060 生徒会の仕事
5章が始まります
5月中旬の休息日は、久しぶりにゆっくりと休むことができた。もちろん、基礎研究もそれなりにできた。満足だ!
騎士アーマーも完成した。標準型と戦闘型の装着も問題なくできることを確認し、正式な納品となった。
このアーマー制作費は、経費で支払うことができる。経費とは、サクラシア様が魔術学院で生活するためにカボーグ家が支払う予算だ。
カボーグ家は領地を持たない。つまり税収はない。
では、お金はどこから生まれているのだろうか。
私も疑問に思っていた。でも、カルミア様に直接聞くのは勇気がいる。いや、勇気があっても無理だ。
教えてくれたのは、ランタナさんだ。
なんと、世界樹のポーション、次元箱の売上金はカボーグ家に納められていたのだ。
ポーションはトリコン様の発明だ。なら、売上金はトリコン様がもらうのが筋だろう。次元箱は、発明者の子孫であるパーソンさんがもらう権利があるだろう。
その売上金の何パーセントかが、税金として入り口の町の収益になっていると思っていた。なにしろ、莫大な金額になる。
なんで? と疑問に思い質問をした。
「面倒だからだよ」
が、答えだった。納得した。確かに私でもそうする。
お金がある所には、その甘い汁を吸いたい虫が集まる。その虫の中には、強烈な毒をもっているのもいる。ならば、拒否権を持っている強力な守護者に守ってもらいたい。
清廉潔白で公平で慈悲深い象徴は、まさにその守護者にふさわしいのだ。
『ねこちゃん印会社』も、つくも(猫)という守護者がいなければ、私もそうしただろう。
カボーグ家にはどの国家予算よりも多い資産がある。なので、騎士アーマーの制作費はまるまる請求できるのだ。
10層攻略の為の予算は別会計になる。たぶん、ねこちゃん印会社はそのための会社になる。早く会計士を探さないといけないな。それも、国家予算レベルのお金を管理できる優秀な人材が欲しい。
今日から5月下旬が始まる。
魔法陣学の授業が終わると、生徒会長が入り口で待っていた。いつもなら初等部へボランティアへ行くのだが、ソフィア共々拉致された。
生徒会室に入ると、役員全員が跪いて待っていた。
「賢者様、力を貸してください」
学院も始まってから1ヶ月が過ぎた。小さな事から大きな事まで、様々な問題が起こっていたのだ。
「問題を整理しましょう」
心配して付いてきてくれたジェイドが進行役だ。生徒会長は補佐をするようだ。
この生徒会長はなかなかの逸材だ。優秀なのに無駄なプライドがない。適材適所で人を配置できる。ぜひ、うちの会社でスカウトしたい。恩を売っておこう。
「緊急案件が5件です。経過観察が3件です。口頭注意が56件です」
ジェイドが、告発書を3つに分類した。
貴族が平民にした嫌がらせや理不尽な行動を告発できる仕組みがこの学園にはある。エレウス王国は、冒険者が作った国である。冒険者のほとんどは平民なのだ。両方が通えるこの学園には必要なシステムだ。
用紙は生徒会の入り口に置いてあるボックスに入れられるようになっている。もちろん、告発者は実名を書く。
「口頭注意には、イエローカードを出しておきましょう。次に同じ問題を起こしたときは、レットカードになり、それでも改善されなかった場合は、サクラシア様が拒否権を発動する。そう伝えてください」
拒否権を発動したからどうなるということはない。命令はできない。ただ、拒否するだけの権利だ。でも、なんとなく、貴族にとっては、それが致命的なことになるのではと言う恐怖感がある。それを利用しよう。
「わかった、それは役員で手分けをしてやろう」
会長が束になった報告書をペラペラとめくりながら役員達を見てそう提案する。反応はよろしくない。
「うーんそうか、貴族相手だと役員が嫌な思いをしますね。各国にまとめ役みたいな人っていないんですか」
「大使館はあるが、さすがに学園のことでは動かないよな」
エミールが隣に座るリネスに話しかける。
「そうよね、学院のことには口は出さないわね」
顎を人差し指で触りながら上目になる。
「風紀委員会みたいなのはないんですか」
ん、とみんながこちらを向いた。何か変なことを言ったか?
