029 サクラの冒険者登録
3章がはじまります
この世界の1ヶ月は30日ぴったりである。そして、日本のような1週間という区切りは10日になっている。上旬、中旬、下旬というわけ方だ。
なので、日本の月曜日を『初旬1』または『1の日』と言う。火曜日なら『2の日』だ。中旬なら、『中旬の2』または『中の2』の日。下旬なら『下旬の2』または『下の2』の日と呼んでいる。
この呼び方をするのは、主に教育機関だ。他の機関は普通に『25日』と言っている。ちなみに25日は『下の5』の日だ。
各国の行政機関もだいたいがこの区切りで動いている。7日働いて3日休むが普通になる。
魔術学院高等部の授業は、クラスルーム・教養・芸術が8時30分から10時までの間にクラス毎に行われる。そして専攻科である学科がAからEまであり、それを一日3つずつ履修していく。
A『魔術学科』 魔術学・魔法陣学
B『錬金術学科』 鍛冶術学・素材加工学
C『魔道具学科』 技術学・設計学
D『魔物学科』 生態学・環境学
E『魔法・加護学科』 魔法学・加護学
1日目がABC 2日目がDEA 3日目が、BCD 4日目がEAB 5日目がCDEという感じだ。
5日で3回テープが回ることになり、6、7日目は予備日となる。なので、5日学校に行って5日違う予定を入れることも可能なのだ。
私達は、その5日の内の3日を冒険者として依頼を受けることにした。そして、今日はサクラさんの冒険者登録をするために王都のギルドに向かっている。
「緊張してきました。魔力無しは登録できませんって言われたらどうしましょうか」
サクラさんがソワソワしている。
「セルビギティウムの拒否権使えばいいじゃない」
シンティが面倒くさそうに言い放つ。
「使えるわけないじゃないですか。身分隠して登録するんですよ。それに、使う気も無いです!」
桜色の髪のエルフなんて、王都にも1人しかいない。あまりにも有名人だ。
なので、神装結界の認識阻害を髪の毛と耳にかけている。イメージするのが難しいはずなのだが、すんなりできてしまうあたりがやはり天然の天才だ。
サクラさんに会った人は、「何色の髪の毛だったの」と聞かれても、「あれ、何色だっけ」となるのだ。
エルとジェイドは隠れ家でお留守番をしている。『風の森』は依頼任務でいない。
「さあ、入りますよ」
ギルドのドアを押した。
ザワザワした室内だった。入り口の町のギルドよりも受付ホールがかなり広い。それもそうだ、冒険者が作った国の冒険者ギルドなのだ。本家本元なのだ。
「おい、変なのが来たぞ」
「なんだあー、なんで子どもがいるんだよ」
「おい、ヒョロッチイ男、のっぺり顔だぞ」
ほっとけ!
「一緒にいる女の子はかわいいじゃないか」
「ん、なんで猫がいるんだ。どこから入り込んだ」
ああ、これだよこれ! 異世界に来たら、こうでなくちゃいけないよな。
うんうんと感激していると、やってきました怖そうなお兄さん達が、
「おまえら学院の学生だろ。時々いるんだよ、勘違したバカ達が、お前らの魔法は魔物には通用しねえぞ」
「そうそう、お役所で大人しく魔術使っていな」
「だいたい、身体強化だってろくにできないだろう。悪いことは言わねえ、怪我しないうちに家に帰りな」
そう言って、笑いながら去って行った。
あれ、以外と的を射た言葉だぞ。
シンティも同じ事を感じたみたいだ。
「あん、なんだこの猫は、どこから入ってきた。おれは猫が嫌いなんだよ」
そう言って、後から入ってきた男が猫を蹴飛ばそうとした。
あ、それだめ!
その男は、壁にめり込んでいた。文字通り、めり込んでいるのだ。大怪我していないよな……。神装結界で体を保護してあった。よかったー。
「あんだてめー」
あっという間に、大きな体の冒険者達に囲まれてしまった。私がやったと思われたようだ。まあ、そうなるよな。
「てめーふざけるなよ」
一斉に殴りかかってきた。
あ、だめ、それも!
全員が仲よく、壁にめり込んでいた。
シーンとなる室内。
「ねこちゃんを蹴飛ばそうとするなんて、お仕置きされて当然です」
空気を読まない天然少女が、プンプン怒っている。
そのそばで、後ろ足で耳を掻く猫。
「カナデさん、行きましょう」
そう言って、スタスタと受付に向かって歩きだした。
「何者だ!」
「もしかしてSランク冒険者か」
「どこの国の高ランク冒険者だ」
「とんでもなく強えぞ!」
ヒソヒソと話し声がしている。
受付に猫と一緒に優雅に歩いて行く可憐な少女を、全員が注目している。
「いったい、あの高ランク冒険者は何を言うんだ」
室内が緊張した空気に包まれた。
「…… ごくり ……」
「すみません。E級の冒険者登録をお願いします」
「なんじゃそれはー」
全員がずっこけた。
魔力測定をする事もなく、無事E級の冒険者カードを発行してもらったサクラさんがご機嫌である。
壁にめり込んでいた男達は全員が助け出され、部屋の隅で介抱されている。
ギルド専属の治療師が
「どこも怪我はしていません。気絶しているだけです」
と、診断すると、またしても、
「そんな訳あるかー」
と、大騒ぎになった。
そんな中、可憐な少女が楽しそうに猫に話しかけていた。
「そちらの方は、登録はよろしいのですか」
やっと笑顔が出てきた受付嬢に声をかけられた。
「はい、大丈夫です。2人とも既に登録してあります」
そう言って、シンティがC級のカードを出し掲げる。
私もGスターカードを取り出し、受付嬢に見せた。
再び笑顔がなくなり、固まる受付嬢。そして、
「しばらくお待ちください」
そう言って、そそくさと奥の部屋に小走りで行ってしまった。
ふたたび、そそくさと小走りで室内に入ってきた受付嬢が、少し息を切らした状態で、
「ギルドマスターが所長室でお待ちしています」
そのまま、どうぞどうぞと、奥の部屋に連れて行かれてしまった。
「所長、カナデ様ご一行をご案内しました」
どこのバスガイドですか!
「入れ」
中から声がした。
嫌な予感しかしない。中にはきっとゴリラかタヌキがいる。そして、面倒な依頼を受けることになる。
キーィー という音がして、ドアが開いた。
そこには、満面の笑顔で椅子に座っているエルフがいた。
次話投稿は明日の7時10分になります
大樹の森編『偉業の報酬』12時10分投稿




