022 ジェイドのファンクラブ
ここは生徒会室、いるメンバーは、私、サクラさん、シンティ、ジェイド、ソフィア、イディア、そして猫だ。いま、生徒会長の登場を待っている。
フラフラと胃薬のポーションを抱えて生徒会長である『ランサミア』が入ってきた。ソフィアが言うには、剣術も学問も一流らしい。ただ、気が弱く本番に弱いので実績が振るわないということだ。
ん、同じような冒険者がいたな。ポンコツC級スター冒険者だ。あれから見ていないがどこで何をしているのだろう。
「会長、しっかりしてください。サクラシア様達が見ています」
会長がこうなっている原因を作った張本人です。
「それでは、会議を始めます」
進行はソフィアだ。
「では、『サクラシア杯』の草案をまとめたいと思います」
大会要項のような物だな。
ジェイドが黒板を用意する。書記もジェイドだ。
他の生徒会メンバーは、クラスの仕事で忙しいらしい。
「試合を運営するために必要なことを整理しましょう。まず、今決まっている事です」
ジェイドが黒板に決まっていることを書き出した。
「10人勝ち抜いた人に挑戦権がある」
「申し込みは生徒会にする」
「勝敗は教授達にお願いする」
「会場の確保は生徒会がする」
「試合の方法やルールも生徒会で決める」
「予算交渉も生徒会がする」
「とりあえず、こんなところですね」
ジェイドが黒板の文字を追いながら確認した。
うん、生徒会長がこうなるのは当然だ。責任が重すぎる。何しろ、殿下達の命がかかっているのだ。会長はその事知らないけど……。
「ちょっと、生徒会の負担が大きいわね」
シンティがまともな意見を言った!
「大丈夫よ、勝負なんて秒で終わるもの。会場だって、そこら辺の草原で十分よ。カナデさんが怪我させるような実力者いないわよ」
天然少女が澄ました顔で手をひらひらさせている。
うーん、実際にそうなんですけど、さすがに王太子相手の試合となると、魔物ではないんだからある程度気を遣わないといけないような……。
「すまん、ちょっとトイレに行ってくる」
生徒会長が胃を押さえながら出ていった。
「……」
無言が続く。いい案が出てこない。
「本当は、学院が主体で動いてもらえるといいんだけど、それだと、貴族枠の教授が暗躍しそうなのよね」
ソフィアがため息をついた。
「大丈夫だ。俺様がそれをゆるさない」
猫が、んーと前足を放り出し背中を反らして伸びを一回し、あくびをしてからそう言った。
「ねこちゃんが動いてくれるの」
サクラさんが驚いている。いや、おれもそうだけど。
「もちろんだ。こんなおもしろそうなことをつまらない見栄で邪魔されるのは我慢ができないからな」
そう言うと、猫がテクテクと歩きだした。
「つくも(猫)どこ行くの」
「学院長を連れてエレウス王の所に行ってくる。まかせろ、貴族達が絶対に邪魔できないようにしてきてやる」
丁度ドアがガチャリと開いて、生徒会長が入ってきた。足下をテクテク歩いて通り抜けていく猫を見ながら、不思議そうな顔をして席に着く。
「すまない。もう大丈夫だ。覚悟は決まった」
生徒会長の顔になっていた。
「さて、話し合いを始めようか」
生徒会長が司会者になった。
本気モードの生徒会長はさすがだった。理路整然と生徒会としてできる事とできない事をわけ、できることを誰がどのようにどこでやるのかを決めていた。
また。できない事は誰が誰と相談できるのかも決め、今日の会議は終了となった。
「実行委員会を作ることになったんですよね」
ジェイドが確認するように聞いてきた。
「ああ、生徒会は他にも仕事が多い。兼務は無理だ」
「僕たちはそのメンバーにはなれないのですか」
「無理だな、当事者だからな」
「確かにそうですね」
「生徒会長が実行委員長になれそうな人を探すみたいだよ。でも、受けてくれる人はいないだろな」
「そうですね。王太子が相手ですからね。嫌ですよね」
急ぐ必要はない。焦ってもろくな事にならないだろう。
それに、つくも(猫)の動き次第でいろいろかわってくる。それを見極めてから決めた方がいいだろう。
特Aクラスに向かう。教室にはボン様とクリシスがいた。
「試合の方は何とかなりそうなのかな」
