053 火属性の魔物(1)
5月中旬5の日、日にちで言うなら15日である。
魔術学院の総合研究所環境学棟に、小さな水田が誕生した。小学校の5年生がよくやっていたあれである。そう、稲のバケツ栽培が始まった。
つくも(猫)が用意した、様々な種類の稲が植えられている。さすがのつくも(猫)も、1回ではイメージする品質にはならなかったようだ。なので、試行錯誤したときに作った品種がたくさんあったのだ。
捨てるのももったいないので、こうして研究材料になっている。人の手によって作られた美味しいお米が近い将来登場するだろう。
王城からの強制的な研究として始まったのだが、その可能性を予感した学生達の目の色が変わった。今は、あの簡易ねこちゃんペンダントを身につけて、バケツの前から動かない。
本人認証型簡易ねこちゃんペンダントは、社員証みたいな物だ。結界が付与されたドアを開けるためだけの機能しか付与されていない。ペンダント色も変えてある。そして、研究棟からの持ち出しを禁じられている。これは、本人の安全を確保するための配慮だ。
この研究には、私は積極的に関わらない。なぜなら、やり始めたら、ずっとこの研究室にいることになる自信があるからだ。今の私は忙しい。ぐすん!
今日の夜は、次の調査島『リティ』についての作戦会議がある。加護学は休講なので時間がある。図書館で調べ物でもしよう。サクラさんとジェイドは、自分のクラスにいる。後で迎えに行くか。
学院の図書館は食堂の隣にある。どの等部からも同じような距離で行けるようになっているが、高等部が一番近くて利用する学生も多い。なぜなら、専門書が多いからだ。
リティ島についての報告書を探す。前に来たときに目星は付けてある。見つけた。一冊しかない。
この世界の造船技術は発展していない。外洋を航海するような機会がないからだ。大陸の近場で漁をする小型船しかない。アステル湖にも漁船はある。だが小型だ。
観光船は中型だが、調査で使えるように設計されていない。桟橋がないと接岸できないのだ。
これでは、定期的に調査に行くのは難しいだろう。仕方がない。
調査書には、火属性の魔物が多く棲息していたことが書かれていた。そして、多種多様な魔物がいたようだ。日付は今から30年前になる。
さて、30年でどう変化しているか。こればかりは行ってみないと分からないか。
隣の席では、初等部らしい生徒がひそひそ話をしていた。聞くつもりはなかったのだが、日本にいるときによく耳にした言葉が出てきたので、つい、聴覚を強化してしまった。
「図書館の七不思議、その1、なぜがいつも高等科の生徒しかいない」
おまえらが読む本がないからだろう。
「その2、なぜか机の下によくクッキーの欠片が落ちている」
それ、そこで隠れて食べている人がいるからです。
「その3、……はないの」
ないんかい!
「その4、なぜか、床に本が積み重なっていることがある」
高い所にある本を取るための脚立が少ないからです。
「その5、閉館間近になると、ホウキのお化けが出て、「おいてけー」と追いかけてくる」
ん、それは原因が分からないな?
「その6、朝早く来ると、踊るリスのダンスが見られる」
それも理由が分からないな? 興味深い!
「その7、時々本が空間に消えていくのを目撃する人がいる」
ん、それって、次元渦巻の現象に似ているな?
「以上です。これって、結構昔から言い伝えられてきたんだけど、まだ謎を解いた人いないのよ」
最初の3つは、謎じゃないぞ!
でも、最後の3つは間違いなく不思議現象だ。時間がある時にジェイドと問答してみるか。まあ、いつになるやらだが。トホホホ……!
