059 忙しい休日(2)
4章最終話です
ギルド内には人は少なかった。冒険者も休日はお休みする人が多い。
「リウムさん、ギルマスいますか」
暇そうにしている受付嬢に声を掛けた。
「カナデさん待っていました。直接部屋に行ってください。そうしてもらえと言われているんです」
「ありがとうございます」
3人でギルマスの部屋に向かう。
「カナデです」
ノックをしてから声を掛ける。
「開いている。入ってくれ」
中に入ると、3人いた。男が2人と女が1人だ。どちらも冒険者だろう。
「紹介するよ。王都のAランク冒険者だ」
「ロートンだ。よろしくな」
「ティウムだ。よろしく」
「はじめまして、リエームよ」
「カナデです。こっちはジェイドとソフィアです。『紅桜』パーティーのメンバーです」
リエームさんがジェイドを見て、呆けている。
「丁度よかった。今、討伐隊の話をしていたのさ」
イグニスの報告からそんなに日が経っていないな。結構動きが速いぞ。
「どうなりそうですか」
「船がない。観光船も貴族が優先でこちらには貸してもらえない」
「ナツメさんとは話をしましたか」
「用意できても3台がやっとだそうだ」
王都支部の案内人ギルドには、そんなに樹魔車両が常駐していないか。
「その人数で行くと危険ですね。やめた方がいいです」
「そんなに危険な状態なのか」
「プティ島は特に危険です。毒性植物魔物しかいません。しかも、密集していて簡単には踏み込めません」
「ラルタ島も、場所によっては危険です。池ごとに種族が固定していて、ピラニア型の池に近づくと、魔物の雨が降ります」
「蛙型も数千匹単位で陸に上がってきます」
ジェイドとソフィアも危険な状態を忠告する。
「島から溢れ出そうなのか」
「今直ぐ、はないですね。でも、あと数十年先には溢れますね」
しばらく無言が続く。
「カナデ君、入り口の町の樹魔車両を貸してもらうことは可能だろうか」
「はい、すでにカルミア様には報告してあります。2月か3月なら、可能だと思います」
「なるほど、雪か」
「はい」
「こちらの冬は、それほど積もらないからな。わかった、その線でもう一度みんなで話し合ってみるよ」
みんながうなずき、打合せは終わった。
ギルマスに簡単に口頭で様子を伝え、報告書をコピーしてもらう。あと2つの島で5島が終わる事にはびっくりしていた。
精霊結晶の事は報告しない。するかしないかは、神獣様の判断で決める。取り決めでもそれは認めてもらっている。問題ない。
丁度お昼だ。
「ソフィア、お薦めのお店はあるか」
「はい、任せてください」
すごく嬉しそうだ。よかった。
連れて行かれたのは、サンドイッチのお店だった。日本ならハンバーガーショップみたいな場所だ。
棚に並べられている商品を選んでトレーに乗せていく。なかなかおもしろい。ジェイドも初めての経験らしい。ウキウキしている。
テーブルは外にもある。5月はいい季候だ。木陰のある場所を選び座って食べた。紅茶は店員がポットを持って回ってくる。カップはテーブルの上にも置かれている。声を掛けて注いでもらう。
うん、本当にいい店だ。食事も美味しい、また来よう。
「ソフィアさん、こんなお店があるんですね。ぼく初めてです」
王族だ。1人では来られないし、フラフラ歩いていたら誘拐されそうな美少年だ。確かにそうだろう。
「ふふ、ありがとう。カナデさん、午後はどこに行きますか」
「ふふふ、決まっている。自由市場だ!」
次は味噌、醤油、みりんだ。2匹目のドジョウを狙うぞ。
「味噌は独特な臭いがある。なので、壺に入って売っている可能性が高い。醤油は、蒲焼き塗ってあるあのしょっぱいのだ。これも、容器に入っているはずだ。みりんは説明が難しい。まあ、ほぼ透明な液体だ」
「原料はなんですか。穀物ですか」
ジェイドはどうしてこうも鋭い!
