表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/82

061 図書館の七不思議




 都東側にはアステル湖が広がっている。新大陸最大の湖と言われている。きっと、ストラミア帝国にも大きな湖があるはずだ。比較してみないと分からない。サクラさんへの迫害が止まったら行って調べみたい。


 そのアステル湖の王都側にある密林地帯に隠れ家がある。今住んでいるのは11人と1匹、そしてペンテとテネリの2体だ。


 サクラさんは、「お仕置き、お仕置き」と鼻歌を歌いながらつくも(猫)の手伝いをしている。もちろん夕食の準備だ。弟子がマーレで、サクラさんは助手という立場らしい。何が違うのだろうか?


 わたしは、ジェイドと図書館に出る『(ほうき)お化け』について情報を整理している。午後は初等部に行っていろいろ聞き取りをした。特に、あの『図書館の七不思議(ななふしぎ)』の話をしていた生徒に噂の出所(でどころ)を聞いてみた。


 高等部にいる姉から話を聞いたようだ。名前を聞いたら書記のポニーさんだった。生徒会の記録を見て知ったようだ。


 夕食後に作戦会議が始まる。それまでに整理できる部分は終わらせたい。


「ジェイド、おまえはどう思う」


「多分ですが、七不思議の最後は次元渦巻(じげんうずまき)の事だと思います。だとしたら、正体は(しぼ)られますね」


「だよな、おれもそう思う」


「わたしにはさっぱり分からんぞ」


「イディア、稽古(けいこ)は終わったのか」


「ちょっと休憩だ」


「お化け退治で活躍してもらうことになる。もどってしごかれてこい」


「了解した!」


 素直ないい子だ!


「図書館の七不思議。聞いたことがある」


「クエバはやっぱり学院の卒業生か」


「別に内緒にしているわけではない」


「パーティーメンバーは知っているのか」


「うん」


「そうか、何か事情はあるのか」


「貴族がらみ」


「ああ、すまん。聞いて悪かったな」


「平気」


「困っていることはあるか」


「今はない。でも、これからある。予感がする」


 予言者クエバはそう言って、自分に部屋に戻っていった。


「何か、面倒そうなことが起こりそうですね」


 もう一人、予言者ジェイドもそうつぶやいた。




「夕食ですよー」


 サクラさんがご機嫌で呼びに来た。傲慢(ごうまん)貴族にお仕置きをするのが楽しみなようだ。


「料理長。メニューの説明をお願いします」


「うむ、今日は5月の旬であるたけのこ料理だ。米があるとたけのこご飯が作れるのだがなー。あと3ヶ月で収穫できるはずだ。それまで我慢だな」


 猫が残念そうだ。おれも残念だ。


「市場で大量に売っていた。どうやら豊作らしい。全部買い占めてきたぞ」


 全て経費で落とせます。任せてください。


「たけのこにも灰汁(あく)がある。植物繊維も消化の妨げになる。食べ過ぎるとよくない。だから神力ですべて無効化しておいたぞ。喜べイグニス食べ放題だ」


 イグニスとシンティが小躍(こおど)りしている。


「まず、シンプルなオーブン焼きだ。焼き塩がある、適量を付けて味わえ」


「次が魚醤(ぎょしょう)で煮込んだ物だ。みりんがないからな。味を調えるのに苦労した。でもなかなかうまいぞ」


「次がチンジャオロースだ。豚肉とたけのことピーマンを炒めてある。中華味は難しいからな。鶏ガラスープで何とか味を似せた。多分うまい」


「最後はフライだ。これは、つけ汁をいろいろ用意した。麺汁(めんつゆ)は醤油がないとやはり味の再現は難しい。断念した。代わりに魚醤ベースの物を数種類作ってみた。好みがありそうなので、少しずつ味を確かめながら食べてくれ。塩で食べるのもありだぞ」


