036 水性魔物の島
ベニザクラ号は通常の歩行型で海岸線を進んでいる。
これまでは、トイレや仮眠をするためにはリムジン型でないとユニット交換ができなかった。
今は、つくも(猫)の次元渦巻を通れば自由にユニットへ行けるようになった。どんどん便利になっていくベニザクラ号である。
「カナデさん、気になることがあります」
「何がだい、ジェイド」
「魔物がいません。小動物型の魔物さえまだ見ていません」
「うん、おれもそれは気になっていた」
「どういうことだ!」
脳筋には説明してもわからんよ!
「小動物型って、まちぼうけやあなほりのことですか」
ソフィアはよく勉強している。
「大樹の森に生息している魔物はここら辺にいるのよりも一回り大きくて強いんです。だから、人を見ても直ぐ逃げません。でも、ここの魔物は小さくて直ぐ逃げます」
「うじゃうじゃも小さい。かわいい」
「なら、見つからないのは当然だぞ」
「イディア、見つからないといないは違うんだぞ」
「どういうことなの?」
「ソフィア、食物連鎖さ、いないとなると、生態系が変わってくるんだよ」
うなずくソフィア! 首を傾げる脳筋!
「穴掘りやまちぼうけ達の食料になる魔力草がないんだよ。生えているのは通常の植物だけだ」
「確かに変っす」
「ここら辺が東海岸になりますね。特に変わったことはありません。魔力草がないこと以外は……」
「サクラさん、予定通り池に向かいましょう」
「わかりました。ペンテとテネリを収容します」
外を自由に走り回っていたが、ここからは危険かも知れない。良い判断だ。
エルが賢魔鳥用のユニットを作ってくれた。もちろんねこちゃんペンダント型の首輪もつけている。これがないと結界内に入れない。時空渦巻も同じだ。
「ペンテ、テネリ、この中で休んでいてね」
サクラさんが2体を連れて次元渦巻に消えた。
「エルにお礼を言わないといけませんね。すごく快適な場所になっています」
サクラさんがご機嫌だ。
「池に向かいます」
シャカシャカとベニザクラ号が進んでいく。
「ストップ。何かいるっす」
池の方に赤玉が浮かんだ。リーウスも反応した。
ぞろぞろと、蛙型の魔物が出てきた。『ベロン』だ。名前の通り、べろんと舌を伸ばして攻撃してくる。舌に捕まると逃げられない。毒をもっている個体もいる。大樹の森ではCランクのやっかいな魔物だ。
「まずいっす。ベロンの大群っす」
緊張が走った。
「大丈夫。小さい」
クエバさんが杖を持った。そして、御者台に立つ。
「火と風の魔法陣を使う。カナデは拡散魔法陣!」
「わかった」
魔法で風は起こせない。魔法陣が必要だ。
「魔法陣展開『火』 魔法陣展開『風』」
クエバさんがスクロール無しで2つの魔法陣を同時に展開させる。上級魔法陣展開だ。
「主は風なり。火は従。上はボウボウ、下はビュウビュウ、フュージョン」
「魔法陣展開『拡散』」
熱風だ。それが拡散されて地表を這うように広がっていく。ぞろぞろ出てきたベロンの表皮を瞬時に乾燥させた。ビヨン達は干からびて動かなくなった。
「ベロンも1匹いたら100匹系、撲滅 ククク」
クエバさんはぶれない。上級魔法陣展開ができるということは、魔術学院高等部6学年卒業レベルの使い手になる。もしかすると、学院の卒業生かも知れない。
「鮮やかですね。うちの6学年でもこれほどの使い手は少ないですよ」
ソフィアが感心している。脳筋は何が起こった分からないようだ。
「どうしてああなった。説明してくれ」
おまえは聞いても分からない。ごめんだね!
