043 決着と殿下の旅立ち ★
三章最終話です
ジェイドと10層に行くために必要なことを議論したときに、仲間達の魔法や魔術の力を引き上げる必要があるなと言う結論になった。
では、具体的にどうするか。よい案が浮かばなくて2人で唸っていたときに、
「しかたない。俺様が新しい魔法陣を作ってやるか」
と言って、つくも(猫)が夕食の下準備の合間に、神力『超計算』であっという間に術式化してしまったのがこの『神装力』の魔法陣だ。
この魔法陣のすごいところは、仲間達がこの魔法陣を使えば、私が使ってきた『神装力第三権限貸与』並の神力が使えるようになることだ。
ただ、この魔法陣を覚えるにはジェイド並の頭脳が必要になるので、全員は使えない。でも、スクロールにすれば、脳筋剣士でも展開できる。
初戦は、私の圧勝だ。しかも、かなりの精神的ダメージを相手に植え付けることに成功した。これで、相手も本気で来るだろう。それこそ、なりふり構わず魔法剣を使ってくるに違いない。
ここは、ジェイドの案に乗るとしよう。その魔法剣を全て破壊する。バカ王子の傲慢な態度を見ていたら、お仕置きが必要だと判断した。
「次の勝負は剣術になります。審判は近衛団副団長のエクスード様です」
「双方前に、正々堂々と戦うように。お互いに礼!」
「おまえはいったい何だ! なんだあの演武は……あれは人の動きなのか!」
クラウド殿下の目が血走っている。呼吸も荒い。気持ちの切り替えがまだできていない。未熟者め!
クラウド殿下が動いた。
「身体強化発動『俊足』「剛力」」
クラウド殿下の属性魔法は『金』身体強化特化のようだ。学院の魔法陣講義にも出てこないので、たぶん魔法陣展開ができないのだろう。
魔法使いに魔法陣は必要ない。持って生まれた属性魔法で強力な魔法が使えるからだ。
魔法は体内魔力を練り上げることで、強力な攻撃ができる。
一流の名の通り、クラウド殿下の剣技は鋭く強力だった。
「くっ、なぜ当たらない!」
次から次に繰り出される剣技、『俊足』で通常の数倍の速さで動き回る。『剛力』で、剣を振り下ろす初速が跳ね上がる。空気が焦げる臭いがする。すさまじい威力だ。
「魔法剣 火を纏え」
剣に火が纏う。炎の剣が数メートルまで延びている。それを『剛力』で強化された腕力で振り回す。
炎だけでも触れば体が焼かれる。
「それで全力か! 止まって見えるぞ」
クラウド殿下の懐に飛び込み、コツンとおでこにデコピンをしてすっと離れる。嫌がらせだ。心を折る、これが目的なので効果がある。
「馬鹿にしているのか、ゆるさん」
体内魔力が膨れ上がった。炎の威力が増した。
「ごめん、その剣もう破壊したよ」
燃え上がっていたのは地面だ。殿下に手にあるのは柄だけだった。
柄を見てぼう然としている。みるみるうちに顔が赤くなり、激高した。
「きさま、ゆるさん!」
クラウド殿下は、腰に差してあるもう1つの魔法剣を抜いた。雷の魔法剣だ。
「黒焦げにしてやる」
体内魔力が膨れ上がった。
剣先に火花が走る。雷の火花だ。
「イカヅチ」
イナズマが走る。
イナズマの先にあったのは、氷の魔法剣だった。クラウド殿下がふんぞり返っていた椅子に立て掛けてあった物だ。いつの間にか移動していた。
イナズマがその剣に直撃した。
バリーン、一瞬で剣が粉々になった。
何が起こった!
動かないクラウド殿下。
「ごめんね、その剣ももう破壊したよ」
クラウド殿下が我に返り、振り上げた剣も柄だけだった。
心が折れた。そのまま崩れ落ちるクラウド殿下。
「勝負あり、勝者騎士」
うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
ものすごい歓声が上がった。
「殿下、次の勝負が始まります。準備をしてください」
心が折れ、立ち上がれないクラウド殿下にソフィアが容赦なく追い打ちの言葉を突き立てる。
「……」
「クラウド殿下が戦意喪失のため、『体術』勝負の勝者は騎士です」
歓声が上がる。
「最後の試合『総当たり戦』の準備をお願いします」
ぞろぞろと、数十人の屈強な男達が強力な武器を手に持って登場した。
「ふん、この人数相手に何ができるかな」
やや、ストラミア帝国の発音訛りがある兵士達。
参謀はグライヒグではないな。戦略がずさんすぎる。
「カナデ、私は疲れた。秒で終わらせろ」
アルティーヌさんが審判のようだ。あくびをしながら命令をしてきた。
「わかりました」
「始めろ!」
円形闘技場の壁に仲よくめり込む男達。
ちゃんと神装結界で保護したよ、安心しな。
壁の修理代は、エレウス王に請求してもらおう。これだけ完璧に仕事をしたんだ。それぐらいは許してくれるだろう。
「第一回サクラシア杯勝者は騎士です」
ソフィアさんの宣言でやっと我に返った観客達の怒濤の歓声が円形闘技場にいつまでも響いた。
★ ★ ★ ★ ★ (クラウド殿下視点)
あれは本当に人の動きなのか?
