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006 4日目の夜

『大樹の森編』の続編になります




 ここは森の中だ。いや密林と言ってもよい。地球で言えば、アマゾン見たいな場所だろう。森は湖の岸に沿って幅が50キロメートルから300キロメートル位ある。湖の周りをぐるりと囲んでいるように広がっているので、長さは1800キロメートルぐらいになるはずだ。




「カナデ、見つかったか」


「いやないな。ここら辺には生息(せいそく)していないのかも知れないな」


 イグニスとその密林を歩き回り、ある植物を探している。まあ、野生の野菜だ。山菜(さんさい)と言った方が近いか。


「だめだな、春だから山菜が採れると思ったが、里山ではないからな。ここでは無理か」


 つくも(猫)が、


「野菜があると(いろど)りがいいんだがな」


と、私の方を見て言ったので、多分「探してこい」という命令だろう。


 仕方ない、あれを試してみるか。


「イグニス、これからつくも(猫)の神力を借りたあることをする。機密事項だ。見なかったことにしろ」


 イグニスがゴクリとつばを飲み込みうなずいた。


真色眼(しんしょくがん) 効果食用植物 範囲半径3キロメートル 発動」


 おお、けっこうあるぞ。


 (いた)る所に青玉が浮かんでいた。うん、この力は本当に応用が利く。


 イグニスに指示を出し、葉や根や茎を収穫した。




 ベニザクラ号に戻ると、焼き肉の準備がすでに整っていた。私たち待ちだったらしい。


「カナデ、食べられそうなものあったの?」


 シンティがいぶかしげに聞いてきた。


「ああ、一応食べられる事は神力に誓って保障する。しかし、味は分からん。期待するな」


 食いしん坊に試してもらうか。適任だ!


 シンティにもってきた植物を全て手渡した。


 ん? と不思議がるシンティ、


「ククク、毒味!」


 クエバさんが怪しく笑ってぼそりと真実を言い当てた。


 何か言っているシンティを放置し、サクラさんのそばに行く。


「8時頃、ツバキさんと通信の実験をします。この近くに設置しますのでいっしょに行きましょう」


と、伝えた。


「本当ですか。楽しみです」


 サクラさんの笑顔が弾けた。




「料理長、説明をお願いします」


 エルが猫に頭を下げる。


「うむ、今日は猪肉のロース焼き肉だ」


 みんながゴクリとつばを飲み込む。


「ロースは薄切りにしてある。炭火でさっと(あぶ)って食べるとうまい。寄生虫は神力で除去(じょきょ)してあるからいない。脂身(あぶらみ)の甘さと旨みの濃い赤身の香りを楽しんで食べてくれ」


