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004 料理長

『大樹の森編』の続編になります




 つくも(猫)の料理を堪能(たんのう)して、幸せな気持ちで眠りについた私達は、爽快(そうかい)な朝を迎えていた。


 ここは、王都まで直線距離なら600キロメートルぐらいの森の中だ。湖を迂回(うかい)すると、900キロメートルぐらいになる。




「作戦会議を行います」


 エルの声が車内に響く。うん、元気だ。


「今後の予定を確認しましょう」


 シンティが地図が貼られたままの黒板を用意する。


「私達が今いる場所はここです」


 星形南東部分の頂点を指さした。


「王都まではあと900キロメートルぐらいあります。学院の入学式が10日後です。王都で3日ぐらいの余裕が欲しいので、あと7日で王都まで行きたいですね」


「もともと、旅は10日間の予定だったよな」


 イグニスが確認するように私を見た。


「はい、途中、風の道を使うことを考えての日程です。ペンテとテネリのコンビなら、1日6時間、時速30㎞で走れるので、約9日で王都につける計算になります。でも、風の道を使えば6日位でつけるかなと予測していました」


 私がそう説明すると、


「貴族の妨害も考えての10日の日程なんです」


 サクラさんが補足をする。


「でも、予定した道は進めないわよね」


「シンティ、ここまで用意周到(しゅうとう)でしつこいとは思わなかったのよ」


 サクラさんがため息をつく。


「どうする。この密林だと、ベニザクラ号でも時速10㎞がやっとだぞ」


 イグニスが私を見る、


「ええ、このままだと入学式に間に合いませんね」


「……」


 みんなが沈黙した。


「ちょっといいか」


 猫が手を()げていた。いや、前足か……?


「はい、料理長様が発言します。傾聴(けいちょう)しましょう」


 つくも(猫)はみんなのたっての希望で、この旅の料理長に就任(しゅうにん)した。


「何で湖の上を通らないんだ。サクラの風の道なら簡単だろう」


 うっ、とみんなが息をのむ。しかたない、私が説明しよう。


「つくも(猫)、みんなは水の上に落ちないか心配なんだよ」


「俺様の神装結界が張ってある車両だぞ。落ちるわけないだろう」


 えっ、とみんなの目が点になった。そうだった、そこの部分を詳しく説明していなかった。


「みんなごめん。おれが説明していなかった」


 みんなが私を見た。サクラさんは「私の言った通りでしょう」と、どや顔でうなずいている。


「この車両は、つくも(猫)の神力で結界が張られているんだ。エル達もその場に居たからそれは知っているよね」


 エルとシンティが、うんうんとうなずく。


「言っていなかったんだけど、神装結界って、魔法陣の結界とは違うんだよ。なんていうか、サクラさんの加護(かご)と同じで、精霊(せいれい)レベルの結界なんだ」


 加護と精霊の因果関係はまだはっきりしていない。でも、この世界の冒険者達は何となくそうだと気がついている。


「まじかー、なら、最強じゃねえか」


 イグニスがうなる。


「でも、魔法とどう違うの」


 マーレが不思議そうに首を傾げる。


「魔法陣を使った最上位の攻撃魔法でも、この結界は壊せないよ。それに、認識阻害(にんしきそがい)ができるんだ。つまり、そこにいるのにいない(・・・・・・・・・・)ということになる」


 私がにやりと笑ってそう言うと、


「空を自由自在に飛んで行けるって事よ」


 サクラさんもにやりと笑った。


 その意味が分かったのだろう。みんながにやりと笑った。


「では、まとめます。ここから王都までは直線距離で600キロメートルほどです。風の道は一日で300キロメートルの移動が可能です。つまり、あと2日で王都に到着できます」