ボン様が聞いてきた。
「難航しますね。でも、少しずつ前には進んでいます」
「そうか、僕にできることはあるかな」
うーん、実行委員長という手もあるが、さすがに頼めないな。
「実行委員会を立ち上げます。もし、何か困ったことができたら相談します」
「そうか、何でも言ってくれ。できることはするよ」
手を挙げて了解の意を示して机に座った。
さて、今日はカリキュラムを決めないといけない。締め切りまでに余裕はあるが、早めに決めておいた方が無難だろう。
サクラさんは、シンティとAクラスに行っている。特Aクラスがほぼ休憩所ということがはっきりしたので、クラス替えをするためだ。
せっかく学生生活を満喫しようと思っていたのに、誰もいない教室では意味がない。ソフィアが気を利かせて学院長に直談判したのだ。もちろん、直ぐに了承された。
私はこのままだ。いろいろと動くためには都合がいい。ジェイドも一緒にいてくれるらしい。でも本当にいいのだろうか。何しろどんなに優秀でもまだ11歳だ。日本なら小学生なのだ。
ジェイドは私の小学生時代と似ている。私も興味があることは、大学レベルの知識があった。正直、授業は退屈だった。集団生活も苦手だった。ジェイドも、今の初等部では、きっと退屈なのだろう。
答えは出ない、難しいな。
「カナデさんはどんな授業をとるつもりなんですか」
「おれは魔力0だからなー」
ガタン! と椅子が倒れる音がした。見ると、ボンがずっこけていた。
「おまえ、魔力がないのか」
びっくりしている。
「ああ、おれもサクラさんも魔力はないぞ」
さらに目を見張った。
「よく魔術学院に入れたな」
ああ、そういうことか。
「ボン、魔法は魔力がなくても発動することはできるんだぞ。魔法陣だ。魔石と組み合わせることで、魔法使い達が発動させている魔法はだいたい同じように使える」
まあ、早い話が魔道具だ。誰でも使えるのは魔法陣のおかげだ。
「そうなのか。おれの国は魔法にはあまり価値を置いていないからその手の知識が不足しているんだな」
「ボン達が使っている剣技だって、身体強化を掛けるだろう」
「もちろん使う。でも、剣技の型やそれを使いこなす体ができてからでないと、魔法は使わせてもらえないんだ」
カロスト王国は、魔素が薄いからな。外部魔力に頼ることができないからそうなるよな。
「それは、いいことだよ。強くなるためには体は鍛えておかないと魔力も使いこなすことができないからね」
「それで、魔力がない学友殿は何の授業を選択するんだい」
「おれは、加護学と魔法陣学を専攻する。あとひとつは環境学にするか魔物生態学にするかで迷っている」
「魔法陣学って、あの初等部でやっている魔法陣のことなのか。あんなの、覚えたら使わないだろ」
「生活魔法や仕事で使う魔法を発動させるだけなら、そうなるね。でも、大規模魔法は魔法陣がないと発動しないよ」
「いや、そんなの使うのは宮廷魔道士クラスだけだろが。それになるつもりなのか」
「なるわけないだろ。そんな面倒な仕事はお断りだよ」
本心である。それは伝わったようでボンも苦笑いだ。
初等部は、魔法陣を覚えるための授業が主になる。日本の小学校なら九九を覚えるようなものだ。
中等部は、覚えた魔法陣を使って実際に魔法を発動させる授業になる。日本なら、九九を使ったいろいろな計算や応用問題が解けるようになることと似ている。
高等部からは、いろいろな国から人が集まってくる。なので、魔法陣学だけではなく、魔術学、魔法学、鍛冶術学、素材加工学、魔道技術学、魔道設計学、魔物生態学、環境学、加護学の専門分野を学ぶ事ができる。
「学友殿」
「カナデでいいよ」
「カナデ、おれもその魔法陣学を専攻してもいいか」
「別に構わないが、いいのか、王族としての立場に支障はないのか」
魔法陣学は人気がない。初等部の延長だというイメージがつきまとうからだ。
「構わない。それに、我が国にはその魔法陣学が必要になってくる気がするんだ」
こいつ、本質をさっらと感じ取っている。まさに、その通りなんだよ。魔術の進化には魔法陣が欠かせない。このことに気がついている研究者は少ないだろう。
