057 騎士の鎧
朝はゆっくりとラルタ島で過ごし、余裕を持って隠れ家に帰還した。着いたのはお昼前だ。
30メートル級鰻の味が気になるつくも(猫)が、お昼は蒲焼きにするという。楽しみだ。早く米が収穫できるといいのだが、8月までにはまだ期間がある。待ち遠しい。
騎士アーマーは完成していた。
はっきり言って嬉しい。午後は試着になる。テンションが上がる。
時間があるので、報告書と出版用の原稿を書くことにした。
報告書は、王都のギルドと入り口の町のギルドの両方だ。日本のような多機能のコピー機はないが、白黒で数枚複写ができる魔道具がある。
魔術学院なら、各研究室に設置されている。ギルドにももちろんある。なので、明日はそこに行って複写することにしよう。
出版用の原稿は、魔物の生態をまとめたものだ。入り口の町や王都の密林で発見した新種もそれなりに載せている。
ねこちゃん印工場の紙生産が軌道に乗ってきたので、安価な紙が出回り始めた。なので、安く本を作れるようになった。魔物生態学の資料があまりにも古かったので、見るに見かねての出版だ。
出版用のペンネームは『フエモリ』にした。
アイテムボックス内の『記録ノート』へも時々思いついたことを記入している。この頃は、メモ帳みたいになってきた。いつか、このメモを使ってあの『魔物生態大辞典』を超える辞典を作ってみたい。
『魔物生態大辞典』は、学院の図書館で見つけた本だ。今までもいろいろな資料や辞典を見てきたが、どれも基礎研究がおろそかな物足りない不完全なものだった。
しかし、この大辞典は完璧だった。日本にいたときでさえ、このレベルのものは希だった。
作者は『レーデル』という人だが、経歴などは一切書かれていない謎人物だ。私もそうしたが。
さて、少し集中するか。
「カナデさん、起きてください」
ジェイドに揺り起こされていた。いつの間にか、机に伏して寝ていたらしい。お疲れか。
「鰻です。美味しそうな臭いが充満していてお腹がキュルキュル言っています。みんな待っています。暴動が起きる前に急ぎましょう」
それはいかん。緊急ではないか!
文字通り飛び起きて、食堂にダッシュする。
ギュルギュルギュル!
みんなの視線が冷たい。いや、本当にすまなかった!
ヘコヘコ頭を下げながら、自分の席につく。
ん、あれ、これ、もしかして……ごはんかぁー。
「カナデ、試作品で作った米だ。これしかないがそれなりの味になっている。後は8月までお預けだ」
うな重だった。涙が出てきた。長かった。1年、待ちに待った瞬間が来た。
仲間達も、白い穀物に興味津々だ。驚け! これが米だ!
「この白い穀物は米という。今、大規模栽培に挑戦している。成功すれば食べ放題だ。今はこれしかないが味わって食べてくれ! では、召し上がれ」
「粉にしないで食べられるんですね。便利です」
「鰻の汁? それがこの白い粒に浸みているわね。それがすごく美味しいわ」
「鰻とこの白いのが合うっす。うまいっす」
「白いのだけでも美味しいわよ。ちょっと渋みがあるけど、噛めば噛むほど美味しくなるわ」
「蒲焼きだけでもうまいが、この白いのといっしょだと爆発するようなうまさだな」
「これが食べ放題……ジュルッ」
「このご飯だっけ、焼き肉にも合いそうね。うち、楽しみだわ」
たくさんの感想ありがとうございました。
シンティよ、おぬしは分かっているぞ! そう、焼き肉にも米は合うのだよ。
しかし、しかしだ、ご飯に納豆、ご飯に卵、そして、極めつけがおにぎりだ。ああ、夢が広がる。もちろん、カレーもね。
30メートル級も美味しかった。
もはや、ラルタ島のあの池は、つくも(猫)の養殖場になりつつあるな。
お腹がいっぱいになり、動けない仲間達を置き去りにして、私は地下工房に来ている。
机の上には、完成したばかりの白銀に輝く鎧がそびえ立っている。
『騎士アーマー』だ。
全ての騎士が必ずするわけではないが、新しく騎士になったときは、作った鎧を王の前でお披露目をする風習がある。
今回は、新大陸の姫様の騎士であるので、当然みんなが期待している。姫が認めた騎士とはどの程度の男なのか。見定めるためだ。
しかも、そこに10層が絡んできた。古い仕来りを重んずる貴族は、ここで騎士がつまらない男だったら協力はしないと明言している者もいる。
