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027 初等部の王女殿下




 魔術学院は、『大陸総合研究所』の付属校だ。ここを卒業した生徒は、研究所に残って研究員になるか、試験を受けて、初等部・中等部の教員や高等部の教授になる道もある。


 各国から生徒が集まってきているので、自分の国に帰って王宮や有力貴族に雇われる生徒も多い。というか、ほとんどの生徒がそうなる。


 各国にも高度な教育ができる学校は存在している。しかし、この学院のように他国の人と一緒に学ぶことはできないようだ。


 アルエパ公国の様に、鍛冶師、魔道師、錬金術師に特化したような専門性はその国独自の教育になる。ストラミア帝国にも、この学院に引けを取らない規模の学校があるようだ。詳しい情報は入ってこないので、きっと、閉鎖的な組織なのだろう。




 初等部棟に行ってみることにした。あのお猿さんたちの様子が少し気になる。また、迷惑な行動をされても困る。少し、お仕置きをしておいた方がいいかもしれない。


 中庭だろうか、いろいろな観察用の樹木や植物が植えられていて、名前が書かれたプレートも付いている。そこに、人だかりができていた。


 あいつらだ、でも、様子がちょっと変だ。全員が正座をさせられている。その周りには、女生徒数十人が仁王立(におうだ)ちしている。高等部で見た光景に似ている。


 近くには、教員だろう。やりすぎないでね。というような表情で見守っていた。


「まったく、とんでもないことをしてくれましたね。よりにもよって、高等部棟でジェイド様に暴言を吐くなど、もってのほかです。絶対に許しませんよ」


 銀色の髪の毛が風になびいてさらさらと揺れている。初等部の制服を着ているのでここの生徒だ。


 この子もジェイドファンクラブの会員なのだろう。さすがの暴君(ぼうくん)も下を向いたまま動かない。地面に着いた手は、砂を握りしめて震えている。


 この分なら心配はなさそうだ。ホッとして帰ろうとしたときだ、


「それに、私のカナデ様(・・・・・・)にも御迷惑をかけるとは、なんと言うことですか。謝りなさい」


 ん、私のカナデ様って何?


 その場でぼんやりと考えていると、


「ああ、カナデ様ではないですか。心配で様子を見に来たのですね。このしつけができていないお猿さんたちは、私が責任を持って調教(ちょうきょう)しますのでご安心ください」


 えーと、君は誰ですか?


「私は、エレウス王の娘で『エルサラス』と申します。どうか、『エルサ』と呼んでください」


 なんと、エレウス王国の王女様ではないですか。


「母もぜひ王宮に来てほしいと言っておりました。お茶会にご招待いたしますので、そのときにゆっくりとお話をしましょう」


 王女様はそう言うと、お猿さんたちを引き連れて教室に戻っていった。


 そこに残ったのは、見守っていた職員と私とお猿さんたちが流した涙の跡が残る地面だった。




「あなたがカナデ様ですか。ジェイド様がよくお話ししておりました。ああ、私は、初等部部長の『レーンス』と申します」


「カナデです。ジェイドがお世話になった先生ですね。受け入れてくださり、ありがとうございました」


「カナデ様」


「カナデでいいです」


「はい、カナデさん。ちょっとお話してもいいですか」


「ええ、構いませんよ」


 そのまま、部長室に案内された。


「あのベリーコスのことですが、本当なら受け入れる予定はなかったんです。ジェイド様のことはナツメ様から(うかが)っていましたので、その張本人である彼を受け入れるなどあり得ないことなのです」


 そういって、ため息を1つした。


「貴族枠の教授が、ごり押ししてきたのです。きっと、マイアコス王国の王妃の実家である『ポーパラダー公爵家』からの圧力がかかったのでしょう」


 なるほど、そういうことか。第1王妃が意地悪をしてこいと送り込んだわけだ。


「でも、あの王女様がいる限り、問題行動は起こせませんね」


 二人で顔を見合わせて「ぷっ」と吹きだしてしまった。


 あのお猿さんはベリーコスと言うのか。いい気味だ。スッキリしたよ。


「どうですか、せっかくですから見学していきませんか」


「いいんですか、ぜひおねがいします」


 魔法陣教育の始めが見られるなんてラッキーだぞ。


 初等部の学生は250人だった。思ったよりも少ない。

1年生が100人、2年生が150人だ。


 中等部が500人位いる。高等部が6学年まで入れると2000人位だ。学年が上がる毎に他国の生徒が増えていくということになる。


 1年生の教室は、1クラス25人だ。理想的な人数だ。先生はなんと3人もいる。ずいぶん手厚(てあつ)いぞ。


 その理由は直ぐに分かった。


「先生、おれの家庭教師と言っていることが違うぞ」


「なぜ平民のところに行く。というより、なぜ同じ教室に平民がいる」


「こんな魔法陣はもう覚えているぞ。違うことを教えろ」


 リアスが言っていた、「お猿さんしかいない」の意味がよく分かった。


「これはひどいですね。先生方も大変だ」


「6月ぐらいまではこんな感じですね。それぞれの貴族の家庭教師が好き勝手に教えるので、進度がそろわなくて大変なんです」


 そう言う部長先生に悲壮感(ひそうかん)はなかった。


「でも、ここの先生方は一流なんです。3ヶ月あればみんな落ち着きます」 




 2年生の教室に行く。1クラス30人位だ。先生は1人になっていた。生徒達も落ち着いている。


 丁度、魔法陣の授業だった。


 火の魔法陣が大きめな紙に描かれて壁に貼ってある。


「では、順番にこの紙に描かれている魔法陣を指でなぞって暗記しましょう。それから、机になぞり書きをしてできたと思ったらまた見て合っているか確認してください。もう大丈夫という人は、ここに紙がありますので、覚えた魔法陣を描いてみてください。それを私が採点します」


 生徒達が次々と魔法陣のところに来て指でなぞりながら必死に暗記をしていた。


 紙はまだ貴重な素材だ。ねこちゃん工場で安価な紙を大量生産しているので、近いうちにもう少し手に入りやすくなるはずだ。


 それにしても、書かないで覚えるというのは、効率が悪いぞ。


「黒板は、導入しないのですか」


「貴族枠の教授達が反対しているんです。魔法陣は暗記するだけなんだから、書くという過程は必要ないと言って予算を出さないんです」


 ふーん、そうなの。へー、そうなんだ。ならば、遠慮なく介入させてもらおうじゃないか。


「レーンス先生、板は手に入りますか」


「どのような板ですか」


「大きいのは、ドアぐらいのです。そして、小さいのはあの紙ぐらいです」


 そう言って、壁に貼られている紙を指さした。


「大きいのは教室と同じ数。小さいのは生徒と同じ数用意できると完璧ですね」




 人とは道具を使って進化してきたということを忘れてしまっている大猿さんたちに、興味深い事実を見せてあげようじゃないか。




次話投稿は明日の7時10分になります

大樹の森編『偉業の報酬』12時10分投稿

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