045 脳筋剣士
ベニザクラ号の車内は和やかだった。ここが危険な島だということを忘れてしまったような雰囲気だ。
大樹の森でも、ベニザクラ号の中だけは別世界だった。私もすっかりそれに慣れてしまった。それが間違っているとは思わない。
なぜなら、それが私とつくも(猫)の願いだったからだ。サクラさんがいる場所は、この星で一番安全な場所であってほしいと。
だが、今は少し違ってきた。仲間が増えたのだ。私とつくも(猫)が心から守りたい仲間がたくさんできた。こんなに嬉しいことはない。
「エル、作戦会議だ! 状況が変わってきた」
リビングに全員が集まった。11人と1匹がいる。ここもずいぶん狭くなった。
「緊急作戦会議です。隊長報告をお願いします」
「ちょっと、様子をみてきた。おれの真色眼で確認したら、この島は『毒性植物魔物』の島だということが判明した」
全員が顔を見合わせた。さっきまでの和やかな雰囲気はなくなった。
「どんなやつらだ!」
イグニスが風の森リーダーの顔になった。
「棘がついた蔦で襲ってくる。上からも下からもだ。そして、その棘にはきっと毒がある」
「蔦持ちはそいつだけなの」
マーレだ。
「わからない、様々な種族が蔦を含めた特技持ちだと考えよう。特定は困難だな」
「毒はやっかいっすね。状態異常無効化はどの程度有効っすか」
「それも未定だ。神力でも絶対はない」
「ξιθΣΘηρφωξΞの技術に関しては絶対だぞ! だが、俺様の付与に関してはまだ未熟だ。認めよう」
最初の方は神語か、翻訳できなかったな。
「神装結界は絶対でいいだろう。だから、基本結界を張って行動する。たしか、全身に纏う結界を発動できるのがおれとサクラさん、ジェイド、ソフィア、リーウス、クエバだな」
「カナデさん、纏えますが長くは無理です」
ソフィアさんがすまなそうに申告した。何人かがうなずく。
「となると、やはり物理的に切るしかないか……」
脳筋剣士を見た。ん、なんだ、やるのか! という表情だ。
「イディア、これからとても大事な事を聞くぞ。よく考え、そして、正直に答えろよ」
「……」
「おまえはソフィアの護衛だ。一番優先されるのはソフィアだな」
「当たり前だ。考えるまでもない!」
「だいぶ意地悪な質問をするぞ! なら、おれたちは何だ」
「……う、それは、仲間だと思っている」
「どっちが大事だなんていうバカな質問はしないぞ。だが、軍隊での作戦行動だったらどうする」
「……くっ、嫌な質問だな! 今は学生だわからん!」
苦虫を噛み潰したような表情だ。本当は、答えがわかっているのだろう。
「わかった。悪かったな意地悪なことを言って」
ふん、とそっぽを向かれた。
「イディア、頼みがある。おまえの仲間を守ってくれないか」
「……?」
「蔦は剣で切ると動きが止まった。再生もしなかった。そして、攻撃もやんだ。つまり、切ってしまえばいいということだ」
「私は誰と組めばいいのだ」
これからは脳筋剣士とは呼ばないようにしよう。イディアは冷静な判断ができる大事な仲間だ。
「シンティの組みに入ってくれ。サクラさんの所にはイグニスがいる。おれの所にはソフィアがいる。剣士がいないのはそこだけだ」
「了解した。カナデ、ソフィア様をよろしく頼む」
「ああ、任せろ。絶対に守ってみせる」
「つまり、襲ってくる奴らを全て切ってしまえばいいって事だな」
イグニスが鞘をさすりながら上唇を舐めた。
「ああ、遠慮はいらない。もう、この島の生態系は限界を超えている。いずれ、大がかりな駆除が必要になる」
「カナデ。魔石は取れるの」
シンティが気になるようだ。
「それもわからない。植物だからな。基本、活動停止はない。霧散したときはきっと魔石を残しているはずだ。それで判断だな」
「分かったわ」
「本当に危険なときは、瞬間自動神装結界が発動するから安心しろ。この力は絶対に間違いはない」
「うむ、俺様も保障しよう」
「次は、捜索する範囲だ。ここは西側海岸付近だ。このサークルが起点になる。ここから『紅』が海岸沿いを南に向かっていく。『白』は北側だ。つくも(猫)とおれたちは真ん中を行く。連絡はつくも(猫)に念話だ。質問はあるか。よし、捜索開始だ」
「ベニザクラ『白銀』戦闘型よ」
サクラさんが制御木琴を奏でた。
双子の樹魔は、結合していた部分を解除した。そして、するすると車体を縮めていく。
樹魔車両が真ん中で割れた。そして、割れた部分を装甲板が広がり塞いでいく。
車軸は、片輪が12本の触手になりそれが4つに集まりねじれる。
そこには、4つの触手を持つ2台の戦闘型樹魔車両が整然と立っていた。
「『紅』発進よ」
4本の触手がシャカシャカと動き出した。マーレは車内だ。イグニスは、身体強化を全身に掛け、火属性の魔法剣を持っている。体内魔力で火力を強化できるイグニスの相棒だ。
今回は燃やすわけにはいかないので、刀身を超高温にした、切るに特化させた仕様にしている。イグニスならではの特性魔法だ。彼は、A級属性魔法使いなのだ。
「イグニスの本気モードを久しぶりに見たぞ。やっぱり魔法使いは怖いな」
「ふん、私はスピード特化だ、師匠には及ばないが近づく奴らは全て切る」
「イディア、頼りにしている」
少し顔を赤らめ、フンとそっぽを向いた。
「イディア、その剣をちょっと貸せ」
猫が剣士に命令をしている。
神獣様の命令だ、カクカクした動きで剣を渡した。
「ふむ、よく手入れがされたいい剣だ。さて、……よし、終わった」
いったい何をした!
「おまえは、神力剣が欲しいと言っていただろう。その通りにしてやったぞ」
なんですとー。
「ねこちゃん、仕様は?」
さすがはシンティ、そこ聞きたいですよね。
「イメージの再現だ。神装結界みたいな物だ」
「カナデがやっていたあの焼き肉の網のこと」
「まあな、使い方はイディア次第で無限だ。ただ、いきなり使いこなすのは難しいだろうから、今は、刃こぼれがしない、折れたり欠けても自動的に修復するぐらいだな」
「……」
十分すごいよ。国宝クラスの魔法剣だよ!
「つくも(猫)殿、かたじけない! これで仲間を守れる。感謝する!」
どこの時代劇だ。最近の多言語翻訳君の変換がおもしろすぎる。
「『白』私達も行くよ」
車内にいるのはシンティとクエバだ。リーウスはイディアの目と耳になる。イディアは最強の剣士だ。こっちも問題ないだろう。いざというときは、クエバがいる。彼女の判断は的確だ。
「エル、組みを変わってもらってありがとな」
「戦闘型は2人乗りだからね。ぼくよりクエバさんの方が適任だよ」
「こっちは剣士ソフィアがいるからな。安心しな」
「任せてください。剣技には自信があります」
「ソフィア、おまえの剣も『神力剣』にしておくぞ」
「え、あ、はい、どうぞ」
さっきのやりとり見ていなかったな!
「ほれ、終わったぞ」
「あ、はい、ありがとうございます?」
後でゆっくり使い方を教えてやるとするか。
「では、出発だ」
「わかりました」
毒性植物魔物の島の探索が始まった。
次話投稿は明日の7時10分になります
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