038 工房と授業と面倒事
男ならと言うと、日本でなら女もよ!という反論が来るだろうが、ここは異世界なので考えないことにする。
「男のロマン」誰もが憧れる『合体』『変身』「装着」が、この異世界では可能になる。なんて素晴らしい世界なのだろう。
私だって子ども時代があり、それなりにアニメや|特撮『とくさつ』戦隊物を見てきた。そして、『装着』に憧れた。なんて便利な機能なんだろうと。
調査で訪れた山の中で、「装着」といえば、危険から身を守る鎧を纏うことができるのだ。基礎研究仕放題には必須アイテムだ。
その装着できる騎士アーマーの制作が始まった。
シンティの姉であるディーラさんが、隠れ家の地下食料庫を改造した工房で作業を始めた。湖水島調査をしていた2日間で全ての準備が整っていた。できる職人は、段取りも手際もいい。
「カナデ、おまえが言っている『装着』の具体的な設計図が欲しい。どういう工程で装甲が展開していくのか教えてくれ」
「機密保持契約が済んだので、もう言ってもいいですね。核になるのが形状記憶樹魔繊維なんです。この技術は、エルの作るユニットのものです」
「あれか、たまげたぞ。時代が100年飛び越えている感じだ」
概ね間違っていない。すごいなこの人。
「樹魔繊維変形の調整はツバキさんに任せたい所なんですが、私もいっしょにやってきたので、何とか挑戦してみます。それでですね、初めに展開するのが、この樹魔繊維です」
黒板にかかれた身体図に、樹魔繊維が体にまとわりついていく様子を赤で書き込んでいく。
「こんな風に、樹魔繊維が展開し、そこに装甲が転送されていきます。ユニットと同じです。あとは、細かい装飾をどうやって転送させるかが、まだ解決していません」
「なるほど、だいたい分かった。これが可能になると、いろいろな事に応用できそうだな」
ディーラさんが、展開、装着のイメージ図を見ながら何かを考えていた。
「王城へはいつ行く」
「早くて7月頃ですね。多分呼び出されます」
「10層がらみか」
「はい、『可能性を示せ!』と、言ってくるでしょう」
「ははは、そういうことか。貴族どもへの強烈なはったりをかますつもりだな」
「さすがです。その通りなんです。貴族の目の前で『そうちゃく』をするつもりです」
「わかった、できる限り、間に合うように努力はする。でも、期待はするな。これはかなり難しい技術だぞ」
「はい、そこは大丈夫です。可能性は他のことでも示せますから」
ディーラさんはうなずくと、黒板に何やら書き込み始めた。きっと、自分のアイデアをメモしているのだろう。黒板をもう少し増やしておいた方がよさそうだ。
* * * * *
魔術学院は5月の初旬に入った。
初旬2の日(日本なら火曜日)は、一日授業が入る。専攻科は、①10時から12時、②午後1時から3時、③3時から4時となっている。
①は魔物生態学の授業だ。この教授はいままで休講にしていたので、今日が初めての授業になる。
「休講にしていてすまないね。ぼくがこの授業を受け持つセクトだ。実はね、ギルドの依頼でアステル湖南岸の調査に行っていたんだよ」
この教授は、B級冒険者でもある。
「密林地帯のかなり深い場所まで行っていたので帰還に時間がかかってしまったんだ」
移動は大変だ。今のところ、空を飛べるのは樹魔車両だけだからな。
「入り口の町の案内人がもっと増えてくれると、王都にも来てくれるんだろうが、難しいのかな」
教授が私に視線を変えた。
うん、難しいです。B、Aクラスでないとこの密林では活動できません。そして、その人達は、入り口の町でも必要な人たちです。
そっと、視線をそらした。
私が言いたいことは分かったのだろう、授業が始まった。
授業は退屈だった。全部知っていることであり、かなり古い情報が多い。この授業に今後も出るかは、少し考えた方がよさそうだ。ジェイドもあくびを我慢していた。後で相談しよう。
お昼は、いつものAランチ。ボンとクリシスが席を取っておいてくれた。なんていいやつなんだ。お互い、次も授業なので急いで食べた。貴族って、急いで食べても姿勢が変わらない。どんな訓練をしているのだろう。
③の専攻科は、加護学だ。魔法学と比べると学生の人数は少ない。なので、異学年クラスになっている。この授業はサクラさんと一緒だ。シンティは別の授業なので、一応護衛を兼ねることになる。
「すみません。迎えに来てもらって」
一学年Bがサクラさんのクラスだ。私達が教室に入ると、女生徒が一斉にこちらを見た。視線は私の胸ぐらいだ。そう、ジェイドをうっとりと見ている。
金髪の美少年は、その視線を一切気にしていない。アイドルとはそんな感じなのだろうか。