「カナデさん。この島は水の島だって言いましたよね」
ジェイド、言いたいことは分かった。
「この島全体が水性魔物の生息地だ。注意して進もう」
全員に緊張感が漂った。
「おい、カナデ説明しろ」
いや、1人だけ違った。
脳筋の言葉をガン無視して、ベニザクラ号はシャカシャカと進んでいく。
「ストップ。いるっす」
赤玉だ。今度は何だ。
「鰐型っす」
「1匹なら問題ないわ。紅排除」
紅の触手が、ワニを遙か後方にすっ飛ばした。
「1匹ずつなら、紅が排除します。このまま進みますね」
紅はA級魔物と同等の力がある。ここの魔物では相手にならない。格が違うのだよ格が!
30体ぐらいすっ飛ばしただろうか。もう鰐型は出てこなくなった。
「池ごとに棲息している魔物が違うみたいですね」
ソフィアの言っていることは正解だろう。
「いるっす」
赤玉だ。さて、何だろう?
魚がたくさん飛び出してきた。ピラニア型だ。大型魔物を数分で食べ尽くす、どう猛な肉食魚だ。
ベニザクラ号の結界が発動している。空中でピチピチと跳ねている。
「あれは、フライにすると美味しいぞ。持ち帰るか」
猫が尻尾を左右にビュンビュン振りながら、異次元収納の中に放り込んでいた。
さっきまでの緊張感が崩れていった。
「どうしますか。なんか、どうでもよくなってきたんですが……」
サクラさんがあきれ顔だ。
「状況は分かりました。この島は水性魔物しか生息していません。今日の調査は終了です」
「宿泊場所はどうしますか」
「ここはやめましょう。夜中に夜行性が来るかも知れません。色々面倒です。西海岸へ戻ります」
「それがよさそうね」
「風の道」
ベニザクラ号が静かに浮かび上がった。そのまま、西海岸にむけて風の道が続いていた。
「発進します」
周りの景色が後ろにすっ飛んでいった。
キッチンユニットの中で魚のフライが揚げられている。ピラニア型の魔物だ。猫がフライを揚げている。排出されていく煙はいったいどこに行くのだろう。
ユニット自体は次元箱の中だ。ユニットは無機物だが、中にいるのは生物に分類されるはずだ。うーん、悩むのはやめよう。神力の前では全て無意味だ。
猫がきれいに揚がった魚のフライを見て満足そうに尻尾を振っている。癒やされる。それでいいではないか。
今回ドワーフ族はいない。一番食べるのはきっと脳筋剣士だろう。
「わりと淡泊な白身だわ。臭みもない。鯛のような上品な旨みと甘みがあるわね。歯ごたえもいいわ」
ソフィア料理評論家の感想でした。
「作戦会議を始めます」
エルがいないので、ジェイドが司会をしている。
「東側にある小さな池の調査は終了です。池ごとに固定された水性魔物がいるという事の報告だけでいいでしょう」
「カナデ、なんで固定されるんだ」
脳筋剣士もたまにはいいことを聞く。
「ダンジョンと同じだよ。限られた空間の中では、強くて環境に適応している魔物しか生き残れないのさ。大樹の森の6層以降も同じような感じだぞ」
「なるほど、小さな島という限られた環境の中ということですね」
ソフィアが大きくうなずいている。
「まあ、そうなんだけど。それにしてもここまで極端になるという理由は分からないな」
「明日の調査はどうしますか」
「ジェイドはあの大きな池に何がいると思う」
「わかりません。でも、いるとしたら水性魔物の頂点ですよね」
「ああ、この島の頂点、だな!」
「ベニザクラ号で上空から釣り糸でも垂らしてみますか。大物が釣れるかも知れませんよ」
サクラさんが料理長を見ながらおもしろい提案をしている。
「うむ、まるまるした鰻がいるといいな」
猫も食材が欲しいらしい。
「餌は何にするんだ」
イディアもピラニアのフライが美味しかったようだ。
「えーと、その提案採用なんですか?」
ジェイドが苦笑いだ。
「俺様がいるのだぞ。30メートル級の鰻でも問題ない」
つくも(猫)、どうしても鰻がほしいんだね。
そのあと、鰻の餌は何がいいのかの議論になり、今日の会議は終わった。
明日の調査は鰻釣りに決定した。
次話投稿は明日の7時10分になります




