014 魔術学院長との面談
『大樹の森編』の続編になります
サクラさんがサクラシア様としてしばらく通うことになるのが魔術学院だ。正式名称は『大陸総合研究所 魔術学院』になる。大学の附属学校みたいなものだろう。
初等部から高等部まであり、高等部を卒業したものが研究所の研究員になれる。研究員は、学院の教授も兼ねている。もちろん全員ではない。試験を受けたり推薦されたりして採用されている。
きっと、貴族枠がある。その教授とは仲よくできないだろうなーという予感しかしない。
私とサクラさんは、学院長と面談をするためにベニザクラ号で森の中を進んでいる。もちろん、歩行型だ。
他のメンバーは、魔力を使い果たして隠れ家で伸びている。昨日の午後は、神装結界を使えるようにするための特訓をつくも(猫)から受けることになった。
一番はじめに習得したのがリーウスだ。感覚の強化魔法が得意なので、あっという間にイメージするというこつをつかんでしまった。調子に乗って、認識阻害まで使いこなそうと無茶をした。結果、魔力が枯渇した。
次に習得したのがエルとシンティだ。3属性魔法を使いこなすだけあって、やはりイメージするという感覚をつかむのが早かった。この二人も、調子に乗って結界を変化せせることに夢中になり魔力が枯渇した。
サクラさんは、あっさりと自分の風に道のように使いこなしている。調子に乗ることもなく、今も元気だ。
イグニス達は魔法使いだ。持って生まれた才能で魔法を使いこなしているのでイメージすることが難しいようだ。クエバでさえ苦戦した。時間がかかりやはり魔力が枯渇した。でも魔力の使い方はプロだ。直ぐに慣れるだろう。
ソフィア達は、まだ発動できないでいる。剣技に重きを置く国だ。魔力の使い方に慣れていないのでかなり時間がかかりそうだ。でも、素直に指示を聞き、実直に練習をしているので使えるようなるのは時間の問題だろう。
最後に、今私の隣でにこにこしている少年だ。事情を説明すると、躊躇することなく白銀の実を口に運び平らげた。「これあまいですね」という感想付きだ。
次に神装結界は、初見で成功させた。私と練習をした線にするという行為が、イメージするという行為と同じらしい。あっさりと使いこなしてしまった。また、認識阻害と瞬間的な結界発動もあっという間に習得した。
ジェイド、いったいおまえは何者だ!
ということで、今は3人で魔術学院に向かっている。
「神装結界って神力なんですよね。どうして魔力で発動するんですか」
うん、おれもそう思った。
「つくも(猫)が言うには、神力は上位存在だから下位存在の力を兼ねるとか何とか言っていた。おれにもよく分からなかったよ」
まあ、『大は小を兼ねる』みたいなもんなんだろう。
森から魔術学院に続く街道に出た。ベニザクラ号も通常型に変形だ。牽引はテネリだ。ペンテは隠れ家でお留守番をしている。有給休暇みたいなものか。ここからだとあと10キロメートルぐらいなのでテネリなら到着まで30分という所かな。
「魔術学院の入門が見えてきましたね」
ジェイドが指さした方向に、歴史を感じる荘厳な門が見えてきた。
「こちら側は裏門になります。でも、森に行くときはこの門を通ります。だから『森の門』とみんなが呼んでいます」
おれたちは、いつもこの門を通ることになりそうだな。
裏門にも警備員が待機している。大事な学生を預かっているのだ。防犯には気をつかっている。
「学院長と面会するために来ました。これが許可証です」
ナツメさんが全ての手続きを事前にやっておいてくれたので、待たされることもなくすんなりと入ることができた。
「学院長がいる本部棟は正門の方です。歩くと結構遠いんですが、ベニザクラ号なら直ぐです」
今は学生がいない。なので車両も通れるようだ。授業が始まってしまうと当然駄目だろうな。ベニザクラ号をどこに停めておくのかも、相談しておいた方がよさそうだぞ。
これから通うことになる学院の様子をみながら、ベニザクラ号は正門付近に到着した。
なるほど、馬車はここに停めて生徒を降ろすんだ。
正門前は、広いローターリーになっていた。馬車が数十台通れる広さがある。となると、ぐるっと迂回してここまで来なければいけないのか。めんどうだな。
広い広場には、数台の馬車が停まっていた。ベニザクラ号もその側に停める。テネリはそのまま、地面に丸まった。さすがに自由行動という訳にもいかないよな。
ジェイドの案内で、建物の中に入る。総務室が受付を兼ねているようだ。許可証を見せると場所を教えられた。
建物の3階だ。エレベーターのような物はない。階段で登っていく。学院長結構な年齢に見えたけど、大丈夫なのか。まあ、余計な心配か。
ドアをノックする。
「開いているぞ。入れ」
「失礼します」
部屋にはひげを蓄えたエルフの男性と、学生らしき男が1名待っていた。
「時間を作っていただき、感謝します」
私がおじぎをすると、
「いや、わざわざ来てもらってすまないの。まあ、座ってくれ」
歴史を感じるソファにみんなで座る。
「この部屋は、防音結界が張れる部屋になっているんじゃ。いろいろと面倒そうな輩がうろちょろしていてな、遠くまで来させてしまいすまないな」
なるほど、学院長室は下にあるんだな。
「まずは感謝を申し上げる。今回はこちらの無茶な要望に応じてもらうことになるが、よろしくお願いしたい」
学院長が静かに頭を下げた。私達もそれに応じる。
「では、細かい打合せといこうかなの。ああ、そうじゃった、紹介をしていなかったな」
学院長がそう言うと、
「私は、生徒会長をしているランサミアです。サクラシア様、どうかよろしくお願いします」
そう言って、深々と、ものすごく深々と頭を下げた。なんだろう、切羽詰まったものを感じるぞ。
確か、ソフィアが副会長だったよな。何か事情がありそうだ。後で聞いてみよう。
「私は何をすればいいのでしょうか」
サクラさんがいきなり核心に触れる。天然全開だ。
「うむ、申し訳ないが、サクラシア様として過ごしていただくことになる」
「具体的にはどんなことをするのですか」
学院長が生徒会長と顔を見合わせた。
「本当にすみません。今回のことは全て私の力不足が招いた結果なんです」
生徒会長がテーブルに頭をこすりつけた。
いったいどういうこと?