「パンとパスタも用意した。たけのこばかりではなくこっちも食べろよ。サラダもある。こっちは必ず食べろよ」


「よし、たけのこ食べ放題だ! 召し上がれ」


「オーブン焼きは、ホクホクね。芋の食感に似ているわ。でも、ホクホクのサクサクで、これってたけのこ本来の風味よね」


「そうね、柔らかくて、繊維質が感じられないわ」


「焼き塩が合うっす」


「甘みと香りの凝縮(ぎょうしゅく)、美味!」


 ソフィアは相変わらずの料理評論家だ。マーレもだんだん似てきたな。いいコンビニになりそうだ。


「天ぷらって塩が一番美味しいのよ。味見で何回も確かめたから間違いないわ」


 サクラさんの助言にエルがうなずいている。なるほど、助手とは味見役のことだったのか。


「魚醤は濃すぎるとちょっときついな、薄いぐらいがうまい」


「魚醤ってオーブン焼きにも合うぞ」


 イグニスがディーラさんと話ながら食べている。たけのこだとがっつくわけにはいかないか。でも手と口は高速で動いているな。もしかして、身体強化しているのか?


「煮物も美味しいな。でも、やっぱり醤油が欲しいなー。土佐煮が食べたい……」


 こうなったら、意地でも醤油を探すぞ。次の休息日は、自由市場だ!


 シンティは一言もしゃべらずに、ひたすら食べていた。


 食物繊維の()り過ぎはよくないらしい。神力で無効化されているとは言え胃がもたれる。水をたくさん飲んでおこう。




 みんな同じらしい。食後の紅茶もいつもよりも飲む量が多い。


「それでは、作戦会議を始めます。ジェイド参謀(さんぼう)、状況説明をお願いします」


「生徒会に告発文が多数届きました。その中に『図書館で(ほうき)のお化けに追いかけられた』が5件確認されました。これは、見間違えや勘違いではなく事実です」


「これは、図書館で噂話をしていた初等部の学生から聞いた話だ。『図書館の七不思議』を知っているか」


 クエバだけがうなずく。


「1つ目から4つ目までは省略だ。聞きたければ後で教えてやる。5つ目は『閉館間近になると、ホウキのお化けが出て、「おいてけー」と追いかけてくる』6つ目が『朝早く来ると、踊るリスのダンスが見られる』7つ目が『時々本が空間に消えていくのを目撃する人がいる』……?」


 みんながほけーとしている。たけのこの食べ過ぎか。


「今回確認されているのが閉館間近になると『おいてけー』と追いかけてくるなんですが、この告発文を書いた人に確認したら、お昼休みや授業の合間にも出ています」


 ジェイドだけが冷静だ。


「すまん、カナデ。この話、マジか?」


 イグニスが椅子に座ったまま両手を組んで下を向いている。気持ちは分かるぞ。馬鹿馬鹿しいよな。でもマジだ!


