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127 魔術学院祭(1)

9章が始まります



 季節は秋に向かっている。


 魔術学院の授業も再開された。魔法学、魔術学の新しい教授は、総合研究所の中から選出された。


 平民貴族関係無しに、厳選な審査と試験を行ったのでかなり優秀な人が選ばれている。貴族特権をちらつかせた者は審査で(はじ)かれた。さらに、創設者から退職勧告(たいしょくかんこく)までされている。


 大食堂にカレースープのメニューがくわえられた。Aランチにもセットで付くので今やすごい人気だ。ご飯が流通すれば、いよいよカレーライスも登場するだろう。


 秋と言えば、日本では学園祭の季節になる。魔術学院でも毎年行われているようだ。学生達は、その準備で今は忙しい。


「さて、今日の議題は魔術学院祭で何をするかだ」


 ここは生徒会室である。議長は、できる男モードの生徒会長だ。


「今年は大きなイベントが立て続けにありましたから、何をやっても物足(ものた)りなく感じますね。きっと……」


 書記であるポニーの言葉で、生徒会役員達が私達を見た。サクラさん、ジェイド、シンティが申し訳なさそうに愛想(あいそ)笑いをしている。


「そんなことはないぞ。今年の魔法陣学の研究発表は、100先の技術を公開する。さらにだ、私とカナデが共同研究した精霊についての発表もする。大陸中から研究者が集まってくる予定だ」


 知識の探求者であり、魔術学院の創設者でもあるレーデルさんがそう力説した。


「スケールが大きすぎて私達にはイメージできません」


 会計であるテネスにバッサリと切られるめがねっ()。まあ、そうだろうな。


「こういう時は、食べ物で行くべきですね」


 ジェイドがひとり冷静だ。でも、その意見には賛成だ。


「おれも賛成だ。食べ物なら集客(しゅうきゃく)も見込めるだろう」


「カナデさん、何を作るの?」


「フフフ、サクラさん、決まっているじゃないですか。カレーライスですよ」


 そう、学園祭と言ったらカレーライスだ。これは普遍(ふへん)なのだよ。


 他にいいアイデアもないので、あっさりとこの提案が採用された。マーレさんに手伝ってもらい、生徒会役員達が中心にお店を開くことになった。


 絶対に整理券が必要になる。今のうちに作っておこう。




 魔法陣学の授業は(にぎ)やかだ。貴族枠の教授に追い出された平民学生の他にも、魔法陣の可能性に気付いた優秀な学生達が集まってきた。


「魔法陣学の発表は、エルさんを中心に企画します」


 ソフィアが司会をしてくれている。安心して任せられる。


「何を発表するんですか」


「うむ、聞いて驚け! 魔法陣による物質転送についてだ」


「まじですか!」


 ザワザワと教室が騒がしくなった。


「まだ、手紙のような限られた物しか転送できないが、これが実用化されれば、次元箱(じげんばこ)依頼の技術革命になるぞ」


 レームスさんが開発した転移魔法陣を何とか平和利用につなげたい。人々の役に立つ物にしたいという双子の熱意とそれを叶えさせてやりたいというエルとシンティの努力が実を結んだのだ。


 めがねっ娘がどや顔だ。それをニコニコ見守るシオン教授。


 シオン教授は、やはり探求者だった。それも、『次元の探求者』だ。つまり次元箱を発明した人である。


 この技術が確立すれば、伝書魔鳥と転送の2つの選択肢(せんたくし)ができる。情報伝達の革命にもなるだろう。魔道波通信についてはまだ秘匿(ひとく)だ。魔石の安定供給(きょうきゅう)が課題だからだ。


