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042 神装力『再現』




 今日は、5月初旬6の日だ。学院の授業は予備日になる。普段なら、様々な施設で実技が行われ活気に(あふ)れている時だ。どの学生も机上での学習よりも実技の方が楽しいのだ。


 しかし、いつもなら学生で賑わっている施設には誰もいない。そう、1人もいないのだ。


 全ての学生や教授達が『円形闘技場』に集まっている。収容人数3000人を遙かに超える観客が、立ち見を含めて試合が始まるのを今か今かと楽しみにしている。


「それでは、これから第1回サクラシア杯を開催します」


 司会はソフィアさんだ。


「今回の試合は『武術』です。剣術、体術、型で勝ち残った選手が、今、闘技場で準備運動をしています」


 前座、というか、せっかくたくさんの人が集まるのなら勝ち抜き戦の決勝戦もここでしちゃえという、実行委員長の命令が下り開催が決定した。


「では、第一試合は剣術です。アメリオ対カーラの試合です。審判は、近衛騎士団副団長のエクスード様です」


「エレウス王の言葉だ。正々堂々と戦うように。お互いに礼!」


あの人、生徒会長のお父さんだよな。性格は遺伝しないんだな。


「魔法陣展開『身体強化』」


 どちらも身体強化を掛ける。これはずるではない、魔物と戦うにはこうするしかない。冒険者達が磨いてきた技術だ。


 魔術学院は魔法陣を展開させる事ができるようになるための学校だ。つまり、魔術師を養成する機関なのだ。


 腰には防御の術式が付与されたベルトをしている。大けがをしないための配慮である。


 勝負は、鍛え上げた筋力、磨いてきた技術、そして、展開できる魔法陣の質の組み合わせで決まる。


「いくぞ、『俊足』」


 詠唱省略えいしょうしょうりゃくは中学部で(みが)く技術だ。威力は落ちる。上級者でも、戦いでない限り省略はあまり使わない。


 脚力に魔法陣を重ねがけしたので、移動速度が上がる。相手の周りを駆け回り、打ち込んでいく。


 受け手は、それをひたすら受け流す。


「魔法陣展開『俊足』」

 

 攻撃の動きが鈍ってきた所で、受け手が勝負をかけた。


 攻撃してくる動きよりも威力がある攻撃を仕掛けた。疲れもあり、対応が遅れる。見事に胸に一本剣が届いた。


「一本、それまで。勝者アメリオ」


 うおー。すごい歓声だ。それだけ見応えのある勝負だった。魔法陣展開がきれいな術式を描いたからだ。展開の術式はなぜか見える。そして、術式にも美しさがある。


 精霊達が喜んでいる。


 この戦いに、上級貴族の学生達は参加していない。彼らも実力はある。しかし、今回は貴族枠教授の支援が受けられないので慎重にならざるをえない。もし、平民に負けたとなると笑いものになる。




「次は、体術です。ゼクト対エルボンの試合です。審判は近衛騎士団団長のアルティーヌ様です」


「正々堂々と戦いなさい。お互いに礼!」


「魔法陣展開『身体強化』」


 どちらもきれいな魔法陣展開の術式だ。実力は互角だ。


「魔法陣……」


 ゼクトが術式の上掛けをする前に、エルボンが仕掛けた。詠唱をさせない作戦だ。


 連続で動いているときの詠唱は難しい。息継ぎをしなければいけないからだ。魔物との戦いではチームなのでその時間を作ってもらえる。個人戦ではそれができない。


 連続攻撃で、ゼクトを責めていく。拳が体に当たる、投げ飛ばす、けりで転倒させる、みぞおちに決めて動けなくするなどが勝利の条件だ。


 仕掛けていたエルボンの息が少し上がる。攻撃に隙ができた。


「『剛力』」


 ゼクトが詠唱省略で魔法陣を展開した。


 ドカーン。


 剛力の上掛(うわが)けが掛かった強烈な一発が、エルボンが防御のためにクロスした腕こと吹っ飛ばした。


「一本、それまで 勝者ゼクト!」


 相手はしばらく動けない。勝負ありだ。


割れんばかりの拍手が起こる。きれいな術式だった。精霊も喜んでいる。


「最後は、型です。オーシス対タシオンの試合です。審判は、ここにいる観客になります」


 会場に測定器が持ち込まれた。音量を測る魔道具だ。


「歓声が大きかった方が、勝者です」


 勝負は2回だ。交互に型を披露する。技の切れや展開する術式の美しさが評価される。型は、剣術、体術どちらでもいい。


「タシオンから始めてください」


 タシオンが、息を整える。呼吸も型のひとつになる。


「魔法陣展開 身体強化「剛力」」


 同時に2つの魔法陣を展開させる上級技術だ。


 空中にきれいな術式の魔法陣が重ねがけされて現れた。


「はっ、はっ、えい、はっ、……はーぁぁぁぁ、はっ!」


 力強い技がきれいな型で披露された。


 うぉぉぉぉぉー!


 歓声が上がる。


「ただいまの演武は、76デシベルでした」


 デシベルは音の大きさを表す単位だ。


「次はオーシスです」


 オーシスが精神を統一している。会場がシーンとなる。


「魔法陣展開 身体強化『剛力』『俊足』」


「はっ、はっ、はつ、はっ」


 動きが速い。


「はっ、はぁぁぁぁぁぁー、はっ!」


 うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!


