032 王都の職人達
私とソフィアとイディアで、冒険者ギルドの指名依頼で必要になる食料や備品の買い出しに来ている。
ついでだからということで、いずれ必要になる騎士アーマーの注文をする事になった。
訪れた工房に、シンティの姉である『ディーラルンダ』さんがいた。
「ディーラルンダさん」
「ディーラでいい」
「ディーラさんは、シンティに合わなくていいんですか」
「同じ王都にいるんだ。その内尋ねてくるだろう。仕事優先だ。別に仲が悪いわけじゃない」
なるほど、どちらも職人気質なんだ。
「で、どんな装具にしたいんだ。その様子だと希望があるんだろう」
鋭いな。
「何で分かるんですか。その通りです。実はですね。男のロマンを叶えたいんです」
「……」
予想外の言葉だったらしい。
「シンティには、いずれ相談しようとは思っていたんですが、エルとはよく実験していたんです。男のロマンを!」
「よく分からんな、その男のロマンとは何だ」
「夢……みたいなものですかね。妄想とも言いますか。つまり、『アーマー装着』と言う言葉で、瞬時に武装するという魔道具になった魔装具なんです」
ディーラさんの目が輝いた。
「言っていることはよくわからんが、ものすごくおもしろそうなことを考えているな」
にやりとして、
「詳しい話を聞こうじゃないか」
ドカッと、椅子に座り直した。
「ディーラさんに会うまでは、ただの妄想でした。言い出すつもりもなかったんです。でも、瞬時に私の体の特徴を言い当てたその観察眼があれば、もしかしたら実現できるんじゃないかと、欲が出ました」
携帯型次元箱から、数枚の企画書を取り出し、机の上に置いた。『形状記憶樹魔繊維』の技術を使った魔装具の展開仕様の設計図だ。
その企画書を解読するディーラさん。
「この『形状記憶樹魔繊維』の詳細は教えてもらえるのか」
「今は無理です。入り口の町ギルドの最重要機密のひとつになります」
「理解した。となると、私ができることは、アーマのデザイン、装甲素材の形状強度調整、装飾品の加工と言うところだな」
この人すごい!
「はい、出来上がったアーマーの全体的な調整もお願いすることになります」
「それは機密に触れるぞ。可能か」
「機密保持契約を結んでいただければ可能です」
「なるほど、即答は避けておこう」
「これに必要な素材はそろっているのか」
「ほぼ、そろっています」
「どこにある」
「エルの工房にありますが、まんまるだけは素材処理が必要になります」
「何メートル級だ」
「7メートル級が1体丸々です」
目を見張るディーラさん。
「私の知っている素材専門店を紹介しよう。腕は一流だ。保障する」
どうやら食いついたみたいだ。いいぞ!
「これから忙しくなりそうだな。作業はエルの工房にしたいが可能か」
「サクラさんの許可が必要になりますが、シンティのお姉さんなら問題ないでしょう。ただ、やはり機密保持の契約をお願いすることになります」
「そこもか、いったいどれだけ機密を抱えている。で、そこは宿泊できるのか」
「部屋はあります。問題ないです」
「わかった、全て了解だ。早速、『ブラキオ』の工房に行こうじゃないか。まんまるはどこにある」
「機密ですが、今私が持っています」
これ以上は聞かない方がよさそうだと、ディーラさんは口をつぐんだ。
「ちょっと遠いぞ。乗り物はあるか」
「はい、そこに」
ディーラさんの後に、アイテムボックスからそっと魔動車を出して置いておいた。
「……?」
いつからここにあった? そんな表情で魔動車を見つめていた。
「ストラミア帝国製の最新型だな。よく手に入ったな」
その言葉は聞かなかったことにして、みんなで乗り込む。この魔動車は4人乗りだ。車内は結構ゆとりがある。
「ゆれないな。いい足回りだ。さすがは最新型だ」
すみません。オリジナルはもっと揺れていました。
距離にして10キロメートルぐらいだろう。森に近い町の端にその工房があった。お店は王都の町中にあるようだ。
「ブラキオ、いるか。ディーラだ。上客を連れてきたぞ」
しばらくして、やはりドワーフ族なのだろう。イグニスによく似た体型の男が出てきた。
「ディーラか、ここまで来るなんてめずらしいな」
「ああ、おまえにとってもいい話だ。まんまるの素材欲しがっていただろう」
ピクッと髭が動いた。
「どこにある。何メートル級のだ」
「ここにいるのが素材提供者だ。商談しようじゃないか」
「商談の前にひとつ言っておく。ヴィンスがらみの仕事だ」
「……王城がらみか……」
ちょっと考えてから、
「機密契約は必要か」
「できれば、しておいた方がそちらにとっても都合がいいと思います」
聞かれても嘘を言わなくてよくなる。話せなくなるのだから。
「素材を見てから決めるとしよう。どこにある」
イディアが大型の次元箱を運んできた。さっき、そっとアイテムボックスから魔動車に転送しておいた。
「保存方法は機密になっています。聞かれても答えられません」
そう言ってから、工房の床に7メートル級のまんまるを置いた。
「……」
しばらく沈黙が流れた。
「7メートル級だと……装甲だけでも市場に出てくれば大騒ぎになる大物だぞ」
しばらく考えてから、
「ディーラ、悪いな。おまえの紹介だ。信用しないわけではないが、こっちも信用第1の商売だ。身元確認させてくれ」
ディーラさんが私を見た。うなずいて、Gスターカードを取り出し掲げた。
「はっ、姫さんの騎士か、こりゃたまげた。なるほど、アーマーか。わかった、すまなかったな、疑って」
「構いませんよ。あなたが信用できる人だと私も確信できました」
その職人が、髭を少し揺らして嬉しそうに笑った。
もちろん真色眼で確認してある。2人とも澄んだ青玉だ。
「必要なのは装甲と骨格の一部だな。ああ、あと靱帯も必要になるか。その他は売るでいいんだな」
「そうですね、あと、他にも必要な素材があるので、その代金を差し引いた金額でいいです」
「わかった、リストがあるなら出してくれ」
「これです」
ざっと目を通す。
「うん、全部ここにある」
「装甲の加工はどうする。かなり特殊な加工になるぞ」
「まんまるの鱗ありますか」
「ん、少しならあるぞ」
「それも買い取りますから1枚ください」
不思議そうにしているドワーフ2人の前で鱗を見せ、
「これも機密なんです。見なかったことにしてくださいね」
そう言って、神装力を込めた拳で叩いた。一瞬で、真四角な板に変形した。
「なっ……まじか……特級状態だぞ」
「ベニザクラ号の装甲を加工したのは私です」
「なるほど、加工用の職人は必要ないな」
「4日後だ。すべて終わらせておく。そこで金額の商談だ」
「分かりました。この次元箱は貸しておきます」
「たすかる」
ディーラさんが、まじまじと私の顔を見た。
「おまえ、のっぺり顔の歩く機密だな」
ほっとけ!
ディーラさんを工房に送り、4日後にいっしょに隠れ家に行くことにした。そこで、つくも(猫)に頼んで機密契約をしてもらうことになる。
しばらく、泊まり込みでの作業になる。シンティに相談しないで決めたけど、何か言われるかな……。心配だ。
次話投稿は明日の7時10分になります
大樹の森編『偉業の報酬』12時10分投稿




