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040 クラウド王太子殿下 ★




 クラウド殿下の部屋には、ストラミア帝国から来た参謀(さんぼう)が訪れていた。その手には、部下が持ってきた試合の正式な許可証が握られていた。


 場所は3000人収容の円形闘技場である。これだけの生徒や王城関係者が見ている前で無様(ぶざま)なことはできない。もし失敗したら、それ見たことかとグライヒグに笑われる。


 それにしても、なぜだ。あの条件で勝てるわけがない。なぜ、断らない。


 あの公女は王城関係者がいる前で宣言した。どんな有利なルールにしてもいいと。バカじゃないのかと思った。ならば、絶対に勝てないルールにすればこちらの不戦勝だ。


 それとも、グライヒグが言ったように、何か不思議な力を隠し持っているのか……。ならば、それを、あのバカ王子を使って確かめるだけだ。何の問題もない。そうだ、作戦通りだ。


 男の考えがまとまった頃、クラウド殿下が大声を上げた。手には、先ほど渡した許可証が握りつぶされて握られている。


「あのナイトが受けただと、話が違うぞ!」


「いえ、私共の方がびっくりしているんです。あれだけ不利な条件なら、絶対に断ってくるはずなんです」


「不戦勝になるというから、総当たり戦などという邪道(じゃどう)を認めたんだぞ。このままでは、おれが卑怯者(ひきょうもの)になってしまうぞ。どうするんだ」


「殿下が2つの勝負で勝てばいいのですよ。簡単なことです」


「ふん、まあな、剣術と武術でおれに勝てるのは、近衛騎士団団長のアルティーヌぐらいだからな」


 バカ王子が、手加減されていることになぜ気がつかない。まあいい、確かに実力は本物だ。せいぜい、頑張ってもらうとしよう。


 その男が内心のあざ笑いを隠した作り笑いでクラウド殿下に語りかける。


「強力な付与が施された魔法剣がご用意できますがいかがしますか」


 クラウド殿下の口元が緩んだ。


「ふん、そんな物がなくても勝てるが、どうしてもと言うなら預かっておいてやる」


 バカめ、おまえがそういう剣を集めていることは調査済みだ。


「わかりました。後で数本お渡しします」


男はそのまま部屋を出た。


 入れ替わりに1人の男が入ってくる。


「殿下、あの様な怪しい男と何を相談していたのですか」


 殿下の側近はそう言って、1枚の用紙を広げた。


「殿下、そろそろ授業に出てください。さすがにすべてに出ないは学院側の心証(しんしょう)が悪いです」


 用紙は、学院での殿下のカリキュラムのようだ。


「いやだね。おれは稽古(けいこ)で忙しい。試験に合格すれば卒業できるんだろう。問題ない」


「あります。失礼ながら、殿下はその試験に合格できるだけの知識を持ち合わせていません」


「ならば、誰かが代わりに受ければいいではないか。王国の学園ではそうしてきたぞ」


「ここは、殿下の王国ではありません。それは通用しません」


「……」


「ふん、私がこの試合に勝てば、ストラミア帝国は私の言いなりだ。我が国は連合王国を抜けるぞ!」


「な、何を言い出すんですか。あのストラミア帝国ですよ。何か約束をしたとしても、それを守る確約などありませんよ」


「サクラシア様が我が姫になれば、私は全ての貴族、王族、皇族、権力者に対して『拒否権』を発動できるようになる。私が新大陸の象徴になるのだよ。何を恐れる必要がある」


 クラウド殿下はそう言い捨てると、お気に入りの魔法剣をつかみ部屋を出ていった。


「だめだ、何かを吹き込まれて、できると思い込んでいる。州国王に報告しなければ……」




「ふん、小心者(しょうしんもの)め。それにだ、あの姫にはお仕置きが必要だ。この私が、わざわざ教室まで行き、食事に誘ったのだぞ。なぜ断れる。しかも、いっしょに出ていったのは平民だぞ。貴族の誇りはどうした」


 クラウド殿下はふと立ち止まり、魔法剣を見た。


「この剣と実力があれば、おれは最強だ。誰にも負けない」


 そう言うと、いつもの練習場に向かって力強く歩きだした。身体強化と剣術の稽古だけは、誰よりも鍛錬を重ねてきた。天才が努力して身につけた実力は本物なのだ。




次話投稿は明日の7時10分になります

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