「原料は、大豆という豆だ。だが、その豆については何とかなる。まちぼうけの時の袋豆が代用できそうなんだ」
「ああ、あの豆ですか。なるほど」
「ただな、魔力草なので元気すぎるんだよ」
「ははは、リティ島ですね」
「ああ、なので、その豆ももしあれば欲しい」
「わかりました」
「私達もよく食べていますが、そのお豆ではないんですね」
「うん、もっと小さい豆なんだよ」
「だとしたら、また家畜用の食事に混ざっているかも知れませんね」
「探したけど、あそこにはなかったな」
「わかりました」
「それとだ、今回は量は少なくても構わない」
「どうしてですか」
「その食べ物というよりも、その中にいるすごく小さな生き物が欲しいからなんだよ」
「……?」
そう、麹菌、乳酸菌、酵母菌の微生物をさがしているのだ。
「よし、捜索開始だ!」
「隊長、了解しました。調査を開始します」
この頃この2人は仲がいい。何があった?
「真色眼 適応『ソフィアフィ・ノーテフィロ』『ジェイドスター・フォンターナ』」
みんな無色だ。それに、2人とも簡易認識阻害を発動している。めったなことはないだろ。でも、一応発動状態のまま待機だ!
何か危険が迫れば、ピコンと赤玉が出る。それに、瞬間自動神装結界も発動する。襲ってくる輩に同情するレベルの警護状態だ。
さて、何かめぼしいものはあるか。
しばらく歩いていると、見覚えのある男が店を開いていた。『チャルタン』だ。ディスポロ商業公国の公太子が何でここにいる?
瞬時に認識阻害を展開させた。そっと、近づいてみた。
「見てもらえないねー。場所が悪いのかな、それとも、商品が悪いのか? 商売のことはおれにはさっぱりだよ。もう少し、目立つ方がいいのかな」
売っている商品を見てみた。なんだこれ?
本だよな。絵が描いてある。絵本? かな。
手作り感丸出しだ。製本も拙い。でも絵はいい。一流のレベルではないだろうか。
警護はいないのか。1人はないだろう?
辺りを見回すが、それらしい人物は見当たらない。どうなっている。
「ああ、暇だ。楽しいことはないのか。騎士は現れるのかねー。対戦もしてみたいなー」
そこに、ドタドタと走ってくる人影が見えた。
「いました。ぼっちゃんです。1人です」
側近か。どうやら1人で抜け出したようだ。何やってるの。
「ぼっちゃん、困ります。勝手な行動は慎んでください」
さすがに大声は出せない。小声で小言を言っている。
「だってね、退屈なんだよ。ぼくの愛しい婚約者様はいつになったら姿を現すのかな」
「それは……」
そうなんだよ。こいつの婚約者にまだ会ったことないんだよ。入学式のときにもいなかったよな。
「とにかく、帰りますよ」
そそくさと、絵本を片付けられ、とぼとぼと帰って行った。うーん、この男はよく分からない。不気味だ。
気になる物は結構売っていた。他国の商人が集まっているだけある。繁華街では見かけない物が多い。
「あ、いました。カナデさん。醤油かどうか分からないのですが、似たような臭いの調味料が売っています」
まじっすか! 2匹目のドジョウ本当にいたの?
魚醤だった。確かに似ている。でも、大豆と魚では原料がまるで違う。微生物も違う。でも、いいぞ! なんか醤油達に近づいている手応えがある。
売っていた物を全て購入して、アイテムボックスへそっと転送した。つくも(猫)の反応を見よう。例え使わなくても、時間停止機能付きなので保存期間を気にする必要はない。
この日の成果はこれだけだった。でも、あきらめるものか。また来よう。
さて、やるべき事はだいたい終わった。帰るとしよう。
その日の夕食は、なんというかちぐはぐだった。どうやら、さくらさんが暴走したようだ。不安な予感は的中した。
この姫が思い立ったら、つくも(猫)でも止められない。
焼き鳥、ハンバーグ、煮魚、フライ、パンにスパゲッティにピザ…… どこのホテルのバイキング料理でしょうか。
味はうまい。イグニス達は大喜びだ。お子様だな。
つくも(猫)に魚醤を渡す。鍋料理や煮物に使えると喜んでいた。よかった、無駄にならなかった。
明日からの2日間は、完全休養だ。下旬もきっといろいろある。休めるときに休んでおこう。
あれ、基礎研究はどうした! まあ、いいか。
次話投稿は明日の7時10分になります
活動報告があります。よろしかったらご覧ください。




