048 王都の自由市(2)
お店の前で、さて次はどうしようかと考えていると、
「カナデさん、もう終わったんですか」
目の前に、ソフィアとサクラさんがいた。どうやら様子を見に来てくれたらしい。
「はい、採寸だけですから。直ぐ終わりました」
「すみません。食事の予約をしていたので遅くなりました」
「気を遣わせてしまい、すみません。服の注文で何か気になることはありますか」
「前来たときにしっかり伝えてありますので大丈夫です」
よかった。なら、何の問題もない。
「ジェイドはどうしましたか」
「イグニスが付いているわ。心配ないわよ。まだお昼まで時間があります。みんなで町の見学をしましょう」
確かにいい考えだ。ソフィアに案内してもらうか。
「ソフィア、お勧めの場所ってありますか」
「そうですね、他国の人が集まっている市場みたいなところがあるんです行ってみますか。カナデさんが探している物があるかどうかはわらないですが……ただ、ちょっと治安が悪い場所でもあるんです」
なんですとー! そんな場所があるのですか。治安なんて関係ないっす。行くっす。
「行きましょう! 今すぐに! 風の道使いましょうか?」
しまった! 浮かれすぎた。引かれたか?
「風の道はやめた方がいいですね。きれいなんですが、ここでは目立ち過ぎます」
何でこんなに冷静なんだろう。この子は!
「なら、私の風の道使いましょうか?」
「……」
「すみません。ちょっと我を忘れました。いったん落ち着きましょう」
魔動車があったよ。こういう時に使わなければ。
「魔動車で行きましょう」
あー、そうだったという顔の2人。
アイテムボックスから魔動車を召喚する。
そこは活気に溢れている場所だった。確かに、だいぶ怖そうなお兄さんお姉さん達がたくさんいる。日本で言えば、フリーマーケットが一番近いイメージだろう。
ここの人たちは、『自由市』と呼んでいた。
地面に敷かれた絨毯のような物の上にそれなりに整理されて品物が置かれている。幅5メートル長さが300メートルぐらいだろう。結構長い道の両脇にいろいろな店が並んでいた。
「ソフィア、いい場所だね。ワクワクしてくるよ」
「カナデさん、私もです。魔物の見本市みたいです」
サクラさん、怖そうな人たちと魔物を一緒にしないでください。でも、入り口の町にはいないタイプの人たちだ。サクラさんにとっては珍しいのだろう。
「おう、そこのひょろっとした兄ちゃん。かわいい女の子連れているじゃな……? あれ、女の子だよな。おかしいな、よく分からないぞ」
うん、簡易認識阻害が正常に発動しているぞ! これ便利だよ。
頭の上に? マークを載せ、目をこすっている怖そうなお兄さん達の前を素通りしていく。
本当にいろいろな物が売られている。食べ物関係も結構ある。これは期待できるぞ。
「カナデさんが探している物って、どんな物なんですか」
ソフィアがキョロキョロしながら聞いてきた。
「『米』『みそ』『醤油』『みりん』というものなんだけど、説明が難しいな。米は白い穀物で、麦の実と同じぐらいの大きさだよ」
「分かりました。注意して探してみますね」
つくも(猫)が探してもないのだから、なかなか手強いよな。
「兄ちゃん、いい服着ているじゃないか。どこの国の生地かな」
言えません!
「遠い国らしいです。私にも分からないんです」
「なんだ、残念だね」
「兄ちゃん、どこの貴族なんだい。こんな場所にいたら危険だよ」
怖そうなお姉さんが親切に教えてくれる。
そうか、この服ではこうなるな。場に合った服も必要だよ。ソフィアの言う通りだ。
(簡易認識阻害発動、適応今着ている服)
これでよし!
「カナデさん、米かどうかはわらないんですが、家畜用の食事を売っているお店に、それらしいのがありますよ」
なんですとー! 行きます。直ぐ行きます。
「分かりました。行ってみましょう」
「なんだい、また来たのかい。こんな雑草に何のようだい」
家畜用の餌が山ほど積まれていた。その中に、確かに穂をつけている草がある。緊張する。
「この草の固まり、売ってください」
いかん! 足下見られるかも。
「売るもなにも、こんなの湿地にいくらでも生えているだろ。まあ、買ってくれるなら嬉しいけどね」
「もちろん買います。こんな草に興味があるんですよ。それと、その湿地ってここから遠いんですか」
「そうさね、歩きだと遠いが、魔動車なら1時間半ってところだね」
ここの魔動車はだいたい時速30㎞位だ。つまり、道のりで45キロメートル! 近い。
「ありがとうございます」
全部買ってもいいけど、「どうやって持っていくんだ」になるからな、次元箱に入るだけだ。
そっと、中型の次元箱をアイテムボックスから転送した。
時間はそろそろ12時になる。急がないとみんなを待たせてしまう。
次元箱に詰め込めるだけ詰め込んで、お金を払ってすたこらと退散することにした。
もし、米ならすごい収穫だぞ。早速帰って、つくも(猫)と検証だ。
はやる気持ちを抑えて、待ち合わせ場所まで魔動車を飛ばす。
既にみんなが集まっていた。
ソフィアとサクラさんが予約をしておいてくれたので、待つことなく入店できた。
お店はパスタやピザなども食べられる少し高級な場所だった。
店内に入ると、何やら少し騒がしい。
「おれたちはこの場所がいいって言っているんだ、席なんて、早い者勝ちだろう。早くメニューを持ってこい」
どうやら、店員とお客が揉めているらしい。どこにも迷惑な奴らはいる。関わらないでおこう。
「すみません。予約席に他のお客様が座ってしまって、動いてくれないんです」
マジですか。こっちに飛び火したんですか。
座っている奴らを見た。見覚えがある。キリヤ島で見た奴らだ。テロピールはいないようだ。残念!
