047 沈黙の精霊結晶
毒性植物魔物の島は、もう生態系の限界を越えた場所だった。限られた魔物が密集し、誰が捕食者の頂点なのかもはっきりしていない、混沌とした世界だ。
その種族に共通した何かかあれば、共倒れで絶滅するだろう。そうなる前に、人の手による大がかりな駆除が必要だ。
イディアとマーレが精霊結晶の欠片を見つけたその場所は、まさに駆除が行われた場所だった。もしかすると、必然だったのかも知れない。
「全員、集まりましたね。状況の確認です」
司会はエル。今回は黒板は無し。
「ここは、イディアが欠片を見つけた場所です。『白』の組みで他にもないか探しましたが見つかりませんでした」
イディア、シンティがうなずく。
「『紅』の組みも同じです。マーレが見つけた欠片以外は見つかりませんでした」
マーレとイグニスがうなずく。
「どちらにも共通しているのが、魔物の一掃をしたことです。地面が見えたことにより、欠片を見つけることができました」
「だとすると、つくも(猫)が一掃したところにもあるかも知れないな」
「そうですね。とにかく、いったんそこに戻りましょう」
サクラさんの提案は命令と同じである。異議なし!
「ベニザクラ『白銀』高速移動型よ」
一瞬で合体した。どんどん進化していく。
「風の道」
ベニザクラ号が静かに浮き上がる。目指すのは東海岸付近のサークルだ。つくももそこにいるようだ。
「止まります。降下」
ピタッと止まり、静かに地面に向かって降りておく。着地と同時に通常型に一瞬で戻る。
「ちょっと、休憩ね。簡易宿泊型にしておくわ」
変形が終わると、サクラさんはペンテ達がいるユニットにいくために次元渦巻の中に消えていった。
いつの間にか、隣につくも(猫)がいた。
「だめだな、本体の場所が分からない。それらしい場所もないぞ」
「ソフィアが何かを感じてくれれば探せると思うんだけど、さっき触った感じでは分からなかったようだよ」
「考えられる原因は3つだな」
「うん、おれといっしょだね」
「ぼくも3つです」
なぜかソフィアがこちらを見て、何かを納得したようにうなずいていた。なんだろう?
この場所に欠片はなかった。もし、あったとしても、今は異次元収納の中だろう。
「作戦会議を始めます。隊長、状況の説明をお願いします」
「本体の場所が分からない。ソフィアが触っても声は聞こえなかったようだ。考えられる原因は3つだ」
ジェイドに合図を送る。黒板に原因を書き出す。
「今、ジェイドが書いてくれたが、1つ目は、本体に何かがあったになる。何らかの原因で消えてしまった。または、意志を保てないほどバラバラになってしまった事が考えられる」
ソフィア、そんな顔をするな。多分これはない。
「2つ目だ、本体が休眠状態である。つまり、寝ているということだ。世界樹といっしょだな」
ソフィアに笑顔が戻った。うん、それでいい。
「3つ目だ、本人の意志で心を閉ざしている。置いて行かれて迎えにも来ないと、ふてくされているということだ。おれは、この可能性が一番あると思う」
全員ががっくりとした。でも、確かにあり得るという表情だ。
「カナデさん。それだと、もう探せないということ?」
サクラさんが首を傾げる。
「方法はある。みんな、持ち物に自分の楽器を持ってくるように言っておいたよね」
「ええ、レオーフ州国王太子戦の練習ですよね」
どうせ夜は暇だから、楽器演奏の練習をしようと言うことになっていた。
「閉ざした心を開く方法は、古来から決まっているんだよ。歌と踊りだ」
天照大神が閉じこもった天岩戸を開かせたのは、女神アメノウズメの踊りだ。そして、扉をこじ開けたのはアメノダチカラオの怪力だ。
今、ここに、それができる逸材がそろっているのだよ。
「イディア、剣舞できるな」
「もちろんだ! だが、それがどうした?」
「おれたちが楽器で演奏をする。それに合わせて舞え!」
「よくわからんが、了解した。任せろ!」
「サクラさん、歌ってくれますか」
「何を歌えばいいの?」
「コンサートで歌ったのです」
「ああ、あれね。いいわよ」
天使の歌声なんだよ。みんながうっとりしたからな。
「イグニス、身体強化『剛力』だ。反応があった場所につくも(猫)と飛んでくれ。そして、どこかに隙間があったら手を突っ込んでこじ開けろ!」
「おう、任せとけ!」
「ソフィアは、欠片を握って、反応があったらつくも(猫)に場所を示してほしい」
「わかりました。任せてください」
「マーレ、木魔法『開花』の発動準備をしておいてくれ。入り口が開いたら、おれとソフィアといっしょにそこへ行き、結晶の心を癒やしてほしい」
「分かった。開花用の種はあるの」
「シンティが持っている。もらっておいてくれ」
「了解!」
「よし、おれたちも演奏の準備だ。曲は、生き物を応援するあの曲だ!」
子どもの時ワクワクしながら見ていた。大自然で暮らす生きものたちの姿を豊に紹介する番組のエンディングテーマだ。落ち込んでいる人を励ます曲でもある。
準備は整った。それぞれが配置につく。
『世界樹の横笛』をアイテムボックスから取り出す。この笛は、神力を込めて吹いても耐えられる素材でできている。つくも(猫)がそう言っていた。
「本当に寝ているかも知れないからな。まずは目覚めてもらうとするか」
横笛に唇を当てる。目覚めの曲は何にしようか。軽快な曲がいいだろう。
「神装力第三権限開放 『神力波発動』」
神力を込めた音色が波紋で広がって行った。毒性植物魔物達は皆触手を幹に巻き付け葉を閉じ恐怖する。
島全体が静寂に包まれた。
「かすかに反応がありました。寝ぼけていますね」
「やっぱり、ふて寝をしていたか」
ソフィアが花が咲くように笑った。精霊達が集まってきている。楽しいことを嗅ぎつけたようだ。陽気な奴らだ。
「よし、演奏を開始するぞ!」
指揮者はエルだ。やっぱり学校の先生みたいだ。
演奏が始まった。優しいメロディーが伝わっていく。
サクラさんに目で合図を送る。うなずき歌い出す。
天使の声が、波になって広がっていく。精霊達がうっとりとしている。
イディアに合図を送る。
曲に合わせて、剣技の演武が始まる。魔法陣展開の術式が美しく空間に咲いた。
演奏が続く。歌声が響く。演武が舞う。
ピコン! 反応があった。青玉だ!
