063 最後の攻略対象
図書館七不思議の箒お化けは、予想通りレーデルさんだった。リスはモモンガのオキナさん。クエバがメロメロで昨日は一緒に寝てもらったようだ。
クエバのことは、オキナさんから少し聞くことができた。ここでも、ストラミア帝国の魔動機関貴族が絡んでいた。
クエバは、魔法陣展開の天才だったようだ。出身はストルラ州王国の子爵領地の公女になる。卒業後は、領地に帰るか研究所に残るかで迷っていたらしい。
あの性格なので、浮いた話しもなく普通の学生生活を送っていた。変化があったのが、研究所の視察に訪れた魔動機関貴族に目をつけられてからだ。
仕組みは分からないが、魔法使いの能力を数値化する魔道具をその貴族が持っていた。そして、クエバがずっと秘密にしていた体内魔力Sという才能を見抜かれてしまった。
魔法陣展開の天才はそれほど珍しくはない。どの学年にも10パーセントぐらいは存在している。しかし、属性魔法使いとなると話が違ってくる。S級は10万人に1人いるかどうかの希少能力だ。
そこから、しつこい囲い込み工作が始まった。ストラミア帝国にとっては、喉から手が出るほど欲しい人材だ。貴族枠の教授を丸め込んで、最後には拉致の計画まで持ち上がった。
危機感を抱いたクエバの家族と州王国の良識ある貴族達が結束して、クエバを守るために『入り口の町』へ逃がすことができた。後は、イグニス達と出会い現在に至だ。
なるほど、ストラミア帝国はまだあきらめていないかも知れないな。でも、今のクエバは強いぞ。簡単に拉致ができると思ったら大間違いだ。
それと、魔力を計る魔道具ではなく魔法使いの能力を数値化する魔道具か。発明したやつが気になる。レーデルさんと相談だな。
今日は、環境学主任教授達と一緒に湿地帯にできた水田の視察に行く予定が入っている。私の授業が午後だけなので、午前中なら同行できるからだ。
移動は魔動車になる。私の車には主任教授とエレウス王国稲作関係の役人が乗っている。本当なら、「平民の車になど乗れるかー」レベルの貴族役人らしいが、物腰も話し方も丁寧な好感が持てる人だ。
「あのね、姫の騎士に横柄な態度なんかできるわけがないですよね」
助手席にいる農政官に、自分の立場を自覚せよと説教された。名前は『アルバローラ』でローラさんだ。
「この魔動車は揺れないね。ストラミア帝国の最新型は性能がいいんだね」
カーター教授が後ろの座席でシートをしきりに触っている。この車、かなり改造してありますよとは言えない。フォルスカータは長いので『カーター』でいいよと言ってもらえた。
後には、3台の魔動車がついてくる。乗っているのはみな環境学の学生だ。高等部5学年も混ざっている。卒業論文は『稲作』にすると張り切っている。
つくも(猫)が開墾し整地した水田は、2ヘクタールある。東京ドームなら2個分ぐらいの広さだ。今は、実験水田なので、結界で覆ってある。簡易型ねこちゃんペンダントをしていないと入れない。
「みなさん、ペンダントをしていますね。では、順番に入ってください」
日本の水田風景が広がっている。稲は元気よく生長している。穂はまだ出ていない。
「これが水田です。水が張られています。何故かという質問がありましたのでお答えします」
水の中に手を入れて温度を確かめた。あたたかい。
「手を入れてみてください。あたたかいでしょう」
「あたたかいね。日光で暖められているんだね」
「カーター教授、正解です。これは、稲を冷害から守る保温効果があります」
「6月になると急に冷え込むときがあるからこれだと安心だね」
学生の1人がその事に気がついた。
「他にも、雑草の生育を抑えたり病害虫の予防効果もあります」
「なるほど、小麦畑にはときどきやっかいな魔力草が集団発生するからね。これなら魔力草も発芽できないね」
「はい、水に強い魔力草もあるので油断はできませんが、ある程度の予防にはなるでしょう」
学生達が必死でノートにメモをしている。表紙の隅には猫のマークがひっそりとついている。学生でも気軽に購入できる価格にやっとすることができた。
