125 神都の封印
「団体さんだね。歓迎するよ」
魔法陣の後ろに玉座のような椅子があった。そこに座っている1人の青年がそう声を発した。
周りには誰もいない。彼1人のようだ。
「おまえ1人なのか」
「結界があるからね。名を持つ血の持ち主じゃなければ通れないのさ」
おれ達は神装結界を纏っているからな。血は関係ない。
「おまえが教皇か」
「そうだよ。表には出ないけどね」
「何故出ない」
「面倒だからだよ。教皇様だからと自由を認められない生活なんてつまらないだろう」
うん、そこは同感だ。
「この魔法陣は何だ」
「ふん、知っているくせに。まあいい。転移魔法陣だよ」
やはりあったか。グライヒグの読みが当たったな。
「淑女達を紹介してくれないのかな」
「必要か!」
「嫌なやつだね。全てお見通しか」
そう言って、その男は静かに立ち上がった。
細くて白い。そう、肌が真っ白だ。
「提案がある。『クエバリーナシルフィーローゼ・モリターナル』をこちらに引き渡してほしい。そうすれば、ナダルクシア神国は、姫と同盟を結ぶ準備ができている」
「何故、クエバに拘る」
「古くて新しい血が必要なのさ。ぼくを見てごらん。染色体異常だよ」
「常染色体劣性遺伝性疾患か」
「……」
「きみ、何者だい?」
「カナデさんは、秩序の探求者よ」
サクラさんがどや顔で腕を組む。
「クエバが目的なら何故サクラシア様に拘った」
「入り口の町が堅固だからだよ。森を燃やすかセルビギティウムの力を得るしか方法がないだろう」
なるほど、理解したよ。理屈は通る。手段は間違っているがね。
「状況は理解した。だが、全て断る!」
「ええ、拒否権を発動します」
サクラさんも怖い顔で睨み付けている。
クエバは平常心だ。
「ならば、力ずくで……と言いたいが、あの赤いのが目覚めたおかげで全ての計画が台無しだよ」
そう言って、格納庫のような物がずらりと並んでいる場所を見た。そこには一体もロボットはいない。
「鉄砲付きの有線ロボットは全て破壊した。兵士達も拘束した。行方不明者は保護してある。さあ、どうする」
「お手上げだよ。降参だ」
細くて真っ白い腕を力なく上に上げた。
「ぼくはどうなるのかな」
ゆっくりと歩きながら、転移魔法陣の中に入っていった。何をするつもりだ。
「拘束する。そして、裁きを受けてもらう」
「秩序の探求者の裁きかな」
「違う、新大陸の為政者達が話し合って決めることになるだろう」
「ははは、ならばごめんだね。高度な文明ではない価値観では、野蛮な処刑しか選択肢はないからね」
ポケットのような所から何かを取り出した。何だ?
「レームスが突然現れたと言われている転移魔法陣。これは、一方通行だと思うかい」
「やめろ、その魔法陣は危険だ。記憶を食われるぞ」
「こんな記憶はいらないよ。1000年の罪を私1人で担えというのかい」
そう言って寂しそうに笑った。
「運がよければ、10層で待っているよ」
ポトリと手に持っていた物を落とした。
紅色の光が浮かび上がった。魔法陣が輝く。
光がおさまると、そこには白銀に輝く丸い玉が残されていた。
「記憶情報の固まりだ。おまえも、高次元空間ではこの姿だった」
猫が玉を見つめて、そう言った。
そうか、レームスさんの記憶も、このような形で10層に残されたと言うことか。
ナダルクシア神国の教皇は消えてしまった。あの転移魔法陣が10層に繋がっていれば、記憶を無くした彼とまた会うこともあるだろう。
そう言えば、名前も聞いていなかったな。
「サクラさん、終わりましたね」
「はい」
「さて、後始末をしないとな」
やることはいっぱいあるぞ。この進みすぎてしまった技術は全て封印しなければならない。残念だが、あの赤いロボットもそうだ。
「シンティとエルが残念がるだろうな」
思わず独り言を言ってしまった。
「どうしてですか?」
「ソフィアか、いや、あの赤いロボットを封印したらの話しだよ」
ああ、そうですねと言う表情で私の後を付いてくる。ソフィアには本当に助けてもらってばかりだ。感謝しないとな。
大聖堂前の広場には、拘束された白い服の兵士達が放心状態で座り込んでいた。
こいつらもあいつには任せられないな。未知の技術を知り過ぎている。
あいつとはストラミア帝国の狐皇帝だ。
「皇太子をここに呼んでくれ」
カロスト王国の兵士に伝令をお願いをした。
護衛を数名伴って、皇太子がやって来た。
「教皇はどうなりましたか」
えーと、名前は確か『ライオムータ』だったよな。
「ライオムータ皇太子殿下」
「ライタと呼んでほしいのだが……」
「……」
「ライタ皇太子殿下」
「ライタです」
「ライタ」
「はい、なんでしょうか」
く、どうしてこうなる。ならば、遠慮はしないぞ。
「教皇は自害した。ナダルクシア神国はもう直ぐ消滅する」
「……」
「この区域は神獣様が封印をする。ストラミア帝国の兵士はこのまま帰国せよ」
「父には何と報告すればよいのでしょうか」
「そのままだ、全て神獣様の判断で処理されたと伝えろ」
「分かりました」
