050 王城からの呼び出し
ソフィアお薦めのお店で、パスタとピザを堪能した私達は、隠れ家に帰ることにした。
ベニザクラ号に向かって歩いているときだった。
突然、剣を抜いた集団が襲ってきた。目標は誰だ!
緊張が走る。神装結界が発動するので命の危険はない。でも、周りを巻き込むわけにはいかない。
視線は、こちらを見ていなかった。別の誰かがターゲットだ。誰だ?
ベニザクラ号の隣に停車していた馬車に乗り込もうとしている貴族らしい男の子と女性だ。護衛騎士は3人。多勢無勢だぞ!
介入するか! どうやる! ちょっと考えてしまった。
剣を抜いた男達の足下を1匹の小さな猫がすり抜けていった。すると、不思議なことに、男達はそろって真後ろに背中からステーンと転んだ。そして、そのまま気を失った。
うん、不思議なこともあるものだ。バナナの皮でも落ちていたのだろう。
「ねこちゃん、お疲れ様」
サクラさんは全てお見通しだな。
馬車に乗り込もうとしていた貴族風の男の子と女性も、何が起こったのか分からないが、自分達が狙われたのだということは分かったようだ。男の子を抱きながら女性の方がかすかに震えている。身を挺して守ったか。
まだ、いるかも知れない。しばらく様子をみた方がよさそうだ。
サクラさん達には、ベニザクラ号の中に入ってもらい、おれとイグニスは外で待機だ。
お城の方から身体強化をした集団が走ってくる。青玉だ。騎士団だろう。誰かが知らせたな。
先頭にいるのは、アルティーヌさんだ。ということは、この人達はかなりの身分だぞ。
気絶している集団と、私とイグニスと猫を見て、全てを察したようだ。こちらに軽く頭を下げ、貴族のところに向かった。
「おけがはありませんでしたか」
跪き、安否を聞く。
「アルティーヌ、大丈夫だよ。メリーデが震えている。慰めてあげてくれないか」
「わかりました。他の護衛剣士達はどこにいるのですか」
「わからない。気がついたらいなかったよ」
アルティーヌさんのあの対応、王族か! それもエレウス王関係の……。
アルティーヌさんは用心深い。無闇に名前や身分が特定される言い方で呼ばないはずだ。
「カナデ、あいつらがああなっているのはおまえが何かしたのか」
「やったのは猫ですよ」
「そうか、猫殿! お礼は王より賜ると思います」
「ニャーゴ!」
猫がご機嫌だ。何を企んでいる!
その日の午後、異例の対応だ。こんなにも早く知らせが来ることはまずない。それも、ナツメさんを通しての緊急だ。
エレウス王城から、呼び出しの通知が来た。
宛名は、カナデと猫殿となっていた。それも、登城は明日の午前中だ! 5月初旬の最終日になる。
ジェイドに相談しよう。
「ジェイド、何着ていけばいいの?」
「宛名がカナデさんとねこちゃんです。呼び出しも急です。そのままの姿で大丈夫ですよ」
「ジェイド、いっしょに行ってくれないかな。不安だ!」
「招待されていませんし、私も一応王族なので無理です。それに、ねこちゃんがいっしょですから大丈夫ですよ」
だから不安なんだよ! 絶対に何か企んでいる。そういう鳴き方だったんだよ。
* * * * *
あっという間の次の日が来た。全く眠れなかった。
「つくも(猫)、変なこと考えていないよね」
魔動車の中で確認する。
「大丈夫だ。任せておけ!」
だから何をするのか教えて!
何も言わない猫がご機嫌で尻尾を振っているのをチラチラ見ながら、王城正門に着いた。
こんなに早くここに来ることになるとは思わなかったよ。
正門前でアルティーヌさんが待っていていくれた。召喚状を見せる事もなく、そのまま王城に入ることができた。
案内されたのは、どうやら王族の居住区らしい。
部屋の前には護衛騎士が2人もいる。いったい誰が待っているの。
「王子、カナデ様が到着しました」
王子! マジですか~。あの男の子か!
「入ってもらって」
かわいい男の子の声がした。
ドアが開くと、そこには昨日の男の子と、身を挺して守ろうとした女性が待っていた。さらに、その後ろには、聡明さを隠そうともしない知的な男性と美しい女性が立っていた。
「カナデ様、猫様、昨日は、ぼくとぼくの大事な人たちを守ってくれてありがとうございました」
そう言って、その小さな男の子がかわいい頭をちょこんと下げた。
「気にするな、ただの気まぐれだ!」
うわ、猫がしゃべっちゃったよ。大丈夫かな?
