見てくれるんだろう。さあ、姫を呼んでこい」
「なんで引き取らなければいけないのか。理由が分からないわね。もっと、私が納得するように説明してくれないかな。そうすれば呼んでくるわよ」
う、それは! と言う感じに黙り込む学生達。
「情けない、魔術学院の生徒とはこんなにも根性無しなのか」
だれだ? どこの貴族だ?
教室の隅にいた、身なりが整った男が何かの装置を持ったまま中央に出てきた。
「マルモル公爵家の3属性魔法使いシンティか、なるほど、すごい数値だな。天才のおまえなら分かるだろう。魔法使いは、能力がなければ魔術師にも勝てない落ちこぼれだ。貴族ならまだ使い道があるが、平民などゴミだろう。ゴミは入り口の町に捨てるに限るそうじゃないか」
「閣下、すみません。こいつらには後でよく言い聞かせておきます」
閣下だと。それにあの装置、シンティの何かを数値化している。なるほど、こいつか、こいつがおれたちの敵だ!
「何故姫は出てこない。これだけ騒げば姫も騎士も出てくるのではなかったのか」
閣下と呼ばれた男が、貴族枠の教授を睨み付けた。
目的は何だ。ああ、数値か。それが欲しいんだな。さて、どうするか。
「まあいい。シンティ、どうだ、おれの国に来ないか。おまえなら好待遇で迎えるぞ」
「その国ってどこよ」
いいぞ! さあ、どこだ。
「貴族が絶対的な力を持った素晴らしい国だよ。近いうちにまた来ることになる。そのときに返事を聞こう」
その男はそう言って、教室から出て行った。不気味なやつだ。何かまだ隠し持っているかも知れない。後を付けるのはやめておこう。
「くそ、なんで出てこない。恥をかいたではないか」
壁を蹴飛ばしている。こいつ本当に教育者か。
「おい、低レベルの役立たずども、もうこの授業には来るなよ。いいな。おまえ達、こいつらをつまみだせ。シンティ、邪魔をするなよ」
(シンティ、動かなくていい)
(わかったわ)
「ふん、いやな感じね。わたしも今日限りで辞めるわ。こんなつまらない授業に出なくていいなら清々するわ」
ははは、さすがシンティ。よく言った。
とぼとぼと教室を出て行く生徒達の後をそっと追う。周りに誰もいないことを確認し認識阻害を解除する。そして、後ろから声をかけた。
「君たちの事は姫が悪いようにしない。安心しな」
びっくりして振り返り、そこにわたしとシンティがいることに気がつく。そして、ポロポロと涙を流した。
そのまま、生徒会棟に連れて行った。
「何があったか説明できるかな」
「ひっく、突然呼ばれたんです。教授とさっきの貴族に。そして、何かの装置で数値を計られたんです」
「低いな。ゴミだなって言われました」
「貴族か平民かを質問されて、平民の僕たちだけ前に出されました」
「さっきの学生達が、低レベルは必要ない。出ていけ」
「姫に助けてもらえ」
「姫をよんでこいって……」
「ゴミども、はやくしろって突き飛ばされて……」
次々に言葉を吐き出していく学生達。恐怖と屈辱の両方を味わったので、パニックになっている。
「そうなっている教室に、私が入っていったわけ。あとは、カナデが見ていた通りよ」
こいつ、食堂で何か食べていて遅れたな!
「わかった。とにかく、今日はここにいなさい。学長と相談してみるから」
分かりました。と言って、泣く学生達。人数にして15人か。
シンティと一緒に学院長室に行った。本部棟の一階にある。受付で訪問を伝えてもらったら直ぐに面会できることになった。
「失礼します」
「すまんな、迷惑をかけたようじゃな」
学院長が頭を下げた。だいたいの事情は察しているようだ。
「学生達は生徒会棟にいます。生徒会長がいたから押しつけてきました」
ホホホと笑う学院長。
「あいつは、ストラミア帝国の魔動機関貴族ですね」
うなずく学院長。
「あの生徒達に危険はありますか」
「それはない。わしが保障しよう」
よかった。シンティと顔を見合わせ胸をなで下ろす。
「あいつは何しに来たんですか」
「交流試合の申し込みじゃよ」
「どことですか?」
「ストラミア帝国の魔法学園じゃよ」
ん、なんで?
「なんでなの?」
シンティも疑問のようだ。
「ピエールとの魔法勝負の助っ人じゃな」
なんですとー! どうしてそうなるの?
「ピエールのバックには、魔動機関貴族がついているという事じゃな。それと、カロスト王国もな」
「……」
「そんなに不思議なことでもないじゃろ、姫を欲しい魔動機関貴族。入り口の町が欲しいカロスト王国。騎士に勝てば両方手に入る。なら全面協力しても損はないじゃろ」
確かにそうだ。理にかなっている。
「で、受けたんですね。その交流試合」
ホホホ、笑ってごまかす学院長!
