033 まんまるの素材
私の騎士アーマー作製を、シンティの姉が経営する武装具店に発注した。
男のロマンが詰まった魔装具にしたいという私の願いを聞き入れてくれたディーラさんが、泊まり込みで作業をしてくれる事になった。場所はエルの工房になる。
隠れ家でしばらく生活することになるのをサクラさんやシンティに相談しないで決めてしまった。流れ的にそうなったのだが、いざ、冷静になってみるとまずかったかも知れない。
おそるおそる、シンティ達に報告した。
「ねこちゃんの機密保持契約するんでしょう。全く問題ないわよ」
天然エルフが笑顔で了承してくれた。
「ああ、そう言えば父が姉のところに挨拶に行けって、伝書魔鳥で知らせてきたわね。忘れていたわ。そっちから来てくれるなら丁度いいわ」
シンティも気にしていない。セーフだ。でも、これからはもう少し慎重に事を進めよう。
おや、エルの様子が変だぞ。
「カナデさん、まじですか。ディーラさんが来るんですか」
ん、震えているぞ。しまった、こっちが駄目だったか。
「感激です。伝説の装具師であり錬金魔術師であり鍛冶術師でもある、あのディーラ師匠が男のロマンを手伝ってくれるんですね」
泣いている。そうか、そんなにすごい人だったのか。ただの筋肉マニアかと思っていたよ。
この問題は、何とかなりそうだ。女子部屋は開いている。後は工房か。
「エル、工房どうする。さすがにユニットでは狭いだろう」
「そうですね。どうしましょうか」
「ねこちゃん、食料を次元収納に入れちゃうから食料庫はまるまる使っていないの。そこを工房にしていいわよ」
サクラさんの提案に甘えることにした。
明日から少しずつ、工房らしく改装していくことになった。そっちは任せた。
明日から下旬の5日間が始まる。4の日は丁度午後3時からの授業がない。そのときに商談を済ませてしまおう。また、魔動車の出番だな。
学院にそのまま帰り、ベニザクラ号でいっしょに隠れ家に行くことになる。教訓を活かして、今のうちに相談しておこう。
サクラさんからもシンティからも特に異論はなく、この提案は了承された。
学院の授業も順調に進んでいる。朝の時間はシオン教授の研究室で過ごしている。ボンとクリシスも一緒だ。
初等部で魔法陣の可能性を目の当たりにしたボンは、本気モードでその勉強をしている。自国の産業に活かせると直感で感じたらしい。本当に優秀だよ。もちろん協力は惜しまないつもりだ。
1の日(日本なら月曜日)は、午前中で授業が終わる。なので、初等部へ行って、授業のボランティアをすることにした。先生達からの熱いラブコールも後押ししたからだ。
この年齢から魔法陣の英才教育をしておけば、この子達が高等部に来る頃は、魔法陣学が人気ナンバーワンになっているだろう。それに、今後のこの大陸のことを思うと、基礎魔術力の底上げは必須だ。
「黒板の成果は出ているようですね」
「成果なんてもんじゃないですよ。子ども達の目つきが変わりました。1から描く魔法陣がすごく分かりやすくて覚えやすいみたいです」
「人って、手や言葉を使って進化してきたんです。当然ですよ」
ふん、大猿たちめ、お前らには絶対に協力しないからな。
感情が抑えられない辺りはまだまだだとは思うが、貴族枠教授の傲慢な姿が、ジェイドにひどい仕打ちをした貴族連中と重なってしまう。
反面、カルミア様のような思慮深く慈悲にあふれた貴族もいる。ソフィアやボンのような澄んだ心の持ち主もたくさんいる。貴族全部が敵ではないと言うことも分かっている。
* * * * *
下旬の3日間は、何事もなく平和に過ぎていった。今日は、4月24日、『下旬4』の日なので、あの素材工房に行く日になる。ジェイドも授業がないので一緒に行ってくれることになった。
「この魔動車、かなり改造してありますね。ここまで揺れないなんてありえないです」
マイアコス王国も魔道具開発に力を入れている。魔動車も作っているので、自国の技術と比べたようだ。
「正解だ。オリジナルはもっと揺れる。でもマイアコスとストラミアだと、どっちが上なんだ」
「技術のことですね。くやしいですが圧倒的にストラミアが上です」
「なるほどな。王都はマイアコス製が多いんだろ」
「ストラミアは遠いので運べないんですよ。だからこそ、あの第3世代型次元箱のことは機密です」
どこの世界も物流は重要だな。
ディーラさんの工房前で停車する。
「ディーラさん、迎えに来ました。出発できそうですか」
小型の鞄型次元箱を持ったディーラさんが出てきた。
「工房のいろいろな道具は、すまないがまた取りに来るで構わないだろうか」
「どの位の荷物になりますか」
「エルの工房を見て、足りないものを持っていくになるかな」
「わかりました。私達は明日が下旬の最終日です。今日確認してもらえれば、明日ベニザクラ号で運べますよ」
「了解した」
車内で一騒動あった。ジェイドを見て、
「君、なんて均整のとれた体をしているんだ。詳しく採寸させてくれないか」
「ディーラさん、降りて歩きますか」
「すまん、ついな……」
ブラキオさんの工房に着いた。
「カナデです。商談に来ました」
「おう、全部仕上がっているぞ。確認してくれ」
まんまるから採取できる全ての素材がきれいに処理され、並べられていた。確かに一流だ。
「確認しました。さすがですね。入り口の町の素材職人に引けを取らない技術です」
「それは最高の褒め言葉だよ。ありがとな」
「さて、そっちが必要な分をより分けてくれ。残った分は全部買い取らせてもらうぞ」
「わかりました。ディーラさん、お願いしていいですか」
「任せてくれ」
ディーラさんが、企画書を見ながら素材を選んでいく。それを、私とジェイドで机の上に並べていく。
「取りあえずこんなところかな。ブラキオ、もし足りなくなったらそのときは相談させてくれ」
「問題ない。この量だ。直ぐに無くなることはないだろう」
そういって、ホクホクしている。
つくも(猫)の異次元収納の中にまだ相当数いるのだが、言えないな。
相場はさっぱり分からない。全ておまかせになるが仕方ない。
「そっちがほしい素材の値段を差し引いて、この値段でどうだ」
「買い取り価格がかなり高ぞ。処理料はどういう扱いだ」
「今回はサービスみたいなもんだよ。何しろ、さっき活動停止にしたような良質の状態だったんだよ。処理にかかる時間は通常の半分だ」
「了解した。これでいいよ」
商談は成立した。まんまるの素材は金貨100枚、日本円で1000万円になった。そこから、購入した素材の金額を引くと金貨70枚が私の儲けになる。
お店の方も、めったに出ない7メートル級なので、上手に売れば3倍の儲けになるらしい。ブラキオさんもホクホクだ。
購入した全ての素材を預けておいた大型の次元箱に入れて、魔動車に積み込む。
最新型の魔動車に興味津々な様子でなごり惜しそうに見送るブラキオさん。
そのまま、森の門から魔術学院に入った。ベニザクラ号には、隠れ家に帰るメンバーが勢揃いをして待っていた。
次話投稿は明日の7時10分になります
大樹の森編『偉業の報酬』12時10分投稿




