034 新しい仲間
サクラシア様の騎士アーマー作成に必要な素材を購入した私とジェイド、そして、シンティの姉である武装具職人のディーラさんが魔術学院に戻ると、ベニザクラ号には、隠れ家に帰るメンバーが勢揃いをしていた。
「すまん。待たせたようだ」
「大丈夫です。私もさっきついたばかりです」
ニコニコ顔のサクラさん。学院での生活が楽しいようだ。
「姉さん。お久しぶりです」
「シンティもな、元気そうでよかった」
兄弟の挨拶って、こんなもんだよな。日本いたとき、姉から愛想が無いとほっぺたを引っ張られていたことを思い出す。
「師匠、一緒に仕事ができるなんて嬉しいです」
エルが泣いている。
「エル、しばらく世話になる。着いたら直ぐに工房に案内してくれ。確認したいことが山ほどある」
ディーラさんは、すでに職人モードだ。
「では、出発します。王都上空の飛行許可をもらったので、森に入ったら風の道で一直線です」
何のことだ? そんな顔のディーラさん。ごめんなさい。きっとたまげます。
サクラさんは、宣言通りに遠慮無く風の道を展開させた。
「風の道」
森の中でゆっくりと浮き上がり上昇していくベニザクラ号。樹木の上に出ると、景色が後ろに吹っ飛んだ。
魔術学院から隠れ家まではだいたい20キロメートルぐらいの距離になる。なので、サクラさんの風の道なら15分で到着できる。
「噂には聞いていたが、姫の風の道はでたらめだな」
このぐらいでは驚かないか。さすがだな。
15分。ピタッと停止し、そのまま降下する。
何もない森の中にベニザクラ号が降り立った。
「ここからは歩行型で進むんだね。ずいぶん遠くに住んでいるな」
外を見ながらディーラさんが何気なく言葉にする。
「ディーラさん。ここからが機密のオンパレードです。覚悟してください」
そう断ってから、ねこちゃんペンダントを手渡した。
例の棘も手渡し、
「本人認証付きの魔道具になっています。ここで登録してください」
「了解した」
「では、自分の魔力を込めてから、もう一度外を見てもらっていいですか」
不思議そうな顔をしながらも、言われた通りにする。
「なっ、なぜ目の前に屋敷がある」
初めてびっくりしてくれた。
「俺様の結界が張ってあるからな。当然だ」
「……」
シンティの腕の中で寝ていた猫があくびをしながらしゃべっていた。
言葉も出ない。うん、この姿が見たかった。
「姉さん、神獣様よ」
直ぐに状況を理解したようだ。
跪こうと、体を動かした。
「その行為はいらない。おまえは仲間になった」
猫が瞳孔を広げたまんまるの目で見つめていた。
ディーラさんは、静かにうなずいた。
「このねこちゃんペンダントを身につけていないと、この隠れ家は見ることも入ることもできません」
ディーラさんは、ねこちゃんペンダントを手で持ちじっと見つめていた。
「では、結界内に入りますよ」
全員がペンダントをしているか確認をする。
「ようこそ、隠れ家に。歓迎します」
みんなでディーラさんをみて、そういうと、
「ああ、仲間になったディーラだ。よろしくたのむ」
とても頼もしい人が新たに仲間に加わった。人材がどんどんそろっていく。嬉しいことだ。
庭でイグニスが上半身裸で素振りをしていた。嫌な予感がした。
「なんて美しい筋肉なんだ。触らせてくれ」
ディーラさんが返事も聞かずに触りまくる。
ポカンとしてみている仲間達。どうやら、自己紹介は必要なさそうだ。
シンティに殴られて正気を取り戻したディーラさんは、そのまま、エルを引っ張って工房に行ってしまった。
ソフィアとイディアは、イグニスと一緒に剣の稽古が始まる。みんなで一緒に帰宅するので、課外活動ができなくなったのだ。でも、本人達は、課外活動よりも得るものが大きいと嬉しそうだ。
他のメンバーはそれぞれやりたいことをして過ごす。
マーレたちは、猫のお手伝いだ。つまり、調理である。マーレが特に張り切っている。料理が好きなようだ。
「料理長、今日のメニューの説明をお願いします」
「うむ、今日はディーラの歓迎会でもある。少し珍しいものを作ったぞ」
私はすでに臭いで分かっている。この独特な刺激臭。色々なスパイスを混ぜ合わせて作ったあの異世界定番料理だ。実はこの臭いに気がついたときからよだれが止まらない。
「さっきからいい臭いがしているが、関係あるのか」
ありますとも!
