130 外堀が埋まる
なんだろう。すごく見られているのだが……。
隠れ家に2人の高貴な女性が招かれていた。
1人は、『マルガリーナ・フォンターナ』マイアコス王国第2王妃である。つまり、ジェイドの母親だ。
もう1人は、『ロフィージア・ノーテフィロ』カロスト王国ノーテフィロ公爵夫人である。つまり、ソフィアの母親だ。
国王と公爵の代理として建国祭に招かれている。息子、娘達の生活している場所を確認したいと言う申し出があり、今ここにいる。
大事な仲間の保護者だ。もちろん歓迎である。
だが、先ほどからジーと見られているのだ。何だろう。何か不手際をしたのだろうか。心配だ。
「母上、そんなに見ていたらカナデさんが困ってしまいます」
「そうです。ぼくの命の恩人ですよ。やめてください」
ジェイドよ、それは大げさだぞ!
「あなたがカナデさんなのですね。想像していた姿とかなり違っていたので少し戸惑っていました」
ソフィアに強い剣士だと教わったのだろう。筋肉もりもりの大男だと思っていたのかな?
「私は、想像通りだったのでびっくりしています」
……ジェイドが正確に描写したんだろうな。
「ジェイドが本当にお世話になりました。感謝の気持ちでいっぱいです。カナデさんを兄のように慕っているのですよ。これからもよろしくお願いします」
ジェイドのお母さんが立ち上がって丁寧に頭を下げた。
「いえ、助けてもらっているのは私の方です。頼りになる参謀です」
「お役に立っているようでホッとしました。国王と兄からもくれぐれもよろしく伝えてほしいと言付かっております」
「はい、わかりました。それから、10層攻略の前にマイアコス王国に行って、陛下といろいろ相談したいこともあります。よろしいでしょうか」
「はい、お待ちしております」
「カナデさん、何を相談するのですか?」
「ジェイドの今後の事だよ。どうなるにしてもだ。ちゃんと話をして了承してもらわなければいけない。ここは、譲れないぞ」
第5王子がとたんに心配顔になった。希望を認めてもらえるのか不安なのだろう。
「ジェイド、あとでゆっくり話をしましょう。私はあなたの味方のつもりです」
「はい、お母様。わかりました」
母には勝てないよな。がんばれジェイド!
「私からもよろしいでしょうか」
今度はソフィアの母親か。なんだろう?
「カロスト王国へはいつ挨拶に来るのですか」
ん、何の挨拶だろう。まあ、10層に行く前に、公爵ともいろいろ相談しなければいけないことは多いからな。
「10層攻略がたぶんですか6月か7月頃になると思います。来年の3月か4月頃には伺いたいと思っています」
「わかりました。では、その前に今、私と手合わせをしましょう」
はい? 何の手合わせでしょうか?
ソフィアの母親がスッと立った。そして、腰の剣に手を掛けた。
まてまて、そう言えば、ずいぶん身軽な服装だなと思っていたが、まさかここで試合をしろと言うことか。
ソフィアを見た。諦めてくださいと顔に書いてあった。
仕方ない。
そのまま、イグニス達がいつも稽古をしている場所に行った。成り行きを見守っていた仲間達もぞろぞろとついてきた。
「真剣で行きますよ」
すらりと片刃刀を鞘から引き抜いた。刀身がキラリと光った。
「では、私もそうさせてもらいます」
アイテムボックスから日本刀を転送した。ディーラさんに打ってもらった逸品だ。作り方がうろ覚えだったので、かなり試行錯誤をさせてしまった。
鞘からスッと引く抜く。日本刀独特の波紋がキラリと光る。ロフィージア様がピクリと反応した。
「かなりの業物ですね。後で見せてもらってもいいでしょうか」
なんかソワソワしている。すごく見たいみたいだ。
「……今でもいいですよ」
「本当ですか。では、遠慮なく!」
刀を手渡した。
それを片手で空に掲げながら波紋を見ていた。
「美しい! こんなにもきれいな刀を見たことがありません」
「そこにいるディーラさんが打ってくれました」
「ディーラ様、後でお話があります」
「……承ります」
ロフィージア様が刀を鞘に戻した。
「真剣はやめましょう。木刀で勝負です」
「……わかりました」
例の怪我をしない訓練用の木刀を転送し、一本を手渡した。
「では、勝負です」
ロフィージア様は脇構えだった。ソフィアの居合いと似ている。
この人は強い! ソフィアを守れるか試されているのだろう。それぐらいは分かるぞ!