「作戦会議を始めます。議題はリティ島の魔物についてです。隊長、説明をお願いします」
シンティが黒板を用意した。
「今日、調査書を見た。30年前の報告だが、火属性の魔物が多種多様確認されていた」
「やっぱり、火属性魔物の島か。ジェイドの予想通りだな」
イグニスがジェイドの頭をガシガシと撫でている。その子一応王族だからな。
「多種多様って、例えばどんな魔物なんですか」
ソフィアだ。入り口の町の冒険者ではない、知らないのは当然だ。
「魔物は何々型で区分され、愛称で呼ばれていることは知っているよな」
「はい、兎型魔物は愛称がまちぼうけですよね」
「火属性の魔物は、その何々型の変異種になる。一番有名なのが、鹿型『角あり』になる」
「それなら私でも知っているぞ! 角の間から火の玉を飛ばしてくるよな」
「イディア、その通りだ。角ありは、氷魔法も使う。赤い角が『火』で白い角が『氷』だ」
この世界に初めて来たときに、火の玉で攻撃されたな。すごい強力だったぞ。
「つまり、人と同じ『属性魔法』を魔物も使う。そして、霧散するとその属性の魔石が残るんだ」
「おう、けっこう魔物の属性魔法はやっかいだ。角ありみたいに角の色で分かるやつは対処できるが、分からないやつもいる。使えないと思って舐めていると氷漬けになる事があるぞ」
イグニスの言う通りだ。そうなったら、火属性の魔法使いがいないと溶かすことができないんだよなー。まあ、魔法陣でも何とかできるけど。
「角ありの他にはどんな魔物がいるのですか?」
ソフィアは勤勉だ。
「『火鼠』『火蜥蜴』「火鳥」「火虫」かな。火鳥は飛ばないぞ。賢魔鳥と同じだ」
賢魔鳥は風の道の中でしか飛ぶことができない。羽が空を飛べるように進化してこなかった。賢魔鳥は魔物の中で唯一『風の加護』を授かっている生き物だ。
「火虫は1匹いたら100匹系。撲滅対象!」
うん、その通りなんだが……。まあいいか。
「今回は、魔法対策が必要になります」
ジェイド作戦参謀が声を上げた。
「ラルタ島は水性魔物だったけど、水魔法は使ってこなかったぞ。必要ないんじゃないか」
「イグニス、大樹の森の魔物とは違うんだよ。あいつらは1匹で強力な魔法を使うが、ここの魔物は集団だ。個々の魔法は微々たる物で使っていても気付かない」
「ああ、なるほど。納得だ!」
「そうなんです。1匹の魔法は微々たる物です。しかし、今回は火なので危険です。1匹ならいいですが100匹単位で襲ってこられたら、かなりやっかいです」
「ジェイドの言う通りだ。神装結界で防げるが、まとわりつかれたらイライラする」
顔の周りをしつこく飛び回るあいつらだ!
「火魔法だから、火で相殺するっす」
「水魔法の方が有効よ。魔法その物を無効化できるわ」
リーウスとマーレも属性魔法使いだからな。特にマーレは水魔法も使える。今回は敵無しだろう。
「この中で、水魔法が使えるのはマーレだけか」
「イグニス、どうする。今回はパーティーで動くか」
「そうだな、慣れたメンバーの方がやりやすいか」
「決定だな。『風の森』は単独行動だ。イグニスがリーダーで動いてくれ」
「了解だ!」
「さて、こっちのメンバーを考えないとな」
「『紅』と『白』が分かれるのは決定ですね。どうしようもないときは車両の中に避難です」
「ええ、戦闘型も5人位乗れるように調整できるわ」
ここが樹魔車両のすごいところだ。自由自在に伸縮ができる樹魔が車軸だから微妙な調整が可能になる。
「今回の魔物は、多分だが個々の威力は強くない。集団で襲ってくるのを防ぐには、樹魔車両が最適だ。サクラさん、そうしてくれ」
「わかったわ。任せて!」
「メンバーか、イディア、今回もソフィアとは別になるぞ。いいか」
「問題ない」
「よし、なら。剣士は組みに1人だ。水魔法が付与された魔法剣を用意した。そっちを使ってくれ」
つくも(猫)製です。半端ないです。
「紅の組みがサクラさん、イディア、エル、つくも(猫)だな」
うなずく仲間達。
「白の組みは、おれ、シンティ、ソフィア、ジェイドだ」
「わかった!」
「よし、エルおわりだ」
「これで作戦会議を終わります。各自、明日の持ち物の確認をしておくように。特に、火傷用のポーションはペンダントに収納しておくようにしてください。では、解散します」
エルは、すっかり引率者だな。
明けましておめでとうございます
本年もよろしくお願いいたします
次話投稿は明日の7時10分になります




