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062 箒お化けの引越



 

 いつもよりだいぶ早い朝食を食べた私達は、ベニザクラ号で静かに森の上に浮かび上がった。座席にはディーラさんも乗っている。


 (ほうき)お化けの正体は『レーデル・ランデリラ』という探求者であることはほぼ確定だ。後は、次元渦巻(じげんうずまき)の発動場所を見つけるだけだ。


 ジェイドの提案で、『踊るリス』を探すことにした。たぶん、そいつが神獣だ。後を付ければ入り口が分かるはずだ。




「ディーラさん。レーデルさんとはどんな知り合いなんですか? ああ、話せないなら聞きません」


「秘密ではない。わたしが学院の学生だった頃図書館でよく話をした仲だよ」


「姉様、それって今から100年以上前の話ですよね」


「そうだな」


 ドワーフ族も長寿だと300年以上寿命があるからな。と言うことは、シンティもサクラさんと同じか。兄弟の年齢がかなり離れているということか。


「その頃は、箒お化けじゃなかったんですね」


「髪の毛はいつもボサボサだったな。わたしがブラシで整えていた。それで仲良くなったよ」


 もしかして、それから100年以上髪の毛の手入れをしていないのか?


「着きましたよ」


 サクラさんが御者台から顔を出した。今日の牽引(けんいん)はペンテが当番だ。


「ディーラさんは、用事が済んだらここから直接隠れ家に帰るんですね」


 エルが確認している。


「ああ、この渦の中に入って隠れ家に行きたいと思えばいいんだろう。そうさせてもらうよ」


 エレウス王献上用の(よろい)がまだ完成していない。その作業を急ぎたいようだ。


「わたしも付いていきます」


 間違って変な場所に出たら困るだろうからな。


「たすかる。正直ちょっと不安だった」


「では、行きますか。食堂までは一緒ですね。ねこちゃんはどうするの」


「俺様はサクラの側にいる」


 たすかる。護衛お願い!