「ボン、おまえは優秀だよ。無意識に本質を見抜いている。なるほど、王になる人間はこういう資質が必要なんだな」
エレウス王があの3バカ王子を見切る理由が分かったよ。
ボンは、褒められたのか? と首を傾げていた。
「ジェイド、おまえはどうするんだ」
「全部カナデさんと同じものを専攻しますから問題ないです」
いや、あるんじゃないだろうか……。
お昼を食べようかと、教室を出たときにそいつ達が待ち構えていた。
「ジェイド、探したぞ。なぜ、初等部にいない。おまえが高等部生だなんて、何の冗談だ」
誰だ? ジェイドを呼び捨てにできる生徒は限られるぞ。
「兄さん、ここは高等部で、この教室は特Aクラス。つまり上級貴族の教室なんだよ。押しかけてくるなんて非常識だよ」
「生意気な、いつからおれにそんな口をきけるようになった。だいたいだ、おまえがいないから母が機嫌が悪い。そのとばっちりが全部おれに来るんだ。おまえのせいだぞ」
頭も性格も悪そうな初等部の子どもが顔を真っ赤にしてまくし立てていた。
ああ、こいつがマイアコス王国の第4王子か。ジェイドに意地悪をしていた張本人だ。
私は威圧が自然に湧き上がってくるのを抑えられなかった。
「ひっ、なんだよ。おれは王子だぞ。母に言いつけるぞ」
しまった、怒りで感情がコントロールできなかった。だめだな。まだまだ、ナツメさんの域には届かないな。
威圧を解除する。
「なんだよこいつは、おまえの護衛か」
「おまえに紹介するつもりはないよ。もう、僕に関わらないでくれ、僕は忙しい。遊んであげるほど暇じゃない」
ジェイドが静かに怒っている。これが王族の怒りか。
「そこの初等部達、私のジェイド様に失礼なことをしているようですね」
誰? この縦ロール! それに、私のジェイド様って何?
第4王子とその取り巻き達の後に、その倍の人数の高等部女生徒が仁王立ちしていた。
「私は、ジェイド様ファンクラブの会長をしている『リアスターナ・ペリティア』です。高等部棟で、しかも、私の目の前でジェイド様に汚い口の利き方をするなど、断固として許しません。あなたは、どこの誰ですか」
ペリティアだと、ラウネンの実家だぞ。新大陸貴族3大公爵家だ。
「ひぃー、おれは知らない。後ろの奴らが言っていたんだ。おれは帰る」
第4王子とその取り巻き達は一目散に逃げ出した。取り巻き達の中には、おれの威圧でちびってしまったのもいたようだ。ズボンの一部がぬれていた。
「ジェイド様、その麗しいお耳が汚れていませんか? 私が浄化いたしましょうか」
何こいつ。ホントにラウネンの親戚か!
「そこののっぺり顔の騎士、なんでちゃんとジェイド様を守らないのですか。役立たずですわ」
うん、間違いなくゴリラの親戚だ。
「まあ。いいでしょう。今回は見逃しましょう」
おい、おれがしゃべる隙ぐらい作れ。
「要件は、2つです。一つ目は、実行委員長を受けて差し上げますわ。すべて、私に任せなさい」
心配しかないぞ!
「二つ目です。これにはあなたに拒否権はありません。ジェイド様は私達のクラスで過ごしてもらいます」
ん、どういうこと?
「ジェイド様は、まだ11歳です。専攻の授業はジェイド様の御智力ならば何の問題もございませんが、クラスでのご学友との交流は必要でございます。初等部には、あの様なお猿さんしかおりませんので、ここは、私の出番でございます。優しいお姉様が充実した学生生活になるよう誠心誠意 、努めさせていただきます」
「……」
反論できない。正論だ。
ジェイドを見た。困惑している。しかし、聡明な頭脳がそれが正解だと認めている。
「わかった。その通りだ。その提案受け入れよう」
会長が、初めてにっこりと笑った。
「探求者様、ご安心ください。決して悪いようには致しません」
そう言って、ジェイドを連れて去って行った。
いや、お昼ぐらい一緒でもいいでしょう。1人は寂しいんですが……。
後から、トンと肩に手を置かれた。ボンがいた。
「お昼、一緒に食べるか……」
「うん」
目をウルウルさせながら、その提案を受け入れた。
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