061 図書館の七不思議
都東側にはアステル湖が広がっている。新大陸最大の湖と言われている。きっと、ストラミア帝国にも大きな湖があるはずだ。比較してみないと分からない。サクラさんへの迫害が止まったら行って調べみたい。
そのアステル湖の王都側にある密林地帯に隠れ家がある。今住んでいるのは11人と1匹、そしてペンテとテネリの2体だ。
サクラさんは、「お仕置き、お仕置き」と鼻歌を歌いながらつくも(猫)の手伝いをしている。もちろん夕食の準備だ。弟子がマーレで、サクラさんは助手という立場らしい。何が違うのだろうか?
わたしは、ジェイドと図書館に出る『箒お化け』について情報を整理している。午後は初等部に行っていろいろ聞き取りをした。特に、あの『図書館の七不思議』の話をしていた生徒に噂の出所を聞いてみた。
高等部にいる姉から話を聞いたようだ。名前を聞いたら書記のポニーさんだった。生徒会の記録を見て知ったようだ。
夕食後に作戦会議が始まる。それまでに整理できる部分は終わらせたい。
「ジェイド、おまえはどう思う」
「多分ですが、七不思議の最後は次元渦巻の事だと思います。だとしたら、正体は絞られますね」
「だよな、おれもそう思う」
「わたしにはさっぱり分からんぞ」
「イディア、稽古は終わったのか」
「ちょっと休憩だ」
「お化け退治で活躍してもらうことになる。もどってしごかれてこい」
「了解した!」
素直ないい子だ!
「図書館の七不思議。聞いたことがある」
「クエバはやっぱり学院の卒業生か」
「別に内緒にしているわけではない」
「パーティーメンバーは知っているのか」
「うん」
「そうか、何か事情はあるのか」
「貴族がらみ」
「ああ、すまん。聞いて悪かったな」
「平気」
「困っていることはあるか」
「今はない。でも、これからある。予感がする」
予言者クエバはそう言って、自分に部屋に戻っていった。
「何か、面倒そうなことが起こりそうですね」
もう一人、予言者ジェイドもそうつぶやいた。
「夕食ですよー」
サクラさんがご機嫌で呼びに来た。傲慢貴族にお仕置きをするのが楽しみなようだ。
「料理長。メニューの説明をお願いします」
「うむ、今日は5月の旬であるたけのこ料理だ。米があるとたけのこご飯が作れるのだがなー。あと3ヶ月で収穫できるはずだ。それまで我慢だな」
猫が残念そうだ。おれも残念だ。
「市場で大量に売っていた。どうやら豊作らしい。全部買い占めてきたぞ」
全て経費で落とせます。任せてください。
「たけのこにも灰汁がある。植物繊維も消化の妨げになる。食べ過ぎるとよくない。だから神力ですべて無効化しておいたぞ。喜べイグニス食べ放題だ」
イグニスとシンティが小躍りしている。
「まず、シンプルなオーブン焼きだ。焼き塩がある、適量を付けて味わえ」
「次が魚醤で煮込んだ物だ。みりんがないからな。味を調えるのに苦労した。でもなかなかうまいぞ」
「次がチンジャオロースだ。豚肉とたけのことピーマンを炒めてある。中華味は難しいからな。鶏ガラスープで何とか味を似せた。多分うまい」
「最後はフライだ。これは、つけ汁をいろいろ用意した。麺汁は醤油がないとやはり味の再現は難しい。断念した。代わりに魚醤ベースの物を数種類作ってみた。好みがありそうなので、少しずつ味を確かめながら食べてくれ。塩で食べるのもありだぞ」
「パンとパスタも用意した。たけのこばかりではなくこっちも食べろよ。サラダもある。こっちは必ず食べろよ」
「よし、たけのこ食べ放題だ! 召し上がれ」
「オーブン焼きは、ホクホクね。芋の食感に似ているわ。でも、ホクホクのサクサクで、これってたけのこ本来の風味よね」
「そうね、柔らかくて、繊維質が感じられないわ」
「焼き塩が合うっす」
「甘みと香りの凝縮、美味!」
ソフィアは相変わらずの料理評論家だ。マーレもだんだん似てきたな。いいコンビニになりそうだ。
「天ぷらって塩が一番美味しいのよ。味見で何回も確かめたから間違いないわ」
サクラさんの助言にエルがうなずいている。なるほど、助手とは味見役のことだったのか。
「魚醤は濃すぎるとちょっときついな、薄いぐらいがうまい」
「魚醤ってオーブン焼きにも合うぞ」
イグニスがディーラさんと話ながら食べている。たけのこだとがっつくわけにはいかないか。でも手と口は高速で動いているな。もしかして、身体強化しているのか?
「煮物も美味しいな。でも、やっぱり醤油が欲しいなー。土佐煮が食べたい……」
こうなったら、意地でも醤油を探すぞ。次の休息日は、自由市場だ!