  ホームルームの時間までかなりある。食堂で時間つぶしをするようだ。シンティは食事だろうな。




 図書館はかなり早い時間から開いている。司書はまだこの時間はいない。魔道具で学生証の情報を読み取りドアが開く仕組みだ。


「まだ、本は借りられないんですよね」


 ソフィアさんに聞いてみた。


「そうです。返却(へんきゃく)とこの場所で読むだけになります」


「学生寮があるからな。そいつらが使うためだ」


 なるほどな。


「さて、どこで待てばいいかな……!」


 目の前の本棚の上をリスが走り回っていた。時々止まって、お尻をフリフリしている。本当に踊っているように見える。


 よく見ると、本棚に本を入れている。どうやら返却をしているようだ。踊るリスの正体は本を返却するリスだった。


 しばらく様子をみることにした。認識阻害は既に発動させている。


 かなりの量の本を返却していた。全ておれの本だ。それも出たばかりの新刊だ。本の厚さは1センチもない。まとまった物からどんどん出版しているからだ。


 最後の一冊を棚に入れると。またお尻フリフリダンスをしていた。かわいい。癒やされる。


 リスが飛んだ! 翼がある? いや、 前脚から後脚にかけて張られた飛膜(ひまく)を広げて飛んでいる。


「あいつはリスじゃない。モモンガだ!」


 飛んで行くモモンガの後を急いで追う。見失ったら困る。


 資料室の中に入って行った。ドアは開いたままだ。棚の影になっている壁に白い渦巻が見える。間違いない、次元渦巻だ。モモンガはその中に消えていった。


 渦巻が消える様子はない。つくも(猫)が言っていた常時発動型なのだろうか。


 顔を見合わせた。おまえが行けとみんなの顔に書いてある。仕方ない。確かにそれしかなさそうだ。


「行ってくる。出口で待機だ。大丈夫そうなら呼ぶ」


 うなずく(ほうき)お化け調査隊。




「おじゃましまーす」


 渦巻の中に顔を入れて辺りを見回す。白い空間ではない。そこはどこかの部屋の中だった。そっと、中に入る。


 部屋の真ん中に机があり、分厚い本が積み重なっている。その本の間から、茶色い(ほうき)が動いているのが見える。何やら書き物をしているようだ。


 集中している。じゃまをしてはいけない。そっと、近くで待つことにした。


 (ほうき)の間からは、丸いメガネが見える。そして、特徴のある耳が飛び出ていた。エルフだ。


 30分ぐらい()っただろうか、メガネをかけた(ほうき)がペンを置いた。そして、いつの間にか、私の隣でモモンガが寝転んでいた。認識阻害は既に解除してある。


「スマナイネ。ズイブン()タセテシマッタ」


 はは、やっぱり気がついていたか。


「いえ、突然お邪魔したのはこちらです。当然ですよ」


「ん、分かるのか。それで、君は、誰だい。どうやってここに入ってきたのかな」


「『カナデ』という冒険者です。他にもいくつか名前を持っていますが、今、関係があるとしたら『フエモリ』は私です。レーデルさん」


 (ほうき)がピクッとした。そして、リティ島について書かれた報告書を取り上げ名前を確認した。


「なるほど、この報告書の制作者か。そして、最近頻繁(ひんぱん)に出版されている魔物関係の本の作者さんか。なら、歓迎するよ。「フエモリ カナデ」君」


 懐かしい呼び方だ。


「どうやって入ってきたかは、次元渦巻を閉じないでおいてくれたこのモモンガのおかげですよ」


 へそ天で寝転ぶモモンガのお腹を優しくなでる。


「久しぶりのお客さんなのよ。歓迎しないとねなの」


 モモンガがしゃべった。


「さて、それで要件はどんなことだい」


「レーデルさんに会いたがっている人がいるんです。ここに案内してもいいですか」


 レーデルさんがモモンガを見た。モモンガがうなずいた。


「オキナが認めた相手なら歓迎するよ」


 こいつの名前は『オキナ』か。


「外で待っているので連れてきます」




 次元渦巻から顔だけ出して手招きをする。


 恐る恐る、調査隊メンバー達が入ってきた。


 最後にディーラさんも入ってきた。


「やあ、レーデル。久しぶりだね。その髪の毛、今直ぐ整えようじゃないか」


 ディーラさんがブラシを鞄型次元箱から取り出した。きっと必要になると準備をしておいた物だ。


「驚いたな。100年ぶり? ぐらいか。ディーラ」


「ああ、それぐらいかな。それにしても、これでは(ほうき)と間違えられても文句は言えないぞ」


 絡まったボサボサの髪の毛を慎重にほぐしながらブラシを掛けていく。だんだんと、顔の輪郭が出てきた。


 めがねっ()のエルフだ!


 箒ぐらいしか背丈がない、かわいいエルフがまじまじと私達を見た。


「自己紹介します。私はソフィアフィ・ノーテフィロと申します」


「ソフィアフィ様の護衛剣士、イディアと申します」


「エルピス・ムートです。シオン教授の助手をしています」


「ディーラルンダ・マルモルだ」


「サクラシア様の騎士(ナイト)、カナデです」


 レーデルさんが驚いたようにソフィアを見ている。


「今日は何回驚けばいいのかな。まさか、精霊の(いと)()様に会えるとは思わなかったぞ」


「そうか、ならもう一回驚け、俺様は『神』だ!」


 猫が私の隣で浮いていた。


 オキナが飛び起きた。


「神装力第三権限! 上位者様なのよ」


「第二権限のモモンガか」


 オキナが(ひざまず)こうとした。


「その行為は必要ない。俺様達は仲間になる」


 オキナがキョトンとしている。かわいい。


「神獣様か。と言うことは、カナデ君は探求者だね」


 レーデルさんが冷静に分析している。


「ええ、同じ探求者仲間です。よろしくお願いします」


「ははは、探求者に会うのも100年ぶりぐらいかもな」


 見た目と話し方にかなりのギャップがあるぞ。


「猫の神獣様。仲間になるとはどういう意味なのかな」


「10層攻略に協力してもらうぞ。知識の探求者」


「……」


 ごめんね、レーデルさん。神は冗談もお世辞も言わないんだよ。これは命令だよ。


「レーデル、これは上位者の意志なの。私達に拒否権はないなのよ」


「そのようだね。私は何をすればいい」


「この部屋と隠れ家を次元で(つな)ぐ。作戦会議に参加しろ。ジェイドと協力してカナデの参謀(さんぼう)を努めてもらう」


 なんですとー!