面倒くさい。実に面倒なのだ。でも、そういう貴族ほど味方になると全力で支援してくれる。貴族とは、そういう生き物なのだ。
「かっこいいです。めちゃくちゃかっこいいです」
そこにあったのは、夢にまで見た憧れの聖衣だった。もちろん、アーマーだ。だが、私にとっては、分解装着は聖衣なのだ。
私の描いたスケッチを元に、現実的ではない部分をそぎ落としこの世界のアーマーと融合させたスタイルになっている。なので、今までにない斬新さがある。
「気に入ってもらえて嬉しいよ。私も新しいアーマーのアイデアが次から次に湧いてくるんだ」
アイデアスケッチなのだろう。分厚い紙の束が机の上に乗っている。
「これ、収納していいですか」
「もちろんだ。装着は、ここだと狭いので庭に行こうか」
「わかりました。収納!」
一瞬で消えるアーマー。ディーラさんも、もうびっくりしない。
私達が庭に出ると、食後の運動だろう、ソフィアとイディアがイグニスの手ほどきを受けていた。
「完成したんですね」
私が浮かれているので、分かってしまったようだ。ソフィアが近寄ってきた。イディアもだ。
「ここで装着を試してみることにしたんだ」
「なら、みんなを呼びましょう」
ソフィアがイディアを見る。うなずき、部屋の中に消えていった。しばらくすると、ぞろぞろと仲間達が出てきた。
「カナデ、いよいよだな」
「おいら、楽しみっす」
イグニスとリーウスは興味津々だ。
「言っておくが、これと同じのをみんなの分作る予定だからな。やり方よく見とけよ」
え、そうなの? と言う表情の女性陣。
まじっすか。やったー! という表情の男性陣。
「魔法陣展開『操作パネル』」
ブワンという感じで、腰の辺りにパネルが現れる。それを手で持って、スイッチの選択をする。神装結界を掛ければ見えなくなる。
「デモモード 選択」
パネルを収納する。
「コード展開」
ねこちゃんペンダントから黒い紐が飛び出した。それが一瞬で体に巻き付き形状が決まる。
「ディーラさん。調整お願いします」
「動いて見ろ」
「わかりました」
シャドウボクシングのようにパンチをしながらステップをする。バク転、側転、柔力、といろいろな動きをして見る。
「ももを上げるときだけ、ちょっと引っかかります」
「よし、ちょっと待っていろ」
形状記憶樹魔繊維の長さを調整する。
「よし。終わった」
うん、完璧だ!
「ここからが本番だ」
「魔法陣展開以後詠唱省略『装着』」
カタ、カタ、カタと、足の方から装甲板が転送されてコードに張り付く。
すね、もも、腰、腹回り、胸、肩、腕、手、そして最後に頭と、次々と異次元収納から転送された装甲がコードに張り付き形ができあがっていった。
時間にして10秒ぐらいだろう。全てが転送し終わり、全身に白銀の騎士アーマーを装着した私の姿がお披露目した。
「演武『再現』」
アニメの動きで演武をする。そこには、『男のロマン』があった。日本にいたときは、妄想でしかなかった事が、この異世界では現実として存在している。
「演武終了」
「……」
「まじかー。格好いいじゃねえか!」
イグニスが真っ先に反応した。意外だ!
「おれ、涙が出てきたっす」
「これ、いいわ、うち、好きになった」
「形状記憶樹魔繊維の可能性がここまであったとは……感激です」
「カナデさんだから当然です」
「私も白銀が欲しいです」
「何がどうなった! よく分からんぞ」
「私は黒 ククク」
「なら、私は緑ね」
「ぼくは大きくなってから作った方がいいのかな?」
仲間達の反応が冷静だ……。
「カナデ、いいなこれ」
「私も『ぼくも』『おれも』「うちも」欲しいー」
みんなの声が重なった。
うん、そうだろ、そうだろ、作ってもらうとも!
デモ、標準、戦闘とモードを選べるようになっている。また、装着する部分も選択できる。頭と腕をオフにすれば、チョッキのような感じのアーマーになる。普段動くときに便利だ。
標準は、コードが出てからパネルは一瞬で装着される。
戦闘は、全てを一瞬で装着する。
武器なども、パネルで選んで取り出せる。
おれは、イメージだけで全部できるが、他のメンバーには見て操作ができる物が必要なので装備してもらった。
これで、王城からいつ呼び出されてもいいように準備が整った。
つくも(猫)も欲しそうなので、猫用も作ってもらうか。
次話投稿は明日の7時10分になります