「では、行きますか」
なごり惜しそうな視線を感じながら、教室を出た。
「クラスの居心地はいいみたいですね」
「はい、みなさんによくしてもらっています」
「貴族と平民の関係はどんな感じですか」
「このクラスは問題は起きていません。どうやら、特権意識が少ない貴族の生徒が集められているみたいです」
サクラさんは初めはAクラスの予定だった。しかし、教室内の雰囲気がギスギスしていたのでやめたらしい。Aには、特権意識が強い上級貴族の生徒が集まっていたのだ。
入り口の町で生活しているサクラさんは、貴族の特権意識は嫌悪にしかならない。その事を、貴族達は知らないのだ。なので、平気で平民を馬鹿にする。
「初等部から学んでいる貴族の生徒が集まっているんだと思います。そこの先生方は一流です。人権教育もしっかりされています」
「私も、初等部にボランティアに行きたくなってきました」
直ぐ打ち解けるんだろうな。これも才能だよ。
教室には、エルフ系の学生が多く集まっている。風の加護を持っているのは、ほぼエルフ系だ。そして、なぜか、加護は『風』しかないのだ。
きっと、精霊結晶が関係している。『4大精霊になるはずだった子よ』という、エスプリさんの言葉を思い出す。
『6万年待ったもの今更よ』の言葉も気になる。つまり、6万年前の世界樹に何かとてつもなく大きな試練が降りかかったということだろう。
10層に行かないと、その真相は分からない。つくも(猫)に聞いても、きっと神の言葉でしか話せない。なら、多言語翻訳君は訳せない。どん詰まりだ。
「カナデさん、ずっと考え事をしていたみたいですけど、どうしたんですか。授業終わりましたよ」
「ああ、すまん。島でのことを考えていた」
「精霊結晶ですね」
「早めに島の調査を再開した方がいいかもしれないな」
「分かりました。今夜作戦会議をしましょう」
「頼りにしているよ。参謀!」
ジェイドが花のような笑顔で笑った。精霊が大喜びをしている。本当に陽気なやつらだ。
③は魔法陣学の授業だ。教室に入ると、生徒会役員が顔を揃えて待っていた。
「シオン教授には許可を取った。直ぐに生徒会室に来てくれ」
何やら緊急の事案が発生したらしい。賢者様の出番なのか?
「王太子殿下からの試合届けが提出された。相手はシエン州国王太子『クラウド殿下』だ」
生徒会長が説明をしてくれるようだ。
きたか、でも。意外と早かったな。
「クラウド殿下ということは、『武術』ですね」
「そうだ。試合日は、初旬の6の日、つまり4日後になる」
相手の準備は整ったということか。自信満々で挑んでくるんだろうな。でも、その方がありがたい。希望を残さないように徹底的に心を折りに行くからな!
「予備日ですね。分かりました。試合会場はどこになりますか」
「学院長に相談したら、学院の円形闘技場を貸してくれる事になった。収容人数が3000人の大きな場所だ」
「わかりました。試合の内容とルールはどうなっていますか」
「これが要項だ、正直恥を知れと思いたい。どこまで身勝手なんだ、あの殿下は!」
要項をまとめるとこうなる。
1 試合内容は『剣術』『体術』『総当たり戦』
2 『剣術』
・武器の種類や本数は自由。
・魔法付与の条件は上限無し
・鎧の仕様も付与に上限無し
・試合は一対一の勝負
・助っ人は認めない
・勝敗は、最初に3本技を決めた方が勝ち
3『体術』
・魔法陣による身体強化の上限は無し
・助っ人は認めない
・勝敗は、最初に1本技を決めた方が勝ち
4『総当たり戦』
・こちらが選んだ選手を含めた複数人での試合
・勝ち残った方が勝ち
5 勝敗の特例
・3つの試合の中で、相手が動けなくなった時点で試合は終了し動ける方が勝者となる。
なるほど、『剣術』と『体術』については、殿下本人が考えたな。脳筋の発想だ。自分が一番力が出せる条件しか考えていない。
『総当たり戦』これは、ストラミア帝国式の考え方だ。誰か参謀がいるのだろう。グライヒグでない事を祈ろう。
「わかった、この内容でいいよ。その対戦受けたと返事をしてくれ」
「本当にいいのか。こんな不利なルールで……」
「問題ないよ。それに、上限無しという設定は、相手にも同じ条件でやり返されるという発想ができない相手らしいから笑えるね」
神力の上限無しだぞ。いいのかぁー本当に!
ものすごい不安な顔をしていた生徒会役員達も「なるほど!」と笑顔が戻ってきた。どうやら、私も何かすごい力が付与された武器をもっていると勘違いしたらしい。
さて、今夜はどこまでやったら殿下の心が折れるかの相談だな。面倒事は早めに片付けてしまおう。
次話投稿は明日の7時10分になります