「ああ、マジだ。そして、お化けの正体にも目星(めぼし)()いている」


 下を見ていた他の仲間達も顔を上げた。


「ヒントは7つ目の空間に消える本だ。みんなも心当たりがあるだろう」


 廊下の奥の小さな部屋を見た。みんなもつられて首を動かす。そして、大きくうなずいた。


次元渦巻(じげんうずまき)ね。なら、そのお化けは神獣様ってこと?」


 サクラさんだ。いい線までいっている。


「神獣は多分リスの方だ」


 ああ、みんながうなずく。


(ほうき)お化けが探求者って事ね」


 シンティが正解だ。


「探求者かどうかは分からない。でも、それに近い何かだな」


次元渦巻(じげんうずまき)に入れる何かって何っすか?」


「多分だが、大樹の杜人(もりびと)は入れると思う」


「なるほど、確かにな。どこにその杜人の村があるかも分からないってことは、神装結界が関係しているんだろ」


 イグニスは時々鋭い。A級冒険者と言うことか。


「その通りだ。他の人には言うなよ」


「いうわけねーだろ! 面倒事はごめんだ」


 イグニスらしい。他のパーティーメンバーもいっしょか。


 みんながうんうんと首を動かしていた。


「探求者か、杜人か、それとも本当にお化けかは、調べてみないと分からないな。だが、おれは探求者だと確信している」


「どうしてなの?」


「サクラさん、わたしが出版している本の作者名知っていますよね」


「ええ、『ふえもり』よね」


「今回被害にあった学生は、みんながその本を読もうとしていたんです。つまり、魔物関係に興味があるということです。そんな人、わたしの他には探求者しかいませんよね」


 自分で言っていて、なんか悲しくなってきた。


「納得だわ。そんなのあんたの他には探求者しかいないわ」


 シンティめ、後で覚えていろ!


「カナデ、いつ調査に行く!」


 あれ、ディーラさんが乗り気だぞ。どうした?


「ディーラさん。何か気になることがあるんですか」


「ああ、その探求者に心当たりがある」


 誰ですか?


「そいつの名前は『レーデル・ランデリラ』魔物生態大辞典の著者だ!」


 なんですとー! あの完璧な辞典を作った人ですか。会いたいです。


「ディーラさん。明日早速行きましょう!」


 ディーラさんと堅い握手をした。握手は探求者しかしないらしい。


「カナデさん、授業はどうするんですか」


 う、そうだった。旬の2の日は全部授業が入っている。


「サボっちゃう……は、だめだよね。はい。すみません」


 みんなに(にら)まれた。何でこんなに真面目なんだろう。


「カナデさん、次元渦巻(じげんうずまき)はどうやって探すんですか」


 冷静な子どもが1人、核心を突いてきた。


「う、それは……」


 猫を見た。


「俺様のは常時発動型だが、魔力節約するなら入りたいときしか開かないぞ」


「それって、探せないって事ね」


 シンティよ。その通りだ!


「どうするの?」


 サクラさんが天然で聞いてくる。


「カナデさん、朝早く行くとリスが踊っているんですよね。なら、そのリスの後をついていけばいいんじゃないですか」


 ジェイドよ、おまえは何て賢いんだ!


「それだ! ジェイドでかした。朝のホームルームの時間を使えばいい。つまり、おれならその時間はフリーだ」


 どうだ、文句は言えまい。


 ふふんと、どや顔でふんぞり返った。


「仕方ないわね。カナデ、任せたわ」


 シンティだ。わかってくれたか。


「カナデさん、その時間なら私達もフリーですよ」


 ソフィアだ。そうなのか?


「カナデさん、シオン教授の研究室にいつも一緒にいますよね!」


 わたしが思案しているのを見て、ソフィアが(ふく)れている。そうだった。ボンやクリシスといっしょにソフィア達もいた。


「すまん。あまりにも居心地がよくて、周りに気を配っていなかった」


「ふん、まったくだ。ソフィア様が話しかけても、いつも本を読んでいて上の空だ。反省しろ!」


 すまん。読みたい本がありすぎて、夢中になっていた。


「わかった。イディアの言う通りだ。気をつける」


「ふん、わかればいい」


 イディアが少し顔を赤らめてそっぽを向いた。


「なら、カナデさん、ソフィアさん、イディアさんは決定ですね。ディーラさんはどうしますか」


「もちろん行く。久しぶりに会いたい」


「わかりました。なら4人で決定ですね」


「あのー、おれの存在も忘れていませんか?」


 エルが半分泣きそうな顔で手を挙げていた。


「……。5人で決定ですね」


 ジェイドが、花が咲くような笑顔でそうまとめた。




 明日はいつもよりも早く登院することになった。調査は5人……あれ、1匹も忘れていたぞ。


 つくも(猫)を見た。


 寝ていた。神様は忘れられていても気にしないのだろうか?





次話投稿は明日の7時10分になります

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