005 魔動波通信機
『大樹の森編』の続編になります
明日から3日間、キリヤ島で過ごす事になった。キリヤ島は、アステル湖の南西にある小さな島だ。
魔術学院は、その島から100キロメートルほど行った森の中にある。
「カナデどうする。俺達と一緒に狩に行くか」
イグニスが聞いてきた。確かに夕食まで時間がある。
「わるい、ちょと周りの様子をみてくる」
魔石の設置をしなくてはならない。昨日はできなかったので2つ設置しなければいけないのでちょと忙しいかも知れない。
「わかった。でだ、あの猪は、魔物じゃないんだな」
「ああ、普通の動物だよ」
「そうか、通りで弱いと思ったぜ」
「魔物もいるはずだよ。でも、数が少ないのかも知れないね」
「ああ、そいつもいっしょに探っておくよ」
「そうしてもらえると助かる」
お昼を食べ終わったら、一応真色眼で確認はしておくか。
食料の心配はない。イグニスもシンティも夕飯用の弁当を二人前平らげていた。どうやら、ドワーフ族の食事は、人族の2倍用意しておかないといけないらしい。うん、勉強になった。
真色眼で、半径10キロメートルの範囲を確認する。大型の魔物が数匹察知できた。それをイグニスに伝えておく。
サクラさんは休憩だ。明日も300キロメートルの移動になる。それに、明日のルートは湖の上だ。つくも(猫)はサクラさんの護衛をしてもらう。
イグニス達は狩だ。大物の魔物は持ち帰れないのであきらめることになるだろう。
シンティとエルはユニット工房の準備をしている。これから何かを作るらしい……。いったい何を作るのだろう。
さて、おれは魔石の設置だ。ここから300キロメートル程戻ることになるが、神装力の風の道を使えば1時間ほどで行けるはずだ。
「神装力第三権限開放」
「神装結界 認識阻害 風の道 発動」
透明な風の渦が数キロメートル先まで続いている。はずだ!
恐る恐る渦がある場所に飛び込んだ。
緑色の絨毯が足下に広がっていた。
「さて、ここらへんでいいか」
ピタッと減速なしで止まる。いや、どうしてこうなるの。本当に不思議だ。
一番高い魔木を探す。うん、あれだな。
跳躍をして、一気にてっぺんまで駆け上る。
「定時連絡の時間じゃないからな。たぶんつながらないだろうな」
そう思いながらも、試すだけ試すことにした。
「もしもし、ツバキさん聞こえますか。カナデです」
待つこと15秒ほど……。
「もしもしって何よ。何のおまじないなの」
ツバキさんが出た。いやお化けじゃない電話に出ただ。
「通信するときの切っ掛けですよ。もしもし聞こえますかーって、確認するんです」
「ふーん、そうなの」
いや本当は何なんだろう。おれにも分からない。
「昨日はちょっといろいろあって、連絡できませんでした」
「ええ、大丈夫よ。何があってもあなたとねこちゃんがいれば問題ないってわかっているから」
この信頼感はありがたい。本当にやりやすい。
「そのねこちゃんのことが、イグニス達にばれました」
「別にいいじゃない。いずれ話そうと思っていたんでしょ」
さすがだ。全部お見通しか。
「まあ、そうなんですけどね。つくも(猫)はイグニス達の胃袋をつかみましたね」
「ああ、なるほど。ねこちゃん、私の所にある料理本、全部暗記していたものね」
なに、そんなことをしていたのか。まあいいけど。
「この旅の間の料理長になりました」
「さすがはイグニス達ね。順応が早いわ」
「はい、本当に助かります」
「こればっかりは,ラウネンの見識を褒めるべきね」
あのゴリラか。まあ、タヌキでもあるからな。
「で、今日はもう一つ、今いる場所の近くに設置します。その時は、サクラさんもいっしょに連れて行きますね」
「ええ、分かったわ。父に伝えておくことあるかしら」
「今のところ、私からはないですね」
「ええ、じゃあ、今夜は定時連絡になるのね」
「はい、大丈夫だと思います」
「ありがと。じゃ、今夜またね」
「はい」
電話なら「ガチャリ」の効果音が入る場面だな。
さて、帰るか。
ベニザクラ号に戻ると、何やら騒がしかった。イグニス達が帰ってきているようだが、それにしてもにぎやかだ。
「なんだこれは、何に使うんだ」
イグニスが何やら四角い箱の前でうなっている。
「焼き肉用のコンロみたいなものですよ」
エルとシンティがどや顔だ。
なるほど、これを作っていたのか。でも、日本のバーベキュー用のものに似ているぞ。
「あ、カナデ帰ってきたの。どう、これ、ねこちゃんに相談したらこんなすごいのになったのよ」
納得だ。つくも(猫)の入れ知恵か。
確かにいいできだ。金網も完璧だ。炭を入れる場所も2つに分かれている。これなら、強火と弱火など、肉の部位ごとに焼き方を変えられる。肉を冷ます場所もある。空気の取り入れ口も最適な場所だ。それに大きい、畳一畳ぐらいの大きさだ。
「うん、これならいい肉が焼けますよ。これから早速試し焼きですね」
みんながつばを飲み込んだ。昨日の肉の味を思い出したのだろう。
さて、今夜からしばらくは焼く肉料理が続きそうだな。焼き肉のタレ、どうやって作るんだろう。今度つくも(猫)に聞いてみよう。
イグニス達が仕留めてきたもう一頭の猪と鹿がいた。今夜は鹿肉なんだろうか?
湖に魚いるかな。魚も久しぶりに食べてみたいな。
王都までの旅は今日で4日目だ。うん、順調だよな。
次話投稿は明日の7時10分になります