ならば、手加減無しだ。
(神装力第三権限開放 神力『殺陣模倣』)
相手は刀の長さを隠し、下から斬り上げる攻撃で来るだろう。後の先の構えでもあるので、変幻自在の技でカウンターを狙ってくる可能性も高い。
木刀を中段で構える。正攻法で真っ向勝負だ。どんな技できても、殺陣の動きで対応できるはずだ。
「私から行きます」
わざと間合いに入り、来ると分かっている下から跳ね上げるような打突をかわして構えの反対側に回る。
よし、ここだ!
がら空きの胴に寸止めで切り込む……っ、右足を軸にした時計回りで剣が降ってきた。
ステップで後ろにさがる。なに、そのまま踏み込んできた。こちらの動きを予測して膝に溜めを作りながら回転していたんだ。すごい!
木刀で受けるしかない。
今日初めて、カツンと言う木刀がぶつかる音がした。
く、速い。
ぶつかった反動を利用してそのまま二の太刀がきた。
それも木刀で受ける。
容赦がない連続攻撃が来た。すべて、受ける。
すっと、下がり、また脇構えになる。
来る!
ギアが上がったステップで一気に間合いを詰められた。ソフィアの居合いと同じだ。
(神力『柔力』)
クニャッと体が曲がって、切っ先を避ける。
打ち込んだ場所に体がない。相手の思考が一瞬止まった。
隙有り!
私の木刀の先がピタリと相手の喉元で止まっていた。勝負有りだ。
「はははは、何、今の動き! おもしろい。もう一度やりましょう」
パコーン!
後からハリセンのような物でソフィアに叩かれていた。
「母上様、自重してください」
「ごめんねー。いや、君強いね。気に入ったわ」
バンバンと肩を叩かれた。
「実力は本物ね。いいわ、ソフィア、父と兄の説得は任せないさい。あなたはあなたの心のままに動きなさい。私が許可します」
「はい、わかりました」
なんだろう。何を説得するのかな。たぶん、10層攻略に参加することだろうな。うん、母様頑張れ!
ん、なんだ? どうしてみんな呆れた顔をしているんだ。
「ジェイド、ここまで重症とは思わなかったよ。わかった、今後貴族が出席する舞踏会などでは、絶対に一人にさせないようにしよう」
チャルダンがジェイド達と何か相談をしている。
ボンとクリシスがロフィージア様に呼ばれた。あれ、サクラさんも呼ばれている。
サクラさんが頷いている。何だ、何が起こっているんだ。
「一番危険なのがエレウス王国の王妃です。総力を挙げて守り切りましょう」
ジェイドが呼びかけているぞ。
みんなが拳を振り上げているぞ。いったいどうしたんだ?
母親達は、一泊してから自分の屋敷に帰って行った。もちろん、途中までベニザクラ号で送っている。
2日後に、エレウス王国建国祭の記念講演が行われる。演題は、『加護と精霊の関係について』だ。
初めに、レーデルさんが長年の研究成果を発表することになる。そこに、実名は出さないがジェイドの事例や『精霊の踊り』の魔道具を用いた実証を私がする事になっている。
場所は、王城にある大劇場だ。新大陸中の研究者や権力者が参加する。かなり緊張しているが、すごく楽しみでもある。
今夜はワクワクして眠れないかもしれない。
次話投稿は明日の7時10分になります




