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066 見えてきた黒幕




 メディは、味噌と醤油を発見した経過(けいか)を猫に説明した。


 場所は、アルエパ公国北西にある山岳地帯だ。そこにある小さな村に村人だけが食べる郷土食(きょうどしょく)として存在していた。


 発見は、奇跡のようなものだった。その村にたまたま訪れた行商人が、めずらしい味だからと少し分けてもらった壺が何かの拍子でコロンと転がり、それをケルデースの調査員が見つけたのだ。


 そのときは、本物かどうかは分からなかった。しかし、どんな物でも必ず届けることになっていたので、通常の荷物といっしょにメディの元に届いた。


 メディも、捜し物があり、たまたま開いた箱の中にそれがあるのを発見したということだ。まさに、偶然の奇跡だ。




 それが、5月中旬だった。


 そして、急いで王都に入り、私に話しかける機会をうかがっていたようだ。私が、なかなか一人になる機会がないので、どうしようか思案していたときに、今日一人でいるのを発見したらしい。


 とにかく、壺の中身を見てもらうために切っ掛けだけでも作れればと、意を決して話しかけたようだ。


 それがあまりにもあっさりと受け入れられてしまい、正直、何かの罠なのではないかと逆に疑ってしまうような状況だったらしい。


 すまん。この力は本当にずるだよな。


「メディさん。チャルダンの婚約者だと言えば、簡単に面会できたんじゃないんですか」


 ジェイドがそう言うと、


「ドモンの娘ですとは言いずらかったんです。迷惑ばかりかけたと思うので……」


 いや、あったことないよ。間接的な迷惑はたくさん受けたけどね。


「メディ、ごめんな。ドモンのことは今日聞くまでみんな忘れていたんだよ」


 そうなんですか! というびっくりした顔をしてから、


「全て私の思い過ごしでしたか。そして、父はあなたたちにとっては気になる敵でもなかったんですね」


 うん、逆にすごい迷惑を掛けたようだ。


「でも、ストラミア帝国が絡んでしまったから、これからは敵よ」


 天然少女のストレートがメディに投げられた。


「はい、分かっています。わたしも、その事があったので父と決別する覚悟を決めました」


 コバルトブルーだからな。疑う余地はない。


「メディの覚悟は受け取ったよ。そして、ドモンは共通の敵と言うことでいいね」


 真剣な表情でうなずく。自分の娘をここまで追い詰めるとは、ドモンゆるさん!


「それで、相談があります。ケルデース商会に未来はありません。時と共に自然消滅するでしょう。でも、従業員は優秀なんです。路頭(ろとう)(まよ)わせるのはもったいないです」


 だよな、今回の調査ができる人材は、おれの会社にぜひ取り込みたい。


「わかった。おれもその人材が欲しい。何かいい手はあるのか」


「チャルダンが得意なんです。その手の調整は……でも、かなりの監視がついているはずです。婚約者と言っても私はお飾りなんです。簡単には会えません」


「なんでなの、メディだって、侯爵家の公女よ。おかしいわ」


 サクラさんの言う通りだ。なぜだ?


「金で買った侯爵家です。歴史ある貴族からすれば気に食わない存在です。それに、ストラミア帝国から父の元にやって来た参謀がかなりの切れ者です。チャルダンの才能にも気がついているかも知れません」


 う、もしかしてそれって、


「名前はわかる」


 サクラさんも気になったようだ。


「グライヒグです」


 でた、ガリガリミイラだ!


