126 神国の罪
8章の最終話になります
隠れ家のリビングに仲間達が勢揃いしていた。エレウレーシス連合王国の案内人ギルドマスターであるナツメさんとエレウス王国近衛騎士団長のアルティーヌさんもソファーに座っている。
これから、ナダルクシア神国であったことの報告会になる。どこまで話せるのかは、言葉にして見ないと分からない。
「作戦会議……かな? いや、報告会を始めます」
エルが司会、書記はシンティだ。
「アルティーヌさん、キリヤ島の住民達への支援を感謝します」
「気にするな。おまえの言う通り、あいつらは町ではまだ暮らせない。とんでもないトラブルを引き起こしそうだ」
「大樹の森へ連れて行こうとも思ったのですが、待避場所ではちょっと手狭なんです」
「あの島には猫殿の結界があるからな。入るのも出るのも不可能だ。まあ、時間をかけて少しずつ王都の生活に慣れていってもらうしかない」
「はい、私の能力で暮らせそうな人は分かります。定期的に出向いて選別します」
アルティーヌが分かったというように手を挙げた。
「では、ナダルクシア神国であったことを説明するよ」
全員が姿勢を正した。いや、そんなに緊張しなくてもいいのだが……。
「と、その前にストラミア帝国とカロスト王国の事も言っておくか」
全員がずっこけた。
「チャルダン任せた」
「ハイ社長。まず、ストラミア帝国ですが、魔動機関貴族の影響力は無くなりました。全ての貴族家当主が拘束され、一生牢獄から出てはこれないでしょう」
皇帝がそれだけ本気と言うことだ。上級貴族は、牢獄と言ってもそれほど悪い環境ではないので、虐げられていた人たちにとっては許せないはずだ。揉めそうだな。
「各国の魔動機関貴族よりだった権力者達には、離縁状を書かせました。彼らは、これから誰にすり寄ったらいいかを悩むことになるでしょう」
おれ達は絶対に受け入れないけどね。静かに没落して行きなさい。
「欲をかいた軍務貴族も同じ運命です。軍隊の指揮権は皇帝に戻りました。辺境伯でも簡単には手出しができなくなったはずです」
くそ、あの狐皇帝の思惑通りに動くことになってしまった。まあ、それに見合う報酬はぶんどったからかんべんしてやるか。
「カロスト王国の女王は窮地に立たされているはずです。入り口の町に攻め込むための軍隊派遣を正式に承認しています。言い逃れはできないですね」
「ボン様を正式な国王陛下にするために父達も動くはずです」
ソフィアが妹であるクリシスとボンをみてにっこりとした。姉が時々見せる優しい笑顔だ。
「あの軍隊は正直助かるぞ。これで強気の発言もできる」
ボンの鼻息も荒い。
女王が派遣したカロスト王国の軍隊は、ボンの私設軍隊としてエレウス王国で待機している。魔動機関貴族の屋敷を全て没収したのでいる場所には困らない。
「マイアコス王国も魔動機関貴族の影響力が無くなりました。父に権力が戻ることになるので、第1王妃とその取り巻き達は排除されることになるでしょう」
「ジェイド、よかったな」
ディーラさんがジェイドを抱き寄せ頭を撫でている。
「魔動機関貴族とナダルクシア神国は繋がっていた。というよりも、ナダルクシア神国が全ての始まりだった」
レーデルさんがレームスさんの手を握っている。外見だけ見れば孫とおじいちゃんだ。だが、2人は双子の兄弟だったのだ。
「ここでは言葉にならないので詳しいことは説明できないが、レームスはある実験をしていた。それは、生命のない物質を転送して遠くにいる人に届けるという技術だ」
「転送は、生身の人間では耐えられないんだよ。一度分解されて再構築される技術だからね」
「レームスさん、次元渦巻とどう違うのですか」
「うーん、簡単にいうと、神の力と人間の力の違いかな」
全員の頭の上に? マークが浮かんでいる。
「ジェイド、つくも(猫)の神力と魔法陣展開の信用度はどのぐらい違うかイメージできるだろう。絶対的な信頼と欠陥がある技術は全く違うぞ」
高次元空間で構築された超技術だ。ミスは絶対にない。
「ぼくはね、何かのミスをしたんだよ。そして、その魔法陣で転移してしまった。記憶だけを10層に残してね」
あの白い球が10層にあると言うことか。エスプリさんが準備をしておくと言っていたのは、その玉を使って何かをするということだ。
「転移したレームスさんは、そこでハイトリプルの種族と出会ったんだ。クエバ、おまえの先祖になる」
クエバさんがうなずいた。
「驚いたな。クエバさんは『モリターナル』の子孫か」
レームスさんが、レーデルさんの手を離し立ち上がった。
「危険だったから、その名前は名乗っていない」
「そうか、生きていたんだね。いや、逃げてくれたんだね」