 薄切りのロース肉が皿に山盛りになっていた。


 全員がもう我慢できないとソワソワしている。


「うむ、焼き肉食べ放題の開始だ」


 猫の許可が出た。犬ならお預け状態からの「よし」の合図だろう。一斉に大皿から肉を5、6枚重ねた状態でとりわけ、それを丁寧に並べて網に乗せる。


 さっと炙って火が通ったことを確認すると、それを口の中に放り込む。


「んー、何この甘さ、脂肉ってこんなに甘いの」


「赤身の味が濃いわね。臭いもほとんどないわ」


「脂身と赤身のバランスが最高っす」


「究極の美味」


 おいしさが止まらない。




 シンティに預けた緑物は、いつの間にかエルの前に置かれていた。エルよ、ドンマイだ。


 エルもドワーフ系ではあるが、人族の特徴が強いので食欲は普通らしい。


「エル、その植物をもってこい」


 猫が前足を舐めながら命令する。


「これ本当に食べられるんですか。色が何か怪しいですよ」


 猫が鼻を近づけてクンクンとする。そしてチロッと舐める。


「大丈夫だ。品種改良がされていない野生の野菜みたいなものだ。ただ、あく()きは必要そうだな」


 猫が神力を高めた。そして、簡易的(かんいてき)な魔法陣を前足で創造し、野菜の上に移動させる。魔法陣が下に降りていき、野菜を紅色の光で包み込んだ。


「うむ、野菜の状態異常は解除された。食べてもいいぞ」


 猫が、焼いた方がうまい野菜と肉に巻いて食べる野菜により分ける。


 みんなが恐る恐る口に運び、放り込む。


「あら、以外と美味しいわ」


「これ、芋みたいな食感っす」


「この葉っぱ、肉とすごく合うわよ。脂身のしつこさが和らぐわ」


 なかなかの好評(こうひょう)だ。よかった。


 焼き肉と言ったらやっぱりご飯だよなー。稲はどこかにあるんだろうか。今度、真色眼で条件指定して探してみるか。


 肉はたっぷりある。余ったらつくも(猫)の時間停止の異次元収納に放り込めば何の問題もない。まあ、あの2人がいるので余ることはないだろう。




 時間はそろそろ午後8時になる。サクラさんに目で合図を送る。サクラさんがうなずく。


「つくも(猫)、サクラさんと例の実験してくるから、ここ任せてもいいかな」


 護衛をお願いと猫に頼む。


「ああ、問題ない。ツバキに例の本の知識が役立っているとお礼を言っておいてくれ」


「うん、わかった」




「サクラさん、ちょっと失礼します」


 ふわっとサクラさんをお姫様()っこで(かか)える。


 目的地は、ここから50キロメートルほど離れた湖のほとりだ。そこが、昼間設置した魔石から丁度300キロメートルになる。


 神装力の風の道なら10分で行ける。時速300㎞だ。


「これから神装力の風の道を使います」


 もう力は隠さない。これからの事を考えると、機動力は絶対に必要になる。私ができることは知って置いてもらった方がいい。


「神装力第三権限開放 神装力風の道発動」


 片手でクルクルッと空気を巻き取り渦を作る。それをポンと前方に放り投げると、風のトンネルが数キロにわたって延びていった。


「いきます」


 風の渦にポンとサクラさんを抱えたまま飛び込むと、(きら)めく星の光が全て線でつながった。 


「風の道にこんな使い方もあったんですね。すごいです。きっと、私もできると思うんです。今度教えてくださいね」


 信じられないことを、いつもスッと受け入れてくれるサクラさんはやはりありがたい。でも、本当にサクラさんなら直ぐにマスターしてしまいそうだ。




 一番幹が太くて背が高い魔木を探す。


「見つけた」


 減速なしでピタッと止まる。


「下におります」


 風の道を降下させる。地面近くで解除する。ポンと着地をして、サクラさんも地面に立たせた。


「この魔木に魔石を設置しますね」


 一番高い場所に一気に跳躍し、リレー用の通信魔石を設置した。そのまま下に降りる。


「これでツバキさんの研究所と通信ができるはずです」


 通信用の魔道具をアイテムボックスから取り出す。これも、もう隠す必要はない。つくも(猫)と同じ力を使えることはみんなが知っている。


「もしもし、ツバキさん。聞こえますか。カナデです」


「もしもし、カナデ君。よく聞こえるわよ」


 うん、問題なく通信できる。さすがはツバキさんの調整だ。


「この魔石で3つ目です。距離は900キロメートルになります。明日、ここから300キロメートル離れた、キリヤ島に4つ目を設置します。そうすれば、王都から通信ができるようになるはずです」


「すごいわね。王都にいながらこの町と会話ができるなんて、やっぱり革命よ」


 まあ、そうなるよな。それに有線ではなく無線だよ。時代を数百年飛び越しちゃったよ。


「サクラさんが近くにいます。かわりますね」


「ええ、じゃこっちもかわるわね」


 ん、だれと?


「もしもし、っていうのね。おもしろい詠唱(えいしょう)ね。もしもし、サクラ、母ですよ」


 おお、ビオラ様ですか。なるほど。


「母様の声が聞こえます。すごい、直ぐそこにいるみたいです」


「こっちにも聞こえるわよ。サクラが直ぐそこにいるみたいよ……どうですか。旅を楽しんでいますか」


「はい、母様。楽しんでいます。すごくワクワクしています」


「サクラにとっては、初めての旅になりますからね。何か心配なことはないですか」


「大丈夫です。みんながよくしてくれます。カナデさんもいます。ねこちゃんもいます。あっ、ねこちゃんこの旅の料理長になりました。今も、すごく美味しい焼き肉作ってくれました」


「そうなの、ねこちゃんやっと自分の事をみんなに知らせたのね。結構時間がかかったわね」


「ふふふ、張り切っているわよ」


「帰ってきたら、私もおねだりしちゃおうかな」


「ええ、きっと喜んで作ってくれるわよ」


「きっとそうね『私も呼んでね』楽しみだわ」


 ツバキさんの声が後ろに入った。広角で音を拾っているな。この魔石いい性能だ。


「カナデ君。かわったわよ」


 ツバキさんの声だ。


「姉様、すごいです。こんな便利なもの作れるんですね」


「すごいのは、そこにいるカナデ君とねこちゃんよ」


「はい、もちろんです」


「サクラ、カナデ君とかわって」


「はい」


 サクラさんが、魔道具から離れた。


「父から、執務室にも同じものが設置できないか聞いてくれって頼まれたの」


「今は難しいですね。同じ波長の魔石を作るのに時間がかかりますから、それに、つくも(猫)の神力を入れないと長距離は届かないです」


「そうよね。なら、このセットを渡すしかないわね」


「すみません。でも、そうしてください。これから、カルミア様と相談しなければならないことが多分たくさん出てきます」


「ええ、私のおもちゃがなくなるけど、まあ、また作るわ」


 ツバキさんなら直ぐ作れそうだよ。


「はい、そうしてください」


「それじゃ、明日の定時連絡は、父の執務室ね」


 うん、緊張する。でも、仕方ないか。


「はい、明日はみんながいる場所に設置できるので、きっとにぎやかですよ」


「……」


 おや、何か思うところがありそうだ。


「キリヤ島よね」


「はい」


「ナツメをそこに行かせるわ」


 ん、なんで?


「その通信機、ナツメと父が持っていた方がいい気がするの」


 確かに! その方がいろいろ都合がいい。


「いい考えです。そうしましょう!」


「S級の伝書魔鳥を使うわ。明日の朝には、ナツメに手紙が届くはずよ」


「分かりました。サクラさん、キリヤ島到着は、12時頃でいいかな」


「はい、問題ありません」


「12時にはキリヤ島に着いていると思います。場所はちょと分かりません。キリヤ島に来たら、こちらで迎えに行くと伝えてください」


「ええ、了解よ」


「では、今日はここまでですね」


「ええ、また明日」


 何か終わりの効果音が欲しいかも。エルに相談してみるか。


 ん、しまった。つくも(猫)の伝言忘れた。まあ、明日でいいか。




 さて、帰るか。


「サクラさんの風の道、試してみますか」


「いえ、またでお願いします」




 帰りも10分でベニザクラ号に到着した。つくも(猫)の視線に愛想笑いをして、軽く手を合わせた。


(ごめん、わすれた!)


 猫の表情が分からない。でも、気にしてはいないようだ。よかった。


 肉も野菜も全てなくなっていた。




 エンゲル係数(けいすう)が高い旅になりそうだな……。


次話投稿は明日の7時10分になります

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