「なんだそれは?」
エミールが不思議そうにしている。
「生徒会ではなく、日常生活のうえで守るべき道徳上の規律を生徒主導で取り締まる組織ですよ。この学院にはないんですね」
「ああ、懲罰委員会みたいな感じか。かなり前にはあったみたいだが、貴族相手に平民がどうこうできるわけがないので今は機能していないな」
生徒会長がちょっと申し訳なさそうにそう言うと、
「会長、気にしないでください。今年はいろいろな面で特例中の特例です」
ソフィアがすかさずフォローする。できる副会長だ。
「カナデさん、生徒会長が絶対的な権力を持った人なら、その組織はいらないんです」
おお、確かに! 納得だ。
「わかった、その通りだ。さて、となると、サクラシア様の出番になるか」
役員達の表情が明るくなった。女神降臨か!
「お願いできるか……」
生徒会長が上目遣いになる。かわいくないからやめてくれ。
「頼んでみるよ。嫌とは言わないと思うぞ」
「ええ、喜んで引き受ける気がします」
ジェイドも同じ感想だ。
「次に、経過観察だが、ジェイド根拠はなんだ」
「これは、騎士が勝つので対応の必要はないです。状況がひどくなっていないかだけ確認していればいい案件です」
そこまではっきり言われるとなんか照れるぞ!
魔法勝負をする予定のウィルド州王国の貴族達が、何やら怪しい動きをしているようだ。魔法学の授業で平民生徒を追い出そうとしているらしい。
「シンティがその授業に出ていたな。様子を聞いてみるか」
「私もその授業を受けているけど、学年別のクラスだから様子がよく分からないのよ。問題になっているのは1学年らしいの」
「ポニーさん。シンティはその1学年だから丁度いいです」
「なら任せるわね。私達も情報を集めるわ」
他の役員達も同じ気持ちらしい。顔を見合わせてうなずいていた。
「最後に緊急案件ですが5件全部同じ内容です。図書館に出る箒お化けについてです」
ん、その話、図書館の七不思議のことか。
書記のポニーさんが過去の記録を見ている。
「昔からその話はあったのよ。箒お化けが出るって。でも、ここ数十年は話題になっていないのよね」
「おれも部活の先輩から聞いたことはあるぞ」
「私もあるわ。『おいてけー』って、追いかけられるんですよね」
「ああ、その本を置いて逃げると、もう追いかけては来ないらしいぞ」
ミエールとテネリさんが顔を見合わせて話をしている。
「ジェイド、その箒お化けがなぜ緊急案件になるんだ」
「被害にあった学生は、みな魔物生態学の授業を受けている生徒です。そして『おいてけ』と追いかけられた本の作者はみな『フエモリ』だからです」
なんですとー!! 確かに緊急だ!
『フエモリ』は私のペンネームです。それ、私が書いた本です。
「会長、この調査は私達に任せてもらえないでしょうか」
「ん、はじめからお願いするつもりだったが、何か気になることでもあるのか」
「魔物生態学の授業はいろいろ課題があるんです。それと関係しているかも知れないんですよ」
「わかった。全て賢者様に任せる」
こういう所だよ。この会長のいいところは。
「了解しました」
「さて、これで心配事は全て解決した。役員諸君、安心してそれぞれの仕事に専念してくれ」
生徒会長が、晴れ晴れとした顔でそう宣言した。
生徒会の要件は早く片付いた。午後は初等部に顔を出してみるか。
ジェイドと大食堂に向かった。今回はおれたちの方が早いだろう。ボン達のために席を確保しておくか。
食堂の入り口で何やら揉めている。何だろう?
「サクラシア様、ピエール殿下が上級食堂でお待ちしています。ささ、早く行きましょう」
「いやよ、わたしはここの食堂で食べたいの」
なんと、サクラさんが絡まれている。騎士の出番か!