「そ、れ、でー、試合はいつなんですか」
シンティが怖い顔で詰め寄った。
「ホホホ、8月上旬じゃよ。向こうが夏期休暇に入るからの、都合がいいそうじゃ」
まだ、日はあるな。情報は集められそうだ。
「学院長、徹底的に叩き潰していいって事ですよね」
「もちろんじゃとも、丁度いい機会だからのう、魔動機関貴族もカロスト王国の女王もあのバカ王子もまとめてポイじゃ! わははははは」
く、ラウネン並のタヌキだぞ。この爺!
「試合内容は決まっているの?」
おお、そうだった、シンティありがと!
「あちらは騎士がよほど怖いらしいぞ。ほれ、あのバカ王子が持ってきた大会要項じゃよ」
ホホホと笑いながら一枚の書類を机の上に出した。
「団体戦じゃ。それも向こうが選手を指名してきたぞ。さきほど追い出された平民学生15人と騎士が組んで、魔法学園との交流戦を行いたいそうじゃ」
そうきたか。向こうのメンバーはたぶんA級だろう。そして、こっちはE級だ。それで団体戦をしろと言うことか。グライヒグが考えそうな戦術だな。
「なるほどね、なかなか考えましたね。でも、私1人でA級みんな倒しちゃえば終わりですよね。まだ何か条件があるんですね」
「ホホホ、分かるか。さすがじゃのう。おぬしは攻撃に参加できんぞ。補助だけだ」
「な、バカじゃないの。E級とA級よ、補助も何もないでしょう」
シンティが激おこである。
「ルールは自由に決めていい。実行委員長の言葉はエレウス王の言葉、二言はありませんよね。そう言って、高笑いして帰って行ったぞ」
「く、まさか、そこまで卑怯な手を使ってくるとは……」
シンティが崩れ落ちた。
「シンティ、そう悲観するな。こっちには頼もしい参謀が二人もいるんだぞ、何かいい戦法を考えてくれるさ」
「なんでそんなにあっさりしているのよ」
お、久しぶりに言われたぞ。その言葉!
「レーデルが穴から出てきたか。ありがとうな。連れ出してくれたんじゃろ」
「ええ、大切な仲間ですよ」
学院長が嬉しそうに微笑んだ。
いい機会なので、気になっていたことを聞いてみた。
「婚約者達は今どうしていますか。お茶会の後姿を見ていないのですが、安全な状態なのですか」
「なんだ、知らなかったのか。それは心配をかけたな。彼女たちはもともと学院で学ぶ予定はなかったんじゃよ。任務が終われば自由に生きることを望んだんじゃ」
任務とは王太子を廃嫡にすることか。辛いな。
「今は、王都の冒険者ギルドで冒険者になる訓練をしているはずじゃよ。つい最近生き生きとした顔で挨拶に来たぞ」
「……」
心配はいらないようだ。入り口の町でまた会う機会がありそうだ。
平民学生達の安全は確保された。私を負かすための大事な駒だ。危害を加えることはないだろう。
あの後、学院長とも相談して、15人の平民は私達が戦力アップのために指導してもいいことになった。もちろん、敵の監視がついている。慎重に進めていこう。
授業も、魔法学から加護学へ、魔術学から魔法陣学へ変更してもらうことにした。その方がやりやすいからだ。
敵の間者も紛れ込むのが難しい環境になる。生徒会棟で待っていた生徒達にその事を話し納得してもらった。
本人達も、強くなれるかも知れないとやる気満々だ。気持ちの切り替えができたようだ。よかった。
「いやー、またまた大漁だね。それも、かなり優秀な生徒さんがこんなにもきてくれたよ」
シオン教授がご機嫌だ。15人もの新しい受講生が現れたからだ。
「魔術学院の試験に忖度無しの実力で合格したんです。優秀なのは当然です」
なぜだか分からないが、エルがどや顔だ。
「いや、本当に優秀なのよ。私もびっくりよ」
シンティが感心している。
魔法陣学の授業についてこられるか簡単な試験をさせてもらった。何しろかなりハイレベルな授業をしてきている。だめそうなら補修で補おうと思ったからだ。
結果、十分ついてこられる知識も技能も持ち合わせていた。かなりの人材を確保できたことになる。あの魔動機関貴族に感謝しなければならないな。
「こんなにすごい人が集まっている場所でそう言ってもらえるとなんか自信が出てきました」
「はい、魔法学の連中に一泡吹かせてやろうという気持ちになれました」
「ここに来られて良かったです」
「噂を信じないで、自分の目で見て判断すれば良かったと後悔しています」
「がんばります。よろしくお願いします」
次々に挨拶をしていく生徒達にもう悲壮感はない。やる気に満ちた生き生きした目だ。うん、がんばれ!
真色眼では、みんな青玉だった。ここには患者が紛れていない。グライヒグの戦術なので、ちょっと警戒してしまったぞ。
おれたちの仲間がまだ増えた。男子が8人女子が7人だ。
試合に向けた夏合宿を隠れ家で行うことになりそうだ。さて、部屋は足りるのか。二段ベットでも作るか。
次話投稿は明日の7時10分になります




