031 エレウス王都の町
4月中旬の休息日なので、王都の町はとても賑わっていた。学院の制服を着た人も多い。私達も有名人になってしまったので、時々振り返られる。
まず、冒険者ギルドでソフィア達の冒険者登録をする。さすがに絡んでくるやつはいなかった。足下を猫がトコトコ歩いていたからだ。
商店街は王都の南側に延びている道路沿いに集まっている。魔術学院からはちょっと離れているので、移動には乗り物が必要だ。なので魔動車を使っている。
ベニザクラ号はとにかく目立つ。町中の走行には向かないのだ。
入り口の町と同じで総合店はない。専門店がいくつも軒を連ねている。
買い出しのメンバーは、私とソフィアとイディアの3人だ。ソフィアは王都の町にも詳しいので適任である。
猫はいつの間にか消えていた。まあいい、猫は自由だ。
「まずは食料ですが、つくも様に相談しなくてよいのですか」
「ああ、そうか、言っていなかったね。つくも(猫)とは離れていても会話ができるんだよ。困ったことがあったら言ってね」
まあ、神獣様と探求者様なので何でもありか……と言う表情でうなずかれた。
「魔動車には初めて乗りましたが、すごく乗り心地がいいのですね」
ダンジョン勝負の戦利品である魔動車をシンティ達と一緒にいろいろ魔改造してみた。サスペンションもいじってあるので、オリジナルよりも快適に仕上がっている。
「いろいろいじってるからね。ないしょだよ」
「はい」
「ソフィア様、市場に着きました」
「ここにほぼ全て売っているはずです。端から見ていきましょう」
野菜、果物、肉、魚、嗜好品全てがそろっていた。さすがは王都の町だ。店は屋台風だ。品物は全て次元箱の中に入っているので、見本のようなものが並べられている。
事前につくも(猫)から指示があったものは全て覚えているので、端から購入し、そっとアイテムボックスへ送る。時間停止機能付きなので鮮度は落ちない。
「3日間の予定でしたよね」
「予備日を入れての3日間だよ。なので2日はお休みできるはずだよ」
そんな話をしているうちに、食料品の買い出しは終わった。反省を活かして、ドワーフ族用は倍の量を買い込んだ。
「終わったね。後は、武器店に行きたいんだけどどこかお勧めはある」
「どんな武器ですか」
「騎士用の剣とアーマーだよ。出発まで忙しかったので準備してないんだ」
「それだと、武装具店の方がよさそうですね」
騎士セットは、学院での生活ではほぼ使わないだろうが、正式な場に出るとき、例えばエレウス王との謁見とかでは使うかも知れない。早めに準備をしておいた方がいいだろう。それに、ちょっと考えもある。
脳筋剣士は、自国の武器を使っているので王都の専門店は詳しくないようだ。それはソフィアも同じらしく悩んでいる。
うーん、誰に聞けばいいのだろうか。ボンも脳筋と一緒だろうな。冒険者ギルドのギルマスかな。
キョロキョロと周りを見ていると、ある店の紋章が目に入った。シアンテ商会だ。ロギスさんの店である。
うん、あそこの店員さんは信用できるはずだ。相談しよう、そうしよう。
よく手入れがされている観賞用の花が両脇に置かれている階段を登りドアを開けた。そこは洋服店なので、いろいろな見本が整然と並んでいた。
服を買いに来たわけではないので、直ぐに店員さんに目で合図を送る。直ぐに近くに来てくれた。
「すみません。王都のお店に詳しくないので教えてほしいことがあるんです」
そう言って、例のカードを提示した。
反応は劇的だった。直ぐに、少々お待ちくださいと、奥に消えていった。あれ、このパターンは、店員が叱られるパターンだ。
案の定、ややうなだれた店員が支配人らしき男の後から付いてくる。次からは名前聞いてから行こうね。
支配人は、私を一瞥すると、
「カナデ様ですね。会長よりお話は伺っています。私は、シアンテ商会王都支部の支店長をしております『ヴィンス』と申します」
うん、やっぱりこのパターンだった。
「実は、武装具店を紹介してほしいんです」
「どのような物をご注文なさいますか」
「騎士のアーマーです」
ピクリと眉が動いた。ん、何か変なこと言ったかな。
「それは、サクラシア様の騎士アーマーでしょうか」
「よく分かりましたね。そうです」
「王城での謁見予定はございますか」
「今のところないですが、たぶん、これから呼び出されそうではあります」
「……」
しばらく考え込んでいた。
「大変気難しい方ですが、腕は一流の職人をご紹介できますがいかが致しましょうか」
でた、頑固職人だ。
「その手の人には慣れています。紹介してください」
カルコス親方とどっちが頑固か比べてみよう。楽しみだ。
「わかりました。一応紹介状は書きます。でも、役に立つかは保障できません」
うん、正直な人って好感が持てるよ。
そのとき、黙って成り行きを見守っていたソフィアが口を開いた。
「すみません。カナデ様の服の注文をお願いしたいのですがよろしいでしょうか」
ん、どんな服?