「イグニス、驚け! とんでもない料理だぞ」
散々、味見をしたらしいクエバが口の周りを少し腫らして威張っている。何を食べた?
「カレーだ。王都の市場はスパイスの種類が豊富だった。なので作ってみることにした。さすがの俺様も調合に苦労したぞ」
マーレがものすごく大きな鍋の蓋を開けた。
食欲をそそる臭いが部屋中に充満した。
ゴクリ、全員がつばを飲む。
「米という穀物があると完璧なんだがな、残念ながら確認できなかった。でも、パンにつけて食べても美味しいぞ」
「服に汁が付くとなかなか落ちないっす。エプロンをするっす」
同じく唇を少し腫らしたリーウスがエプロンを配った。
「たくさんある。喜べイグニス」
あれ、ディーラさんさんもドワーフ族だよな……食欲はいっしょか?
「さあ、めしあがれ」
みんなが期待を込めてスプーンで汁をすくって口に運び舌で味を確かめる。イメージ通りの味だったらしい。
「この美味しさ。うまく表現できないわ。なんだろう、いろいろな酸味や旨みが混ざり合っていて、そして、調和しているわ」
ソフィアが真っ先に反応した。そう言えば料理評論家だった。
「いくらでも食べられそうだ。パンに汁をしみこませると最高に美味しいぞ」
ディーラさんがご機嫌だ。そして食べるのが早い。どんどん皿が空になっていく。
イグニスとシンティに言葉は無い。手と口が高速で動いているだけだ。
「いきなりねこちゃんが現れて、『行くぞ』って言われたときは、どこに連れて行かれるかと思いましたよ」
マーレがスパイス購入の時の裏話をしてくれた。
ソフィア達と王都の市場に行ったときに、つくも(猫)がスパイスを発見してマーレ達を迎えに行ったらしい。そういえば、いつの間にか消えていた。そういうわけか。
「スパイスの調合に苦労したっす」
「たくさんの味があった。美味」
マーレたちは、下の1からの3日間は、スパイスの調合で忙しかったようだ。
あれだけの量のカレーは全て無くなった。ドワーフ族が1人増えたのでなおさらだ。
満腹のお腹をさするながら、今後の打合せをした。
「それでは、ゲップ……しつれい、作戦会議を始めます」
ゲップ。みんながうなずく。
「下の6、26日からアステル湖にある島の調査になります。行くメンバーを決めましょう」
「サクラは決定ね。ベニザクラ号じゃないと湖の上移動できないわ」
シンティがそう言うと、サクラさんもうなずく。
「すまんが、シンティとエルは私に貸してくれないか、工房の準備をしたい」
「わかりました。そうしてください」
「そうなると、カナデさん、私、『風の森』になるかしら」
サクラさんが私の言葉を受けてそう提案すると、
「ぼくも行きたいです」
「私達も行きたいです」
ジェイドとソフィア達が名乗りを上げた。
「下の6からだぞ。予備日になるが授業は無いのか」
「もともと入れていません。カナデさんに合わせたじゃないですか」
そう言えばそうだった。
「私達も同じですよ」
ソフィアがちょっと膨れた顔でそう言った。
「うーん、今回調査する予定の島は危険はなさそうだからいいか。でも、火山島の時はわからんぞ、危険だと判断したときは、我慢してくれ」
しぶしぶとうなずく3人。納得はしていないようだ。
メンバーは決まった。
明日は、ディーラさんを工房に届けてから、学院に行き、授業が終わったら、荷物といっしょにディーラさんを拾い、隠れ家に直行する。ということになった。
次話投稿は明日の7時10分になります
活動報告があります。よろしかったらご覧ください。
偉業の報酬は昨日投稿した10話が最終話になります。