 サクラさんと顔を見合わせてしまった。


「メディ、そいつは切れ者だよ。一筋縄(ひとすじなわ)ではいかない相手だよ」


 さて、またあいつとの戦いか。これは本気でいかないと足下をすくわれるな。


 とにかく、今日はここまでだ。明日の夜、また作戦会議だな。


「今日はここまでにしよう。メディも疲れている」


 メディは、サクラさんに連れられて、二階への階段を登っていった。 




「ジェイド達はグライヒグのことを知らないよな」


「はい、すみません」


「謝ることじゃないぞ! 何しろその場にいなかったからな」


 ダンジョン勝負の顛末(てんまつ)を説明した。ちょうど、シンティもやって来たので呼び止めた。


「えー、またあいつ出てきたの! 本当にしつこいわね」


「シンティ、おまえはどこであったんだ」


「父のところに何かの事で協力しろって圧力をかけに来た事があったのよ。弟子達に抱えられて放り出されるのを見ていたわ。おもしろかった」


 クククと、思い出し笑いをしている。おれも、樹魔に吹っ飛ばされたときのことを思い出し、笑いがこみ上げてきた。案外おもしろいやつなのかも知れない。


「楽しそうね。どうしたの?」


 サクラさんが下りてきた。


(べに)に吹っ飛ばされたグライヒグの事を思い出してしまって、クククク」


 ああ、あれね。サクラさんも笑っている。すまん、ジェイドよ、わからないよな。


「ふー、さて、どうしたらいい」


 丸眼鏡を見た。いや、レーデルさんだった。


「もう少し、情報が欲しいかな。だが、チャルダンとは、どうにかして話がしたい。学園には姿を現さないのか」


「ああ、授業には出てこない。ボンを抜かした他の王太子だちもだが、いったいこの学院に何をしにきたんだ」


「自分の国ではやりたい放題だったんだと思うよ。ぼくの国だって、第1王妃の子ども達は、学習にも稽古にも出てこないからね」


 なるほど、王族とはそんなものか。


「一つ、可能性として考えられる事がある」


 そう言えばと、思い出したことがある。


「自由市場に一人でいるところを見た。騎士(ナイト)が現れないとつぶやいていたんだ。そのときは、気にならなかったが、味噌と醤油を探していることを知っていたとなると……」


「なるほど、待っていたのか」


「ええ、きっとここにも探しに来ると予想したんですね」


 2人の参謀は息がぴったりだ。頼もしい。


「それにだ、今までの言動にも、思い当たることがある」


 おれは、覚えようと思ったことは絶対に忘れない。


「ジェイド、入学式前の王太子達のことは話したよな」


「はい、覚えていますよ」


「チャルダンは、『王太子になったんだから』と言っていた。経緯を聞いた今は、この言葉はおれに対して伝えようとしていた言葉だということが分かる」


 わざわざドアを開けて言うはずだ。伝えたかったんだ。


「ああ、わかったよ。チャルダンは、カナデが何らかの方法で姿を消せると確信していたということだな」


「レーデルさん、その通りです。そして、自由市場での発言もそうだ。『ナイトは現れないね』と言っていた。ここにいれば、何しているんだと姿を現すと思っていたんだ」


「本当に策士ですね。ぜひ、仲間にしたいです」


 サクラさん、その通りだよ。




「レーデルさん、チャルダンは、またあの市場に必ず現れます。そのときに、何らかの方法で接触を試みてみます」


「うん、できれば、隠れ家に連れてきて欲しいかな」


「それは難しいですね。相手はグライヒグです。こちらの手の内は隠しておきたいです」


「わかった、そっちは任せるよ。で、他にもあるんだろう。気になっていることが」


 何故分かる?


「オキナさん、呼べますか」


「ああ、もう来ているよ」


 私を指さした。


 モモンガが肩に乗っていた。く、気がつかなかった。まだまだ未熟者だ。


「オキナ、クエバを囲い込もうとした貴族の名前を知っているかな」


「もちろんなのよ。いやなやつよ。名前は『ダーチェリスト・ストラフィア』ストラミア帝国魔動機関貴族の公爵なのよ」


 間違いない。こいつが全ての黒幕だ。これからおれ達が戦う相手だ!


「こいつが黒幕ですね!」


「そうね、うち達の敵ね!」


「お仕置きじゃあ済まさないわ。駆除(くじょ)対象ね!」


 みんなも同じ思いか。いい仲間達だ。


「クエバの属性魔法のことがわかった魔道具が気になるんです」


「魔法使いの能力を数値化する魔道具のことだね。それを作ったと思われる人物を私は知っているんだ。名前は『レームス・ランデリラ』私の双子の弟だよ。そして、『技術の探求者』と呼ばれている」


 なんですとー! 予想外の新事実です。


「驚きました。そこまではさすがに思い当たらなかったです」


「弟は変わり者だからね。ああ、すまない。探求者はみんなそうだったよ」


 それ、私のことも含まれていますね……。


「弟とは、1000年近く1度も会っていない。ここではきっと意味が通じない言語になってしまうから言わないけど、ちょと事情があってね。弟の記憶を呼び覚ます方法をずっと探していたのさ」


「でも、解決したのよ。上位者様が現れた。もう問題ないのよ」


「ああ、任せろ。時が来たら俺様の猫パンチで目を覚まさせてやる」


 800年ですか。探求者の寿命ってどのぐらいなの?


「敵は『ダーチェリスト・ストラフィア』ストラミア帝国魔動機関貴族の公爵。そして、『レームス・ランデリラ』は保護対象と言うことですね」


「うん、その認識で間違いない」


「よし、話はここまでだ。後は、明日の作戦会議だな」


「下の6の日は味噌と醤油の村に行くからな。ディーラも連れて行くぞ。アルエパ公国だからな、その方が都合がいい」


 猫のダメ押し確認が行われた。


 さて、いろいろはっきりしてきたぞ。これから忙しくなりそうだ。




次話投稿は明日の7時10分になります

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