「晩餐会用の正装、お茶会などで王宮に伺うときの略装、国王陛下にカナデ様として謁見するときの正装、他にも学院で着る運動着や普段着など、全てです」
すみません。いつも同じ服だったの、気になっていたんですね。
学院の制服以外はこの服だけしか持っていない。だけど、高次元空間の謎物質で作られているこの服は、高機能で汚れも付かないんだよ。さすがにこれは禁則事項で伝えられないんだけど。
イディアがうんうんとうなずいている。脳筋にまで心配されていたのか、仕方ない。受け入れよう。
「はい、ソフィアの指示通りでお願い致します」
深々と頭を下げた。
後日採寸のために改めて店に行くと言うことで話がまとまった。
「すみません、勝手なことをしてしまって」
「いいよ、公女殿下として思うところがあるんでしょう。そこら辺はおれにはよく分からないから逆にありがたいよ」
サクラさんは、この手のことでは当てにならない。
どうせ予算は計上できる。この際だ、金貨もたくさんあるから地元経済に貢献しよう。
場所はソフィアが分かるようなので、案内してもらった。
大通りから少し離れた場所にそのお店があった。お店と工房を兼ねているのだろう。建物が奥にも続いている。
職人はドワーフ族だということは聞いている。情報はそれだけだ。
「すみません。シアンテ商会のヴィンスさんの紹介できました」
入り口の外から声をかけるが返事はない。留守か。
「すみませーん。どなたかいませんかー」
ソフィアが呼びかけた。
ドタドタドタ、ガチャーン、ガラガラガラ!
何かが壊れる音がしている……。
「女の客か! 3年ぶりだな。今開ける」
すごくわかりやすい人のようだ。
さて、どんな厳つい顔のドワーフ族だろう。
ガラッとドアが開く。
飛び出してきたのは、女性の職人さんだった。
なんとなくシンティに似ている。
チラッとソフィアとイディアを見る。そして、ものすごい高速で手を動かし、全身を確かめる。
「よし、文句ない。合格だ!」
何が合格なのだろう。
「よく鍛えられた美しい筋肉だ。私の美的感覚を十分に活かせる最高の素材(身体)だ」
そういって、満足そうにうなずいた。
困惑する女性剣士が2人……。
「すみません。私達は付き添いで、素材になるのはそちらの方です」
ソフィアがそう言うと、その職人が私を見た。
「なんだ、こののっぺりした顔のヒョロッチイ男は。筋肉は何処にある」
ほっとけ!
「3年ぶりの魅力的な仕事になるかと思ったのになー。なんだつまらん。筋肉がないやつに興味はない。帰れ!」
明らかにがっかりした顔でうなだれた。
3人で顔を見合わせた。こりゃ駄目だ。帰るか……。
私が一歩足を踏み出したとき、
「そこで止まれ、動くな!」
職人の鋭い声がした。
そして、まじまじと私の体を観察している。
「おい、おまえ、何者だ!」
は、何を言っているんだこの人は?
「完璧なんだよ、体のバランスが。文句ない黄金比だ! しかも、必要に応じて筋肉が盛り上がったり弾力を帯びたりするような感じがする。おまえ、とてつもなく強いだろう」
はい、高次元空間で作られた神様特注の体です。この人なんて鋭い観察眼をしているんだ。侮れないぞ。
「何者かはどう答えたらいいか分かりませんが、冒険者です」
Gスターカードを掲げた。
「なるほど、理解したよ。セルビギティウムの姫の騎士様か。シンティは元気にしているか」
ん、どういうご関係で?
「なんだ、あの子は話をしていないのか。私はシンティの姉だよ」
話せなかった理由が何となく分かります。
「わかった。おまえの依頼を引き受けよう。多分だが、作ってほしいのは騎士のアーマだな」
「よく分かりましたね」
「ヴィンスの紹介だろ。王城がらみだと推測できるよ。さて、詳しい打合せと行こうじゃないか」
工房内に案内された。途中に見本らしい装具が飾ってあった。そして、あの声もしていた。間違いない、一級品だ。
次話投稿は明日の7時10分になります
大樹の森編『偉業の報酬』12時10分投稿