「サクラシア様がいやだと言っています。立ち去りなさい」
シンティだ、かっこいい! 3分間限定の側近モードだ。
「おまえは黙っていろ、そもそも、なんでドワーフ族がサクラシアさまの側近をしている」
あいつ、マルモル公爵家の天才公女を知らないのか?
「友達だからよ。何か問題ある?」
「な、何が友達だ。エルフとドワーフが友達なんておかしいだろう」
あんだとー! おまえいったいいつの時代の話をしている。
今から1000年以上前には、3種族が対立している時代もあったと聞いている。
「それとだ、なんでいつも猫がいる。この学院はいつから獣の連れ込みができるようになった」
あ、だめじゃない! やっておしまい。つくも(猫)!
その男が猫を蹴飛ばそうとした。バカじゃないの?
ポチャーン!
食堂の南側にある池にその男は浮いていた。
「小娘! なんてことしやがる!」
ポチャーン!
ポチャーン!
ポチャーン!
殴りかかってきた男達も全て池に浮いていた。
ウィルド州王国はマイアコス王国と隣り合わせの国だ。ピエールはその国の王太子だ。
「ジェイド、確かウィルド州王国の隣の領地は、あいつだよな」
「はい、第4王子ベリーコスの母親である第1王妃の生家がある領地です。そしてシトローチカ・ポーパラダー公爵が領主です」
ジェイドに辛い思いをさせた張本人だ。絶対に許せない相手でもある。
「シトローチカ公爵とピエール王太子、つながっているような気がするな」
「はい、ぼくも兄もそう思っています」
丁度いい、まとめて潰すだけだ。
「さくらさん、これからお昼ですか。いっしょに食べましょう」
「はい、カナデさんは生徒会のお仕事終わったんですね」
「そのことで、今夜作戦会議が必要です」
「何があったの?」
「シンティ、お仕事お疲れ! 似たようなこと他にもあったのか」
「時々あるわよ。全部拒否しているけど」
「つくも(猫)がいるから遠慮なくやっちゃいな」
「もちろんよ!」
顔を見合わせて怪しく笑う。
「で、生徒会で何かあったの」
「図書館に箒お化けが出た」
「何それ?」
「お化けですか。1度会ってみたかったんです」
サクラさんが嬉しそうだ。
「おまえら、あいつらはあのままでいいのか」
いつの間にか後にボンとクリシスがいた。
「いいわよ、ねこちゃん手加減したから怪我はないわよ」
「いや、池に浮いたままだぞ」
「知らないわよ。自分で落ちたんでしょう。自分で何とかすればいいのよ」
意識がないから多分無理だよ。でも、残りの迷惑男達が助けに行ったから問題なし。
「ジェイド、今日もAランチ大盛りでいいか」
「はい、ここの食堂の料理も美味しいですよね」
何事もなかったように食堂に入っていく私達の後からあきれ顔の2人が付いてくる。
池の方では貴族枠教授の怒鳴り声が響いていた。ああうるさい。
食堂にいる生徒はまばらだった。授業が終わった生徒達がこれから押し寄せてくる。
いつもの席に向かう。そこは、他の生徒達から少し距離がある隅の席だ。4月は王族達が座っている席の周りに誰も座らないので別の席が混雑していた。
なので、いつの間にかこの場所が私達の定位置になっていた。
「サクラさん、お願いがあります。平民に嫌がらせをしている貴族生徒にお仕置きをしてください」
天然少女にはストレートに言う方がいいのだ。
「任せて、お仕置きは得意よ!」
あまりにも予想通りの反応に、ジェイドと顔を見合わせて苦笑いだ。
「お仕置きの方法は、会長と相談して決めます」
サクラさんがワクワクしている。貴族生徒も魔物と同じ感覚なんだろうな。
図書館の箒お化けか。何となくだが、正体には心当たりがある。ジェイドの意見も聞きたいところだな。
食堂に入ってくる生徒達が、何故かみんな嬉しそうだ。中には池の方を指さして、
「ざまあみろ! いつも威張り散らしているから罰が当たったんだ」
と大笑いしている生徒もいる。
さて、魔物達には早々にこの学園から退散してもらおう。早く対戦の申し込みが来ないかなと、ワクワクしている自分がいた。
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