065 メディの事情(2)
「作戦会議を始めます。議題は、チャルダン公太子とその婚約者の事情です」
みんながメディを見た。優しいまなざしだ。
「全て、お話しします」
メディがスッと立ち上がり、公女の礼をした。
「メディ、座ったままでいいのよ」
サクラさんが目で座ってと促す。
「はい、ありがとうございます」
メディが素直に座る。ホッとするソフィア達。立って説明したくなる気持ちが分かるのだろう。
「始まりは、狂乱状態のまちぼうけの角です」
やはりそこか。ジェイドと視線が合った。おまえもそう思ったか。
「オークションの目録を見たときは、父もそれほど興味を示しませんでした。確かに珍しいですが、それだけだからです」
利用価値は未知数だからな。商人としては当然だろう。
「持ち主がマイアコス王国の第5王子だということにも興味を示しませんでした」
第5王子だからな。利用価値は少ないだろう。
「ところが、それを手伝ったのがベニザクラ号だったという事を知ったときに、初めて動きました。詳細を調べろと部下に指示を出しました。昔から、金になるかならないかという勘が働くんです。今回は、なるでした」
間違っていないよ。すごいな。
「そして、あり得ない奇跡が起きたという報告を受け取ったとき、にんまりと笑ったのです。カナデという男からすごい金儲けの臭いがすると感じ取ったんです」
奇跡は起こそうと思わないと起きないんだよね。それが分かるんだろうな。
「それからは、カナデさんのことを徹底的に調べていました。そして、どこから来たのかが分からないということは、大樹の森から来たということだと考えました。そして、大樹の杜人と関係があると確信していました」
怖いくらい鋭いな。でも、真実ではないよ。
「カナデさんと繋がりを作るために、オークションでは莫大な資金を投入して競り落としました」
お買い上げありがとうございます。
「でも、そこまでです。世界樹の実の買取では、ロギスさんに出し抜かれました。部下達も誰かの妨害にあい、近づくことすらできませんでした。入り口の町の守りは堅くてなかなかカナデさんに届きませんでした」
ランタナさん、ありがとう。
「手をこまねいているときに、サクラシア様が魔術学院に留学するという通知が、ディスポロ商業公国に文書で届いたんです。父はこれだ! と喜びました」
サクラさんとおれはセットみたいな物だからな。
「王都までの道のりで切っ掛けを作るように、部下達に指示を出しました。それも、全ての道、町、村に監視が行き渡るように徹底的にです」
おまえかー!
みんなが顔を見合わせた。犯人はドモンだった。
「でも、ベニザクラ号は姿をぷっつりと消してしまいました。あ、私はさっき、その理由を見ました。納得です」
びっくりしていましたね。
「それが、父の逆鱗に触れたのです。後で話しますが、何をやってもうまくいかない。思い通りにならない状態が続いていたんです。なので、とうとう切れてしまいました」
いや、それ、八つ当たりでしょう。
「ディスポロ商業公国の公太子は、本来チャルダンではありません」
なんですとー!
「チャルダンの弟が、時期公爵の予定でした。本人も周りもみんながそう認めていました。チャルダンは、王には向いていません。ダンは計算の天才で自由人なんです」
ダンと言ってしまったとき、少しはにかんだ。たぶん、何らかの思いがあるのだろう。
「チャルダンは、会計処理能力が国家予算レベルです。将来私が新しく立ち上げる商会を手伝ってくれるはずだったんです」
ん、おれの会社、国家予算レベルの処理ができる会計欲しいぞ。人材か!
「ドモンが暗躍したんです。弟が王都に出発する数日前に、裏から手をまわして、チャルダンを公太子にしました」
「なんでなの?」
いままで黙って聞いていたサクラさんが首を傾げている。
「目的はカナデさんです。どうしても、自分の商会に取り込みたいんです。金儲けのためだけに!」
キッと、顔をしかめた。よほど悔しいようだ。
「さっぱり分からないぞ、なぜカナデに繋がる?」
「そうよ、どうしてよ」
シンティも、だんだんイラついてきたようだ。
「チャルダンは使い捨てです。変わり者なので、もしかするとカナデ様と気が合うかも知れない。その程度の期待です」
あっ、と言う顔のメディ、うん、おれも変わり者って事だよね。間違っていないよ。気にするな!