「いました。ここから30キロメートル、島の中央です」
「つくも(猫)お願い」
「任せろ! イグニス飛ぶぞ」
「ちょっと待ってくれ、心の準備が……」
尻込みしているイグニスを、無理矢理風の渦に放り込み飛んで行った。
ズドーン! 大きな岩が空中に浮かんでいた。そして、海の方に飛んで行った。
「マーレ、ソフィア、飛ぶよ」
銀色の風の道が島の中央に向かっている。3人でその渦に飛び込んだ。
巨大な穴が開いていた。縦坑のトンネルがずっと下まで続いているのが見えた。
「あの中です」
ソフィアが指さす。
「入ってみるか。お邪魔しまーす」
ゆっくりと降下していく。つくも(猫)もついてきている。イグニスは上に残ったようだ。
いた。緑色の精霊結晶だ。
まだ、寝ぼけているようだ。反応が弱い。
「マーレ、開花だ」
「任せて!」
マーレが花の種を精霊結晶の周りに蒔いた。
「木魔法『発芽』『成長』『開花』発動」
「魔法陣展開『満開』重ねがけ」
種から芽が出て、本葉が出てどんどん伸びていく。蔓系の植物も混じっている。
「木魔法『蔓誘導』発動」
蔓をアーチのように編んでいく。精霊結晶の周りに美しい満開になった花の柵ができた。精霊達が大喜びをしている。
「反応が強まりました。喜んでいます」
集まった精霊達のおかげだ。ありがとな!
「ソフィア、今ならいけるか」
「はい、たぶん!」
ソフィアが近づき、そっと精霊結晶に触れた。
シュパーン! 光の線が打ち上がった。
時が止まった。
樹魔車両が転送されてきた。いつの間にか通常型に戻っている。
ドアが開き、女神エスプリさんが登場した。
「早かったわね。ちょっとびっくり!」
「これからちょっと忙しくなりそうなので、前倒しです」
「でも、助かるわ。ありがと」
笑顔がサクラさんそっくりだ。まあ、モデルがサクラさんだから当然か。
「この子、よく探せたわね。一番大人しい子だったのよ」
拗ねているんじゃなくて、引っ込み思案の方だったか。
「サクラさんの歌とマーレのお花やイディアの舞で他の精霊達が大喜びしていましたから、つられたんですね」
「精霊達も戻ってきたのね。よかったわ」
「ここの生態系はもはや限界です。人の力で適正化したいのですが何か問題はありますか」
「ないわね。もう、とっくに私の管理外よ」
「分かりました」
「エスプリさん。他の精霊結晶達の情報ってありますか」
「うーん、『火』は、やんちゃだった気がするわ。『土』は、慎重だったかな。『金』は、変人ね」
ん、誰かの姿とかぶるぞ。嫌な予感がする。
「……個性豊かですね。探すのが楽しみになってきました」
「じゃ、あなたたちも忙しそうだから行くわね。あのお花も貰っていっていいの」
「どうぞ、マーレも喜びます」
「ありがと! えっと、ちょっと待ってね……、はい、他の欠片も集めておいたわ。預かっておいてね」
緑色の欠片が数十個、地面の上に置いてあった。
「9層の結界に入れるのは、白銀の実を食べて、さらにこの欠片を持っているという条件ですよね」
「ふふふ、その通りよ」
だよな、気前よく渡すということは、条件が重なるということだ。じゃないと、誰でも入れることになる。
「じゃ、次の子もよろしくね」
女神エスプリ様は、緑色の精霊結晶とお花を連れて樹魔車両の中に入ってしまった。
さて、また、サクラさんを迎えに行って貰わないといけないな。
つくも(猫)を探すがいなかった。
時は動き出していた。
ソフィアの目の前から、精霊結晶とお花が消えている。2回目なのでびっくりはしていないが気にはなる。あった場所を手で探っている。
マーレは、お花はどこだとキョロキョロしている。
やがて、サクラさんがつくも(猫)といっしょにやって来た。本当にできる猫だ。
仲間達が心配しているだろう、早く戻ることにしよう。地面に置かれた精霊結晶をアイテムボックスへ転送する。女神は言った。「預かっておいてね」と、つまり、10層に行ったときに、この欠片が必要になるということだ。
「風の道」
ベニザクラ号が静かに浮かび上がった。縦坑を登っていくと、イグニスがいた。お疲れ様だよ。でも、いい仕事をしたじゃないか。
置いていくのもかわいそうなので、イグニスと合流をする。
仲間が待つサークルに向かって風の道が延びていった。
次話投稿は明日の7時10分になります
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