019 隠れ家での生活
カロスト王国の王太子殿下との話し合いは、成功裏に終わったと言っていいだろう。
彼とはこれから良き友として付き合っていくことになる。そんな気がする。
明日はいよいよ入学式になる。学院が始まると、きっと怒濤の日々が待っている。ゆっくりできるのも今日が最後だ。
今日は、隠れ家にカルミア様とビオラ様、そして、ナツメさんを招待している。目的はいくつかある。
一つ目が、ここでの生活の様子を見てもらうことだ。親としては、どんな生活になるのかが心配だろう。つくも(猫)の料理長としての腕前にも関心がありそうだ。
つくも(猫)も、尻尾を大きく振っていた。気合いが入っている。
二つ目が、イグニス達の契約内容の変更だ。護衛としての報酬は、通常の報酬よりもかなり高く設定されている。いわゆる危険手当だ。
律儀なイグニス達は、護衛をしないのだからこの報酬はもらえないと頑なに拒否をしている。ならば、カルミア様がいる内に、契約の見直しをしてしまおうということになった。
ということで、本当に護衛が必要ないのかも検証してもらうことになったのだ。
神装結界や白銀の世界樹の実のことはまだ話せない。そこで、シンティが作った『ねこちゃんペンダント』の出番になる。
つくも(猫)が付与型神力の使い手だということが分かった。つくも(猫)自身も、最近気がついたようだ。と言うよりも、なぜか神力が高まってきていて、その事が分かるようになったということだ。
今までもねこちゃん人形に似たようなことはしてきたが、それが自分の固有能力だとは思っていなかったようだ。
でも、付喪神だ。物に宿る神様なのだ。当然の力なんだろう。
その事をカルミア様に説明し、つくも(猫)の神力を込めたペンダントを身につけていれば、その加護で守ってもらえるという設定にした。まあ、本当にそうなんだけど。
少し考え込んでいたが、そうなのかと納得してもらった。自身もそのねこちゃんペンダントをもらい、まんざらでもないようだった。もちろん、ビオラ様、ナツメさん、ツバキさんのも渡してある。
そして、突然目の前に現れたベニザクラ号と、やはり突然現れた隠れ家に目を見張ることになる。本人認証済みのペンダントを身につけていないと、この屋敷は見えない入れないの完璧なセキュリティだ。
なるほど、護衛は必要ないかと、イグニス達の主張が認められた。
ただ、やはり危険手当はもらってくれないかと懇願されて、イグニスが出した条件がおもしろい。歩合制、『成果報酬型の給与形態』だ。双方それで納得できた。
また、イグニス達は、屋敷の管理の仕事がないときは、冒険者としての活動をしてもよいよいことになった。そこで稼いだ報酬ももちろんイグニス達の収入になる。なるほど、本当の狙いはここだったか。なかなかの交渉術だ。
「イグニス達はいい冒険者だね。誠実でいながらしたたかな部分もある。気に入ったよ」
カルミア様がご機嫌だ。
「はい、ツバキさんも絶賛の冒険者です。私も助けてもらっています」
いいように使っていますとは言えない。
「それで、このペンダントはどこまで配る気なんだい」
「はい、ねこちゃん印の工場関係者には配りたいです。特に、貴族と交渉することになる営業には絶対に身につけてもらいます」
平民が貴族との交渉をする事になるかも知れない。いきなり無礼打ちなんて事になったら大変だ。
ねこちゃん印の工場は、密かにいろいろな国で建設が進められている。サクラさんの二番目の兄になるランタナさんの手腕だ。あ、ランタナさんにもペンダント渡さないとな。でも2つ必要になるのかな?
ランタナさんとランダナさんは、1つの体を共有している二重人格者だ。
この工場で作られる製品が、貴族と渡り合うための武器になる。今は、着々と戦う準備をするときなのだ。
「父様、母様、食事の準備が整いました。食堂にご案内します」
サクラさんがご機嫌だ。でも、シンティやエルの親もこれから招待することになるのかもな。確か、入学式には来ないらしいが。
「料理長、メニューの説明をお願いします」
カルミア様達がいる。エルもさすがによだれは流せない。
「うむ、今回は、エル達が作ったキッチンユニットの試しだったので、いろいろなメニューになっている。カルミアよ、そういうわけなので嗜好が違う味も楽しんでみてくれ」
カルミア様が興味深そうにうなずいた。
カルミア様は、つくも(猫)の雰囲気がかなり変わっていることを気にもしなかった。
「まずは、オーブンを使った料理だ。湖にキングサーモンがいたので、そいつの料理になる。切り身を塩、コショウ、オリーブオイルでなじませてしっかりと焼いてある。野菜も一緒に焼いたので両方味わいなさい」
聞いているだけでよだれが出そうだ。
「次に、魔道コンロを使った料理だ。炭火とは違う安定した火力で料理ができる。メニューは、猪肉を使ったハンバーグだ。豚肉と混ぜて肉を挽いている。挽肉もエル達が作った魔道具を使った。いいできだ」
エルとシンティが嬉しそうだ。もう、料理機器専門の職人だな。
「最後がミキサーだ。似たものは市場にも出回っているが、エルとシンティが作った物は50年は時代を飛び越えた仕上がりだ。でかしたぞ」
きっと、イグニス達は、食べてみないと何を言っているのか理解できないだろうな。
「まずは、野菜のポタージュだ。野菜は煮てからミキサーにかけてある。なめらかな口当たりになっているはずだ。野菜用のドレッシングもミキサーで作ってある。いろいろな種類を用意した。味を楽しんでくれ」
もう、まてない……。お預け状態の犬だ。
「パンは王都のお店の物だ。だが、美味しいぞ。たくさんある。喜べイグニス」
「よし、会食の始まりだ。召し上がれ」
焼き肉とは違い、椅子に座っての食事になる。カルミア様達もいる。あまりガツガツとは食べられない。でも、口に運ぶ手の動きははやい。次から次に皿が空になる。
この屋敷の食事は、テーブルに料理を大量に置いておき、自分たちでそれを取りに行くバイキングスタイルだ。
ただ、カルミア様達にそれをさせるのはさすがに忍びないと、ソフィア達がお世話役を名乗り出てくれた。本当にありがたい。
「このポタージュ、口の中でとろける。うち、気に入った」
「甘いわね。砂糖は入れてないわよね。これ、野菜の味って事なの」
「癒やしの味」
「このポタージュは、つぶつぶが残っているっす。でも、このほうが食べ応えがあるっす」
リーウスの喋り方が方言丸出しになっている。イグニスが言うには、これが普通だと言うことだ。今まで気をつかっていたのか、すまないことをした。
ミキサー料理が好評だ。これ、売り出せそうだな。
会食会は、和やかな雰囲気の中無事終わりになった。片づけはみんなでやる。皿洗いは当番制だ。
入り口の町方式の貴族特権は認めないがこの屋敷で暮らす条件だ。ソフィア達も納得している。まあ、サクラさんもシンティもその貴族なんだが。
カルミア様達は、大満足で帰っていった。ギンギツネ号に乗るカルミア様は、やはりかっこいい。
さあ、いよいよ明日は入学式だ。
次話投稿は明日の7時10分になります