なら、遠慮はいらないな!
「サクラさん、面倒だから拒否権発動しますか?」
「そうね、やっちゃいますか」
サクラさんの簡易認識阻害を解除する。
「なら、私達も!」
ソフィアとイディアも解除した。
「そこはサクラシア様が予約した席なんだが、なぜおまえ達が座っている」
私がそう声をかけると、テロピールの取り巻き達が一斉にこちらを見た。
「な、桜色の髪の毛」
「エルフ……」
「なんで、ソフィアがいる」
顔が真っ青になっていく。イグニスが軽く威圧を飛ばした。
「ひぃー、なんだよ、やるのか……」
泣きそうな顔で声を絞り出す。
「他のお客様の迷惑です。それでもカロスト王国の剣士ですか。情けない」
「お前らの顔はよーく覚えたぞ。テロピールに伝えておけ、おまえはボン様の獲物だから、おれたちは手を出さないつもりだが、ソフィアに何かして見ろ、お前らを敵として扱うとな」
「ひー、知るか! おれたちは関係ない巻き込むな!」
取り巻き達は、一目散に逃げていった。
つくも(猫)の認識阻害で壁を作ってあったので、周りの客は何が起こっているのか分からない。不思議そうにこちらを見ていた。
「さて、害虫はいなくなりましたので、美味しい食事を楽しみましょう」
ソフィアがにっこりとして、そう宣言した。
日本で言うならイタリアンレストランというところか。ソフィアが予約を取ってくれたお店は、おしゃれな店内にチーズが焼ける臭いがするパスタとピザのお店だ。
他の客から少し離れた場所にある特別席は、王都の町並みが見える見晴らしがいい景色だった。
「イグニス、駆除隊の方はどうなった」
「行くには船が必要だからな。直ぐにとは行かねえな。だが、危機感は伝わったと思うぞ」
「たぶんだが、あの5つの島は全部、限界に来ているぞ。もし、あふれ出てくるようなことになったら、やばいな」
「ああ、ギルマスもそこを心配していたな」
「樹魔車両がたくさん必要になりそうだな」
「カルミア様にも伝えておいてくんねえか」
「わかった」
料理が運ばれてきた。つくも(猫)はサクラさんの近くで尻尾を激しく振っている。味を期待しているみたいだな。
「ジェイドは何を買いに行ったの」
サクラさんが気になるようだ。おれも気になるけど!
「お礼の小物です。数が多いから大変でした」
「……?」
何のお礼ですか?
「ジェイド、あいつらのか!」
イディアが知っているようだ。
「はい、情報を集めてくれた子達です」
う、それってもしかして……
「次のレオーフ州国戦でもきっとお世話になりますからね。先行投資ですね」
多言語翻訳君、本当にそういう意味なんですね。子どもが使う言葉じゃないよね。
「あージェイド、領収書あるかな。それ、経費で落とすよ」
全員がうなずいた。
「カナデさんは何か収穫があったんですね」
なぜ分かる?
「だって、いつもよりテンションが30%ぐらい高いですよ」
なぜ、おれが考えていたことが分かる。
ソフィアがうなずいている。おまえもそう思うんだな。
「よく分かったな、つくも(猫)、ちょっとこれ見てくれ」
アイテムボックスから、穂が付いた草を1本テーブルの上に転送した。
ぴくっ、つくも(猫)の髭が動いた。ここまでの反応は珍しい。ビンゴか!
「原始の稲だ! でかしたカナデ!」
「まじですか! ソフィアありがとう! おれたちが探していた物だよ」
猫がテーブルの上で尻尾を振りながらお尻フリフリダンスを踊っていた。
「そうかー、原始で指定しなかったから反応しなかったんだ」
できるだけ具体的なイメージをしないと、おれの真色眼は発動しないのだ。
「で、つくも(猫)、原始って事は、品種改良が必要なんだね」
「ああ、さすがの俺様でも、数千年の歴史になる改良になるからな、時間はかかるな」
待ちますとも、10年でも20年でも待ちますとも!
「まあ、3日だな!」
「……」
神様舐めていました。すみませんでした。
「それ、ここから30キロメートル程離れた湿地帯にいくらでも生えているって言ってた。これ売ってくれたお店の人が……」
「そうか、明日行ってみるか」
これで、丼物が食べられるかも知れない。それに、焼き肉には米だ。そして、カレーはカレーライスにしないとカレーの神様にきっと怒られる。
あとは、味噌に醤油にみりんかー、条件変えていろいろ探ってみるか。
あ、すまない。テンション高すぎたね。
みんながジトーとした目で見ていた。
「イグニスよろこべ、すごくうまいもんが食べられるぞ」
つくも(猫)がらみのうまいものだ、当然期待できる。みんなの口の中に、じわーと再現された味が湧き出てきた。
「ソフィア、ありがとう。すごく美味しかったよ」
「はい、まだ、お薦めのお店はたくさんあります。まかせてください」
「では、帰りましょうか」
サクラさんがそう言って、店のドアを開けた。
外に出ると、5月の爽やかな風が花の香りを運んできた。
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