038 エスプリシフ
ソフィアが見つけた水色の結晶は、『精霊結晶』だった。
「泣いています」ソフィアには、結晶の声が聞こえるらしい。つくも(猫)が空けた池の縦坑に飛び込んだ先には、1メートル位の細長い水色の精霊結晶が待っていた。
「この子が本体ですね。これはその欠片です」
確かに隅の方が少し欠けている。でも、大きさが合わない。他にも欠片が散らばっているようだ。
「危険はないのかな」
猫を見る。
「わからん、真色眼はどうだ」
ああ、確かに!
「神色眼 精霊結晶」
ピコン! 澄んだ青玉だ。大丈夫。
「問題ない。ソフィア、触ってみてくれるかな」
「はい」
近づき、恐る恐る手を伸ばし、結晶に触れたその時!
シュパー
光の線が空に打ち上がった。
時間が止まった。
「あいつが来るぞ」
女神様ですね。
ベニザクラ号が転送されてきた。色が戻っている。中から女神の姿をした世界樹の精霊が出てきた。
「ねこちゃんありがとう。この車両に出口を作ってくれたからここに来ることができたのよ」
そう言って、つくも(猫)を抱き上げ頬ずりをした。そして、結晶の前に来て跪いた。
「置いていってごめんね。寂しかったでしょう」
結晶がほのかに光った。
「どういうことだ!」
女神の腕の中でもがきながら声を縛り出す猫。
「この子は、4大精霊になるはずだった子よ」
4大精霊!
火の『サラマンダー』、水の『ウンディーネ』、風の『シルフ』、地の『ノーム』だ。
「私が、σθπογαψτλιΗΔΝΠΣθλσξξοΤΙΒΜΘινρΣΩΧρωだったのよ」
なんだ、『多言語翻訳君』が変換できない言葉だぞ。
つくも(猫)を見る。うなずいている。分かるんだ。なら、これは『神の言葉』だ。
「つくも(猫)、その言葉、変換できない」
「そうか。これは『神の言語』だ」
「あら、ここでは駄目なのね。10層の結界内ならきっと大丈夫よ。どうする、今から行く」
そんな、コンビニに行くみたいに言わないでください。
「第三権限のあなた達なら、問題なく入れるわよ」
どうするの……と、上目遣いで見上げてくる女神様。
「女神様」
「私はエスプリシフ、『エスプリ』でいいわよ」
「…… エスプリさん。人間て面倒くさいんですよ」
「……?」
「しがらみというか、心情というか、とにかく、ある程度みんなが納得してから行かないと、その後がすごく面倒くさくなるんです」
「よく分からないわね」
「強引に物事を進めると、必ず反発する勢力が湧き出てきて、じゃまをして、全てをぶち壊すんです」
「ああ、わかるわ。カロスも言っていたわ。だから彼は逃げ出したのよ」
ん、どういうこと?
「わかったわ。でも、準備が整ったら来てくれるのね」
「はい、それは確約です。来年、行きます」
「2000年ぶりのお客さんね。楽しみだわ」
ソフィアを見た。色がないまま固まっている。
「その子。『精霊の愛し子』ね。助かったわ、その子がいなければ、この子は見つからなかったわ」
そして、静かに頭を下げた。
「お願いがあるの。他の島にも置いていった子がいるの。その子に頼んで見つけてほしいの」
ソフィアなら見つけられるって事だな。
「見つけるための条件は何ですか」
「あなた、話が早いわね。助かるわ」
「欠片よ。それを見つけて、この子が結晶に触れば、合図が打ち上がるわ」
「欠片を見つけられるのはソフィアだけですか」
「いいえ、相性があるの。他にも見つけられる子はいるはずよ。でも、合図を打ち上げられるのはこの子だけよ」
「わかりました。時間はかかりますよ」
「6万年待ったのよ、今更ね」
そう言って、エスプリさんはにこやかに笑った。
「お礼は、10層に来たときに支払うわ。それと、見つけた欠片は持っていていいわよ。それがあれば、私の第三権限の結界を通れるはずよ」
それって、10層に入れるってことだよね!
驚いていると、いたずらっぽく笑って、
「君でも驚くことがあるんだ! いい顔見られて満足よ」
エスプリさんは、ナツメさんのようなことを言って、水色の精霊結晶をつれて帰って行った。
「10層が見えてきたな。さて、サクラを連れてこないとベニザクラ号は動かせないか」
つくも(猫)は、迎えに行ってしまった。
「何か、光が上がったように見えたのですか……」
ソフィアに色が戻っていた。
「ソフィア、説明は後です。今は、それと同じ欠片を見つけましょう」
なんだろう? そんな顔をしながらも、何も言わずに黙々と欠片を探すソフィア。素直ないい子だ。
欠片は近くに固まっていた。それを全て回収する。
つくも(猫)が連れてきたサクラさんが、ベニザクラ号を上昇させていく。サクラさんも、何も聞かない。何でこの世界の女性達は、こんなにも献身的なのだろう。
「きさま、何をしたか分かっているんだろうな」
違った、例外もいる。
その夜。ベニザクラ号の中で話せることだけ伝えた。
「なら、その欠片を探すのが優先ですね」
ジェイドが思案している。
「今回は、これで調査を切り上げましょう。次に来るときは、全員です。相性が合う人は人数が多い方が確率が上がります」
全員が、ジェイド参謀の意見に賛成した。
明日の調査は取りやめる。朝食を食べてから、隠れ家に帰るとしよう。
* * * * *
巨大鰻が宙を舞っている。鯉のぼりみたいだ。
猫が、空中に20メートルはある鰻を浮かべて、鋭い爪で捌いている。尻尾がちぎれるんじゃないかと心配になるほど激しく振っている。
「今日のお昼は蒲焼きだ」
イグニス達がキョトンとしている。
「蒲焼きって何だ?」
醤油とみりんとお酒と砂糖を混ぜてタレを作って、それを鰻の白身に塗りながら炭火でじっくり焼くこと……かな。
でも、もしかして、醤油とみりんを見つけたのか。なら、味噌も米もあるのか!
残念ながら、見つかっていなかった。同じような効果がある調味料を見つけたので、試しているところらしい。
こうなったら、
「真色眼 米、味噌、醤油、みりん!」
ぐすん。反応無し。生物じゃないと駄目らしい。でも、あきらめるものか。この食べ物は日本人の魂だ!
再び、バーベキュー用のかまどが登場した。熾きになった炭火がメラメラと燃えている。燃えるそばから灰になっていく様子は見ていて飽きない。
ジュワー。音を立てて醤油だれのようなタレが湯気を上げる。蒲焼きのあの臭いが充満する。味を知っている私はよだれが止まらない。
味を知らないはずの仲間達も、よだれが止まらない。
「20メートル級だ。身はたっぷりあるぞ。よろこべイグニス」
「蒲焼きもどきだ。でも、それなりの味にはなっている」
「さあ、召し上がれ」
「脂が控えめね。だから、さっぱりしているわ。旨みと香りがかなり強いわ。身も引き締まっていて、噛むと弾力も感じる。炭火で焼くと、香りが余計に強くなるのね。この臭い、もう頭から離れないわ」
ソフィア料理評論家の感想でした。
鰻は好評だった。さすがに20メートル級は食べ尽くすのは無理だった。
さて、次の調査の計画を直ぐに立てないといけないぞ。10層に行くには精霊結晶の欠片が必要になる。忙しくなりそうだ。
次話投稿は明日の7時10分になります




