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028 魔法陣の可能性

2章最終話です




 2日後


 ジェイド、サクラさん、シンティ、ソフィア、イディア、ボンとクリシス、マーレさんとクエバ、生徒会役員、初等部の職員達。それと、どこで聞きつけたのか、ジェイドファンクラブの会長とその有志の生徒が初等部の体育館に集まった。


 ステージには、きれいに切りそろえられた小さな板と大きな板が置かれている。その側には、濃い緑色のペンキと刷毛(はけ)も置かれていた。


「おい、縦ロール。その髪の毛のまま作業するつもりじゃないだろうな」


 縦に巻かれた輝く金色の髪の毛を優雅(ゆうが)に揺らすジェイドファンクラブの会長に注意を(うなが)す。


「ちゃんと(しば)る物を持ってきていますわ。それと、縦ロールってなんですの?」


 その言葉を無視して、作業方法の説明を始めた。


「これからやるのはペンキ塗りだ。やったことがない人がほとんどだろうから、しっかり説明を聞くように。いいな」


 全員がうなずく。


「このペンキは特殊な配合で作られている。手に付くとしばらく取れないぞ。服に付いたらその服はあきらめろ。エプロンは持ってきたよな」


 全員が自分の服を見て、室内に緊張感が漂う。


「では、はじめるぞ。やることは簡単だ。板に刷毛でペンキを塗るだけだ。この人数なら、1人10枚も塗れば作業は終わる」


 小さな板を持ち、みんなの前で実際に塗って見せた。


 刷毛もペンキをのばすトレーも全てエルとシンティに作ってもらった。防水加工をしてあるトレーに水性ペンキはこびりつかない。


「いいか、1度につけるペンキの量はこれぐらいだ。たくさんつけて塗ってはいけない。少しずつ、何回も(かさ)ね塗りをするようにしろ」


 心配そうにうなずく作業員達。


 板の数に余裕はある。失敗しても後でおれが色を塗り直せばよい。そう緊張するな。


「床を汚すなよ。塗る作業は外でするように」


 天候はいい。直ぐに乾くだろう。


「よし、始めるぞ」




 初めは怖がっていた学生達も、だんだんと慣れてくると表情も明るくなった。けっこ楽しいようだ。会話が弾んでいる。


 一通り、小さい板を塗る作業を見守り問題ないことを確認できた。


「エル、シンティ、やるか」


 作業着を着た2人がうなずく。様になっている。


 大きい板に色を塗る作業だ。これだけは、プロに任せないと色むらが出てしまう。


 エル達が噴霧器(ふんむき)を改良したスプレーで色を塗り始めた。作業をしていた学生達も手を止めて興味深そうに見ている。


 指導用の大きな黒板も問題なく必要数の色が塗り終わった。




「よし、色塗り作業は終了だ。刷毛はこの中に入れておいてくれ」


 水が入っている容器を指さす。


「マーレ、クエバそっちの準備はできていますか」


「ええ、終わっているわよ。いつでも発動可能よ」


 マーレが腕で大きな丸を作っている。




「ボン、クリシス見ていろ、これが魔法陣の可能性だ」


 体育館には、丁寧に塗られた小さな板が300枚ほど並べられていた。


 マーレとクエバがその真ん中にいる。下には魔法陣が描かれている。


 2人とも魔法使いだ。本来なら魔法陣は必要ない。しかし、今回はマーレの木魔法『乾燥』にクエバがサクラさんの加護を融合(ゆうごう)する。


 そこに、魔法陣でペンキの強化を付与する。


「マーレ、サクラさん、お願いします」


「わかったわ。『乾燥』」


「世界樹の枝」


「そよげ『微風(びふう)』」


(しゅ)は風なり、火は(じゅう)。上はそよそよ、下はボウボウ フユージョン」


「魔法陣展開。コーティング」


 クエバに合わせて魔法陣を展開させた。


 マーレ達を中心に、そよそよとした熱風が広がっていく。板に塗られたペンキがその風に反応しやや色むらが出ていた部分を均一にしていく。そして、少し光沢を帯びた表面に変わっていった。


「よし、完成だ」


 全ての板が少し光沢を帯びたみごとな黒板になっていた。




 パンパンパン。後で拍手の音がしていた。


「カナデ君。いいね。すばらしい魔法陣展開だよ」


 シオン教授が満面(まんめん)の笑顔で立っていた。


「建築用のコーティング魔法陣をこんな(ふう)に使うだなんて普通は考えつかないよ。すばらしい」


 何が起こったんだ。ボーとしていた他の生徒達も。シオン教授の説明で状況が理解できたようだ。


 ボンは驚愕(きょうがく)している。必死に何かを考えていた。魔法陣の可能性を目の辺りにして、思うことがあるようだ。


 建築用のコーティング魔法陣は、台所などの一部分の処理に使っているものだ。サクラさんの加護はいささか規格外ではあるが、魔法と組み合わせることで広範囲魔法に変わってしまうのだ。これが、魔法陣の可能性のひとつになる。




「レーンス先生。1つお願いがあるのですか」


 やや放心状態のまま部長がうなずく。


「魔法刻印(こくいん)をさせてください。それによって、この製品の品質が保証されます。そして、盗難防止にもなります」


 直ぐに言っていることの意味を理解したようだ。さすがだ。 


『ねこちゃん印』のシンボルを隅の方に小さく魔法刻印させてもらった。


 このシンボルの魔法刻印が、今後同じような商品を売り出して利益(りえき)を得ようとする商人や利権(りけん)を得ようと暗躍してくる貴族連中と渡り合う大事な武器になるのだ。




* * * * *




 黒板を使った授業は、期待通りの成果を上げた。


「見て覚える」から、「見て、書いて、修正して覚える」に進化したからだ。


 先生が黒板に魔法陣を描いていく。どこから書き始めればいいかが見ていれば分かるのだ。漢字の書き順みたいなものだろう。


 それを、自分専用の小さな黒板に書き写すのだ。先生が机間巡視して、赤で間違いを修正してあげる。それを直して理解する。何回でも書いて消せる。色も白、赤、黄、青の4種類あるので色分けの工夫もできる。




 少しずつだが、仲間が増えていく。


 魔術学院での生活が軌道(きどう)に乗り始めた。




 * * * * *




 初等部の魔法陣授業は今までの半分の時間で全課程を終わらせることができた。余裕ができた時間は、今までできなかった読み書き計算や楽しいイベントの時間に当てることができるようになった。




次話投稿は明日の7時10分になります

大樹の森編『偉業の報酬』12時10分投稿

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