シンティは一言もしゃべらずに、ひたすら食べていた。
食物繊維の摂り過ぎはよくないらしい。神力で無効化されているとは言え胃がもたれる。水をたくさん飲んでおこう。
みんな同じらしい。食後の紅茶もいつもよりも飲む量が多い。
「それでは、作戦会議を始めます。ジェイド参謀、状況説明をお願いします」
「生徒会に告発文が多数届きました。その中に『図書館で箒のお化けに追いかけられた』が5件確認されました。これは、見間違えや勘違いではなく事実です」
「これは、図書館で噂話をしていた初等部の学生から聞いた話だ。『図書館の七不思議』を知っているか」
クエバだけがうなずく。
「1つ目から4つ目までは省略だ。聞きたければ後で教えてやる。5つ目は『閉館間近になると、ホウキのお化けが出て、「おいてけー」と追いかけてくる』6つ目が『朝早く来ると、踊るリスのダンスが見られる』7つ目が『時々本が空間に消えていくのを目撃する人がいる』……?」
みんながほけーとしている。たけのこの食べ過ぎか。
「今回確認されているのが閉館間近になると『おいてけー』と追いかけてくるなんですが、この告発文を書いた人に確認したら、お昼休みや授業の合間にも出ています」
ジェイドだけが冷静だ。
「すまん、カナデ。この話、マジか?」
イグニスが椅子に座ったまま両手を組んで下を向いている。気持ちは分かるぞ。馬鹿馬鹿しいよな。でもマジだ!
「ああ、マジだ。そして、お化けの正体にも目星が付いている」
下を見ていた他の仲間達も顔を上げた。
「ヒントは7つ目の空間に消える本だ。みんなも心当たりがあるだろう」
廊下の奥の小さな部屋を見た。みんなもつられて首を動かす。そして、大きくうなずいた。
「次元渦巻ね。なら、そのお化けは神獣様ってこと?」
サクラさんだ。いい線までいっている。
「神獣は多分リスの方だ」
ああ、みんながうなずく。
「箒お化けが探求者って事ね」
シンティが正解だ。
「探求者かどうかは分からない。でも、それに近い何かだな」
「次元渦巻に入れる何かって何っすか?」
「多分だが、大樹の杜人は入れると思う」
「なるほど、確かにな。どこにその杜人の村があるかも分からないってことは、神装結界が関係しているんだろ」
イグニスは時々鋭い。A級冒険者と言うことか。
「その通りだ。他の人には言うなよ」
「いうわけねーだろ! 面倒事はごめんだ」
イグニスらしい。他のパーティーメンバーもいっしょか。
みんながうんうんと首を動かしていた。
「探求者か、杜人か、それとも本当にお化けかは、調べてみないと分からないな。だが、おれは探求者だと確信している」
「どうしてなの?」
「サクラさん、わたしが出版している本の作者名知っていますよね」
「ええ、『ふえもり』よね」
「今回被害にあった学生は、みんながその本を読もうとしていたんです。つまり、魔物関係に興味があるということです。そんな人、わたしの他には探求者しかいませんよね」
自分で言っていて、なんか悲しくなってきた。
「納得だわ。そんなのあんたの他には探求者しかいないわ」
シンティめ、後で覚えていろ!
「カナデ、いつ調査に行く!」
あれ、ディーラさんが乗り気だぞ。どうした?
「ディーラさん。何か気になることがあるんですか」
「ああ、その探求者に心当たりがある」
誰ですか?
「そいつの名前は『レーデル・ランデリラ』魔物生態大辞典の著者だ!」
なんですとー! あの完璧な辞典を作った人ですか。会いたいです。
「ディーラさん。明日早速行きましょう!」
ディーラさんと堅い握手をした。握手は探求者しかしないらしい。
「カナデさん、授業はどうするんですか」
う、そうだった。旬の2の日は全部授業が入っている。
「サボっちゃう……は、だめだよね。はい。すみません」
みんなに睨まれた。何でこんなに真面目なんだろう。
「カナデさん、次元渦巻はどうやって探すんですか」
冷静な子どもが1人、核心を突いてきた。
「う、それは……」
猫を見た。
「俺様のは常時発動型だが、魔力節約するなら入りたいときしか開かないぞ」
「それって、探せないって事ね」
シンティよ。その通りだ!
「どうするの?」
サクラさんが天然で聞いてくる。
「カナデさん、朝早く行くとリスが踊っているんですよね。なら、そのリスの後をついていけばいいんじゃないですか」
ジェイドよ、おまえは何て賢いんだ!
「それだ! ジェイドでかした。朝のホームルームの時間を使えばいい。つまり、おれならその時間はフリーだ」
どうだ、文句は言えまい。
ふふんと、どや顔でふんぞり返った。
「仕方ないわね。カナデ、任せたわ」
シンティだ。わかってくれたか。
「カナデさん、その時間なら私達もフリーですよ」
ソフィアだ。そうなのか?
「カナデさん、シオン教授の研究室にいつも一緒にいますよね!」
わたしが思案しているのを見て、ソフィアが膨れている。そうだった。ボンやクリシスといっしょにソフィア達もいた。
「すまん。あまりにも居心地がよくて、周りに気を配っていなかった」
「ふん、まったくだ。ソフィア様が話しかけても、いつも本を読んでいて上の空だ。反省しろ!」
すまん。読みたい本がありすぎて、夢中になっていた。
「わかった。イディアの言う通りだ。気をつける」
「ふん、わかればいい」
イディアが少し顔を赤らめてそっぽを向いた。
「なら、カナデさん、ソフィアさん、イディアさんは決定ですね。ディーラさんはどうしますか」
「もちろん行く。久しぶりに会いたい」
「わかりました。なら4人で決定ですね」
「あのー、おれの存在も忘れていませんか?」
エルが半分泣きそうな顔で手を挙げていた。
「……。5人で決定ですね」
ジェイドが、花が咲くような笑顔でそうまとめた。
明日はいつもよりも早く登院することになった。調査は5人……あれ、1匹も忘れていたぞ。
つくも(猫)を見た。
寝ていた。神様は忘れられていても気にしないのだろうか?
次話投稿は明日の7時10分になります