「さて、ここでいいか」


 猫が壁に魔法陣を押しつけた。例の次元渦巻だ。


 そこに、見慣れた白い渦巻ができていた。


「よし、繋がった。カナデ入って見ろ」


「隠れ家に行きたい……だね」


「そうだ」


「分かった」


 次元渦巻の中に入ると、白い空間だった。なるほど、第三権限と第二権限の違いはこの空間か。


 一番近い渦の中に「隠れ家」と思い描いて入ると、そこはあの小部屋だった。もう一度渦の中に入り、今度は「レーデルさんの部屋」とイメージする。


「うん、だいじょうぶ。ちゃんと繋がっているよ」


 次元渦巻から顔だけ出してそう言うと、


「その中に入るとどこに行けるんだい」


 レーデルさんが目をキラキラさせている。サクラさんと同じ目だ。


「私達の隠れ家です。行ってみますか」


「もちろんだとも、オキナ行こうか」


 めがねっ娘とモモンガが何の躊躇(ちゅうちょ)も無く次元渦巻の中に入ってきた。


「オキナとは違うね。この白い空間は何かな」


「イメージする場所です。今は20位の部屋と繋がっています。なので、行きたい場所をここで思い浮かべます。レーデルさんは行ったことがないので無理ですから、私の後に付いてきてください」


「わかった」


「では行きます。隠れ家の小部屋に行きたい」


 近くの渦の中に入る。レーデルさん達も付いてきた。そのまま小部屋に出た。


「ここが、隠れ家です。魔術学院から50キロメートルぐらい離れた場所になります」


「そんなに遠い場所に一瞬なのね、第三権限はすごいなの」


 オキナが感心している。しばらくすると、他のメンバー達もぞろぞろと出てきた。


「ベニザクラ号、必要なくなりましたね」


 エルがあきれている。


「私はベニザクラ号で通うぞ!」


 当たり前だ。人の部屋だぞ。通学で通れるか!


「レーデルさんのお部屋が必要ですね。二階に案内します」


 ソフィアは気が利く。


 空き部屋は、1人用だ。でも、反応がよくない。


「日の光が当たる場所は苦手でな」


 バンパイヤですか!


「なら、エルの工房のとなりが開いているぞ。今は倉庫にしているが片付ければ住めるな」


 ああ、地下の倉庫ね。なるほど、そこなら日は当たらない。


 倉庫に案内する。


「なんて、理想的な場所なんだ。私は今日からここに住むよ。オキナ、引越だ」


 今住んでいる部屋よりかなり広いからな。気に入ったか。マーレたちが、不思議そうに(のぞ)いている。


「マーレ、新しい仲間だ。今夜みんなに紹介するよ」


「分かりました。掃除手伝いますね」


 どうしてこうも順応が早いんだろう。この人達は。




 引越は任せて、私達は学院にもどった。丁度加護学の授業が始まる時間だ。サボると怒られそうなので、そそくさと教室に向かった。


「イグニス、なんでおまえがここにいる」


 サクラさんの隣に座っていた。


「いや、おれが知りたいよ。突然猫が現れて、嬢ちゃんの護衛をしろって連れてこられたんだよ」


 ああ、そういうことか、なら仕方ないな。


「どうする、授業聞いていくか」


「かんべんしてくれ」


「なら、図書館に行け。引越作業が待っている」


「はっ、だれの引越だよ」


(ほうき)お化けのだ」


「……」


「作業が終わったら、食堂でお昼食べ放題だ。経費で落とせる。領収書もらっておけ」


「それを早く言え。図書館のどこへ行けばいい」


「資料室だ。奥の壁に次元渦巻がある。そこから入れる」


「了解だ!」


 すごい勢いで教室から出て行った。力仕事は任せたぞ。




「今日からお世話になる。レーデルだ。そして、この子はオキナだ。よろしくな」


「レーデルさんは、ジェイドと一緒にカナデさんの参謀になります」


 ソフィアさんが紹介をする。


「私もお世話になるのよ。森の中は久しぶり。嬉しいのよ」


 モモンガがしゃべっているが、誰も気にしない。かわいいと癒やされている。特にクエバがメロメロだ。


「私はクエバ、一緒に寝る?」


「もちろんいいなの。あなた、よく図書館に来ていたわね。元気そうでよかったなの」


 クエバを知っているか。何があったか後で聞いてみるか。


「では、レーデルさんとオキナさんの歓迎会を兼ねた食事会になります。料理長、メニューの説明をお願いします」


「うむ、2人の歓迎会だ。特別にうまいものを作ったぞ」


 うん、臭いで分かる。この刺激臭! ジュルリ。


「カレーだ。それも、カツカレー、ハンバーグカレー、カレースパゲッティ、カレーピザのカレーづくしだ。パンとサラダもあるからそっちも食べろよ」


「イグニス喜べ、食べ放題だ! さあ、召し上がれ!」




 その夜、猫に胃袋を(つか)まれた、めがねっ娘とモモンガが誕生した。





次話投稿は明日の7時10分になります

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