「苗を植えるのがだいたい4月下旬です。日光で水温が上がってくるのでこの時期がいいはずです。今が5月下旬です。約30日が過ぎています」
実際には植えてから10日ぐらいだ。今年は神力で早回してある。本当に栽培するならそのぐらいになるはずだ。
学生が稲の高さを測っている。
「だいたい40センチ位です」
「分げつと言って、茎の根元から新しい茎が出てきます。この分げつが多いと収穫量が上がりますが、多すぎても弊害があります。調節が必要です。ここが稲作の難しいところです」
「今の状態でいろいろと試した方がよさそうだね。ここの稲は持ち帰ることができるかな」
「はい、今いる区画は実験水田です。自由に試してください。他の区画には、神獣様が施した魔法陣が展開されています。こちらは参考になりません。すみません」
どうしても米が欲しいつくも(猫)が、執念で作った稲栽培プログラムが組み込まれた魔法陣が展開されている。完全自動型栽培システムだ。これは、絶対に公開できない。
「本当は、水を抜いたりする作業も必要なんですが、湿地帯なのでそれは難しいです。なので、この環境に適した苗に品種改良されています」
「なるほど、神獣様のお力がかなり施されているということだね」
「はい、そうなります」
4000年の歴史を早回ししたとは言えないよな-。
実験水田には、毎日交替で学生達が様子を見に来るようだ。結構距離があるが、5学年は授業がない。研究という名目で時間は自由だ。エレウス王国主導なので、魔動車の提供や護衛の配置まで完璧だ。エレウス王はまさしく賢王だ。
お昼を一緒にどうですかと、上級食堂に誘われたが、ナツメさん直伝のポーカーフェイススマイルで受け流した。絶対に近づきたくない場所ベスト10に入っている。当然だ。
食堂には、ボンとクリシスがいた。例の場所で雑談している。この2人は仲がいい。見ていて微笑ましい。
「ボン、もう食べ終わったみたいだね」
「カナデか、遅いぞ。みんな待っていたぞ」
「すまん、ちょっと視察が長引いてな」
「例の水田か。それ、うちの国でも作れそうか」
「どうだろうな。こればっかりはそこで作ってみないと分からないな」
「まあ、実現するのはあと数十年先だな。エレウスで成功してからだからな」
「いや、きっともっと早くに成果が出るぞ。何しろつくも(猫)が絡んでいるからな」
「ああ、あのねこちゃんか、うん、期待しているよ。これがあると、おれの味方を増やせるかも知れないからな」
稲作技術のことだよね。まったく抜け目がない。こいつも賢王になれるな。
ボン達は行ってしまった。さて、ゆっくり食べるか。午後の授業にはもう間に合わない。今回は、さすがにみんなも見逃してくれるだろう。
「ここ、相席してもよろしいでしょうか」
だれだ? 見たことがない女性だぞ。
(真色眼)コバルトブルーだった。カボーグ家の人たちと同レベルの信頼感だ。なぜだ?
「かまいませんよ。座ってください」
「……」
「本当によろしいのですか? 断られるのを前提で話しかけたのですが……」
「ええ、かまいませんよ」
その女性は、本当にびっくりしていた。
制服を着ているのでここの学生だ。
新しいので新入生だ。
着慣れていないのでつい最近王都に来たのだろう。
護衛らしき人影はない。でも、立ち振る舞いから見て貴族の公女だろう。
外見から分かるのはこの程度か。
「自己紹介させてください。私の名前は『メリディーラ・ケルデース』です。チャルダン殿下の婚約者といった方が分かりやすいですね」
そう言って、その公女様は静かに微笑んだ。
最後の攻略対象が出てきたか。でも、なぜ初めから青玉なんだろう?
「初めましてだね。おれはカナデ。姫の騎士だよ」
「存じ上げております。なかなか1人でいらっしゃる事がないので、話しかけるタイミングがございませんでした」
「その話し方やめようよ。おれ、慣れていないんだ」
「わかりました。ではそうするわ」
おお、エレウス王族並みの切り替えの速さだ。いいね。
「で、用事はなに?」
「いくつかあるの。でも、今日はこれよ! あ、それから、私のことは『メディ』と呼んでね」
話しながら鞄型次元箱から小さな壺を取り出した。2つある。なんだ?