「すみません……。おほん、チャルダンは策士でもあるのです。でも、その姿を父の前では見せていません。都合良く利用されてしまうからです。父は、協力すれば弟を公太子に戻すことを条件に無理矢理納得させました」
唇をかみしめるメディ。
「私も、カナデさんに近づき、やはりサクラシア様から離れるよう裏工作をしろと命令されています」
うーん、そんなに簡単に説得できないよね。いくら、味噌と醤油を見せられてもさすがにうんとは言わないぞ。
「味噌と醤油はそのための小道具か。おまえなら落ちそうだぞ」
イディア、また脳筋て呼ばれたいか。
「弱いな、いくらカナデが欲しいものでも、それでは落ちないぞ」
レーデルさんさん。それ、物によっては落ちるって事ですよね。
「ええ、味噌と醤油は父の考えではないです。父は、入り口の町を人質にしようと考えたんです」
なんですとー!
「前から構想にはあったんです。入り口の町を自分の支配下に置くという考えが……なので、かなり前から部下達に、経済の弱みを探らせていました」
なるほど、武力では攻め落とせない。なら経済戦争で勝つか。理にかなっている。
「しかし、次元箱とポーション、そして良質な素材による安定した収入があります。さらに、独自の貨幣と完璧な検問となるとつけいる隙はありません」
うん、独自の貨幣がとどめだね。それも、持ち出せないからね。
「そこに、ねこちゃん印工場という新たな産業が生まれました。これも、カナデさんですよね」
メディが私を見た。
「やっぱり分かるよね」
「父の勘が当たりましたね。あの工場は、今後莫大な利益を生みます。国家予算レベルの収益が見込まれます」
メディがふーとため息をついた。
「父は焦ってしまいました。そして、王都工場の経営に何とか食い込もうと莫大なお金を使って強引な手も使いました。しかし、ナツメ様の「拒否権発動」ですべてが覆りました。これが、何をやってもうまくいかないという気持ちになった決定的な出来事です」
「……」
誰もが言葉が出なかった。ドモンの絶望が目に浮かんだからだ。
「父は、セルビギティウムに疑問を持ってしまったんです。「拒否権発動」は不当だと!」
命令はできない。でも、拒否はできる。そして、拒否できるだけの力を持っている。確かに、自分の思い通りにしたい権力者達からみたら不当だろう。
メディが再び立ち上がった。
「父は、してなならない密約をしてしまいました。サクラシア様をストラミア帝国に引き渡せば、カナデさんを自分の配下に加える事に協力してもらえると、魔動機関貴族と約束してしまったのです」
なんですとー! またストラミア帝国かー。かんべんして。
「私とチャルダンは、父と決別する決意をしました。カナデ様に敵意を向けたのです。10層攻略の恩恵は受けられません。ケルデース商会はやがて消滅します。それが、私達が出した答えです」
鋭い。そして、正確な状況分析。仲間としてぜひ協力して欲しい。
「カナデ様と何とか話がしたい。しかし、私はドモンの娘です。信用してもらえるとは考えもしませんでした。なので、カナデ様が探している物を見つけて、取引したいと考えたんです」
なるほど、それで味噌と醤油を探していたんだ。でも、それならなぜ、青玉なんだ?
「わかった。それで、味噌と醤油の見返りに何をして欲しい」
「私とチャルダンを、あなたの配下に加えてください。絶対の忠誠を誓います」
そう言って、静かに跪いた。
なるほど、青玉、それもコバルトブルーには、絶対の忠誠も入るのか。
「おれの一存では決められないな」
仲間を見た。みんながうなずいている。決定だ。
「わかった、受け入れよう。チャルダンは、おれの力で1度確認させてもらうぞ。いいな」
「はい、当然です。でも、ダンはかなりの変わり者です。そこは配慮してあげてください」
うん、おれと同じ変わり者仲間かも知れない。大丈夫だよ。
「よし、話はまとまったな。メディ、おまえはもう学院には行くな。危険だ。ここにいろ。そして、下の6の日はみんなで味噌を造っている村に行くぞ。これは決定だ!」
猫がふんぞり返っている。
「さて、メディ、早速だが、どこで見つけた」
さっきまでの深刻な話、聞いてた? つくも(猫)!
作戦会議は終わった。やれやれという表情で、みんなはリビングを出て行った。
残ったのは、料理長と弟子と助手と、質問攻めにあうメディだけだった。ああ、おれの横でにこにこしている参謀コンビもいたか。
次話投稿は明日の7時10分になります