レームスさんの目からは涙が次々に溢れ出していた。
「2代目に殺されたと聞いていたんだ。よかった。生きていてくれて……」
そのまま。ソファーに倒れ込んだ。激しい感情の動きはよくない。レーデルさんに目配せをした。
「私達はここで退席させてもらうよ」
レーデルさんが泣いているレームスさんを抱きかかえ部屋に連れて行く。その後ろにはクエバも着いていく。任せた。
「ハイトリプルは3種族の優れている能力を全て受け継いでいると言うことだ」
「クエバが優秀なわけだ。納得だ!」
イグニスが唸る。
「イグニス、努力の結果でもあるのよ」
マーレさんに頭を小突かれている。
「わかっている。すまん」
イグニスがしょげてしまった。誰にでも公平に接するおまえのいい所はみんな知っている。心配するな。
「レームスさんの発明は、時代を1000年以上飛び越えた物があった。技術の探求者としてゆっくり発展させていくはずだった技術を数十年で完成させてしまった。多分だが、助けてもらった一代目への感謝に気持ちから行った行為だろう」
「そうね、彼ならそうするわ」
ネメルさんは10層でのレームスさんを知っているからな。
「転機が訪れたのは、二代目がストラミア帝国の初代皇帝になる男と手を組んでからになる。鉄砲という『魔木火薬』を使った武器を使って他国を占領していくようになった」
「ストラミア帝国の快進撃の正体ですね」
「ああ、ジェイドの言う通りだ。数百年先の武器だぞ。他国が勝てるはずが無い」
「トラックという荷物を大量に運べる魔動車とロボットと呼ばれているゴーレムを使って、木魔や樹魔を大量に伐採し自国に運んだんだ」
「なんでだ!」
「イディア、飛行して攻撃できる兵器を飛ばすためだよ」
「その兵器で何をするつもりだったのですか」
「大樹の森を焼こうとしていたのさ」
ソフィアが目を丸くした。ショックだったか。すまん。
「どうして焼こうとしたのですか」
「世界樹を魔物達から助けるためにさ」
「……」
「というよりも、恩を売って自分たちの思い通りに操りたかったんだろうな」
「なあ、カナデなんでそうなるんだ」
「イグニス、2代目は知っていたんだよ。レームスさんが世界樹の元から来たってね」
「社長、10層には宝物が眠っていると考えたんですね」
ああ、という顔でうなずく仲間達。
「レームスさん1人で莫大な富が手に入ったんだ。家にはもっとお宝があると思うのは普通の思考だろう」
「でも、裁きが起きてしまったんですね」
「そうだ、そして、ナールルの必死の説得でレームスさんは全てを封印したのさ」
ここからは、ゆっくりと発展すべき文明が停滞してしまった。導くための探求者がみんな10層に引きこもってしまったからだ。
この時代の文明がちぐはぐだった理由が分かったよ。
「2代目は恐怖したと思うよ。だから、それ以降はおとなしくなった」
「でも、初代皇帝は違ったのね」
「サクラさん、快進撃を続けた結果が今の帝国です」
「でもナダルクシア神国は引きこもってしまったのよね」
「シンティ、その通りだよ。あの壁は他国との関係を一切断ち切る物だったのさ」
「でも、数百年後の魔動機関貴族が何らかの切っ掛けで、発明のことを知ってしまったんですね」
「チャルダン、鋭いな。ダーチェリストが自分の家の書物か何かで知ったんだろう。自ら出向いて今の教皇と取引をしたんだ」
「どんな取引だったのですか」
「『モリターナル』の子孫を探すことだよ」
「クエバをか?」
「イグニス、偶然見つけてしまったんだよ。きっと、大喜びをしたと思うぞ」
「全て理解したよ。教皇は古くて新しい血が欲しかった。魔動機関貴族は発明品が欲しかった。クエバを引き渡せば全てが叶うと言うことだったんだな」
全ては、教皇が古くて新しい血を望んだことから始まったことだった。彼の一族も限界だったと言うことだ。
「ここまでだ。詳しいことは報告書としてまとめる。公表はしないがな」
仲間達はそれぞれの部屋に戻っていった。
「カナデさん。サクラさんをしつこく狙っていたのはどうしてなんですか。クエバさんが目的だったんですよね」
「ジェイド、教皇は、サクラの力を使ってクエバを取り込もうとしたんだと思うぞ」
「ナツメさん、正解です。教皇は最後に『入り口の町が堅固だからだよ』と言っていました。そして、魔動機関貴族もサクラさんの力を利用したかったはずです」
長かったストラミア帝国とナダルクシア神国との因縁にも決着が付いた。
さて、次は、抵抗勢力達との因縁にも終止符を打たないとな。まあ、もやはおれ達の敵でも無いが……。
やりたい放題してきた事へのお仕置きをさせてもらうとするか。
次話投稿は明日の7時10分になります