私が知っているどの流派の型でもない。
自己流なのか、いや違う。俺にはわかる。どこかの天才が考えた計算し尽くされた動きだ。美しい。
おれは、とんでもない怪物に挑んでしまったのではないか。
剣技に関しては、手を抜いた事はない。鍛錬も、一日も休んだことはない。我が国で俺に勝てる剣士は1人もいなかった。
アルティーヌ、近衛騎士団団長! 俺に勝てるのは、彼女だけだと思っていた。
ストラミア帝国が見ているんだぞ。無様な姿を見せられるか。王命に逆らったんだ。俺にだってわかる。負ければ処分される。
「勝つしかない!」
「次の勝負は剣術になります。審判は近衛団副団長のエクスード様です」
「双方前に、正々堂々と戦うように。お互いに礼!」
「おまえはいったい何だ! なんだあの演武は……あれは人の動きなのか!」
あいつは何も答えない。表情も変えない。なんて不気味なやつなんだ。
「身体強化発動『俊足』「剛力」」
おれの属性魔法は『金』身体強化特化だ。
魔法使いに魔法陣は必要ないだろ。持って生まれた属性魔法で強力な魔法が使えるのだ。なんで魔法陣を覚えなくてはいけない。
体内魔力を練り上げた。これで強力な攻撃ができる。
「くっ、なぜ当たらない!」
「魔法剣 火を纏え」
触れば体が焼かれるぞ。どうだ、怖いだろう。もう、ちょこまかと動けまい。そこでそのまま燃えてしまえ。
「それで全力か! 止まって見えるぞ」
あいつが懐に飛び込んできた。バカな、どうやって炎を掻い潜った。見えなかったぞ。
「痛い、ふざけるな」
いないだと、いま目の前にいただろう。ふざけるな。
「痛い、痛い」
くそ、どうなっている。
「馬鹿にしているのか、ゆるさん」
体内魔力を練り上げた。炎の威力は最大だ。骨も残らない火力だ。知ったことか、おまえが悪い。燃えてなくなれ。
「ごめん、その剣もう破壊したよ」
は、何を言っている?
なんだと……。
柄だけだと。先はどうした。
地面が燃えていた。
よくもよくもよくも、大事な魔法剣を壊したな。
「きさま、ゆるさん!」
雷の魔法剣を使うぞ。俊足では避けられない、光の一撃だ!
「黒焦げにしてやる」
体内魔力を練り上げる。初めから最大威力を出す。
剣先に火花が走る。雷の火花だ。
「イカヅチ」
イナズマが走る。
イナズマが何かに直撃した。
やったか、黒焦げにしたか!
バリーン、何かが粉々になっていた。
何が起こった!
訳がわからない。俺は何を壊したんだ。
「ごめんね、その剣ももう破壊したよ」
は、何を破壊したって?
俺が振り上げたのは、柄だけだった。
勝てるわけがない。化け物だぞ……。
「クラウド殿下が戦意喪失のため、『体術』勝負の勝者は騎士です」
終わったのか。もういい、終わりにしてくれ。
「殿下、次の勝負が始まります。準備をしてください」
ん、こいつは何を言っているんだ。もう終わっただろう。
「クラウド殿下が戦意喪失のため、『体術』勝負の勝者は騎士です」
歓声が聞こえる。
「最後の試合『総当たり戦』の準備をお願いします」
なんだ、あいつらは、俺が準備した兵士達はどこにいる。
「ふん、この人数相手に何ができるかな」
「カナデ、私は疲れた。秒で終わらせろ」
「わかりました」
「始めろ!」
壁に男達がめり込んでいた。生きているのか。あれではもう戦う事もできまい。騎士は容赦がないな。どうやら、おれは手加減されていたらしい。
「はははははは……俺は弱い」
「第一回サクラシア杯勝者は騎士です」
遠くで声が聞こえる。俺は負けたんだな。
ん、ここはどこだ。
「クラウド殿下、エーデルシュタン国王陛下です」
いつの間にか意識を失っていたのか。陛下か、いよいよ処分を言い渡されるわけだ。覚悟はできている。
「覚悟はできています」
「クラウド、おまえは弱いな」
「はい」
「それがわかったか」
「はい」
「処分を言い渡す。クラウド、王太子の身分を剥奪する。今後は、平民として生きろ。以上だ!」
平民として生きろだと! 処刑ではないのか。
目の前にあいつがいた。婚約破棄を言い渡した元婚約者だ。
あざ笑いに来たか。
それも仕方ない。
受け入れよう。
「私も平民になりました。私は、冒険者になるために入り口の町に行きます」
「冒険者だと……」
「あなたが負けた騎士は、入り口の町のC級冒険者ですよ」
驚愕した。あれでC級だと! 冒険者とはそんなに強いのか。
「おれも冒険者になれるのか」
「入り口の町は誰も拒みませんよ」
元婚約者が天使のような微笑みでそう言った。
「おれもその町に行きたい。いっしょに連れて行ってはもらえないだろうか」
「仕方ないですね。連れて行くだけですよ」
そう言って、彼女が右手を差し出した。華奢な手だった。これで冒険者になれるのか。
仕方ない、しばらくは俺が護衛をしてやろうか。
俺はその手を握り返し、静かに立ち上がった。
「入り口の町へ行こう」
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