「私の父は、王城近衛団副団長なんです」
確か、ビオラ様のお姉様が団長でしたよね。あの時はひどい目にあったけど……。
「代々、この学院の生徒会長は、王族や公爵家レベルの上級貴族の子息が就任するんです。でも、私の代には該当者がいなくて、仕方なく家柄では身分的に落ちる私がやることになりました」
いや、副団長だよ。落ちないでしょう。
「通常の学院なら、それでも何とかなったんです。ところが、蓋を開けてみたら王太子が5人、しかも婚約者も5人……。目の前が真っ暗になりました」
うん、事情は全て理解したよ。もう、何も言わなくていいよ。しくしくと泣く生徒会長に同情をした。
「まあ、そんな事情で彼がわしに泣きついてきたわけじゃ。そして、わしがカルミアに泣きついたというわけじゃ。わっはっはっは!」
わっはっはっはじゃないですよ。どれだけに人に迷惑がかかったと思っているんですか!
じとーと笑う学院長を見つめてそう思う。だが、まあいい。おかげでサクラさんが生き生きしている。それに、こちらとしてもいろいろと都合がいい。結果的には最良な対処だ。
「わかりました。つまり、その王太子が我が儘言ったら、ビシッとやっつければいいんですね。任せてください。お仕置きは得意です」
うん、その通りです。でも、大樹の森の魔物みたいに言わなくても……、もう少し言い方があるような。
生徒会長が女神を見るような目で見つめてから、跪いて手を合わせていた。
その後、私やシンティの役割と動きを確認した。ソフィアが言った通りだった。
学院内での護衛は必要ない。と言うよりも認めないと言う方針だ。ただ、イディアのように学友として側にいることは認められている。
なのでシンティも、学友として側にいることになる。つまり、私も学友扱いになる。ナイトとしていつも側にいなくてもいい。学生として過ごす事になりそうだ。
入り口の町の案内人と冒険者のC級試験に合格しているということで、高等部の編入試験は免除された。どうやら、ここの試験よりも難関な試験だったらしい。
高等部は授業には出なくてもいいようだ。試験に合格すれば単位がもらえる。これはありがたいが授業には出てみたい。実は楽しみにしている。
ベニザクラ号は、裏門に停車できるスペースを作ってくれることになった。正直助かる。
他にも細々としたことを取極め、面会は終わりに近づいた。
「学院長、私の試験結果はどうなりましたか」
そろそろ話題にしてもいいと思ったのだろう、今まで黙って聞いていたジェイドが口を開いた。
「うむ、合格じゃよ。前代未聞だが、認めないわけにはいかないのう」
長いひげを撫でながら学院長が満足そうに笑った。
「ジェイドスター・フォンターナよ、君を今日から高等部に飛び級入学することを認める」
なんですとー! ジェイドって、11歳のはずだぞー。
「ありがとうございます。カナデさん、私も同級生になりました。よろしくお願いします」
そう言って、にっこりと笑った。少女漫画ならバックにバラの花が描かれているだろう。そんな美しい笑顔だった。
さて、後は、いろいろとこちらの事情を知っておいてもらわないといけないな。
私は、まだ、手を合わせて跪いている生徒会長をチラッと見て、学院長を見た。何かを察してくれたようで、テーブルの上のベルを「チリン」と鳴らした。
奥から女性職員がやって来て、学院長の視線の先に生徒会長がいることに気がつく。そのまま、「安心して、もう、心配することは何もないのよ」と言いながら、部屋から連れ出していった。
「ご配慮感謝します」
学院長がうなずく。
「我々は、10層に行きます」
学院長の頬が少しピクリとする。
「その事で、我々が学院内で御迷惑をかけることはないと思いますが、相手次第では何らかの影響があるかも知れません」
学院長がうなずく。了解したの意思表示だ。
「10層に挑戦するではなく、行くでいいのだな」
学院長が少し威圧を込めた目で私を見据えた。
「俺様が断言しよう。そうだ」
いつの間にか、私の隣で猫が浮いていた。
そして、猫が腕組みをしてしゃべっていた。
一瞬で全てを理解した学院長が、その場に静かに跪いた。
「俺様は、サクラの側にいるぞ。いいな」
「どうぞ、お心のままご自由にお過ごしください」
猫が満足そうにペロリと口の周りを舐めた。
面談は、終わった。
「ねこちゃんと一緒に授業を受けられるなんて、すごく嬉しいわ。よろしくね」
天然少女は、ぶれなかった。
次話投稿は明日の7時10分になります