 大歓声だ。


 魔法陣の3つ重ねがけの同時展開だ。しかも術式が美しい。多分勝負ありだ。



「ただいまの演武は、128デシベルです。差が50デシベルを越えたのでオーシスが勝者です」


 1回目で差が50デシベルを越えた時は、2回目は行わない。そういうルールだ。


「武術の優勝者が決まりました。後日、実行委員長の選んだ一流の対戦相手と戦うことができます。おめでとうございます」


 この試合は非公開になる。10層攻略隊のメンバー選びが絡むからだ。まったく、あの縦ロールはやってくれる。




さて、いい試合を見られた。次はおれの出番か。


「ふん、あんな(かた)で優勝か、まったくこの学院のレベルは低いな!」


 うわー、それ言っちゃうの。バカ王子!


「予定にはなかったが、特別だ。俺が型の神髄(しんずい)を見せてやる」


バカ王子が魔法剣を構えた。持っているのは火の魔法剣だ。


「身体強化発動『俊足』」


 あ、それ、魔法だから、ルール違反!


 この試合は魔術勝負なのだ。


「はぃー、はっ、はっ、はっ、はっ、はいー、はっ」


 剣が炎を出す。魔法剣は魔法陣展開の術式が付与されているので、美しい術式が炎といっしょに現れる。確かに迫力がある見応えのある型にはなっている。


 かなり訓練された技の切れだ。これだけなら十分に評価できる。だが、勝負なら失格だ。


 ソフィアさんが視線で確認してきた。認めると目で合図をする。


うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!


 大歓声が起きる。ルールを知らない観客には受けがいいだろう。


「ただいまの演武は、135デシベルでした」


「ただいまの演武に対して、実行委員長より説明があります」


 縦ロールが登場した。くやしいがかっこいい。


「殿下の演武は魔法による身体強化です。本来ならルール違反で失格になりますが、騎士(ナイト)は気にしないとのことなので不問(ふもん)にします」


「え、そうなの」

「ばか、ここは魔術師養成校だぞ」

「知らなかった」

「でも、授業に魔法学あるわよね」

「実技でもあるぞ?」


 そんな声が会場から漏れている。そう、加護学も授業ではある。しかし、試合は魔術勝負が基本だ。


騎士(ナイト)、この勝負受けますか」


 ソフィアさんが確認してきた。予定にない勝負になるからだ。


「ふん、逃げてもいいぞ。予定にないからな、見逃してやる」


 バカ王子が椅子でふんぞり返っている。その椅子どこから持ってきた。


「受けますよ。では私の演武でいいですね」


 受けますとも、そして、思い知らせてやりますとも!




 地球、私がこの異世界に転生する前に生活していた星だ。その星の日本という国で私は育った。


 その国は、アニメという文化が定着していて、その価値観の中で育った天才達が次々と新しい作品を世に出していた。


 私の兄も、その恩恵(おんけい)を受けた1人である。兄はいわゆる格闘技マニアだった。格闘技に関する書籍、単行本、DVDを集め、自身も剣道と柔道の有段者である。


 その兄の影響で、私もDVD鑑賞に付き合わされた。また、いろいろな試合にも、姉により強制的に応援に連れ出された。


 おかげで、私の中には、格闘技技術と天才達が本気で考えたアニメ主人公達の動きがたくさん蓄積(ちくせき)されている。


 さらに、父は時代劇が好きだった。私も、殺陣(たて)と言われている技術に関心を持ち、自身でも研究したことがある。




 バカ王子よ。おまえに想像できるか。進化した文明の中で育った天才達が本気で考えた動きだぞ。


 アニメ主人公の動きを『再現(さいげん)』する。


「魔法陣展開 『神装力』」


 つくも(猫)と開発した新しい魔法陣、『神装力』が展開される。紅色の神力の魔法陣だ。誰も見たことがない、美しい術式が浮かび上がる。


「『身体強化』重ねがけ」


 ぶわっと、体に力がみなぎる。


「『再現』重ねがけ」


 魔法陣3つの同時展開だ。


 頭の中に、アニメ主人公の動きが『再現』される。身体強化された体がそれを忠実に『再現』していく。


 物理法則を無視したアニメの動きが、この異世界では現実の動きとして『再現』できる。


 イメージの天才が本気で考えた流れるような技が、ピタ、ピタ、と決まる。そのたびに、美しい魔法陣がズームで浮かび上がる。これも演出だ。型は見栄えも大事だ。


見ている観客達は、何が起こっているかしばらく理解できなかった。しかし、目の前で実演されている演武が、今までのどれよりも斬新で格好(かっこ)いいかは本能でわかる。


「なんだ、みたこともない動きだぞ」


「きれい、流れるような動きよ」


「魔法陣が湧き出てくるわ。こんなの始めて見た」


「これも型なのか。いや、次元が違うぞ」


「なんでもいい、格好(かっこ)いい!」


「ああ、最高に格好(かっこ)いい!」


 うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!


 うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!


 うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!


 観客達の雄叫(おたけ)びが止まらない。


 足を踏みならし、手を叩き、声を張り上げる。


 円形闘技場が揺れている。




「ただいまの演武は、170デシベルを振り切っています。測定不能です。よって、勝者は騎士(ナイト)です」


 クラウド殿下は目を見開いたまま動かない。


 初戦は、私の勝ちだ。武術に関しては一流である、おまえにはわかるだろう。私の『再現』した動きがどれほど高度で洗練された動きであるかを!


 恐怖しろ! おまえに希望は残さない。





次話投稿は明日の7時10分になります

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