037 精霊結晶
冒険者パーティー『紅桜』は、エレウス王国冒険者ギルドより、アステル湖にある島の調査依頼を受けた。
ベニザクラ号は、風の道で湖の上を移動できるので、この調査には適任だろうというギルドマスターからの指名依頼だ。
第1次湖水島調査団は初めの調査対象である『ラルタ島』に上陸し、調査を開始した。
ラルタ島は、水性魔物が生息する水の島だった。
一番大きな池が島の真ん中にある。きっと、この島の主がいるだろう。それは鰻だろう。調査団の勝手な思い込みだが、まんざら的外れではない気もする。
それに、島の上空からの調査は安全面から見ても理にかなっている。
これは調査である。決して鰻が食べたい訳ではない。
白熱した会議の結果、鰻の餌は、ミミズがいいのではないかという結論に達した。日本だとドバミミズがいいと聞いたことがある。淡水魚を釣るための最強餌らしい。
大樹の森なら「ビヨン」がいる。体長は3メートルから10メートルぐらいだ。つくも(猫)が狙う30メートル級なら、3メートルぐらいが理想だろう。
だが、ここは島だ。ビヨンはいないだろう。
仕方ない、調査のためだ、
『真色眼 対象ドバミミズ』
ピコン! 青玉だ。毒はない危険もない。大人しいやつだ。
「島の南側の森林地帯にいますね。大きさは分かりません」
「行ってみましょう」
サクラさんがやる気満々だ。これはもう誰にも止められない。
「風の道」
「出発します」
文字通り、すっ飛んでいった。
「そこの湿地帯にいますね。棒で突っついてみましょうか」
「任せてくれ」
脳筋がやる気満々だ。
長い棒で突っついてみた。うわ、ウジャウジャ出てきた。体長1メートルぐらいだ。
「ちょっと小さいですが、大樹の森ではないですからこんなもんでしょう」
サクラさんが残念そうにつぶやいた。
「よし、収納した。行っていいぞ」
つくも(猫)は仕事が早い。
「出発します」
ベニザクラ号が島の真ん中にある池の近くまで来て、静かに降下する。
「釣り竿はどうするの」
ジェイドもその気になってきた。
「紅の触手で十分よ」
大丈夫か、樹魔達はあの手の奴ら苦手だぞ。
「俺様の神装結界で作るから問題ない」
猫は、よほど鰻が欲しいらしい。
「カナデさん、タモ網任せます」
サクラさん、分かっていますよ。
「神装力第三権限開放 神装結界イメージ『タモ網』」
焼き肉の網を作った経験が活かされている。完璧なイメージで作れた。
準備は全て整った。さあ、調査開始だ。
「なかなか釣れませんね」
「ポイントが悪いのかな。移動してみますか」
最初は興味津々で見ていたメンバーも30分もすると飽きてきたらしく、ソファーで寝そべっている。いまは、ジェイドとソフィアが、釣り竿の監視をしている。
「神装力がまずかったか」
猫がうなだれている。
多分そうだ。魔物は怯えて隠れているかも知れない。
「いるっす。あの深みに何かいるっす」
リーウスが、強化した感覚で池の中を探っていた。反応があったようだ。
真色眼には反応しない。敵意はない。
湖面に波紋ができた。何かが浮き上がってくる。
顔が見えた。なんだ……カメだった。
大きさは5メートルぐらいだろう。小さな島みたいだ。あれが、主なのだろうか。
ピコン! 赤玉。
「来るっす。大きいっす」
カメを狙っているようだ。巨大な影が浮き上がってきた。クネクネしている。20メートルはありそうだ。蛇か、鰻かどちらだ。
鰻だ!
猫の目がキラリと光った。
「カナデ、網だ」
「了解!」
「神装力第三権限開放 神装結界イメージ『投網』」
ベニザクラ号から飛び降り、岸辺から鰻めがけて網を広げた。
鰻を投網で絡める。ジタバタするが、神装結界の網はびくともしない。
「転送した」
巨大な鰻が目の前から消えていた。
調査終了である。
「あれ、本当にそうなんだろうか?」
上空に浮かぶベニザクラ号を見上げながら、そうつぶやいた。
静かに降下してくるベニザクラ号。池には九死に一生を得たカメが浮かんでいた。
「カナデさん、やりましたね」
ジェイドが飛び出してきた。
その後に降りてきたソフィアが不思議そうにカメを見ている。
「ソフィアどうかしたのか」
「あそこ、カメの甲羅に何か光る物が付いています」
確かに光っている。甲羅の間に挟まっているように見える。
「ちょっと見てきます」
身体強化をかけ、ポンと背中に飛び乗る。カメはちょっとピクッとしたが動かない。しきりに何かを食べている。
甲羅には、何かの結晶みたいな物が挟まっていた。そっと、触ってみるとぽろっと取れた。それを持って、岸にもどった。
「何かの結晶みたいだね。見つけたのはソフィアだから持っていて」
ポンとソフィアの手の上にその結晶を乗せた。
「泣いています」
ソフィアを見ると、大粒の涙を流していた。どうした。
「この結晶が泣いています。連れて行って! 置いていかないで! と泣いています」
様子が変だと、みんなが集まってきた。
「きさま、ソフィア様に何をした!」
脳筋剣士がわかりやすい反応をした。それをガン無視して、ソフィアに尋ねた。
「結晶から聞こえるの」
「はい、でも小さい声なんです」
「それは、精霊結晶だ!」
猫が瞳孔を狭めてのぞき込んでいた。
聞いたこと、いや読んだことがある。シオン教授の研究室に置いてあった本に載っていた。
「めずらしい結晶です。諸説あります。精霊の卵、精霊の家、精霊の魂、でも一番有力なのは、精霊になれなかった何か、です」
「何かって何?」
サクラさんが? マークだ。
「何か分からないから何かです」
これ以上は押し問答になるな。
納得できないでいるメンバー達。すまん、おれにもわからん。
「仲間がいるみたいですね」
泣いていたソフィアが、顔を上げた。
「池の底です」
池を指さした。
みんなで顔を見合わせた。池の中にはあいつのお仲間がいる。20メートル級の鰻君が……潜れば、餌になるのはおれたちだ。
「仕方ないな。鰻の褒美だ。俺様が手を貸していやる」
よほど嬉しかったのだろう。尻尾をビュンビュン振っている。
「神装力 風の道」
紅色の神力を纏った風のトンネルが池に突き刺さった。そして、どんどん輪が広がっていき、直径50メートルほどの縦坑が現れた。
池の底までつながっている縦のトンネルだ。
「ほれ、行くぞ」
猫が促す。仕方ない、
「ちょっと、失礼します」
ソフィアをお姫様抱っこする。脳筋剣士が何かを騒いでいる。気にしないで、縦坑に飛び込んだ。
あっという間に底に着いた。
底には、光る水色の結晶が待っていた。
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