064 メディの事情(1)
食堂でいきなり相席を申し込んできたのは、最後の攻略対象である『メリディーラ・ケルデース』だった。チャルダン公太子殿下の婚約者だ。
なかなか姿を現さなかったのは、『味噌』と『醤油』を探していたからだ。この2つが、私達との交渉で切り札となると考えたようだ。
良いところに目をつけた。なぜなら、つくも(猫)がご機嫌だからだ。すんなりと仲間として認めてもらえたのだ。この女性は侮れない。そして、仲間となったらきっと心強い味方になる。私の勘もそう言っている。
とにかく、事情がありそうだ。隠れ家に招待し、みんなで作戦会議をすることになった。
「メディ、ねこちゃんペンダントに握って魔力を流してごらん」
「はい、こうですかって、なんで目の前に屋敷が現れるんですか」
うん、この反応! みんな1度は経験するんだよ。ソフィアとイディアが満足そうだ。
「隠れ家にようこそ! 歓迎するよメディ」
みんなから声を掛けられて、びっくりしている。でも、本当に驚くのはこれからだよ。
「イグニス、パーティーメンバーはみんないるか」
「ああ、リビングにいるぞ」
半裸の姿で素振りをしていたので声を掛け、行くぞと合図をする。
なんだー? と、メディとおれたちを見ながら身支度をする。
「紹介するよ、『メリディーラ・ケルデース』、チャルダンの婚約者だ」
「最後の攻略対象ですね。これで全員の顔が分かりました」
ジェイドが黒板に似顔絵を描く。そっくりだ。
「夕食後に、作戦会議を開く。メディの事情もそのときに聞く。それから、しばらくメディもここに住むから部屋の割り振り頼めるかな」
サクラさんを見た。
「いいわよ、メディ。部屋に案内するわ。選んでね」
メディが動かない。何の詮索も疑いの目も向けられないことにやや戸惑っているようだ。
「メディ、カナデの人を見る目は折紙付きなんだ。そういう力があるんだ。だから、カナデが連れてきた者を私達は無条件で信用する。それがこの屋敷で暮らす理なんだよ」
ディーラさんがそう言って優しくメディの頭を撫でた。
ぽろっ、ぽろっと、涙が流れていた。なにか、よほどの事情がありそうだ。きっと、ここ数日はゆっくり寝ていないだろう。とにかく、夕食までゆっくり休んでもらおう。
サクラさんに目で合図を送る。
「さあ、メディ、少し部屋で休みましょう」
サクラさんの肩には、いつの間にかモモンガが乗っていた。お尻ふりふりダンスを踊っている。
メディが笑った。そして、サクラさんと一緒に二階に登っていった。
「なにか、かなりの事情を抱えていそうですね」
ジェイドも気になるようだ。
「まあな、全ては夕食後だな」
みんながうなずき、いつもの日課をするために部屋を出て行った。
「今日は、メディの歓迎会を兼ねます。料理長、メニューの説明をお願いします」
「今日の俺様はすこぶるご機嫌だ。みんな喜べ、味噌と醤油が見つかった。これで、料理の味がワンランク上がる。メニューも増える。イグニス。本物の蒲焼きももうすぐ実現するぞ」
イグニスのお腹がグーと返事をした。
みりんの代替え品が見つかったのだ。白ワインだ。砂糖や蜂蜜を混ぜて味を調える。そして、米が収穫できれば、日本酒造りも始められる。そうすれば、それも代替え品になる。
蒸留酒が作成できるようになれば、みりん自体を作ることもできるだろう。本物の蒲焼きの味を再現するためなら労力は惜しまない。うん、つくも(猫)やっちゃいな!
「醤油と味噌を使った料理はまたのお楽しみだ。今日は、中華という味付けの料理を作った。市場にオイスターソースに似た物が売っていた。全部買い占めたぞ」
猫がどや顔だ!
「鶏ガラスープやポークのエキスを何とか調味料として使えるように配分した。オイスターソースと混ぜ合わせて味を調えてみた。まだまだ、本物にはほど遠いが、それなりの味にはなった。酢はないのでレモン汁で代用した」
マーレ達が料理を運んできた。壁際のテープルに鍋ごと置く。この隠れ家では、常にバイキング形式になる。自分で好きなだけ盛り付けるのだ。
「酢豚風あんかけ豚炒め、チンジャオロース、回鍋肉、あんかけスパゲッティ、麻婆茄子はちょっと甘い、中華風サラダに中華スープの中華三昧だ。パンは王都でうまいパン屋を見つけた。長期契約してきたからいつでも食べ放題だ。さあ、召し上がれ!」
「酢豚にたけのこも入っているわ。こんな食べ方もあるのね」
「オイスターソースは貝で作ってあるらしぞ。アルエパ公国の海で獲れたやつかもしれんな。海にも行きたいのう」
うん、マーレとディーラさんに賛成。いつか行きたい!
サザエが食べたい。ウニも食べたい。刺身も食べたい。そして、寿司だ! 夢は広がる。
「酸味、苦味、甘味、辛味、塩味の5つの味がバランス良く組み合わされているわね。見た目もいいわ。食欲をそそる臭いもたまらないわ。盛り付けも豪快で、パーティーなどで重宝しそうな料理ね」
ソフィア料理評論家の感想でした。
やっぱり、ご飯が欲しいな。それと、ラーメンも食べたい。でも、麺ってどうやって作るんだろう。
みんながお腹いっぱいになるまで食べた。メディも、初めは遠慮していたが、イグニス、シンティ、ディーラさんの食いしん坊トリオの勢いに飲まれて、どんどんと食べていた。そして、びっくりした表情だ。商人の顔になっていた。
ちょっと、休憩。今日の食器洗い当番はディーラさん達だ。レーデルさんも見よう見まねで手伝っている。
レーデルさんの食事は、モモンガのオキナさんが食堂から運んでいたらしい。事情を知っている調理員がそっと用意していた。それが代々受け継がれて100年だ。すごいことだよな。
次話投稿は明日の7時10分になります