 エルが嬉しそうにそう説明をした。


「早すぎますね。いろいろ(かん)ぐられるのは面倒です」


 サクラさんが考え込んだ。


 確かにそうだ。どうやって移動したんだとうるさそうだ。


「王都の手前の湖畔(こはん)でゆっくりしましょうよ。今までいろいろ(あわ)ただしかったから、ゆっくりしても罰は当たらないわ」


 シンティがめずらしく正論(せいろん)を言った。


 みんながうなずいた。


「決定です。では、目指す場所は『キリヤ島』にしましょう」


 エルが目的地を決めた。シンティがキリヤ島を大きな花丸で(かこ)った。







「この場所とキリヤ島の中間地点まで風の道で一気に進みます」


 サクラさんが右手を前に差し出した。


「世界樹の枝」


 右手に小枝が現れた。


 その枝を、頭上にあげ、何もない空間を叩く仕草(しぐさ)をする。


 ビーン


 空気が振動した。


「めざめよメーム」


 キーン 金属音の澄んだ音がする


太古(たいこ)のメーム」


 キーン 振動が魔法陣のように広がる。


「自我のメーム」


 キーン 振動が樹魔を包み込む。


「ふるえよメーム ひとつになれ」


「ホスタンツァ ライエン」


 制御木琴を奏でる。


「シャラララーン」


 木琴を左から右へ木の枝で打ち流したした。


「ベニザクラ『白銀』、高速移動型よ」


 双子の樹魔車軸が直ぐに反応した。


 後ろの樹魔が車輪の形からそりのような形に変形した。


 前の樹魔が、戦闘機の翼のように三角形になった。


 ここまでの変形に3秒もかかっていない。


「風の道」


 世界樹の枝を頭の上でクルクルと数回回すとそこに風の渦ができた。


 その渦を3メートル程手前にボールを投げるようにポンと置く。


 半透明な桜色の風のトンネルが静かに数百メートル先までつながって行った。


 その動きに合わせて、ペンテも動く。羽を広げて後ろに伸ばすと、ハングライダーのような姿になった。


 そして、風のトンネルの中で静かに浮かんだ。


 テネリも羽を広げ、ハングライダーになる。


 そして、静かに浮かび上がった。


 樹魔車両も風の道といっしょに静かに浮き上がっていく。


 そのまま高度を上げていき、密林の上空に出た。


 右手にはアルテル湖が見える。大きい、海みたいだ。


「出発します」


 サクラさんがそう言うと、衝撃を感じることもなく、周りの景色が後ろにぶれるように飛んで行った。




 ベニザクラ号は認識阻害の結界を発動させている。もし、誰かが空を見ていても、そこには何もないと感じるだろう。


 時速100㎞程で3時間。途中降りる場所もないので目的地まで一気に進んだ。ペンテとテネリのコンビは最高だ。サクラさんにかかる負担が最小限になっている。


「着きました。ここで野営ですね。あっ、お昼もここで食べられますよ」


 出発したのが9時頃だ。今は12時。300キロメートルを3時間で進んだことになる。




「なんていうか、こんなこと誰かに話しても誰も信じてくれねえだろうな」


 イグニスが遠い目をしている。


「誰にも話せませんけどね」


 マーレが笑っている。


「おれ、目がチカチカしてるっす」


 リーウスが目をこする。


「カナデが遠くを見ろと言っていた」


 クエバがリーウスの(ほほ)を人差し指で()っついている。


近くばかりを見ていると緑一色なので、遠くの景色も楽しみなさいと言ったのです。




「お昼は夕食用の弁当を食べてください。夕食は……ジュル……料理長何にしますか? 」


 エルがつばを飲み込みながら猫に話しかける。


「昨日の猪が丸まる残っているからな、あれを使った料理だな」


 猫が後ろ足で耳をかきながら思案(しあん)している。


 つくも(猫)が異次元収納を使えることはみんなが知っている。見ている前で猪をまるごと一瞬で収納したからだ。神獣しんじゅう様だから当然だろうと、誰も気にしなかった。


 私も限定的だが、つくも(猫)の力を貸してもらっている事をみんなに伝えた。これからいろいろと暗躍(あんやく)するときに、知っていてもらった方が都合がいいからだ。


 探求者だから、それも当然なんだろうとすんなりと受け入れられた。うん、まあいいか。




次話投稿は明日の7時10分になります

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