「カナデ、この後は、学院長と精霊研究の発表について打合せをするぞ」


 レーデルさんが張り切っている。いろいろ吹っ切れたみたいだ。よかった。


「エレウス王とも約束しちゃいましたから仕方ないですね」


 こんなに忙しくなるなら、約束なんかしなければよかった。マジな思いである。


 昔からの私の悪いところだ。基礎研究だけに関心があり、応用研究には関わらなかった。貧乏研究者だったのもそれが原因だよな。


 姉からも指摘(してき)されていたことだ。『清貧(せいひん)の基礎研究者』は美徳(びとく)ではあるが現実的ではない。納得だ。


 研究発表は、初めは学院の講堂で行う予定だったが、参加希望者が多すぎて入りきれなくなってしまった。なので、王城にある大劇場で発表することになった。


「さて、忙しくなるぞ!」


 ニコニコ顔で前を歩くメガネをかけた美少女エルフの後ろ姿にはホッとする。


「わかりました。お供します」


 学院祭まであと15日ほどである。ちょっとワクワクしている自分に驚いている。




 学院長室に入ると、いきなり切り出された。


「すまんなー。もう決定したことを伝えるぞ」


 ハイエルフの狸学院長が、「ほほほ」と笑いながらそう言った。いったい何が決定したんだ。気になる。


「エレウス王国建国祭で記念講演をしてもらうことになった。演題は『精霊と加護の関係』だ」


 なんですとー! 学院祭のほうはいいのか。


「それは、学院祭で講演することになっていましたよね」


「いやな、エレウス王がおまえと約束をしていたと言い張っているのだよ」


 いや、約束はしていないぞ。していないよな?


「それに、今年の学院祭にはみんなが度肝(どぎも)()かす発表が重なっているのでな、エレウス王が()ねているんじゃよ」


 はい、それなら理解しました。


「うむ、確かにそうだな。『転移魔法陣による物質輸送について』『稲作の可能性』『精霊と加護の関係』どれをとっても数百年ぶりの大きな発見になるな」


「はい、全て理解しました。了解したと拗ねている賢王に伝えてください」


 ほほほと笑ってごまかす学院長。まあいいか。


 建国祭は、学院祭が終わってから10日後になる。そこで、抵抗勢力達に最後の引導を渡すことにもなっている。箔付(はくづ)けとしても丁度いいか。


 ラウネンが言っていた、誰からも邪魔(じゃま)されないだけの力は手に入れた。ならば、堂々と成果を発表してやろうじゃないか。




 さて、となると来るな! 王城からの呼び出しが……。


 予想は的中(てきちゅう)し、3日後に呼び出された。


 場所は、王の執務室(しつむしつ)だった。黒舟(くろぶね)じゃない黒い飛行船の時以来になる。


 そこには、ニコニコ顔の賢さを隠そうともしない男が座っていた。名前を『エーデルシュタイン』という。この国の王だ。

 

「カナデ、いよいよだ。抵抗勢力を一掃するぞ」


「演出の段取りはどうなっていますか」


「ああ、抜かりはない。マイアコス王国、カロスト王国、アルエパ公国、ディスポロ商業公国、そして、ストラミア帝国の要人達を全て招いている」


「ストラミア帝国は皇帝が来るのですか」


「たぶんな。どの国も国の最高責任者が来るだろう」


「カロスト王国は女王ですか」


「ああ、どんな顔をしてやってくるのかが楽しみだ」


 意地の悪いことだ。でも、俺もそうだけど。


「魔動機関貴族と繋がっていたやつらも来るのですか」


「来なければ敵認定になるのだぞ。来るに決まっている」


「そこで私の出番になるわけですね」


「そうだ、派手にやってくれ」


 敵と味方にバッサリと分けてくれと言うことだな。なかなか楽しい時間になりそうだ。


「ああ、それと、講演料ははずむ。期待していろ」


 そう言って、ふっと視線をそらされた。


 この賢王は、なんだかんだ言いながらも、我々の一番の理解者であり協力者である。それぐらいの協力はしようじゃないか。


 で、具体的にはどのぐらいの金額なのでしょうか?


 こちらにはチャルダンがいますので、泣き落としはできませんよ。





次話投稿は明日の7時10分になります

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