あの火柱を見たからな。文句を言う指揮官もいないだろう。チャルダンはやはりよい策士だ。
皇太子殿下が自軍の場所に戻っていった。
「イディアを呼んでくれ」
全力で走ってきた。ピタッと止まり、敬礼をした。
「何かご用でしょうか」
ほう、ちゃんと立場をわきまえた言動ができるのか。
「イディア、大将としての指揮は見事だったと聞いている。さすがだな」
「は、過分なる評価です」
「ここにいる兵士どもをすべて、行方不明者が監禁されていた場所に連れて行け。一歩も外には出すな」
「了解しました」
見張りは、赤いロボットに任せるか。カロスト王国の兵士には休養が必要だな。
行方不明者は、1000人ほど保護できた。名簿の数から見ると少ないかもしれないが、これだけの数を保護できたことに感謝しよう。
ここで見た新技術については、つくも(猫)に頼んで、口外できないようにしてもらおう。そうすれば、普通に暮らせるはずだ。
神官と兵士その家族は、入り口の町に連れて行くしかない。家族もどっぷりとこの国の思想に染まっている。他国での生活はまだ無理だろう。時間が必要だ。
大樹の森の待避場所に簡易的な村でも作ってもらうとしよう。カルミア様と相談だな。
「チャルダン、後の指揮は任せた」
「わかりました。行くのですね」
「ああ、つくも(猫)と行ってくる」
レームスさんが発明した技術が封印されている場所に行く。全てつくも(猫)の異次元収納で保管することになる。時代が追いついてきたら、少しずつ公開していくことになるだろう。
その建物は、5角柱の姿で森の中にひっそりと建っていた。大きさは、東京ドームぐらいはありそうだ。かなり大きい。
1000年間で、周りには樹木が茂り壁には蔦が張り付いていた。よく見なければ森と間違えてしまうだろう。
入り口には1号が案内をしてくれた。ここまでしてもらうと愛着が湧いてくる。いかんいかん、封印だ。
「エンシュウリツ ヲ ヒャク ケタ ニュウリョク シテ クダサイ」
「分かった」
全て打ち終わると、カタッと穴の開いたカギの部分が出てきた。
ん、どうすればいいの?
「タンキュウシャ ノ チ ガ ヒツヨウ デス」
おお、そういうことか。
例の棘で血を一滴垂らした。すると、壁に線が走り、やがて入り口が現れた。
約800年間、誰も入った者がいない建物の中に足を踏み入れた。
ズンと言う衝撃が来た。
杜人の里にある結界と同じか。
長い廊下が続いているようだ。先は真っ暗だ。
魔法陣展開でライトでもつけるか。そう思っていたら、パパパパと次々に灯りが奥に繋がって行った。それと同時に床が動き出した。
ははは、まるでSFだな。
動く床が止まった。すると、高い天井にあるライトが輝きだした。そこは、東京ドームのグランドのような場所だった。
飛行船があった。大きさはあれよりも一回り小さいか。
ミサイルの形をした細長い物も横になっていた。
魔動車だろう。自家用車、トラック、バスタイプの物が並んでいた。トラックは50台ぐらいはありそうだ。
プロペラが着いた飛行機もある。
遊覧船のような船まである。
ガラス戸が着いた棚には、通信機、拡声器、カメラやビデオカメラのような物まで並んでいた。
あれはたぶん計算機だ。コンピュータと言っていいだろう。なるほど、円周率が100桁まで計算できるわけだ。
他にも、日常で使えそうなドライヤーやオーブンなど日本で暮らしていた時に使っていた物がたくさんあった。
これらは全て、世界樹の裁きが起こるまでの200年間で作った物なのだろう。技術の探求者として1000年かけて人類を導いていく技術を数百年で完成させてしまった。
2代目の目の色が変わるはずだ。とんでもない発明ばかりだ。
つくも(猫)、お願いできるかな。
「ああ、まかせろ。ただし、トラックだけはこれから必要になる。魔動車があるのだ。これぐらいなら公開してもいいだろう」
「そうか、彼らの移動に必要なんだね」
頷く代わりに、尻尾を左右に2、3回振った。
つくも(猫)が一声「にゃ」と鳴いた。
トラックを残して、全ての発明品がその場から消えていた。
行方不明者は、50台のトラックで一番近い城まで送っていった。運転は、カロスト王国の兵士ができる。
2往復で全ての人が移動できた。もちろん、秘密を話せなくなる契約もしてもらっている。
白い服の兵士と神官達は、取りあえず『キリヤ島』に全員を風の道で放り込んだ。家族も丁重に送った。エレウス王には、当面近づかないように通知を出してもらった。
無人になった神都は、これからつくも(猫)が第三権限の結界で封印する。認識阻害も発動させるので、周りからは消えたように見えるだろう。
「よし、終わった」
猫がどや顔で激しく尻尾を振っていた。
「ねこちゃん、お手柄です」
サクラさんに抱きしめられて、喉をゴロゴロさせている。
「では、隠れ家に帰りましょう」
ベニザクラ号が静かに浮かび上がった。
「出発します」
景色が後に吹っ飛んでいった。
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