「あなたが探していた物だと思うの? 確認して」
壺をそっと、私の前に押し出した。
青玉だ、高次元空間で授かった技術に関しては絶対だ。疑う余地がない。躊躇なく、蓋を開けた。メディはまたもやびっくりしていた。
「疑わないのね」
「他の人ならそうするよ」
驚き、そして、少しはにかんだ。
壺からは、独特な臭いがした。
そう、日本ではありふれた臭い。でも、この世界ではどうしても見つけられなかった臭い。味噌と醤油だ!
飛び上がって喜びたい衝動を、ナツメさんスマイルで何とか抑え込む。
「間違いないね。おれたちが探していた物だ。でも、どうしてメディがこれを持っているの」
「商会の情報網を使って、新大陸中の辺境を探させたわ。特に、大豆と呼ばれている豆を栽培している地方をね」
目の付け所が半端ない。すごいぞこの子!
「それで、この壺は売ってもらえるのかな」
「あげます……と、言いたいけど、それだと私に下心があるように思われそうなので、買ってください。値段はそちらの言い分でいいです」
この子はおれたちに必要になる気がする。
「わかった。支払いはこれでもかまわないかい」
簡易型ではない、仲間と同じ性能のねこちゃんペンダントを転送して机に上に置いた。
突然机の上に現れたペンダントにびっくりしていた。
「これは……」
「おれたちの隠れ家に入るために必要な物だよ」
「な、私は、ドモンの娘よ。そこまで信用していいの? 逆にあなたのことが信用できなくなってきたわ!」
うん、いい反応だ。
「信用できるかできないかを見分ける力、それがおれの能力だとしたらどうする」
「……」
「ふふふ、そうなのね! まいったわ。父がいくら取り込もうとしてもなびかないわけだわ。下心が丸見えって事ね」
すごく嬉しそうにメディは笑った。
「うむ、よい力を持っている。カナデに必要な力だ。俺様も歓迎するぞ!」
猫がテーブルの上で、味噌と醤油が入った壺の蓋を開けてお尻フリフリダンスを踊っていた。
「……」
「メディ、こいつはつくも(猫)、神獣様だよ」
慌てて跪こうとした。
「その行為は必要ない。おまえは仲間だ」
猫が壺を抱えたまま、瞳孔を狭めて激しく尻尾を振っていた。
「メディ、これから予定はあるの?」
「ないわよ?」
「なら、仲間に紹介するよ。それと、隠れ家にもご招待だね」
「ずいぶんな急展開ね。ここ数日の私の緊張は何だったのかしら」
「そこで、事情、話してくれるんだろ」
「……何でもお見通しって事ね。それも能力なの」
「うーん、こういう性格かな?」
「なにそれ、おかしいわ」
メディが、自然な笑顔で笑っていた。
しばらく雑談をして時間を過ごす。本人認証も済ませておく。
ベニザクラ号には、隠れ家に帰る仲間達が勢揃いして待っていた。
「カナデ、また新しい人巻き込んだの」
シンティだ、こいつのこの言い回しは気が楽になる。
「最後の攻略対象だよ。ちょっと事情がありそうなんだ。隠れ家で作戦会議といこうじゃないか」
まあ、いつものことだ、気にしないよ。
そんな様子の仲間達に、ちょっと緊張気味だったメディが気が抜けたようにして私を見た。
「あなたの評価を見直す必要がありそうね。いつもこんな扱いなのね。がっかりだわ」
ほっとけ!
苦笑いしている仲間達と一緒にベニザクラ号に乗り込むメディ。
「みなさん、帰りますよ」
「テネリお願い」
ゆっくりとベニザクラ号が動き出し、森の門を後にした。
「風の道 認識阻害」
静かに浮かび上がるベニザクラ号。
「出発よ」
景色が後ろに吹っ飛んだ。メディもびっくりして飛び上がった。うん、直ぐに慣れるよ。ドンマイだ!
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