129 まとめてポイ
ずっと任せきりになっていたねこちゃん印のお店に行ってみた。新規のお客様が次々に訪れるので、今は完全予約制になっている。
店の前が何やら騒がしい。また、貴族がらみのトラブルだろう。さて、どうするか……。
「お客様、このお店は完全予約制になっています。そちらの書類に必要事項を記入して店員に預けてください。後日こちらから連絡を致します」
ドモンの商会から引き抜いた超優秀な店員さんが対応をしている。
「それでは遅い、今直ぐ対応が必要なのだ。直ぐに我が屋敷に来い」
ん、あいつは確か、小麦貴族のハルスロッコ侯爵だったよな。あいつの家の温水シャワーはとっくに使えなくなっているはずだ。
屋敷の女性陣からすごい圧力がかかっているのだろう。泣きついてきたか。
「こちらは販売と体験のみのお店です。そのような申し出には対応できません。営業が定期的に訪問しております。そちらと相談してください」
「く、その営業が来ないからこうして来てやっているのだ。つべこべ言わずにすぐに来い」
「無理です」
うわー、バッサリ切られている。それに、本人が直接来たと言うことは、使用人が既に何回も来ていると言うことだろうな。
「そんなことを言っていいのか。俺は小麦貴族だぞ。俺がいやだと言えば王都中の小麦粉が消えるのだぞ」
いや、どこのお店でもマルモル領の上質な小麦粉が山盛りで売られている。全く困らないぞ。その事に気がついていないのか?
「さようでございますか。では、昔からのお付き合いと言うことで仕方なく高くて質が劣る小麦粉を我が商会で購入していましたが、そちらも取引停止と言うことでよろしいですね」
奥からロギスさんが出てきた。久しぶりに会うぞ。
「なんだおまえは」
え、知らないの? マジですかー。
「この店舗を任されているロギスと申します。ああ、シアンテ商会会長と言った方が分かりやすいですね」
「な、……」
おお、シアンテ商会はさすがに知っていたか。
「ふ、ふざけるなよ……いや、それは困る。3分の1は貴様の……いや、あなたの商会が取引相手だ。我が領の経営に響く」
「おや、確か、去年はストラミア帝国が買うので無理に買わなくてもいいのだぞと言ってかなり値上げをしていましたよね」
うわー、そんなことしていたのか。
「いや……。その話しはなくなった。値段も元に戻している。今まで通りの取引をしたい」
「無理ですね」
「ふざけるな。王都の食料は俺の領の小麦が生命線だ。エレウス王に処分されるぞ。いいのか」
「あなたこそよろしのですか。このお店は姫の騎士が社長ですよ。姫達を敵に回したら、あなたがエレウス王に処分されますよ」
「な、……」
もはや言葉が見つからないようだ。おまえも貴族だろう。自分の領民のためなら手のひらを返したように友好的な態度をする。それが一流の領主がやることだ。
領民の生活よりも自分の見栄を優先させたおまえは領主としても失格だ。このまま没落しろ。
「く、このままではすまさないぞ。騎士もだ。やつはただの平民だ。上級貴族に逆らったらどうなるか思い知らせてやる」
あれ、開き直っちゃったよ。これは力尽くで来るな。警備を増やしておくか。ボンに頼もう。
カロスト王国王太子私設軍隊は、今暇なのだ。頼めば護衛もしてくれるありがたい人たちなのだ。
「ロギスさん。変なのがたくさん来ているでしょう。すみませんね」
「おや、我が商会の社長じゃないですか。ご無沙汰しています」
「……いや、違うでしょう」
「ああ、すみません。つい願望が言葉に出てしまいました」
……まあいいけど。
「あいつは力尽くできますよ。警備を増やしておきますね」
「いつも細かなところまでご配慮いただきありがとうございます」
「このお店も任せっきりですみません」
「ドモンの優秀な店員が大量に確保できました。全く困っていません」
ははは、だろうな。
「今年の綿まつりはどうされますか」
ロギスさんも気になるようだ。
「参加しますよ。風の森の実の買取をまたお願いしてもいいですか」
「もちろんです。我が商会の社長も、今年は出店するのですか」
「……いや、しません」
「そうですか、残念です。また、特別な実を少し譲ってもらうことはできますか」
「ええ、大丈夫です」
満足したのか店舗に入っていった。忙しいようだ。
その夜、この店が襲撃された。そして、ストラミア帝国訛りの言葉でしゃべるごろつき達が大量に捕縛された。襲撃者達は、雇い主が誰かは頑なに喋らなかった。バレバレだけどね。
マルモル領の小麦は、エレウス王国に無償提供されている。それを、通常価格よりも少し安い金額で各店舗に売っている。
稲作の研究資金や水田の整備にもお金はかかっている。たぶん国の持ち出し資金のほうが多いはずだ。それでも、小麦貴族を追い詰め力を弱めることができるなら利益のほうが大きい。
効果は出ている。小麦貴族の終わりも近そうだ。
もう特権は認められないという事に気付き、気持ちの切り替えができている貴族達は生き残るだろう。
見栄や既得権に拘り、権力を振りかざしてゴネればどうにかなると思っている貴族達は、ゆっくりと没落していくだろう。
エレウス王国の建国祭まであと8日だ。その時に全てに決着が付く。
* * * * *
ネメルさんのコネを使って、良質の絵本や子ども向けの本が大量に図書館に寄付された。姫に子ども達から手作りの感謝状が手渡された。ニコニコだった。
生徒会の役員達にも届けられていた。戦争のような出店販売をしたのだ。これぐらいのご褒美はあってもいいか。
初等部棟の発表も大盛況だったようだ。特に黒板を利用した新しい教授方法が注目を浴びていた。いち早く導入したレーンス部長の評価もうなぎ登りだ。
反面、やり玉に挙がったのは、中等部貴族枠の教師達だ。黒板の効果をインチキだと決めつけ導入に反対したからだ。
特に代わり映えがしないいつも通りの展示や研究発表だった貴族教師の教室は、全く見向きもされなかった。
その事を、保護者達からかなり厳しく追及されていた。みんな涙目になっていたが、自業自得だ。
展示関係の場所、時間帯、予算などで例年通りの貴族特権を主張した教師達は、皆、創設者によって解雇された。
学院長の思惑通り『まとめてポイ』がついに達成された。
学院祭後の魔術学院は、活気に溢れていた。
* * * * *
エレウス王国は今、入国ラッシュだ。魔動車、馬車、樹魔車両がひっきりなしに王都への入場門を通過していく。どこのホテルも満室だ。客が入りきらないので、魔動機関貴族の屋敷が全てホテルに早変わりしていた。
無駄に華美な装飾があるが、上級貴族の宿としては申し分ない。役に立つではないか魔動機関貴族よ。使用人たちもそのまま、従業員として雇われた。
気位が高い上級貴族相手に切磋琢磨してきたプロだ。直ぐに要領をつかみ絶妙な接待をしている。いや、本当にすごい。
いよいよ、エレウス王国の建国祭が始まる。
次話投稿は明日の7時10分になります