一斉に、跪こうとする関係者!
「その行為は必要ない。俺様は今ご機嫌だからな!」
猫が尻尾を激しく振って、ゴロゴロしている。
「神獣様、探求者様、自己紹介が遅れました。私はエーデルシュタンと申します。エレウス国の王です」
「わたくしは、クリューリソスです。この子の母です」
王妃様って事ですね!
「ご挨拶が遅れました。わたしはトパシオスと申します」
王子の名前はトパシオスだった。
初等部の王女様はたしかエルサラスだったな。今はいないけど、どうしたのだろう?
「神獣様、探求者様、どうぞおかけになってください」
うう、こそばゆい! その言い回しやめて!
「普通に話せ、こいつはそういうのに慣れていない」
ありがとう、つくも(猫)!
「では、遠慮なくそうさせてもらうぞ」
うん、それでいいです。
「カナデ、おまえは騎士か」
「はい、そうです」
「ならば、いつか騎士アーマーのお披露目もあるのだな」
「はい、今制作中です」
「わかった。準備ができたら知らせてくれ、頼みがある」
「その事で1つご相談があります」
「ん、なんだ」
「陛下にも、私と同じ機能が付いたアーマーを進呈したいのです」
「なぜだ」
「陛下の頼みと関係があります。抵抗貴族達への派手な牽制をします」
「……」
「アルティーヌよ、おまえの言った通りだな。話が早くて助かるぞ!」
「あの姫の騎士です。これぐらいでないと務まりません」
「確かにな。わははははは」
「で、どんな機能が付く」
「詠唱で瞬時に体に装着します」
「……」
「すまん、イメージができん」
「ベニザクラ号の変形と同じ技術を使っています」
「……」
「機密契約した方がよいのか」
「誰にも真似できませんから、必要ないですね」
もはや、次の言葉は出ないようだ。
「王よ、もう話はすんだか。では、お礼の要望を伝えるぞ」
「……」
ごめんなさい。あまりにもストレートな言い方だよ。神は冗談言わないから許して!
「ここから東に50キロメートル程離れた場所に湿地帯がある。そこの開墾許可を希望するぞ!」
おうー。そういうことですか。なら私も協力しようじゃないか!
「陛下、これを見てください」
アイテムボックスから昨日の原始の稲を転送してテーブルの上に置く。
「なんだこの草は、馬にやる餌に似ているな」
「はい、多分そうです。そして、これが大量に棲息しているのがその湿地帯です」
「この草にどんな価値があるのかな」
「このままではただの家畜の食べ物です。でも、つくも(猫)の神力で品種改良を重ねていくと、小麦と同じ価値を持つ穀物になります」
王の顔が為政者の顔になった。
「その穀物で、どれぐらいの人が養える。また、どのぐらい保存できる」
さすがだ!
「大規模な栽培ができるようになれば、エレウレーシス連合王国全ての民に行き渡る量の収穫も期待できます。保存期間は、味を気にせずに食べるだけなら、5年はいけるでしょう」
「湿地帯でないと駄目か」
「それは、育ててみないと分かりません」
「……」
「わかった、その栽培にかかる全ての経費は王国が負担しよう。また、人材も出そう」
「うむ、よい判断だ! 賢王よ」
「父様、それでお礼になるのですか?」
王が私達を見た。
「王子、これが今の私達が望むものです」
不思議そうな顔をする王子。今度、カレーライスを食べさせてやろう。きっと、今の言葉の意味が分かるだろう。
こうして、謁見? は終わった。
米の生産にもめどが立った。うれしい。米だ!米が食べられる。こんなに嬉しいことはない。
国王陛下の新たな採寸は必要ない。すでに詳細なデーターがそろっている。それをもらい、後は出来上がったときに装着の練習をすることにした。
そのまま、素材加工所にいるブラキオのとこへ行った。猫が命令した。「まんまるの素材を確保せよ」と、びっくりして固まっていたが、6メートル級が3体ほど出たところで覚醒した。
加工した素材は、私が全て引き取るということで契約は成立した。5体の処理費は500万円ぐらいだろう。売れば4000万円ぐらいになるのだが、今の私には必要ない。お金は貯まる一方で使う暇もないのだ。
明日から、5月中旬が始まる。ここまででもかなりいろいろなことが起こっている。さて、次の旬は、どん事が待ち構えているのだろうか。
次話投稿は明日の7時10分になります




